ワークスタイル変革とは
ワークスタイル変革はいつごろから?
「ワークスタイル変革」とか「働き方改革」という言葉を、この2、3年よく聞くようになりましたが、発端はいつごろからのものでしょうか。1978年に労働基準法が改正されて、フレックスタイム制が導入された頃から、働き方についての考え方が変わり始めたのではないかと言われています。
その後、1990年から2000年にかけての情報インフラと業務電子化の進化によって、メールやテレビ会議といったものが当たり前の世の中になってコミュニケーション方法が劇的に効率の良いものに変わりました。
2016年には、政府が「働き方改革担当大臣」を任命して諸策の検討に入っています。ワークスタイル変革の現状は、在宅勤務やモバイルワークに代表される勤務場所を選ばない働き方であるテレワークや、事業所の中でも執務場所を選ばないフリーアドレスのようなものが中心になっています。
働き方改革担当大臣も誕生
2016年8月に働き方改革担当大臣というポストが新設され、9月2日に行われた働き方改革実現推進室の開所式で安倍総理は次のように訓示しています。
「働き方改革」にいよいよこれから我々は着手するわけでありますが、一億総活躍社会を目指す私たちにとって「働き方改革」は最大のチャレンジであります。同時に、まさに働き方は人々のライフスタイルに直結するものであり、そして経営者、企業にとっても大変大きな課題であります。世の中から「非正規」という言葉を一掃していく。そして、長時間労働を自慢する社会を変えていく。かつての「モーレツ社員」、そういう考え方自体が否定される。そういう日本にしていきたいと考えている次第であります。人々が人生を豊かに生きていく。同時に企業の生産性も上がっていく。日本がその中で輝いていく。日本で暮らすことが素晴らしい、そう思ってもらえるような、働く人々の考え方を中心にした「働き方改革」をしっかりと進めていきたいと思います。
目的とするところは、同一労働同一賃金の実現、最低賃金の引上げ、長時間労働の是正などを通して一億総活躍社会の豊かな生き方を実現しようとするものです。
企業が主体に進めているワークスタイル変革が目指す生産性,業務効率の向上などを包含するものでしょうが、具体的な施策や法制化などはまだこれからのことになるでしょう。政府が音頭取りのプレミアムフライデイも浸透にはまだ時間がかかりそうです。
変革と改革の違いは
「ワークスタイル変革」と「働き方改革」、細かなことですが「変革」と「改革」、呼び方が違います。同じようですが、何が違うのでしょう。
「変革」と「改革」の違いは、「大手術」と「手直し」の違いと言われています。「変革」は既存の基盤そのものを否定して根本的に変えることで、歴史で言えば変換点、明治維新のようなものでしょう。「改革」は既存の基盤そのものは温存して改善改良を実現することで、享保の改革や寛政の改革、天保の改革などが歴史上にはあります。
政府の「働き方改革」よりも、民間主導の「ワークスタイル変革」のほうがよりドラスティックな変化が期待できそうな語感がしますが、どうでしょうか。
ワークスタイル変革の目的とメリットは
ワークスタイル変革の大きな目的の一つは、生産性や業務効率を向上させ最終的に収益アップにつなげることです。また、働く時間や場所の自由度を高めることで働きやすさを向上させて、働くモチベーションを高めることも大きな目的の一つです。
勤務場所を働く人の便利な場所にするテレワークを取り入れれば、移動に必要な時間の削減や業務に集中できる時間が増えて時間活用の幅が広がるので、生産性の向上につながるメリットがでてきます。業務するデスクを固定しないフリーアドレス制には、部署単位の配置に制約されず他部門などとのコミュニケーションが円滑に進み、効率の向上につながるメリットもあります。
また、働く場所や時間の制約を抱えた社員でも働くモチベーションが向上すれば、会社を辞めることなく継続して働き続けることができ、大切な人材の確保につながるメリットがでてきます。
ワークスタイル変革の事例
ワークスタイル変革を実践している会社は増えてきています。変革が定着して効果が目に見えてくるまでにはまだ時間が必要なのでしょうが、これからの企業には必ず求められる施策になってきています。ワークスタイル変革に取り組んでいる代表的な企業の事例を紹介しましょう。
富士通の事例は
