メンバーシップ型雇用とは
メンバーシップ型雇用とは、人材に仕事を割り当てる雇用形式です。
具体的には、日本で伝統的に採用されている「年功序列」や「終身雇用」を取り入れた制度を指します。また、毎年新卒を一括採用するのもメンバーシップ型雇用の特徴です。
メンバーシップ型雇用は、職務や勤務地などを限定していません。また、職務給であるため勤続年数が長いほど給与が上がり、さらに雇用に際する従業員への保証が強いといった特徴を持ちます。
ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用とは、仕事に人材を割り当てる雇用形式です。
欧米など日本以外の多くの国で採用されている雇用制度で、契約により職務や勤務地が限定されています。また、採用に関しては新卒一括採用はせず、欠員が発生したタイミングで募集をかけることになります。
さらに、職能給となっているため給与は個人の能力に対して支払われ、雇用保障が弱いため仕事がなくなったり能力がないと判断されると解雇されるリスクがあります。
日本はメンバーシップ型雇用で欧米はジョブ型雇用
日本では多くの企業がメンバーシップ型雇用を採用していますが、欧米ではジョブ型雇用を採用しています。
日本では当たり前の働き方であるメンバーシップ型雇用ですが、欧米諸国ではジョブ型雇用が主流となっており、メンバーシップ型雇用をしているのは日本のみです。
近年日本では働き方改革という言葉が生まれたように、従来の働き方からの脱却を推進しています。その中で、日本の従来の雇用方法における議論もなされています。
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違い5つ
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用にはどのような違いがあるのでしょうか。
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用には、それぞれ考え方や報酬、採用、異動や解雇、教育といった5つの面で大きな違いがあります。
ここではメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の具体的な違いについてご紹介します。
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違い1:考え方
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用には考え方の違いがあります。
メンバーシップ型雇用は人材に仕事を与えるという考え方のため、職務範囲をはっきりと定めることをしません。必要であれば職務範囲外の仕事も行い、残業が発生する場合もあります。
一方、ジョブ型雇用は仕事に人材を割り当てる考え方のため、職務範囲が明確に決まっています。そのため、従業員は職務範囲外の仕事をしたり、残業などをする必要はありません。
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違い2:報酬
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用には報酬における違いがあります。
メンバーシップ型雇用は職能給を採用しているため、年功序列という制度でもわかるように、勤続年数により給与が決まります。そのため、同じ企業で長く働くことで給与が自然と上がっていきます。
一方、ジョブ型雇用は能力に応じた職務給を採用しているため、勤続年数などは無関係に従業員の能力により支払われます。場合によっては減俸されることもあります。
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違い3:採用
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用には採用に関する違いがあります。
メンバーシップ型雇用は新卒一括採用を採用しています。また、具体的な能力よりもその人の人格やコミュニケーション能力など曖昧な基準で採用する傾向にあります。
一方、ジョブ型雇用は欠員が発生した場合、その都度採用を行います。また、採用基準は欠員が出ているポジションに必要な能力を有しているか否かによって決まります。
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違い4:異動や解雇
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用には異動や解雇における違いがあります。
メンバーシップ型雇用は勤務地を限定していないため、必要であれば企業の都合での異動や転籍が発生します。しかし雇用保障が厚いため、企業側は明確な理由がなければ従業員を解雇をすることはできません。
