裁量労働制とは
裁量労働制とは、労働時間を実労働時間ではなく、一定の時間を労働したとみなす制度のことです。
働き方改革の議論が進む中で、事業場の責任者は従業員の労働時間を正確に把握しなければなりません。しかし、職種によっては把握が難しい場合もあります。そこで、所定労働日の労働時間を実労働時間ではなく、労働したとみなす制度が必要になりました。
なお、裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」があります。
専門業務型
専門業務型とは、専門性を必要とする業務に限られた裁量労働制です。
高度な専門スキルや経験を要する業務については、事業場の責任者が勤務時間を把握することが困難です。そこで、公認会計士や弁護士、建築士など専門性が求められる19業務にだけ、適用することができる制度です。
なお、「対象業務」や「労働時間としてみなす時間」は労使協定を締結し、労働基準監督署へ届け出るとともに、就業規則に明記する必要があります。
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。○専門業務型裁量労働制の対象業務は?「専門業務型裁量労働制」は、下記の19業務に限り、事業場の過半数労働組合又は過半数代表者との労使協定を締結することにより導入することができます。
企画業務型
企画業務型とは、企画、立案、調査および分析にかかる業務を対象とした裁量労働制です。
企画業務型を導入するには、企画、立案、調査および分析にかかる業務といった業務内容だけでなく、本社営業企画部門に所属し、大学卒業後5年以上の職務経験を有する者といった条件があります。
また、労働者からの同意、労使委員会で決議された日から起算して6カ月以内ごとに1回、労働基準監督署へ定期報告を行わなければなりません。
Q1 企画業務型裁量労働制を導入できる事業場は?A いかなる事業場においても導入できるということではなく、「対象業務が存在する事業場」です。 具体的には、以下の事業場が該当します。 1 本社・本店である事業場 2 1のほか、次のいずれかに掲げる事業場 (1) 当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場 (2) 本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場※ 個別の製造等の作業や当該作業に係る工程管理のみを行っている事業場や本社・本店又は支社・支店等である事業場の具体的な指示を受けて、個別の営業活動のみを行っている事業場は、企画業務型裁量労働制を導入することはできません。
フレックスタイム制と裁量労働制の違い
フレックスタイム制と裁量労働制の違いは、労働時間をみなすか否かといった点です。
フレックスタイム制は、始業時間・終業時間を社員が決めることができる制度であり、裁量労働制と似ています。しかし裁量労働制は、労働時間をみなしとするのに対し、フレックスタイム制は、労働時間が管理されるのが大きな相違点です。
また、フレックスタイム制は、導入に向けてのハードルが比較的低いのも特徴であり、導入する企業が多いのが現状です。
裁量労働制の休日手当は?
裁量労働制においても、休日手当については割増賃金が支払われます。
裁量労働制だからといって、休日労働が支払われないわけではありません。裁量労働制では休日労働はみなし時間に含まれません。
裁量労働制が抱える問題点6つ
裁量労働制は有益な制度である反面、さまざまな問題を抱えています。
裁量労働制の大きな特徴は、労働時間がみなされる点です。したがって、効率的に業務を進めていけば、短い労働時間でそれ以上の賃金を得ることができます。しかし、成果が出なければ、労働時間が長くなります。
裁量労働制の成果を十二分に引き出すには、制度の問題点を把握することが大切です。そこで、裁量労働制の抱える問題点について解説します。
裁量労働制の問題点1:長時間労働の温床
裁量労働制において、長時間労働の横行は極めて大きな問題点です。
裁量労働制の特徴は、労働時間はみなしとして扱われるので、その管理は個々の社員に任されている点です。成果が出れば労働時間を短縮することは可能ですが、成果が出なければ、長時間労働が横行するといった問題点が発生します。
働き方改革では、長時間労働の是正が大きな柱となっていますが、逆行する制度になりかねないのが現状です。
裁量労働制の問題点2:出退勤時間の形骸化
裁量労働時間制において、出退勤時間は社員任せとなり形骸化する恐れがあります。
裁量労働時間制において、出退勤時間という概念はありません。そのため、職場の責任者は個々の勤務実態を把握することが困難になります。
その結果、業務の進捗状況が確認できなくなるばかりか、職場としての一体感も失われます。つまり、社員管理が不十分となり、大きな問題点を引き起こすリスクを抱えることになります。
裁量労働制の問題点3:実務時間との乖離
裁量労働制では、みなし労働時間と実務時間が大きく乖離する事態が多々あります。
裁量労働制を適用する際には、みなし時間や求められる成果が定められます。しかし、求められる成果が、みなし時間では成し遂げることができないものだと、実務時間は長くなるといった問題点が発生します。
その結果、社員への負担が大きくなり、みなし時間を大きく超えて、業務に従事せざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。
裁量労働制の問題点4:休日出勤の扱われ方
裁量労働時間制を間違って認識していると、休日出勤もみなし労働にされてしまいます。
裁量労働時間制において、休日出勤における実務時間は、みなし労働には含まれません。しかし、このことを誤って認識していると、休日の実務時間について把握されないといった問題点が発生します。
その結果、休日労働に従事した割増賃金が支払われないといった不適正事案につながり、労働者にとって不利益な事態に陥ります。
裁量労働制の問題点5:労使間協定の複雑化
裁量労働制を導入する際には、労使間協定を締結する必要があり、手続きが複雑になります。
