パワハラは労災認定される?
「上司に殴られた」「上司の暴言によって精神的ダメージを負った」など、パワハラで実害が出ている場合は、労災が下りる可能性があります。目に見える怪我はもちろんですが、精神疾患でも労災認定となる可能性は十分あります。パワハラで労災認定を受ける条件と手順をしっかり理解して、実際にパワハラの被害にあった時のためにも確認しておきたいですね。さらに言えば先を見据え認定に役立てましょう。
労災が下りる可能性が高い
2009年以前、パワハラで労災認定を得るのはとても難しいことでした。ところが、急激な労働環境の変化に合わせて、精神疾患を労災認定する際の判断基準が、10年ぶりに見直されたのです。 これをうけた労働基準監督署は、「職場における心理的負荷評価表」を使って労災認定を行っています。この評価表に、新たにパワハラ関連の項目が加えられました。改定後は「退職を強要された」「嫌がらせ、暴行をうけた」などのパワハラが、ストレス強度1~3段階の「3」に分類されるように変わったのです。
これで、パワハラの労災認定のハードルが一気に低くなったと言われています。 パワハラは、時代背景とともに労災として認められるようになってきました。労災といえば、工場で業務中に怪我をしてしまった。職場環境が悪く、それが病気の原因として考えられ職場の環境が原因で、体に何かしらの害が出てしまった時のイメージが有りますね。では、上司の暴言や嫌がらせが原因で、精神疾患になってしまった。仕事量、労働時間が多すぎて、体調を崩してしまった。などはどうなるのでしょうか。
こちらも、職場の環境、上司や仕事量が原因で体に害が出てしまっています。なので、労災として認められるには十分な要素があります。しかし、会社からしてみれば労災は事故や怪我などの一般的なイメージが強いため、パワハラが原因で体調を崩してしまったとしても、労働者側から動かなければ、労災が下りることはほとんどないようです。それでは、労災と認定されるためには、どの程度の内容で、どのような基準を満たしていて、どのような手順で進めていけば良いのでしょうか。
パワハラで労災が下りる条件
労災認定基準
労災とは、業務上の事由又は通勤途上での負傷、疾病、障害、死亡などの災害で、正式名を、「労働者災害補償保険」といい、認定されると治療費や休業保障などが支給されます。労災認定には、要件があり、それらに当てはまる必要性があります。
労災認定されるためにパワハラの種類を知ろう
上司や職場環境の悪化や精神的な苦痛などを恒常的に受け続けていたとするならばいったいどの程度からパワハラとして認められるのでしょうか。通常であればこういった、いわばいじめのような行為や言動は許されざるものです。しかし残念ながら、今の日本では、パワハラ行為を直接裁くための基準となる法律がないのが現状のようです。法律が世の中に対して遅れていることなどは、たびたびニュースや新聞などで取りざたされていますが、なかなか法整備までこぎつけられていない現状がありますし、こういった現状を墓場行政という人もいます。皆さんの中にはこれでは、どうすればパワハラとして認められると思われるかもしれません。
それについては、ようやく重い腰を上げた平成24年1月30日に厚生労働省がパワハラの定義を発表しました。それによると、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」とあります。そして、厚生労働省のワーキンググループは、パワハラの6つの類型を定義しています。
①身体的な攻撃:暴行・傷害
身体的というパワハラの典型例ともいえる行為です。日常的に営業成績が悪ければ上司や先輩が殴る、蹴る、胸ぐらを掴んでくるなどの暴行を加え怪我を負ってしまえば労災として認められますし、怪我を負わなくても精神的に苦痛を感じさせれば労災として認められます。
②精神的な攻撃、脅迫、侮辱、暴言
精神的に攻撃をしかける言葉による暴力です。暴力などを背景にこれらを行使することを上司や先輩といった逆らえないであろう関係性を有利にしたうえで暴言や人格否定、そして脅迫するなどの行為です。これは精神的労災とすることができます。何よりもあまりにも公然的に侮辱したりすれば名誉棄損罪、侮辱罪で訴えることができます。
③人間関係からの切り離し仲間はずれ
