障害者雇用の現状とは
制度は整えられても雇用率が法定雇用の半分にも届いていないのが障害者雇用の現状です。
1960年に制定された「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」は時代の変化とともに何度も改正され、整えられています。
企業へは障害者の雇用義務が課せられ、2018年には、 法定雇用率の算定基礎に精神障害者が加えられました。
しかし、現在の障害者雇用率は法定雇用率の半分にも達していません。
求められる障害者雇用率
2018年に障害者の法定雇用率が全ての事業で0.2%引き上げられ、民間企業は、全従業員の2.2%以上の障害者の雇用が義務付けられました。2021年までにさらに0.1%引き上げられる予定です。
対象となる民間企業の事業主は、従業員数を50人以上から45.5人以上に引き下げています。
常用労働者が100人を超える企業では、障害者の雇用が法定雇用率に満たなかった場合、「障害者雇用納付金」を徴収されます。
実際の障害者雇用率
2017(平成29)年の厚生労働省は、2016(平成28)年には、 障害者の雇用者数は13年連続で過去最高を更新し、障害者雇用は着実に進展していると発表しました。
2019(平成31)年4月に同省は、障害者雇用の現状はさらに大幅に改善が見られ、前年より7.9%増加していると公表しています。
しかしながら、法定雇用率の達成率としては、民間企業で45.9%にとどまり、目標の半分にも達していません。
企業が抱える障害者雇用に関する問題5つ
障害者雇用が着実に進展していながら、全労働者に占める障害者の割合が法定雇用率の半分に達しない理由として、企業が抱える問題があります。
企業で定められている障害者の法定雇用率は、2018(平成30)年4月時点で2.2%ですが、具体的には、総従業員数45人規模の企業で、1名以上の障害者の雇用が義務付けられています。
1名の雇用を困難にしている、企業が抱える障害者雇用に関する問題を5つに絞ってまとめました。
企業が抱える障害者雇用に関する問題1:ニーズの不一致
企業が抱える障害雇用の問題点としてまず考えられるのは、企業側と雇用者側のニーズの不一致です。
厚生労働省の2018(平成29)年発表の『障害者雇用の現状等』では、離職理由の上位に「仕事内容があわない」というのが挙がっています。
「仕事内容があわない」という理由で離職するのは一般の雇用者でも同じです。
問題は、企業が障害者に求めるものと、障害者が望むものとが、一般の雇用者より一致しづらいところにあります。
企業が抱える障害者雇用に関する問題2:企業側のサポート不足
次に、企業が抱える障害者雇用の問題点として考えられるのが、企業側のサポート不足です。
障害者を雇用した後、配属先に任せきりにすると、障害者は、配属先の雰囲気や人間関係に馴染めず、離職につながってしまいます。
障害者受入れの事前準備や雇用後の環境の整備は、障害者だけでなく周りの従業員の負担を精神的にも肉体的にも和らげます。円滑な人間関係が構築できるよう、常に企業全体でサポートする姿勢が求められます。
企業が抱える障害者雇用に関する問題3:周囲の無理解
企業が抱える障害者雇用の問題点の3つ目は、周囲の無理解です。
障害者を取り巻く環境は、同じ目線にならなければ理解できないことも多くあります。何に困っているのか、何を悩んでいるのか、常に見守り、時には寄り添う姿勢も必要です。
身体障害者、知的障害者、精神障害者、それぞれでできること、できないことが異なります。障害者が周囲の無理解に孤独感を抱かないよう、周りの人は障害への知識を深めなければなりません。
企業が抱える障害者雇用に関する問題4:障害に対する知識不足
企業が抱える障害者雇用に関する問題点の4つ目は、障害に対する知識不足です。
企業側は雇用者に対して、常にある一定の成果を求めます。
障害者を雇用する場合、何ができて何が困難であるのか、障害についてきちんと把握しておく必要があります。障害に対する適正な知識によって、障害者に適正な成果を求めることができます。
過剰な期待でプレッシャーを与えるのも、何の成果を求めないのも、本人には辛く感じられます。
企業が抱える障害者雇用に関する問題5:適正な労働条件の提示
企業が抱える障害者雇用に関する問題点の5つ目は、適正な労働条件の提示です。
厚生労働省が2018(平成29)年に発表した『障害者雇用の現状等』では、障害者の離職理由の上位に「賃金、労働条件への不満」が挙がっています。
労働者は常に適正な評価を望んでいます。障害者である場合、障害への正しい理解のもと、本人の能力に合った労働条件の提示が求められます。
障害者雇用率を下げる原因になっている問題7つ
障害者の雇用の現状が大幅に改善されていながら、企業の障害者雇用率が前年(2017年)から下がってしまったのには、水増し報告などいくつか理由があります。
2019(平成31)年4月9日、厚生労働省が発表した2018(平成30)年の企業の法定雇用率達成の割合は、前年から4.9%減少しています。
ここでは、障害者雇用率減少の原因となる問題を7つに絞ってまとめました。
障害者雇用率を下げる原因になっている問題1:行政機関の水増し問題
障害者雇用率を下げる原因になっている問題の1つ目は、行政機関の水増し問題です。
2018年には、行政機関の障害者雇用の水増しが大きく報道されました。国の機関の8割で水増し報告され、実際は、法定雇用率の約半分の雇用率でした。
これにより、全体の雇用率も下がってしまいました。