裁量労働制を導入する際には、社員の過半数を占める労働組合の代表もしくは社員代表と労使協定を締結しなければなりません。つまり、しっかりと協議して相手が納得しなければ導入できません。
それだけに手続きが複雑になり、労働組合などのコンセンサスが得られない場合には、導入できないといった問題点に発展することもあります。
裁量労働制の問題点6:残業代の不払い
裁量労働制においても残業代が発生しますが、不払いとなっているケースも少なくありません。
「裁量労働制=残業代は不要」と考えている人も少なくありませんが、これは間違った解釈です。みなし労働時間を超えた時間については、残業代を支払わなければなりません。
このことを誤って解釈していると、残業代の不払いといった不適正事案という問題点が発生し、場合によっては労働基準監督署に指摘を受けることもあります。
裁量労働制でも時間外手当を請求できるケース3つ
裁量労働制でも時間外手当を請求できるケースがあります。
裁量労働制では、みなし時間に時間外手当分を含んでいるケースが多いため、請求できないと思い込んでいる社員も少なくありません。
しかし、みなし時間を超える実務時間が発生した場合など、社員の不利益につながる場合には時間外手当の請求は可能です。ここでは、裁量労働制でも時間外手当を請求できるケースを紹介します。
裁量労働制でも時間外手当を請求できるケース1:労使協定や労使委員会の不備
労使協定や労使委員会に不備があれば、時間外手当を請求できます。
裁量労働制を導入するにあたり、専門業種型の場合には、労使協定の締結と労働基準監督署への提出、企画業務型の場合には、さらに労働委員会における決議が必要です。
これらの要件を満たしていない場合、裁量労働制は無効になります。したがって、その期間における時間外手当を請求することができます。
裁量労働制でも時間外手当を請求できるケース2:法定労働時間の超過分
裁量労働制においても、法定労働時間の超過分は時間外手当を請求できます。
裁量労働時間制を導入する際、残業時間をみなし時間に含む場合がありますが、この時、割増賃金(時間外手当)として扱わなければなりません。さらに、みなし時間に含まれる残業時間を超えた際には、その時間数分の時間外手当を請求することができます。
もちろん、みなし時間に法定労働時間の超過分を含んでいない場合にも、時間外手当の請求は可能です。
裁量労働制でも時間外手当を請求できるケース3:裁量労働制が適用されない職種
裁量労働制が適用されない職種では、労使協定が締結されても認められません。
裁量労働制は、その主旨から適用される職種が限定されています。したがって、いかなる理由があっても、適用されない職種で導入することはできません。
つまり、適用できない職種であれば労使協定が締結されていても、裁量労働制とはなりませんから、時間外手当を請求できます。
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裁量労働制の問題点への対処法5つ
裁量労働制の問題点については、各機関に相談することで解決できます。
ここまで、裁量労働制の問題点について解説してきましたが、決して制度そのものに問題点があるのではありません。労使ともに制度を理解し正しく運営すれば、その強みは最大限に発揮できます。
そこで、裁量労働制を運営している中で、問題点が発生した場合の対処法をまとめてみました。
裁量労働制の問題点への対処法1:会社側に確認する
裁量労働制の導入や運営にあたって、問題点が生じた場合は会社に確認しましょう。
裁量労働制の導入や運営について問題点が発生した場合、いきなり外部機関に相談することは、余計な混乱を招くことにもなりかねません。制度そのものが成熟していないため、会社に確認することで簡単に解決できることも多くあります。
会社に確認しても満足できる回答が得られず、これから先の展開が見込めない場合に相談しましょう。
裁量労働制の問題点への対処法2:労働基準監督署に相談する
労働時間に関することは労働基準監督署に相談しましょう。
裁量労働制の問題点で多いのが、長時間労働に関する内容です。とりわけ、みなし労働時間と実務時間が大きく乖離する場合には、社員の健康を損なうことにもなりません。
こういった場合には、労災にも強い労働基準監督署に相談するとよいでしょう。その上で、会社に再度、問題点の解決を求めることが大切です。
裁量労働制の問題点への対処法3:弁護士に相談する
残業代などお金に関する問題点は弁護士に相談しましょう。
みなし労働時間を超過した時間については、残業代などの支給対象となります。しかし、裁量労働制ではこの点の誤認識が多く、残業代などの不払い事案が多く発生します。
会社に相談しても取り合ってもらえない場合には、弁護士を通じて不払い残業代を請求するとよいでしょう。
裁量労働制の問題点への対処法4:裁量労働制問題点専門の団体に相談する
裁量労働制の運営や労働条件に関わる問題点は、専門の団体に相談しましょう。
裁量労働制の導入については、労使で協議のうえ決定し、労使協定が締結されています。したがって、裁量労働制の運営や労働条件にかかる問題点の解決には、労使協定を締結した労働組合に相談するのも一つの方法です。
会社側に明らかな問題点がある場合には、労働組合が会社と対応する場合もあります。
裁量労働制の問題点への対処法5:転職する
裁量労働制が合わないと感じたら、転職するのも解決方法です。
裁量労働制の導入や運営方法に問題点はなくとも、どうしても馴染めない場合もあります。こういった際には、転職してしまうのも一つの方法です。会社側に問題点がない以上、制度を変えることはできません。
しかし、我慢して働き続けることは、体調を崩す原因にもなりかねません。そうなる前に転職することは、将来的に考えてもプラスな選択です。
裁量労働制の問題点を知ろう
裁量労働制の問題点を把握した上で、導入・運営することが大切です。
裁量労働制は、その内容を正しく理解して運用すれば、業務の効率化が図れる有益な制度です。その反面、長時間労働や残業代の未払いといった問題点もあります。これらの問題点は、「勤務時間管理の必要がない」といった誤った解釈が原因です。
したがって、裁量労働制を成功させるには、問題点を把握した上で制度を正しく理解することが大切です。