所定労働時間の意味とは
「所定労働時間」とは、使用者と労働者が協定した「休憩時間を含まない労働時間」のことをいい、労働基準法の上限時間以内で自由に定めることができます。
年間の所定労働時間を1,800時間以内とするためには、あらゆる手段で1ヶ月平均所定労働時間を150時間以内とすることが必須条件です。1ヶ月平均所定労働時間の目標を達成には、年間休日が140日以上が目安となりますので「働き改革」でぜひ実現してください。
労働時間の定義
労働基準法が定めている「労働時間」の定義は、労働者が「使用者の指揮命令を受けた状態で仕事をしている時間」とされています。そのことから、一般的に「休憩時間」は労働時間に含まれていないと解釈されています。
労働時間には、大きく労働基準法が定めた「法定労働時間」と企業が就業規則などで定めた「所定労働時間」の2つがあります。
労働基準法が定める法定労働時間
「法定労働時間」とは、労働基準法に定められている労働時間のことをいいます。ちなみに、労働基準法においては、使用者が労働者をこれ以上働かせてはならないとして、以下のようにそれぞれ上限時間を定めています。
(1)1週:休憩時間を除き40時間を越えて労働させてはならない。
(2)1日:休憩時間を除き8時間を越えて労働させてはならない。
1ヶ月の平均所定労働時間について5つこと
1ヶ月の「平均所定労働時間」という言葉は、あまり聞くことがありませんが、月給制の賃金計算において平均所定労働時間という手法が使われています。
月ごとの所定労働時間は、暦日数や所定休日数の増減に伴って変動しますが、それに連動し残業代の計算基礎としている「時間給」も変動します。1ヶ月の平均所定労働時間という手法は、専ら賃金計算において時間給のバラツキを無くすために活用されています。
1:1ヶ月の平均所定労働時間とは
1ヶ月の平均所定労働時間とは、1~12月まで1年間分の所定労働時間を合計した1年間の所定労働時間を12ヶ月で除し、1ヶ月当たりに平均化して求めた計算上の所定労働時間をいいます。
1ヶ月の所定労働時間は、当該月の暦日数や所定休日数によって大きく変動します。そのことによって生じる賃金支給額のバラツキを抑えるため、1ヶ月平均所定労働時間を算出し賃金計算に反映しています。
2:所定労働時間との違い
1ヶ月の「所定労働時間」は、当該月の暦日数や所定休日数が変動することに伴って自動的に変動します。例えば、今年(2019年)のようにゴールデンウィークに10連休がある企業などでは、所定労働時間が大幅に減ることになります。
一方の1ヶ月平均所定労働時間は、就業規則や賃金規程などの改定が無い限り、当該月の暦日数や所定休日数などの要因で変動することがありません。
3:実労働時間との違い
「労働時間」を表わす言葉に、1つは労働基準法に定める「法定労働時間」がありますが、もう1つは法定労働時間以内で企業などの就業規則に定める「所定労働時間」の2つがあります。
「実労働時間」とは、所定労働時間以外に就業規則(時間外労働協定=36協定)に定めた残業や深夜業などの時間外労働の時間を加算した「実際に働いた時間」のことを意味します。
4:拘束時間との違い
「拘束時間」とは、所定労働時間と休憩時間を含んだ時間をいい、一般的には始業時刻から就業時刻までの時間を意味しています。
なお、食堂や休憩施設などがない職場においては、就業規則の定めで休憩時間(外食など)を拘束時間に含めない場合もあります。
5:所定就業時間との違い
「所定就業時間」とは、企業などの就業規則で定められている始業時刻から終業時刻までの時間を表わしますが、別に「所定勤務時間」とも呼ばれています。
なお、パートやアルバイトなどの募集チラシまたは雇用契約書に「勤務時間は10時から16時まで」のように表記している場合は、所定就業時間は6時間となります。
1ヶ月の平均所定労働時間の計算方法