富士通は前身である富士通信機器製造の設立から80年以上が経過していて、どちらかというと古い体質の会社というイメージがあるのですが、ワークスタイル変革への取り組みは早く、今ではそのシステムやノウハウなどを外販する有数企業になっています。
2010年に在宅勤務制度を導入しましたが、それ以前からサテライトオフィスの利用などの試行もしていたようです。2015年にはフレックスタイム制を導入するとともに、1200人の社員を対象にしてテレワークも試行しています。2016年には育児・介護やキャリアアップのために退職した社員の再雇用制度を導入し、2017年にはテレワークの全面導入を果たしています。
富士通の取り組みは自社製品を中心にしたハードの導入はもちろんですが、ビジョンの策定に力を置いたことに特徴があります。いろいろな先行事例や成功事例から、自分たちが本当にしたい「コト」は何かを考えてビジョンを策定したのです。その次のステップとして、就業規則やセキュリティ指針の見直し、インフラの選定・運用など具体的な施策を詰めていったということです。
マイクロソフトでは
日本マイクロソフトは日本で事業を開始して2016年で30年になりますが、この5年ほどで厚生労働省のテレワーク賞や経済産業省のニューオフィス賞、ワークスタイル改革を支援するIT企業の第1位になるなど数々の賞を受賞しています。ワークスタイル変革によって驚異的な生産性の向上を達成しているというのがその理由です。
2010年から2015の間の5年間の成果では、事業生産性が26%アップ、残業時間の5%削減、旅費・交通費の20%削減、女性離職率の40%削減などの数字が公表されています。
特に生産性の向上については人員増も抑えられていることから、この14年間でみると同業他社の3倍の生産性向上ができていると言われています。
ワークスタイル変革のベースにはマイクロソフトが得意とする情報通信技術、ICTの活用があります。いつでも、どこでも、誰とでもコミュニーケーションが取れるようにするというのが基本です。
2016年からは、「在宅勤務制度」を廃止して新たに「テレワーク勤務制度」を導入して、より柔軟な条件での勤務を可能にしています。また、フレックスタイム制度でもコアタイムを廃止するなどして、これまで以上に時間や場所にとらわれない働き方を追求、さらなる業務効率・生産性の向上や働きがいの向上を目指そうとしています。
リコーグループの取り組み
リコー製品の販売会社、リコージャパンはワークスタイル変革の実践とともにノウハウなどの外販も行なっています。リコージャパンのワークスタイル変革の取り組みは、主にオフィスの空間変革によってコミュニケーションの質と生産性を高めることにあります。
コミュニケーションの空間変革を実現するために次のような取組を実行しています。
■会議準備に費やす時間の削減:全会議室にプロジェクターや電子黒板などの機器を設置して、準備無しにすぐに会議が始められるようにしてムダな時間を削減します。
■情報共有の場「フォーメーションエリア」の設置:プロジェクトが情報共有のために占有して使えるエリアを設けて、メンバーがいつでも集まれるようにしています。
■遠隔コミュニケーション環境の整備:テレビ会議を常設したエリアを設けていつでもすぐに他の拠点にいるメンバーと打ち合わせができ、外出先のメンバーもスマートデバイスで遠隔会議に参加することができます。
■社内デジタルサイネージによる情報伝達:情報共有を徹底するために、プロジェクターやディスプレイで情報を常時表示するデジタルサイネージシステムを導入して情報伝達を確実にしています。
このような取組によって、会議の準備時間が平均で45分削減でき、会議開催のコストが月平均で740万円削減できたと言います。また、それらの削減がコアな業務に振り向けられることで、顧客への対応件数が50%以上向上したという結果がでているそうです。
ワークスタイル変革の一つとしてのコミュニケーションの空間変革は、コスト削減だけではなく、コアな業務へ集中できることによる生産性向上、業績向上にもつながっています。
ワークスタイル変革の市場規模
ワークスタイル変革の市場規模を包括的に取り扱っている調査はなかなかありません。ワークスタイル変革に関連する市場としては、フリーアドレス構築やテレワークシステム、クライアント仮想化、ビデオ・ウェブ会議システム、社内SNS・ビジネスチャットなどがあって、それぞれ個別の市場での市場規模などが発表されています。
そのなかのテレワークに関する市場規模をみてみましょう。
テレワークについての政府の目標は?