障害者雇用率を下げる原因になっている問題2:障害者の採用枠の少なさ
障害者雇用率を下げる原因になっている問題の2つ目は、障害者採用枠の少なさです。
一般の新卒者の就職率は90%以上なのに対し、障害者の就職率は、障害者全体の約半分です。
障害者雇用支援として、ハローワークや障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターなど就労支援機関が各地に設置され、利用率は年々増加しているにも関わらず、障害者の就職率が低いのは、障害者の採用枠が少ないことも理由の一つです。
障害者雇用率を下げる原因になっている問題3:法定雇用率の算出方法
障害者雇用率を下げる原因になっている問題の3つ目は、法定雇用率の算出方法です。
2018年4月から雇用義務の対象に精神障害者が加わり、法定雇用率も2.2%に引き上げられました。法定雇用率は、さらに3年以内に2.3%に引き上げられます。
法定雇用率の引き上げによって、1人以上の障害者雇用を義務付けられる企業規模が、常時雇用する労働者数44.5人以上になりました。(2018年3月までは50人以上でした。)
障害者雇用率を下げる原因になっている問題4:低い定着率
障害者雇用率を下げる原因になっている問題の4つ目は、雇用者の定着率の低さです。
せっかく就職しても、就職した障害者のうち、1年以内に約3割の障害者が離職しています。
離職理由としては、「職場の雰囲気・人間関係」「仕事内容があわない」「賃金、労働条件に不満」などの他に「疲れやすく体力意欲が続かなかった」など体調不良も挙げられています。
障害者雇用率を下げる原因になっている問題5:求人の方法
障害者雇用率を下げる原因になっている問題の5つ目は、求人の方法です。
身体障害者、知的障害者、精神障害者、いずれの障害者も、障害者求人よりも一般求人での雇用の方が離職率が高くなります。
障害の程度によっては、障害を開示しないで一般の求人で就職し、障害について打ち明けられないまま、職場の人間関係や労働環境に馴染めず離職するケースがあります。
障害者雇用率を下げる原因になっている問題6:正規雇用の壁
障害者雇用率を下げる原因になっている問題の6つ目は、正規雇用の壁です。
企業は、障害者の雇用を義務付けられていますが、常用雇用であれば、正規雇用か非正規雇用かまでは規定されていません。
身体的理由から短時間労働になることの多い障害者は、一般に比べて正規雇用の枠が狭く、そのため、賃金や労働条件への不満を抱きやすい傾向にあります。
障害者雇用率を下げる原因になっている問題7:職場環境の整備不足
障害者雇用率を下げる原因になっている問題の7つ目は、職場環境の整備不足です。
障害者を雇用する場合、障害の度合いや状況を正確に把握しておく必要があります。
企業の認識不足によって、配属先の受け入れ環境が整っていなければ、職場内の人間関係や雰囲気が悪くなり、障害者本人だけでなく、配属先の労働者の精神的、肉体的苦痛を招き、離職やトラブルの原因となってしまいます。
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企業ができる障害者雇用の問題対策3つ
企業が障害者を安定して雇用するためには、職場環境の整備など、考えられる問題に対策を講じる必要があります。
ここでは障害者雇用に関して企業がとるべき問題対策として3つまとめました。
企業ができる障害者雇用の問題対策1:人材に合わせた柔軟な仕事内容
企業ができる障害者雇用の問題対策の1つ目は、人材に合わせた柔軟な仕事内容の提供です。
雇用者は適正な評価を期待します。障害者である、なしに関わらず、一人一人の能力、個性に合わせた仕事を提供することで、本人のやる気を引き出し、やりがいを見出させることができます。
障害者の場合、障害の度合いなども勘案し本人の納得できる仕事内容を提示します。
企業ができる障害者雇用の問題対策2:長く働いてもらうことを考える
企業ができる障害者雇用の問題対策の2つ目は、長く働いてもらうことを考えることです。
労働者が長く働ける職場を提供するためには、相互理解が欠かせません。
特に障害者の場合、障害の度合いや健康状態など話しづらい問題を抱えている場合が多いです。話しやすい人間関係や職場の雰囲気を作ることで、障害者が一人で抱え込みがちな問題を職場全体で共有し、理解し、障害者が無理せず長く働ける環境を整えていきます。
企業ができる障害者雇用の問題対策3:職場全体で考え受け入れる側の意識を高める
企業ができる障害者雇用の問題対策の3つ目は、職場全体で考え、受け入れる側の意識を高めることです。
障害者を雇用する場合、配属先に全てを任せてしまうと、一部の担当者に負担がかかってしまいます。
身体障害、知的障害、精神障害、それぞれどういった障害なのか、企業全体で知っておく必要があります。そのためには、研修など日頃から勉強の機会を作り、障害への理解を深め、職場全体の意識を高めていかなければなりません。
障害者雇用の現状を知り問題に対処していこう
障害者と協働できる職場を築くため、障害者雇用の現状を理解し、今ある問題に対処していきましょう。
障害者雇用法は見直し、改正を重ね、企業が障害者を雇用すること、差別をしないことなど義務化してきました。法制度が整っても、障害者の職場への定着や法定雇用率の達成が難しいのは、企業の障害者への理解不足が一因です。
研修や勉強会など積極的に行い、障害者への理解を深めて、一つずつ問題に向き合っていくことが大切です。