裁量労働制
裁量労働制とは、労働者が雇用者と結ぶ労働形態のうちのひとつのことをいいます。
みなし労働時間制と呼ばれることもありますが、その場合は裁量労働制と事業場外みなし労働時間制を合わせた呼び方となります。働き方改革にともなって、この言葉をニュースなどで目にすることも増えてきたのではないでしょうか。
ここでは裁量労働制と、勘違いされやすい裁量労働制の時間外手当の計算方法について、紹介していきます。
裁量労働制の概要
裁量労働制は、実際の労働時間に関係なく、労働者と使用者の間の協定で定めた時間を労働時間とみなして賃金を支払う仕組みです。ここで定めた時間を「みなし労働時間」といいます。
例を挙げてみましょう。1日の「みなし労働時間」を8時間とすると、実際の労働時間が9時間であっても、逆に7時間しか働いていなかったとしても、発生するのは8時間分の賃金となります。
この仕組みは、どの業種でも適用できるわけではありません。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、裁量労働制のひとつで、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に従業員の裁量にゆだねる必要がある業務に適用することができる仕組みです。
労働者を実際にその業務に就かせた場合のみ、適用できます。また、導入するには、労使協定を締結するなどの手続きが必要となります。
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、裁量労働制のひとつで、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査および分析を行う労働者を対象とした仕組みです。導入するには、対象となる労働者の個別の同意を得る必要があります。
フレックスタイム制との違い
フレックスタイム制との違いは、時間配分にあります。裁量労働制では、業務遂行の手段や時間配分が労働者にゆだねられていますが、フレックスタイム制では、労働者自身が始業および終業の時間を決めることになります。
つまり、業務さえ遂行できればある程度は時間に余裕のできる裁量労働制に対し、フレックスタイム制を導入した場合は、出退勤時間に自由度ができる反面、労働時間内は出社している必要があります。
裁量労働制の適用対象となる職種
裁量労働制の対象業務は、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制で異なります。
専門業務型裁量労働制では、以下の表の19種に限定されますが、企画業務型裁量労働制では、専門業務型裁量労働制と異なり、明確に定まっているわけではありません。企業の本社において、企画や立案、計画などの業務を行っている労働者が対象となります。
専門業務型裁量労働制の対象業務 |
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(1)新商品もしくは新技術の研究開発の業務 |
(2)情報処理システムの分析または設計の業務 |
(3)新聞やテレビ、ラジオの取材もしくは編集の業務 |
(4)デザイナーの業務 |
(5)プロデューサーまたはディレクターの業務 |
(6)コピーライターの業務 |
(7)システムコンサルタントの業務 |
(8)インテリアコーディネーターの業務 |
(9)ゲームソフトの創作の業務 |
(10)証券アナリストの業務 |
(11)金融商品の開発の業務 |
(12)大学における教授研究の業務 |
(13)公認会計士の業務 |
(14)弁護士の業務 |
(15)建築士の業務 |
(16)不動産鑑定士の業務 |
(17)弁理士の業務 |
(18)税理士の業務 |
(19)中小企業診断士の業務 |
裁量労働制を適用した場合の時間外手当の計算方法と具体例
裁量労働制を導入した場合の時間外手当は、その条件によって割増率が変わってきます。
みなし労働時間が8時間を超えていたり、8時間内であっても勤務時間が深夜であったり、あるいは法定休日に勤務していたりと、さまざまなパターンが考えられます。詳しく見ていきましょう。
みなし労働時間を8時間超とした場合の時間外手当
みなし労働時間を8時間超とした場合、8時間を超える分につき通常の賃金の25%を割増した時間外手当が発生します。
手当が発生する理由は、みなし労働時間そのものが法定労働時間である1日8時間を超えているからです。計算する際には、1時間あたりの賃金を算出しておかなければなりません。
みなし労働時間を8時間超とした場合の時間外手当:計算例
みなし労働時間が8時間を超えていた場合の時間外手当は、8時間を超えた分の時間×1時間あたりの賃金×1.25となります。
みなし労働時間が9時間で、1時間あたりの賃金が2,400円の労働者は、1時間×2,400円×1.25=3,000円が1日あたりの時間外手当となります。
深夜勤務をした場合の割増賃金
深夜勤務の場合、夜10時から翌朝5時までの間に働いていた時間分につき25%の割増賃金が発生します。深夜勤務の割増賃金は、裁量労働制を適用しているか否かにかかわらず発生します。
裁量労働制を導入しても深夜残業手当は発生するのか?
先程にもあったとおり、裁量労働制を導入した場合でも深夜残業手当は発生します。裁量労働制の場合、深夜に働いていても残業という扱いにはなりませんが、それによって深夜の割増分まで除外されるといったことは起こらないからです。
深夜勤務をした場合の割増賃金:計算例
深夜勤務の割増賃金は、深夜労働時間×1時間あたりの賃金×0.25となります。
1時間あたりの賃金が2,400円の労働者が夜10時から翌朝3時まで深夜勤務をした場合、5時間×2,400円×0.25=3,000円が割増されます。
法定休日に勤務した場合の割増賃金
法定休日に勤務した場合、実際に働いた時間に応じて通常の賃金の35%を割増した賃金が発生します。これは、深夜勤務のケースと同様、裁量労働制が適用されていても通常の労働者と同じ扱いになるためです。
また、法定休日の勤務時間が深夜にまたいだ場合は、深夜に勤務した時間分につき深夜勤務の割増分である25%が加算されます。
法定休日に勤務した場合の割増賃金:計算例
法定休日に勤務した場合の割増賃金は、実労働時間×1時間あたりの賃金×1.35となります。
1時間あたりの賃金が2,400円の労働者が法定休日に5時間働いた場合、5時間×2,400円×1.35=16,200円が割増されます。また、この5時間が全て深夜勤務だった場合は、深夜勤務の割増分である0.25が加算されるため、5時間×2,400円×1.6=19,200円が割増されます。
法定休日以外の「所定休日」の割増賃金
所定休日に勤務した場合、条件を満たしていれば通常の賃金の25%を割増した賃金が発生します。その条件とは、所定休日の労働時間とその週の労働時間の合計が法定労働時間である週40時間を超えることです。
裁量労働制を適用している場合は、その週の労働時間という部分がみなし労働時間にあたります。
法定休日以外の「所定休日」の割増賃金:計算例
所定休日に勤務した場合の割増賃金は、週40時間を超えた分の時間×1時間あたりの賃金×1.25となります。
1時間あたりの賃金が2,400円の労働者が、既に週40時間働いている状態で所定休日に8時間働いた場合、8時間×2,400円×1.25=24,000円が割増されます。
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時間外労働時間および割増賃金算定時の留意事項
時間外手当および割増賃金を算定する際は、きちんと実労働時間を把握しておくことが必要となります。
特に、先ほど挙げた例以外でも、時間外労働が1ヶ月60時間を超えた場合にはその超えた時間につきさらに25%、つまり時間外手当と合わせて通常の賃金に加えて50%の割増が発生することになります。
裁量労働制を導入しているからといって、全く残業代が発生しなくなるという訳ではない事に気を付けましょう。
裁量労働制についての理解を深めよう!
いかがでしたか。今回は裁量労働制と、裁量労働制を適用した場合の深夜勤務や休日勤務の手当の計算方法について紹介しました。
働く上で、賃金のトラブルは付き物です。深夜勤務でも休日勤務でも、裁量労働制だから残業手当は発生しないと勘違いしていた方も多いのではないでしょうか。
働き方改革によって、働く人たちの状況は徐々に変化しつつあります。裁量労働制を正しく活用して、無理のない働き方にしましょう。