一人だけを村八分の様に仲間はずれにしたり、同じ部署に所属しているにもかかわらず自分だけはひたすらに必要でないと思われるような単純な業務をするように言われるなど自分の周りに見方が一人もいないという状況を作り出し、追い込んでいくのでもちろんパワハラです。
④業務上明らかに不必要なことや不可能なことを強制する
会社によって判断は難しいところがありますが、周りと比べて、明らかに仕事量やノルマが多く、それが精神的、肉体的に負担になり侵害されるようであれば労災と認められます。
⑤仕事を与えない
仕事を与えないというパワハラもあります。いわゆる、窓際族です。従業員は、自身の成長や人脈の構築の機会を奪われることで、精神的に追いやられてしまいます。このことを理由に退職勧告をする企業もあり不当解雇につながる場合もあります。
⑥プライベートに立ち入ること
過度にプライベートな部分に関わってきて、上司だから断れない、精神的負担を感じてしまえばパワハラと言えます。パワハラの種類も様々です。職権を利用し、断続的に従業員を精神的、肉体的に侵害するのであれば、十分パワハラになります。では、パワハラでどの程度まで労災として認められるのでしょうか。
認定基準の対象となる精神疾患を既に発症している
代表的な精神疾患としては、うつ病、適応障害、心因反応、心因障害、睡眠障害などがあります。病気と言えないまでも、うつ状態にある、または、うつの気があるなどと診断される場合もあります。精神障害は、外部からのストレスが個人のストレスの対応力を超えてしまった場合に発症すると考えられています。外部からのストレスには、仕事に関係するものと私生活に関係するものがあります。また、個人の対応力は一概には言えませんが、性格的なもの、既往症(既にかかったことのある病気)なども関係します。いずれにしても、医学的見地から慎重に判断することになっています。既にうつ病、適応障害、心因反応、心因障害、睡眠障害などを発症している場合は認定が下りる可能性が高いといわれています。
発病前の約6か月以内の業務による強い心理的負担が認められる
業務が原因で精神疾患を発症した、という因果関係が認められなければなりません。 心理負荷による労災認定基準は2009年4月に見直され、いじめや嫌がらせが最高負荷のⅢと判断されるようになり、パワハラによる精神疾患が労災として認定されることが多くなりました。心理的負荷は「心理的負荷評価表」を元に強弱が評価され、「強」と評価される場合に認定要件を満たすことになります。 なお、強弱の評価については、労働基準監督署の調査に基づいて決まります。心理不可による労災認定基準はとても明確で、1999年に作成された「心理的負荷評価表」に基づいて審査されてきました。
発病前の6カ月間に職場で起きた出来事を全て評価表に記録し、ストレスの強い順にⅢ・Ⅱ・Ⅰの3段階で評価するというもの。2009年まで、「パワハラや職場いじめ」はⅡと判断され、「退職の強要」などの出来事がⅢと判断されてきました。しかし、2009年4月、10年ぶりにこの基準が見直され、いじめや嫌がらせがⅢと判断されるようになったのです。なので、パワハラによる精神疾患が労災として認定されることが多くなりました。心理的負荷は「心理的負荷評価表」を元に心理的負荷の強弱を評価し、強と評価される場合に認定要件を満たすことになります。なお、強い心理的負荷が認められるか否かは労働基準監督署の調査に基づき判断されます。
業務以外の心理的負担によって発病したと認められない
精神障害を発症していても、その要因が職場以外のものであれば労災とは認められません。職場における心理的負荷評価表と職場以外の心理的負荷評価表があり、精神障害を発症していて、強い心理的負荷が認められていても、その要因が職場以外のものであれば、労災とは認められません。職場における心理的負荷評価表と、職場以外の心理的負荷評価表があるので、こちらも労働基準監督署の調査に基づき判断されるでしょう。
パワハラ労災申請の手順
では、実際の労災申請の手順を、パワハラ労災の見地から見てみましょう。 労災保険の給付を受けるには、申請して労働基準監督署長に認定されることが必要です。ほとんどの企業では精神疾患を患っているからといってすぐに業務災害だという認識はありません。しかしそんな遅れている企業側に合わせていては一向に被害は回復する見込みがありません。ですのでそこで仕方なく労働者が自ら申請します。
