保育士の人材不足の現状と課題
近年は女性の社会進出に伴い、出産後に職場復帰を果たす女性が増えてきました。また、雇用形態の不安定化や低賃金などにより、共働きをしなければやっていけないというケースも少なくありません。
そんな家庭の前に立ちはだかるのが、待機児童の問題です。日本は保育士の減少に歯止めがきかず、他の先進国と比べても圧倒的に待機児童が多くなっています。
ここでは、そんな保育士減少の現状と課題を見ていきましょう。
平成29年度末の保育士不足が約7.4万人
平成29年度末の厚生労働省のデータによると、保育園の維持に必要な保育士は、全国で約7.4万人も不足しています。
「保育園落ちた、日本死ね」という言葉が流行語になったように、いまだ解決しない保育園の待機児童問題の根本的な原因は、この保育士不足にあります。
本来ならばいるべき人材が7.4万人もいない状況で働かざるを得ない保育士たちは、圧倒的に人手が足りず過重労働をしいられていると言えます。
9割の都道府県で保育士不足
厚生労働省のデータによると、都道府県別で言うと、9割の都道府県で保育士が不足しています。
ほぼ日本の全ての地域において、恒常的かつ圧倒的な保育士不足が存在しているのであり、だからこそ待機児童問題がいっこうに解決しないと言えるでしょう。
さらに言えば、保育士の減少は保育園に子供を預けられず職場復帰ができない状態をもたらすので、女性のキャリアだけでなく日本経済にも損失を与えます。
約5割の保育士が保育園に就職せず
保育学科のある短期大学などに入学し、そこで保育士の資格を取得した人であっても、なんと約半数は保育士の道を選ばないということがわかっています。
保育士資格を取得した約5割は保育士になるということでもありますが、そのような人たちでも5年以内に保育士を辞める割合が多く、それによってさらに保育士の減少に拍車がかかっています。
保育現場で働いていた人間から見る保育士減少の理由と原因6つ
では、なぜ保育士資格を取得したのに保育士の道を選ばないのでしょうか。また、なぜ多くの保育士は就職後5年未満に離職してしまうのでしょうか。
この原因を突き止めることができなければ、保育士の減少に歯止めをかけることはできません。ここからは、保育現場で実際に働いてきた人間だからこそわかる、保育士減少の理由と原因をご紹介していきます。
理由と原因1:保育現場の想像以上の過酷な現状
保育士減少の最大の理由として指摘すべきは、保育現場が想像以上に過酷な状況であるということです。
圧倒的な人手不足が原因で、朝から晩まで休憩時間もおろかトイレ休憩もろくに取れないという保育士も少なくありません。
ただでさえ職場で長時間労働を強いられているのに、帰宅後も自宅で保育園のイベントなどの用意をしなければならず、プライベートの時間すら奪われてしまうのが現状です。
理由と原因2:労働と釣り合わない安い月給
保育士の仕事内容はとてもハードです。保育士減少に歯止めがかからない理由のひとつとして、そのハードな労働と釣り合わない安い月収しかもらえないということも挙げられるでしょう。
勤続年数が長い保育士であっても、手取りが20万円を超える人は多くなく、保育士の仕事だけでは十分に生活をしていけないとうい人も少なくありません。
また、長時間労働を強いられるのに残業代が出ないことが多いのも、保育士減少の原因です。
理由と原因3:保護者との接し方の難しさ
近年ではモンスターペアレントの割合が増えてきていると言われています。このモンスターペアレントの存在も、保育士が減少してしまう理由のひとつでしょう。
保育士に過剰な要求をしたり、不当なクレームを頻繁にしてくる保護者も少なくなく、このような保護者とのやり取りを全て丸投げされてしまう保育士も少なくありません。
保護者との接し方の難しさに悩み、離職をする保育士も多いです。
理由と原因4:保育現場が女性中心の職場であること
近年では男性保育士の数も増えつつありますが、それでもやはり女性保育士が圧倒的に多いのが実情です。
保育現場は女性中心の職場であるため、女性特有の人間関係のトラブルが生じやすく、それによってメンタルをやられて離職をせざるを得ない保育士もいます。
また男性保育士の場合、現場は男性が働きにくい環境であることが多いため、それが男性保育士の減少を促進してしまう要因になっています。
理由と原因5:サービス残業が多い
保育士減少の理由と原因として、サービス残業の多さも挙げられます。
保育士の仕事は子供と触れ合っている時間だけに留まらず、子供が全員帰宅した後も保育園に残って残業をしたり、自宅に仕事を持ち帰って自分の時間を犠牲にしなければならないことも多いのが実情です。
