国民健康保険と社会保険の構成
まずこれらの相違について説明しましょう。これは、会社員から個人事業主になった場合や個人事業主から法人設立した場合においては大きな関心事でしょう。
まず名前からです。一般的には「国民健康保険」に対して「社会保険」と呼んで対比されますが、ここがまず複雑で、これらの「保険」が「健康保険」と「年金」から構成されると考えると、「国民健康保険」は「国民健康保険」と「国民年金」から構成され、「社会保険」は「健康保険」と「厚生年金」から構成されます。あまりにもいい加減なネーミングなので最初はだれでも混乱します。
また、ここで社会保険は狭義の保険を意味します。広義の場合には雇用保険や労災保険なども含みます。
個人事業主でも国民皆保険と国民皆年金
日本の保険制度は「国民皆保険」(こくみんかいほけん)、「国民皆年金」(こくみんかいねんきん)といって、国民全員が何らかの保険・年金に加入することになっています。
そして法人の場合には全社員が「協会けんぽ」と略称される「全国健康保険協会」の運営する保険か企業などが共同で運営する社会保険組合に加入する義務がありますが、これらに加入しない場合は各区市町村が運営する国民健康保険または「職域国保」と呼ばれる国民健康保険組合の運営する国民健康保険に加入することになります。個人事業主ならば職域国保を選びたいところでしょうが、これは警察官、建設業、医師、歯科医師や薬剤師など、特定の業種に限られています。
国民健康保険と社会保険の違い
国民健康保険は各市区町村が運営しているので、「市区町村が変われば保険料が異なる」ということになります。これと同様に社会保険組合が運営する社会保険も組合が異なれば保険料が変わります。したがって、個人事業主ならば、税率の安い市区町村を選ぶ、というのも選択肢の1つでしょう。社会保険では同様に、若い人材が多く高齢者が少ない業界の社会保険は保険料が安いということが起きます。
国民健康保険には、個人事業主に加え、所得の少ない年金生活者や非正規労働者らが加入しているため、保険料収入が少ないのに医療費が高いという慢性的な赤字体質が続いており、その解消のために国民健康保険の運営を平成30年度から都道府県へ移管して財政基盤を強化することが決まっています。また75歳以上の後期高齢者医療制度(国民健康保険と社会保険に共通)を支えるため、大企業社員や公務員の負担を増やす「総報酬割」を平成29年度から導入する方針もきまっています。
国民健康保険と社会保険の比較:家族が多いと社会保険が得
国民健康保険と社会保険では次の2点に大きな違いがあります。
(1) 保険の計算単位(世帯単位vs雇用者単位)
(2) 扶養の可否(加入不可vs加入可)
例えば、次のような3人家族の世帯の場合を考えます。
・父親(40歳・年収400万円)
・母親(39歳・パート・年収100万円)
・長男(12歳・中学生)
父親が会社員で社会保険(協会けんぽ)に加入している場合、社会保険は世帯単位なので、家族2名が「被扶養者」となって保険料は月々約24,000円になりますが、父親が個人事業主の場合は国民健康保険に加入していると、家族2名分を加算して保険料は月々約34,000円となります。一般に、世帯に属する家族数が多いと社会保険の方が得です。
国民健康保険と社会保険の比較:事業側から見ると国民健康保険の方が得
社会保険では、個人負担分と同額の保険料月々約24,000円を会社も負担します。したがって支払っている総額は48,000円になります。つまり、法人設立後の保険料の支払額は34,000円から48,000円に14,000円増えることになります。もし個人事業主が独身の場合には、保険料は約2倍になるということになります。
これを従業員の視点から見ると、個人事業主になると保険料が約1万円大きくなることになると同時に、将来受けられるメリットは半分になります。ここの議論は難しいのですが、保険医療の負担割合は同じなので、大きな違いは、主に国民年金と厚生年金の違いに帰着されます(社会保険には小額の雇用保険も含まれます)。
個人事業主の国民健康保険のしくみ
社会保険の健康保険も国民健康保険もほぼ同じしくみですが、ここでは国民健康保険のしくみを述べます。そのしくみを下図に示します。個人事業主に見えるのは、太い実線の矢印だけであり、破線の矢印の機能は一般的には表には現れません。
個人事業主は保険のしくみにおいては「被保険者」であり、これは世帯主として家族ごと、国民健康保険に加入します。国民健康保険の運営者は区市町村であり、加入の窓口は区市町村の庁舎に設けられています。窓口で加入手続きをして保険証を受け取ります。この保険証をもって被保険者は病院などの医療機関に行って医療を受けます。
