学芸員とは
博物館で働く学芸員の資格を有する専門的職員のことです。博物館で資料の収集、保存、展示、調査研究などをします。博物館とは博物館法第4条により登録または指定された公立、私立博物館のことで、科学博物館、植物園、動物園、水族館、歴史資料館、美術館などが含まれます。
しかし学芸員の募集は少なく、資格を取ったからといって簡単に学芸員になれるわけではありません。大学で数年かけて単位を取得し、学芸員補の資格を取ります。その後公務員試験や教員試験に合格して博物館などに配属されるか民間の博物館に採用されて、初めて学芸員になれるのです。そのため学芸員になることが目的ではなく興味のある分野だからもっと掘り下げて学びたい、教養を深めたい、あるいは就活でアピールしたいという理由で学芸員の資格を取る人も少なくありません。
学芸員の資格を取得する方法
学芸員の資格を取得する方法は主に2つあります。
①学士の学位を有し、大学において文部科学省令の定める博物館に関する科目の単位を修得する。
②文部科学省が毎年1回実施する国家試験に合格する。
必修科目
・生涯学習概論
・博物館概論
・博物館経営論
・博物館資料論
・博物館教育論
・博物館資料保存論
・博物館展示論
・博物館情報メディア論
・博物館実習Ⅰ、Ⅱ
博物館実習とは
博物館実習Ⅰ 博物館などでの見学実習
博物館実習Ⅱ 博物館などで8日間以上2週間以内の館務実習
学芸員の資格を取得できる大学
学芸員開講大学は300近くあります。(文部科学省)
美術部や文学部など文系は美術館や歴史博物館などで働き、農学部など理系は自然系博物館や水族館などで働きます。
試験内容
生涯学習概論
社会教育とは何なのか学校教育と比較しながら考えていきます。学校教育の指導者は教える、与えるという姿勢ですが、社会教育では学び取る、相互に学び合うという姿勢で根本的に考え方が異なります。社会教育では自ら学び自ら考える力の育成を目指しており、求めに応じて援助、助言する控えめな指導をしています。
社会教育が重視される背景や行政の役割についても学び、概要をつかめれば単位を取れます。
博物館概論
博物館とはどのようなものか勉強します。海外の博物館法と日本の博物館法を比較し、様々な特色ある博物館の写真を見ながら興味を広げます。また資料の保管の仕方、種類について簡単に学びます。
博物館法に出てくるキーワードを覚えると博物館の基本知識が身につきます。
博物館経営論
学芸員に経営学の知識が必要なのか疑問に思う人もいるかもしれませんが、博物館を運営することは「経営とは継続的、計画的に事業を遂行すること。特に会社、商業などの経済的活動を運営すること。またはそのための組織」という経営の定義に該当します。
そのため経営学を学べば博物館の運営に役立ち、財政難、人手不足などの問題を軽減できるのではないかと考えられます。特に館長など管理する立場の人にとって経営学の知識はなくてはならないものです。
館長やボランティアの役割、博物館の設備、博物館の財政などを学びながら経営学の知識をどう活用していくのか自分の考えを述べられるようになれば単位を取れます。
博物館資料論
博物館の資料は実物、標本、模写、模型、文献、図表、写真、フィルム、レコードなど多岐にわたります。具体的に実物や写真を見ながら、どんなものがどのような保管のされ方をしているのか見ていきます。
博物館教育論
学校教育や家庭教育との違いを知り博物館教育の役割を考えていきます。
違いを知った上で学校や家庭とどう連携していけば効果的な教育ができるのか学びます。
博物館資料保存論
博物館資料はどのように保管されてきたのか明治時代にまで遡って先人の知恵から学びます。そして現代ではそれらの知恵を踏まえ科学的にどのように保管されているのか学んでいきます。
博物館資料の劣化原因は温度・熱、湿気・水分、光(可視光線・紫外線・赤外線)、空気汚染、カビ・昆虫などの生物、振動・衝撃、火災・地震・水害、盗難・破壊です。そのため日ごろから資料と環境を監視し、対策しなければなりません。取り返しのつかない劣化を防ぐためにはいち早く異常に気付かなくてはならず科学的な知識が必要になってきます。