また、パワハラ労災の場合、会社とは利害関係が対立することも。先述の通りで、労災保険の給付を受けるには、申請して、労働基準監督署長に認定されることが必要となります。ですが、多くの企業では、病気とつくものは、業務災害だと意識することはないため、いつまで待っても労災申請することは望めません。こうしていくと労働者が自ら労災申請しなければならず、会社はあてにならないものだと思ったがよいでしょう。っさて、そんな自分で行うことになる可能性が十分考えられるであろう労災申請の手続きは次のように行います。
① 労働基準監督署に申請する
本人またはその家族が、会社のある地域の労働基準監督署へ行き、請求を行います。労働者労働災害保険請求書(5号、7号、8号用紙と呼ばれているようです。)を労働基準監督署でもらいます。入手した申請書には、本人の住所や氏名、生年月日、事件の発生した状況などを記入し、労働基準監督署に提出します。
② 診断書をもらう
この申請書には、会社の押印と労働保険番号の記入が必要です。もし会社とパワハラで利害関係が対立していたら、協力してくれる可能性は低いもの。しかし、この申請書には、会社側の押印と労働保険番号の記入が必要になります。会社側がパワハラによる申請を受けてくれるとは考えにくいですよね。そこで、精神的な治療を受けている病院から、治療日数と医師の証明印が入った診断書をもらってきましょう。
③ 書類の提出
必要書類を病院に提出し、「労働者労働災害保険請求書」と一緒に労働基準監督署に提出します。会社側の欄は空白のままです。しかし、これで一応の申請は受理されます。 受理はするものの残念なことに、労災認定されないケースもあります。ところが、反対に会社側が労災隠しをしていたと認定される場合があり、会社側が厳重な処分を受けることもありえます。
慰謝料はもらえる?
慰謝料を請求したい
近年、ブラック企業とともによく聞くようになってきた「パワハラ」という言葉ですが、それだけ世間の関心の高さを表しているのではないでしょうか。その、時代の流れもあり、パワハラが労災と認められるようになってきました。そうして、労災と認められるようになったので、被害が深刻なケースは、慰謝料を請求できる場合もあります。
パワハラで慰謝料請求
では、あまりにもひどいパワハラは慰謝料を請求することができるのでしょうか民法上の不法行為にあたれば慰謝料を請求することができます。パワハラ被害が深刻であればあるほど、また、一般的にはパワハラを受けた期間が長いほど慰謝料も高額になると言われています。さらに、加害者の社会的地位や収入が高ければ高いほど慰謝料も高額になります。上で説明した、パワハラの定義、労災認定基準を満たしているようであれば、慰謝料請求をできる可能性はあります。民事上の責任追及をする場合には、相手に内容証明を送って話合いの場を設けたり、裁判を起こしたりすることになります。
精神的損害に対する慰謝料や治療費、パワハラで会社を休んでいた間の給料などを損害賠償として請求することができます。しかし、パワハラでの裁判は労災認定よりハードルが高く、準備が必要になります。どういった理由や状況といった客観的に見てパワハラを受けたのかという証拠を揃えましょう。ボイスレコーダーやメモや第三者の証言を手に入れておいてもよいでしょう。また、パワハラが原因で治療を受けているようであれば、こちらも医師の診断書があると良いでしょう。
パワハラから身を守る方法
パワハラを訴えたばかりに余計嫌がらせを受けてしまうのではないのか。こういったように不安に思われる方もいるでしょう。現在進行形で、周りにパワハラを受けている人がいたらぜひ、手を貸してあげてみてはいかがでしょうか。というのも、昨今世間を騒がせているブラック企業にはたいていの場合にはパワハラがつきものだと言われているくらいですので、企業と戦うには戦力が必要ですが、パワハラを受けている当事者はきっとさびしい思いをしているでしょうから。しかし、そうはいっても自分にも生活があると思われる方もいるかもしれません。しかし、こうしたパワハラを9放置するという事はいずれ、自分自身が違う立場になった際に巻き込まれてしまう可能性を放置することと他ならないのではないでしょうか。こういった労働者を守る仕組みはしっかり整っていて、方法もいくつでもあります。
社外の公的機関に相談する