この場合、被保険者が負担するのは医療費の一部だけであり、残りの大半は被保険者が保険料を支払った市区町村から都道府県の国保連合会を経由して医療機関に支払われます。
個人事業主のための国民健康保険の保険料の構成
個人事業主の場合も、国民健康保険の保険料は、次の3つの合計額です。
○医療分保険料(以下、医療分)
○後期高齢者支援金分保険料(以下、支援分)
○介護分保険料(以下、介護分)
介護分は、世帯の中で40歳以上65歳未満の加入者だけに付加されますが、他の2つは全員に付加されます。そして、それぞれについて、所得割・均等割・資産割・平等割の4つの金額の合計から保険料を算出します。 東京都福祉保健局のHPに掲載されている、非常にわかりやすい構成図を示します。
(出典:http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/kokuho/aramashi/h28hokenryougaku.files/28hokenzeikeisan.pdf)
資産割は世帯構成員が持つ固定資産によって保険料が増額される仕組みですが、固定資産が相当に大きくないと大きな金額にはなりませんし、今後なくなりつつしくみです。資産が多ければ法人成りすると思われるので、個人事業主を考える範囲では検討不要でしょう。また平等割は、個人ではなく世帯ごとに設定されるものですが、これを設定している市区町村は稀であり、東京都特別区では設定はありません。したがって、以降の計算では、東京都の所得割と均等割だけを考えます。所得割は所得がある加入者だけに付加されますが、均等割は所得に無関係です。
東京都における医療分と支援分の料率は全区同じであり、介護分は、最低の千代田区(0.7%)から最高料率の葛飾区・板橋区(1.62%)まで大きな下がりますが、次項からは、世田谷区の1.52%で計算します。
次に、 東京都福祉保健局のHPに掲載されている資料のリンクを示します。
国民健康保険の保険料の計算…その1:所得割の計算
所得割の保険料は、個人事業主の世帯主の所得金額から計算を始めます。まず33万円が基礎控除です。これは世帯構成員全員に適用されます。先ほども取り上げた、次のような3人家族の世帯の場合を考えます。
・父親(40歳・年収400万円)
・母親(39歳・パート・年収100万円)
・長男(12歳・中学生)
夫:年収 400万円で所得金額 250万円と仮定→基準額 217万円
妻:年収 100万円で所得金額 35万円と仮定→基準額 2万円
したがって、世帯の保険料計算基準額は219万円です。これから、「基礎分」、「支援金分」と「介護分」を計算します。介護分の発生は40~64歳の場合のみです。
○医療分: 基準額219万円×6.86%=150,234円
○支援金分 基準額219万円×2.02%=44,238円
○介護分方 基準額219万円×1.52%=33,288円
合計は、150,234円+44,238円+33,288円=227,760円となります。
国民健康保険の保険料の計算…その2:均等割の計算
均等割額は、世帯あたりの加入者数と、介護保険料の対象になる40~64歳の加入者数だけから計算されます。
○医療分 加入者数×35,400円=3×35,400円=106,200円
○支援金分 加入者数×10,800円=3×10,800円=32,400円
○介護分 加入者数×14,700円=1×14,700円=14,700円
合計は、106,200円+32,400円+14,700円=155,300円となります。
以上の結果をまとめると次のようになります。
国民健康保険の負担割合
したがって、年間総額は381,060円、月額は31,755円となります。この場合、家族が1人増えれば1人当たり46,200円ずつ増えます。
医療機関で支払う医療費は全体の一部だけであり、これを「一部負担金の割合」といいます。これは年齢だけによって次のように決められています。
○3歳未満 2割
○3~69歳 3割
○70~74歳 1割
ただし、70歳以上の高齢者の保険負担割合は恐ろしく複雑であり、1割負担、2割負担、3割負担の3つの場合があります。
(1) まず、「平成26年4月1日以前に70歳の誕生日を迎えた方」は1割負担ですが、「平成26年4月2日以降に70歳の誕生日を迎える方」は2割負担になります。
(2) 次に、「国民健康保険加入者の中に、課税所得が145万円以上の人がいる世帯の人」は、「現役並み所得者」となって3割負担になります。
(3) 但し、70歳以上の国民健康保険被保険者の前年の収入合計が、2人以上の場合は520万円未満、1人の場合は383万円未満のときは、申請により1割負担または2割負担になります。