試験では資料の劣化がどのような条件で起こるのか理解しておく必要があります。例えばカビは繁殖するのに好適な温度、湿度、空気、養分の条件が揃うと増殖し資料を劣化させます。理系の人にとっては普段授業で習っていたり、実験で自然に知識が身についていたりするので勉強しやすい科目です。
博物館展示論
展示とは不特定多数の来館者にある目的を持って、教育的な配慮のもとに見せることです。展示作りにはまず自分が理解し観察力をサポートし比較させ、新しい発見ができるように支援することが重要です。効果的な展示の仕方を実際に博物館に行って学んでいきます。展示の狙いが伝わるように施設をどのように廻ればよいか動線計画を立てます。知識が身についた後に博物館に行くと来館者に何を見せたいのか、何を学んでほしいのか意図が分かるようになります。授業で取り入れた知識と博物館で見た展示の仕方から特徴をつかめると単位が取れます。
博物館情報メディア論
博物館では映像を使って来館者に説明したり、教育したりすることが多いため情報の見せ方、機器の扱い方を学ぶ必要があります。この授業では、テーマを決めて写真や動画を撮ってつなぎ合わせ、発表するという経験をしました。写真や動画の取り方、配置の仕方、音声、時間など考慮すべきことが多く実際自分で作ってみると学ぶことは多いです。
博物館実習Ⅰ
個人または団体で1年に8か所ほど博物館に見学に行きました。学芸員を履修している数十名で博物館授業の教師と共に博物館を見学します。水族館、美術館、自然博物館、動物園と様々な所へ行きバックヤードに入って来館者の目につかない裏ではどんな地道な作業が行われているのか知ることができます。また館長や学芸員の話を聞くことができます。その館あるいは博物館全体が抱えている問題、来館者の要望など普段聞けない話を聞くことができ、興味、知識が深まります。
単位を取得するためには、行く度にレポートを書き、最後に試験を受けなければなりません。レポートではテーマを与えられることが多く、それに沿った情報を集めまとめる必要があります。大学によって試験内容は異なると思いますが、これまで見てきた博物館全体を考えて、博物館全体が抱える問題を考察し、解決策を述べるという試験がありました。
常に問題意識をもって話を聞いていれば、自分の意見も出てくると思うので、時間内に論理的にまとめられれば単位を取るのは難しくありません。しかし休日に見学に行くことが多く時間に余裕がない人やレポートや試験で文章を書く機会が多いため書くことが苦手な人にとっては、継続するのが大変かもしれません。
博物館実習Ⅱ
博物館実習では2週間程度、職員と同じように作業をしてどのような仕事をしているのか体験します。植物園、動物園、博物館などの中から専攻しているものと関連あるもの、興味のあるものに基づいて自分で選択し行きます。大学が手続きをしてくれる場合もありますが館によっては自分で交渉しなければなりません。行きたいところが決まっている人は、何回か足を運んで顔見知りになっておいてから交渉した方が実習できる可能性が高まるかもしれません。
例えば科学博物館では、展示に使う木の実や葉などの材料集めをしたり、実際に模造紙に調べたことを書いて来館者に発表したりします。植物園では木の剪定や除草、種まき、来館者対応など様々な体験ができます。仕事と同じく毎日7、8時間程度作業するため、外から眺めるだけではわからなかった苦労を知ることができます。来園者を普段と異なる視点で見られるため得られるものが大きいと思います。学芸員の仕事は好きなものを研究できて楽しそうというイメージがあったのですが、実際働く側に回ってみると苦労も多く好きなだけではやっていけない仕事だということを実感します。
毎日日誌を書き、職員の方からコメントをもらいます。実習が終わったらレポートを書き、両方提出して単位がもらえれば学芸員補の資格を取得できます。
難易度