こういった場面では厚生労働省や労働基準監督署に相談することもできます。メンタルケアから、改善されないパワハラに対して、法的に動く事ができます。法的に動くつもりであれば、後々のために記録の残るであろう公的機関に介入しておいてもらうことも一考でしょうし、何よりもいくら会社が強気に出てこようとも行政機関である厚生労働省や労働基準監督署からの指導や命令に従わなければ社会的な問題にはってしかねないです。
そうなると、会社としても動かざるを得ない場合もあるでしょう。こうして、公的機関を有効活用することで今後を有利に進めるということができるということを覚えておいた方がいざ、会社と対峙する際にはいち早く動けるでしょうし、何よりも有効な打開策を一人で悶々と考えているよりはよほど効率的に見いだせる可能性は高まるのではないでしょうか。
弁護士に相談する
法律のプロフェッショナルである弁護士などに相談することです。自分ではどうしようもないばあいはもちろんですが、何よりも会社内に見方が存在しないケースもあるでしょうから、そうした時には社外で法律の専門家の意見を仰ぎみることも必要になってくることもあるでしょう。個人的に会社側に対して待遇、業務内容、職場環境の改善を訴えかけても耳を貸してくれる可能性は先述の通り低いと言えるでしょうから、そうした場合には弁護士に相談に行き、場合によっては代理人として会社側との交渉やその他もろもろの煩雑な作業を依頼することも視野に入れておくことも重要です。
こうして一向に改善してくれる兆しの見えない会社や職場環境や業務内容からくるパワハラとを相手に法律を味方につけ戦います。もし可能ならばこうした場合に備える形でなるべく有効な証拠を集めましょう。そうすることで会社側も待遇の改善や場合によっては和解という選択肢を考えてくれるでしょうし、何より、会社側が言い逃れできないくらいの大変な状況であったという事を訴えかけるという意味でも証拠とは重要になってくるものです。こうして、専門家の知恵を借りつつ法律を味方につければ、会社も改善せざるを得ないでしょうし、周りの上司や先輩などはこれ以上のパワハラはできなくなるでしょう。
ここまでするのは大げさではないかと考える人もいるでしょう。しかし、改めて考えてみてもらいたいのですが、そもそも会社内で起こったことの責任は当然会社にありますよね。ということは、会社には未然にパワハラを防ぐことが求められますし、何よりも昨今のコンプライアンス遵守という潮流に逆らうような形での社内環境の不整備は社会的には相当性を欠きますし、何よりも当事者以外の社員も不安に思うでしょう。こうしたことから、会社にはパワハラに対する改善を求めなければならないでしょう。そうすることで、今後出てくるであろう次のパワハラを防いでいくのが義務と言えるでしょう。ですので、法的な措置を講じざるを得ないほどのパワハラを放置した責任は重いと言えるでしょう。その責任を当事者が追求しなければ次々とパワハラの連鎖はやむことを知らずにはびこっていく可能性は高いと言えるでしょう。ですので、法的措置に講じるというのは決して恥ずかしい事でも後ろめたい気持ちになる必要は全くと言っていいほどないのです。
パワハラと労災の総括
先述の通り、段々とパワハラは労災としても認められてきています。こういった会社は徐々に減っていくことでしょう。しかし、このパワハラは実情として目にする機会はそれほど多くありません。大抵の方はニュースや新聞程度でしょう。ですが、社会全体としてはまだまだ根強くパワハラの被害にあっている人は存在しているという事は紛れもない事実ですので、注視すべきでしょう。そしてこのパワハラを白日の日のもとにさらすためにはこちらから少しだけでも良いので何らかのアクションを起こさなくてはなりません。
ここで気を付けたいのはあくまでも社外でということです。先述の通りで、会社側が自らの責任を全面的に認めて対応してくれるとは到底言いきれるものでないのでパワハラで悩んでいるのであれば、社外にいる弁護士や関係公的機関などに迅速に相談することが肝要でしょう。こういった込み入った問題では、素人では到底太刀打ちできない場合も多いため一人で何とかしようとせずに必ず専門家のアドバイスを受けるなどをしたほうが良いでしょう。もし、そういった事が難しい事情があれば家族に相談してから一緒になって戦ってもらった方が心強さも相まってより一層の問題解決への糸口が見えてくるのではないでしょうか。