一方、ジョブ型雇用は勤務地を限定しているため異動はありません。しかし業務がなくなったなどの企業側の都合で従業員の解雇を行うことがあります。
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違い5:教育
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用には教育面での違いがあります。
メンバーシップ型雇用は具体的な能力を採用基準にせず採用するため、雇用後にOJTや新人教育などの社員教育を行うことが多いです。また、社内に教育専用の部署を設けている場合もあります。
一方、ジョブ型雇用は求人の時点で能力による雇用を行うため、企業側で教育を行う義務はありません。従業員は必要であれば社外で教育を受けることになります。
メンバーシップ型雇用のメリット3つとデメリット3つ
メンバーシップ型雇用にはさまざまなメリット、デメリットがあります。
日本の伝統的な雇用制度であるメンバーシップ型雇用にはメリットも多くありますが、デメリットも同じように存在します。
ここではメンバーシップ型雇用のメリットとデメリットについて3点ずつご紹介します。
メンバーシップ型雇用のメリット1:配置転換
メンバーシップ型雇用のメリットは、企業側の都合で配置転換が可能です。
企業にとって必要な経営資源はヒト、モノ、カネ、情報だと言われています。メンバーシップ型雇用の場合、職務範囲や勤務地、労働時間が明確に定められていないため、企業側の都合で異動や転籍などを行うことができます。
そのため、状況に応じて、貴重な経営資源であるヒトの配置を的確に行うことが可能となっています。
メンバーシップ型雇用のメリット2:臨機応変
メンバーシップ型雇用のメリットは、企業の都合で臨機応変な対応が可能です。
配置転換と重なる内容ですが、メンバーシップ型雇用の場合は職務範囲が定められていないため、臨機応変に人材の配置が可能です。
そのため、急な病気や退職などにより欠員が発生し、仕事のポジションに穴が開いてしまった場合でも、他の部署から人員をすぐに補充することができるため業務が止まることがありません。
メンバーシップ型雇用のメリット3:雇用の安定
メンバーシップ型雇用のメリットは、雇用の安定です。
メンバーシップ型雇用の場合、従業員は基本的に企業側の辞令には従う必要があります。しかし、仕事がなくなればすぐに解雇になる可能性があるジョブ型雇用と異なり、明確な理由がなければ解雇されないというメリットもあります。
そのため、正社員として登用されれば定年で退職するまで収入面は安泰で、ジョブ型雇用である欧米よりも失業率も低い傾向があります。
メンバーシップ型雇用のデメリット1:労働法
メンバーシップ型雇用のデメリットは、労働法があるため企業は従業員の解雇が難しい点です。
メンバーシップ型雇用の場合、労働法により従業員の権利が手厚く保護されています。そのため、企業は明確な解雇理由がなければ解雇することができません。
仮に企業の業績不振によりリストラを行わなければいけなくなった場合でも、できるだけ解雇を回避する必要があり、解雇となった場合でも適切な手続きを取る必要があります。
メンバーシップ型雇用のデメリット2:職務が限定されない
メンバーシップ型雇用のデメリットは、従業員にとって職務が限定されないことです。
メンバーシップ型雇用の場合、職務範囲や勤務地、労働時間が明確に定められていません。そのため、基本的に会社都合での異動や転籍などが発生する場合があります。また、必要であれば職務外の作業や残業を行わなければいけない場合も発生します。
メンバーシップ型雇用のデメリット3:ハラスメント
メンバーシップ型雇用のデメリットは、従業員がハラスメントに巻き込まれる場合があることです。
メンバーシップ型雇用では明確に職務範囲が決まっていないことに関連して、企業側はやろうと思えば従業員に対してハラスメント的な強制労働を課すことも可能です。そのため、従業員は半ば強制的な長時間労働による肉体的、精神的な健康被害を受ける場合があります。
メンバーシップ型雇用を学ぶ!ジョブ型雇用のメリット3つとデメリット3つ
ジョブ型雇用にもさまざまなメリット、デメリットがあります。
ここまで日本的なメンバーシップ型雇用についてご説明しましたが、欧米型のジョブ型雇用にも多くのメリット、デメリットが存在します。
ここではジョブ型雇用のメリットとデメリットについて3点ずつご紹介します。
メンバーシップ型雇用を学ぶ!ジョブ型雇用のメリット1:優秀な人材の確保
ジョブ型雇用のメリットは、企業が優秀な人材を確保できることです。
ジョブ型雇用を採用している場合、仕事に必要な人材が足りない場合にその都度必要な能力やスキルを持っている人材を募集します。つまり職務範囲や勤務地などが決まっているため、求めている人材を確保しやすくなります。