大学で学芸員課程を履修して資格を取得する場合、2、3年かかりますが、授業に毎回出て真面目にノートを取り基本的な知識が身につけば単位を取ることができます。試験では論述式の事が多いので文章を書くのが好きな人の方が苦労しないと思います。コツコツ努力するのが得意な人、博物館や文化財、自然などに興味がある人にとっては楽しみながら取れる資格だと思います。難易度は高くありませんが、資格を取得するためには、継続的な努力、最後までやり遂げる意欲が必要です。
資格の履歴書への書き方
履歴書の資格欄に学芸員補 〇月〇日取得と書けます。大学を卒業するときに取得できる場合は、3月〇日 学芸員補取得見込み と書きます。
自己PRを書く欄がある場合資格のことを書くのも良いかもしれません。学芸員補の資格自体が役に立つことはあまりありませんが、資格を取るための過程が評価されることがあります。学生なら授業、アルバイト、サークル、ゼミなどやることが多くある中で資格も取得出来たら、時間管理ができることをアピールできます。この資格を取るためには2、3年継続して授業を受けなければならないので、継続力、忍耐力、最後まで諦めない意志の強さなどをアピールすることも可能です。
見学や実習ではレポートを書く機会が多いのでそこから身につけたことを書くのもいいかもしれません。
自己PRに書かなくても資格欄に学芸員補と書いておけば面接官からどんな資格なのか質問されることも多いです。その時に簡単に説明して取る過程で学んだことや苦労したことなども盛り込むとこの資格を取ったことが無意味でなくなると思います。
公務員でもたまに学芸員を募集していることがあります。筆記試験は事務職や他の技術職と同じようにありますが、面接では資格があった方が博物館の知識がある分有利になると思います。ただし募集人数が少なく人気があるため競争率は高くなっています。
通信での資格取得
通信で学芸員科目を履修できる大学を探します。博物館教育論など座学での科目が履修できても大学によって実習が履修できない所もあるため実習可能な大学も探す必要があります。座学の科目でも何回か大学に足を運ばなければならないことがあります。1年ほどで必要な単位を全て取得し、学士の学位を取得している、あるいは大学に2年以上在学して62単位以上修得し、3年以上学芸員補の職にある人は学芸員の資格を取得できます。
学芸員の仕事
学芸員は調査研究だけでなく館の運営に関わることも含めあらゆることをしなければなりません。修士博士以上の専門的知識はもちろん必要ですが、それ以上に様々な年代、立場の人と関わることが多いため臨機応変に対応できる力も必要だと思います。好きな研究や資料収集だけやっていればいいのではなく、むしろそれらの時間が取れないことが多いためイメージとのギャップに幻滅してしまうかもしれません。
しかし小さな子供や学生に教育することが好きな人、あらゆる年齢の人に情報発信していきたい人にとってやりがいの持てる仕事だと思います。博物館では展示の仕方に気を配っていて、どうやったら効果的に理解してもらえるか、楽しんでもらえるか常に考えながら仕事が出来ると思います。学芸員の仕事は子供からお年寄りを対象に学ぶことが楽しい、もっと他の事も知りたいという好奇心を育てる重要な役割を担っているので、学芸員の資格を取ることも学芸員を目指すことも前向きに考えてみて下さい。
学芸員の資格取得で得られるものがある
学芸員課程の説明会で、学芸員になることは非常に難しく学芸員課程の脱落者も多いという話をまず聞かされました。この説明会での話を聞いただけで諦める人が何人もいました。確かに就職率は非常に低いですが、私は面白そうだと思ったので受講しました。授業や見学実習などいつも意欲的に取り組んでいたわけではありませんが、レポートを書き終わった時、珍しい話を聞けた時、普段は入れない場所に入れてもらった時、新たな発見ができた時、知識が増えた時受講して良かったと思えました。
資格を取ることだけを目標にするのではなく、自分自身を成長させる材料の一つと捉えればどんな資格も授業もあらゆる経験が意味のあるものになり、それらは就職活動でも今後の仕事でも生きてくると思います。
興味を持ったものには資格取得でも勉強でも積極的に挑戦してみて下さい。