サービス残業をして残業代が出るならばまだしも、残業が出ないケースのほうが多く、保育士としての責任感とやりがいを搾取されてしまっています。
理由と原因6:責任の重さと事故への不安
保育士は、仕事中に気を抜くことが許されない職業でもあります。少し気を抜いた瞬間に子供が思いもよらないような怪我をしたり事故にあってしまう場合もありうるため、常に気が抜けず、その責任の大きさや怪我・事故への不安感からストレスを溜めやすくなっています。
労働環境がよく、よい月収がもらえるならばまだしも、安月給で劣悪な労働環境の中、万が一の時の責任まで負わねばならないのは、不合理だと言えるでしょう。
保育士減少を防ぐための対策7つ
以上では、保育士減少の理由と原因について解説してきました。保育士が置かれた現在の劣悪な労働環境を考えると、保育士が減少してしまうのも無理はないと言えるでしょう。
しかし、保育士減少に歯止めをかけなければ保育士の労働環境は改善しませんし、待機児童問題も解消できません。では、どうすれば保育士減少にス有数をかけることができるのでしょうか。
ここからは、保育士減少を防ぐための対策について見ていきましょう。
対策1:給料を上げる
保育士減少を防ぐための対策としてまず挙げられるのが、給料を上げるということです。保育士減少の原因のひとつに、生活をやっていけないほどの安月給があるため、これを改善することによって保育士の減少(離職率の高さ)を防ぐ必要があるでしょう。
最低でも、普通の会社員と同じような月収を保育士に保証することが不可欠です。また、勤続年数に応じた昇給システムを確立することも必要でしょう。
対策2:労働時間の改善
労働時間を改善するということも、保育士の減少を改善するために欠かすことができません。保育士は過酷な長時間労働を強いられていることが多く、それによって離職率が高くなってしまっているので、まずは長時間労働を規制し、働きやすい環境を整える必要があるでしょう。
さらに、出産・育児や介護で離職した保育士が再び保育園で働けるように、短時間勤務のシステムをより柔軟に取り入れるべきです。
対策3:環境の良い職場作り
保育士減少を防ぐための対策として、環境のよい職場づくりも重要です。保育現場は女性中心のため、人間関係のトラブルが起きやすくなってしまうからこそ、それを防ぐべく風通しの良い職場環境を整えることが欠かせません。
これを実現するためには、行政だけでなく保育園の運営責任者の取り組みも不可欠です。働きやすい職場であってこそ、保育士の減少に歯止めをかけることができます。
対策4:保護者からの腰部や対応を任せきりにしない
ただでさえ過酷な労働で神経をすり減らしている保育士に、保護者からの対応を任せきりにしていては、いっこうに保育士減少は改善できません。
保護者からのクレーム対応の仕事などは保育士に丸投げするのではなく、それ専門の担当者を職場に置いたり、あるいは職場全体でクレームに対応することが必要です。
保育士一人だけに責任やトラブルを負わせないことが重要でしょう。
対策5:モチベーションの仕組みをつくる
モチベーションが維持できるような仕組みがあれば、保育士の離職率は下がり、その減少を防ぐことができるはずです。つまり、モチベーションのための仕組みを作ることが、保育士減少を防ぐために必要だと言えるでしょう。
具体的には勤続年数に応じた昇給制度を整えたり、民間企業と比べても充実した福利厚生やボーナス額を保証すべきです。
対策6:休日出勤を減らす
保育士が減少してしまう理由のひとつに、休日出勤の多さが挙げられます。このような理由で職場を辞めざるをえない保育士もいるので、保育士減少のためには、休日出勤を減らすことも不可欠です。
休日出勤をしない・させないシステムをきちんと確立すること、離職した保育士の復帰を促し、休日出勤をせざるを得ない場合は、そのような人材を活用することが必要だと言えます。
対策7:適切な評価制度をつくる
頑張っても適切な評価が受けられなければ、モチベーションが下がって離職率が上がってしまうでしょう。保育士減少を防ぐためには、適切な評価制度を作るということも大切です。
上司による恣意的な評価ではなく、客観的な評価基準を設け、それに応じて昇給をするなど、保育士のモチベーションを向上・維持させるためシステムづくりが必要だと言えるでしょう。
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行政が行う保育士不足の対策として