政府は平成25年6月に「世界最先端 IT 国家創造宣言」を制定しましたが、平成28年5月に改訂し、そのなかでテレワーク導入企業数のKPI(重要業績評価指標)を設定しています。2020年にはテレワーク導入企業数を2012年度比で3倍にするというものです。2012年度実績が11.5%ですから34.5%、実に企業の1/3がテレワークを導入するという目標です。
この目標に関連して、週1日以上を終日在宅で就業する在宅型テレワーカー数を全労働者数の10%以上にし、この取組を含めた女性の就業支援などによって第一子出産前後の女性の継続就業率を55%に、25歳から44歳までの女性の就業率を73%まで高めるという目標も設定されています。そのための各省庁の施策などの計画も定められています。
テレワークの市場規模は?
ワークスタイル変革のなかのテレワークに関する市場には、映像・音声コミュニケーションやグループウェア、社内SNS、ユニファイドコミュニケーション、リモートデスク有数/リモートアクセスなどの市場があります。
幅広い分野で市場調査を行なっているシード・プランニング社がこれらの市場規模推定を発表しています。
テレワークのこの分野の市場規模は2013年で277億円、2020年の市場規模を1067億円としています。2020年では2013年の約5倍です。政府のテレワーク導入企業数の3倍という目標からも妥当な数値のようです。
IT専門調査会社 IDC Japanのテレワーク関連のソフトウエア市場規模は2015年で1717億3500万円で2020年の予測は2202億4600万円、調査対象によるのか調査会社によって数字は異なっていますが、ワークスタイル変革が一段と加速することは間違いがないようです。
ワークスタイル変革の課題は
ワークスタイル変革への動きは広がりをみせていますが、現在導入している企業は大企業や首都圏など大都市の企業で、中小や地方の企業への展開などはまだこれからの問題です。その展開とは別に、現在、ワークスタイル変革そのものが抱えているいくつかの課題を整理してみてみましょう。
情報セキュリティの課題
情報セキュリティポリシーが企業では強化されてきていますが、利便性と安全は相反するもので、ワークスタイル変革が進むにつれて更なるセキュリティ強化が求められます。スマート端末の社内活用や個人使用機器の社内接続、SNSの活用などを前提にした情報セキュリティの考え方を根本的に見直して整理する必要がでてきています。
オフィス変革の課題
ワークスタイル変革では執務場所となるオフィスの変革が不可欠になります。働く場、オフィスの環境を変えるのはテレワークにしても大きな費用が発生します。中途半端なオフィスの改革では効果的なワークスタイル変革の成果は得られませんので、費用対効果の見極めが必要です。
マネジメントスタイル変革の課題
働く環境や情報通信技術、ICT環境が変わっても、組織の所属長の意識が変わらなければ部下の働き方を変えることも難しいでしょう。スケジュール管理や会議の進め方、コミュニケーションの取り方、評価の基準など、マネジメントスタイルの変革がワークスタイル変革を成功させる鍵で、ICTの活用などは所属長の必須要件と言えるものです。
ワークスタイル変革を通して時間の活用を
今後、ワークスタイル変革の波は確実に広がっていくでしょう。特にテレワークシステムやフレックスタイム制は、満員電車での通勤地獄もなく家庭の事情に合わせた勤務体系ができて健康的で時間を有効活用できる働き方です。
社内外の雑音や無用な情報がシャットアウトできるテレワークでの執務は、集中力が増して出来ばえの良い業務成果が期待できますし、なにより職住接近で仕事が終わった後すぐにリフレッシュできるのは嬉しいことです。このワークスタイル変革の諸制度を利用して、仕事もプライベートの面も活力のある有意義なものにつなげられるよう期待したいものです。