また、従業員にとっても自分にマッチした仕事を見つけやすいということになるため、双方にとってメリットがあると言えるでしょう。
メンバーシップ型雇用を学ぶ!ジョブ型雇用のメリット2:業務内容の細分化
ジョブ型雇用のメリットは、業務内容を細分化できることです。
ジョブ型雇用の場合は先に仕事がある状態で人材を割り当てることになるため、明確に業務内容が決まっています。そのため、仕事のミスマッチが発生せず、従業員も自分が割り当てられた業務のみを遂行することに尽力でき、業務内容を細分化することが可能です。
また、元々仕事が決まっているため、従業員にとっても他の業務をする必要がないというメリットがあります。
メンバーシップ型雇用を学ぶ!ジョブ型雇用のメリット3:労働時間の明確化
ジョブ型雇用のメリットは、従業員にとって労働時間を明確化できることです。
ジョブ型雇用の場合、職務範囲や勤務地などの労働条件が明確に定められているため、従業員は取り決めにない異動や転勤、業務、残業などをする必要がありません。
そのため、個人個人の仕事範囲が明確で、担当ではない仕事を任されて長時間労働になってしまうことがありません。また、仕事さえ問題なくできていれば個人の裁量で労働時間も調整可能です。
メンバーシップ型雇用を学ぶ!ジョブ型雇用のデメリット1:移籍や異動ができない
ジョブ型雇用のデメリットは、会社都合の移籍や異動ができないことです。
労働時間の明確化と重なる内容ですが、ジョブ型雇用の場合は契約により勤務地も明確に定められているため、会社の都合での異動や転籍を行うことができません。
場合によっては異動や転籍が業務遂行上必要不可欠ということもありますが、その場合も従業員が納得するような説明をする必要があり、一方的に辞令を出すことはできません。
メンバーシップ型雇用を学ぶ!ジョブ型雇用のデメリット1:範囲外の業務対応
ジョブ型雇用のデメリットは、会社都合で範囲外の業務対応を課せられないことです。
労働時間の明確化と重なる内容ですが、ジョブ型雇用の場合は契約により職務範囲が明確に定められているため、契約外の仕事を従業員に依頼することは難しいです。また、依頼したとしても従業員側には自分の仕事ではないと断る権利があります。
そのため、急病や怪我などで欠員が出た場合でも、改めて人材を確保するまで業務を止めることになります。
メンバーシップ型雇用を学ぶ!ジョブ型雇用のデメリット1:契約終了
ジョブ型雇用のデメリットは、会社都合で契約終了になることです。
ジョブ型雇用の場合、職務範囲や勤務地が明確化されているため、メリットが多いように思えます。しかし逆に言うと、会社の経済が悪化した場合や仕事がなくなった場合に、企業側で新しい仕事を用意する義務もないため、即解雇されるデメリットがあるということでもあります。
また、仕事で期待されている成果を残せないも、能力不足として解雇されることがあります。
日本の雇用・働き方はメンバーシップ型雇用?
日本の雇用はメンバーシップ型雇用のままで良いのでしょうか。
日本は伝統的にメンバーシップ型雇用を採用してきました。メンバーシップ型雇用の「年功序列」や「終身雇用」などの効果は、過去の日本の状況に照らし合わせてみるとメリットが多かったと言えます。
しかし直面している少子高齢化による労働力不足などを鑑みると、このままの雇用を続けるのは難しいと言えるでしょう。ここでは今後の日本の雇用についてご説明します。
メンバーシップ型雇用の今後
メンバーシップ型雇用には変化が求められています。
メンバーシップ型雇用の特徴である「年功序列」や「終身雇用」のメリットですが、近年根本から揺らぎつつあります。また、この日本の伝統的な雇用制度が正規雇用と非正規雇用、男女や年齢による所得格差を生んだことは否定できないでしょう。
近年は日本でも働き方の意識の変化が生まれています。従来の雇用制度も時代に合わせて変化する必要に迫られていると言えるでしょう。
ジョブ型雇用への移行
日本の雇用はジョブ型雇用へ移行しつつあります。
旧態依然としたメンバーシップ型雇用の問題点は、現在の日本の雇用の問題点に直結しており、近年叫ばれている「働き方改革」を妨げているという意見もあります。そのため、最近では積極的にジョブ型雇用を導入する企業が増えてきています。
また、近年は日本でもグローバル化の波が大きく、それに合わせて雇用制度も欧米的なジョブ型雇用へ移行している企業が多くあります。
メンバーシップ型雇用を理解し本格的な働き方の見直しと準備が必要
メンバーシップ型雇用の見直しが必要とされています。
近年の少子高齢化による労働力不足により、働き方の改革が迫られる今、メンバーシップ型雇用よりもジョブ型雇用への注目が集まってきています。どちらの働き方にもメリット、デメリットは存在しますが、ジョブ型雇用の導入によりさまざまな世代の仕事への参加が期待される面もあります。
今後は日本でも働き方の根本的な見直しと、雇用制度の改革が必要となっていくでしょう。