上でもご紹介したように、保育現場は想像以上に過酷なものです。低賃金・長時間労働が常態化している保育現場に見切りをつけ、他の職種に転職して保育士が減少してしまうのも無理はありません
ですが、保育士の減少は待機児童問題や女性による経済貢献の悪化に直結するため、行政もその対策に乗り出しています。ここからは、深刻な保育士減少問題に行政がどのように取り組んでいるのかを詳しく見ていきましょう。
保育士確保プラン3つ
保育士の減少に歯止めをかけ、待機児童問題を改善するためには、何よりもまず保育士の数を確保することが不可欠です。
しかし、「保育園=ブラックな労働環境」とのイメージが定着してしまっているため、それを覆すのはそう簡単ではありません。では、行政は具体的にどのようにして保育士を確保しようとしているのでしょうか。
ここからは、行政による保育士確保のためのプランを3つご紹介していきます。
1:国家試験を年に1回から2回になった
従来、保育士資格を得るための国家試験は年に1回しか行われませんでしたが、保育士人材を確保するために、行政はこれを変更し、現在では年に2回試験を受けられるようになっています。
国家試験の回数が2回に増えれば受験者も多くなり、その分保育士の人材を確保することにつながるからです。
保育士を目指す人が保育士になりやすい環境が整えられるようになったと言えるでしょう。
2:賃金が月6000円程度上がった
保育士を確保するためには、生活がやっていけるだけの収入を保証する必要があります。行政は保育士の低賃金問題を改善するための方策として、平成29年から毎月の賃金を6000円ほどアップさせる対策を実施しました。
月6000円であっても、年間にすれば7万円ほどになります。また、勤続年数によって昇給ができるような賃金システムに関しても、行政の主導で導入されるようになりました。
3:離職保育士に対する再就職支援の強化
保育士を続けたいと思っていても、妊娠・出産や子育てによって離職をせざるを得ない女性も少なくありません。このような人材を放置しておくことは、社会にとって大きな損失です。
離職した保育士を活用すべく、保育士・保育所支援センターが設置され、そこを通じて離職保育士の再就職支援が行われるようになっています。
このセンターに登録をすれば、効率的に保育園の求人情報を得て、再就職がしやすくなります。
保育士確保集中取り組みキャンペーン実施4つ
残念ながら、保育士減少はまだまだ未解決の問題です。保育士不足と待機児童問題を抜本的に解消すべく、厚生労働省は平成31年から「保育士確保集中取り組みキャンペーン」と題して、具体的な対策を4つ講ずることになりました。
ここからは、気になる保育士確保集中取り組みキャンペーンの内実を見いていきましょう。
1:民間保育園で働く保育士の給料があがった
このキャンペーンによって、民間保育園で働く保育士の給料が約13%アップすることになりました。
公的な保育園ではすでに年間7万円ほどの給料アップが実現されていましたが、そこから取り残されていた民間保育園に関しても、年間4万円ほど収入が上がることになります。
2:職場復帰のサポート
一度保育現場から離れると、なかなか復帰するタイミングがつかめず、復帰したとしても職場に適応できないこともあります。
離職者がスムーズに職場復帰を果たせるよう、保育士・保育所支援センターなどの機関を通じて、きめ細かいサポートが継続されることになりました。
3:職場復帰の就職準備金
小さなお子さんがいる保育士の場合、職場復帰をしようとすると、自分の子供を保育園に預けなければなりません。
子供の保育園費用も含め、職場復帰に必要な就職準備金を40万円まで国から貸し付けてもらえることになっています。
4:保育士が働きやすい職場づくりを進める
保育士にとって働きやすい職場づくりを行うことが、離職を防ぎ、保育士の人材を確保することにつながります。
保育士にとって良好な労働環境を提供すべく、国は補助金を出したり、働きやすい職場づくりを率先して行っている保育園に奨励金を出すなどしています。
保育士の減少を防ぐには総合的な支援が必要
今回は保育士の減少という問題について特集してきましたが、いかがでしたでしょうか。保育士は社会にとって欠かせない存在ですが、低賃金や恒常的な長時間労働など、さまざまな要因によって働きにくい環境に置かれています。
保育士の減少を防ぐためには行政が率先して総合的な支援を行い、保育士がライフステージに合わせて柔軟に働き方を選択できる環境を整えることが必要だと言えるでしょう。