1ヶ月平均所定労働時間は、1年間を通した総所定労働時間を12ヶ月で除し以下の計算式で求めます。
(1)所定労働時間:8時間、年間休日数:100日の場合
1ヶ月平均所定労働時間=《(365日ー100日)×8時間》÷12ヶ月≓177時間
(2)所定労働時間:8時間、年間休日数:120日の場合
1ヶ月平均所定労働時間=《(365日ー120日)×8時間》÷12ヶ月≓163時間
割増率とは
「割増率」とは、所定労働時間以外に行う時間外労働に対し、通常の賃金に対して割り増して支給する比率をいいます。
労働基準法で定める時間外労働に対する割増率は、残業が25%、休日労働が35%、深夜業(午後10時~午前5時まで)が25%となっています。
なお、残業が延長して深夜業となった場合は50%以上、休日労働が延長して深夜業となった場合は60%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
所定労働時間を短く設定するメリット
時間外労働の割増賃金は、1ヶ月平均所定労働時間が長い方が支払額が少ないメリットがあります。なお、日本の企業では中小零細企業の方が1ヶ月平均所定労働時間が長く、大企業の方が1ヶ月平均所定労働時間が短い傾向があります。
時間外労働の割増賃金の計算式は、基準内賃金を1ヶ月平均所定労働時間の除して算出するため、基準内賃金と時間外労働時間が同一であれば、1ヶ月平均所定労働時間が長いほど時間給が少なくなります。
時間外労働協定とは?
企業などの使用者は、法定労働時間を越えて労働させる場合および休日労働や深夜業をさせる場合は、労働者の代表と文書で「時間外労働協定」を締結しなければなりません。
時間外労働に関する協定は、労働基準法第36条に規定されていることから、通称「36(さぶろく)協定」ともいわれていますが、使用者と労働者の代表が署名押印した「時間外労働・休日労働に関する協定書」を作成し管轄の労働基準監督署に提出します。
法定労働時間の例外
働き方改革に伴って、36協定に定められている時間外労働に新たに上限が設定されましたが、今のところ労働基準法の違反ではないので罰則規定がありません。
時間外労働の上限は、1週15時間以内、1ヶ月45時間以内、1年360時間以内などとなっていますが、以下に示す4つの業務は適用除外されています。
(1)工作物建設等の業務
(2)自動車運転の業務
(3)新技術等の研究開発の業務
(4)厚労省労働基準局長の指定業務
時間外労働時間の取り扱われ方
「時間外労働時間」という用語の取り扱われ方は、大きく2つの意味で用いられています。
1つは労働基準法(36協定)の対象となる、割増賃金が伴う残業などの本来的な時間外労働です。2つは1ヶ月単位の変形労働制の場合は、1日8時間を越えても時間外労働には該当しません。
また、フレックスタイム制の場合は、1日および1週の労働時間が長くても月単位の精算時間以内であれば時間外労働に該当しません。
休憩時間は労働時間に含まれない
企業などの使用者は、所定の労働時間ごとに休憩時間を与えなければなりませんが、休憩時間は所定労働時間に含まないので賃金の支払義務がありません。
労働基準法の規定では、6時間を越える労働時間には45分以上、8時間を越える労働時間には60分以上の連続した一斉休憩を与えなければなりません。理屈から言うと、休憩時間の労働には賃金の支払い義務が生じますが、休憩を与えないのは労働基準法の違反に問われます。
労働条件通知書や雇用契約書をしっかり確認しよう
就職や転職する際に事前に聞いていた労働条件などが、文書で提示された「労働条件通知書」や「雇用契約書」と異なる場合があるので注意が必要です。
今まさに新たに働き改革が始まりますが、目安となる1ヶ月の平均所定労働時間は概ね150時間くらいです。豊で実り多い人生を歩むためにも、この改革を契機に労働基準法に触れてみてはいかがでしょうか。