資本余剰金と資本準備金の違い|配当金/資本取引/積立金

財務・資金

会社の設立と運営のために知っておくべきこと

会社設立には「ヒト•モノ•カネ」が必要

事業を始めるために必要なのは「ヒト・モノ・カネ」ですが、ヒトもモノも、カネ(資金)がなければ、手に入れることすらできません。

中には、個人事業を立ち上げる際に、道具などを貸してくれたり、しばらくの期間を無償で手伝ってもらえるなどの協力を得られる可能性もあります。しかし、設立したばかりの「会社」の場合、一般的にそういったことを望むのは難しいので、やはり「ヒト」や「モノ」を得るには資金が必要となります。

このように事業を始めるに当たり必要になる資金のことを「資本」と呼び、この資本を基に会社は事業を拡げていくことになります。

「資本」と「資産」は違う?

会社の資産は「会社が所有する財産」のことで、資本を原資として資産を買ったり、人材を雇用したりしながら、事業の利益を上げていきます。そして、事業の利益を上げることで、会社の「資産」は少しずつ増えていきます。

つまり、資本は会社がその所有者(株主)から預かった元手となる「過去の金額」のことで、資産は事業活動の結果、会社が持つことになった財産となる「今の金額」のことです。

「資産」と「負債」と「純資産」と

資本は「会社が株主から預かった元手」で、資産は「会社が持つ財産となる今の金額」であることは前述のとおりですが、会社がお金を調達する方法は他にもあります。その方法が「借入」です。

銀行などの金融機関、それ以外の個人や会社からの借入金は、資本と同じく会社にお金をもたらす一方で、そのお金の「返し方」は資本と異なります。資本は会社が無くなるまで返してもらえないのが原則ですが、借入金は一定の期限や金利を定めて返済する必要があります。また、仕入代金や税金支払義務などの会社が負う債務の全てを合わせて「負債」と呼びます。

会社の良し悪しを示す「純資産」は、資産から負債を引いた金額のことで、「返すべき負債を全て返した後に会社にどれくらいのお金が残るか」を示します。純資産は会社に出資した株主が出した資金から生産されたものなので、原則株主のものとなるため、純資産は「広義の株主資本」とも呼ばれます。

資本剰余金とは?

会社を設立し運営していくにあたり、必要になるのが会計に関する知識です。会計の知識の中でも、実務に役立つ情報を解説していきます。さて、さっそく「資本剰余金」ですが、簡単に
解説すると、株主から出資されたお金の多くは「資本金」となり、会社の設立や何かを始めるときの資金となります。

しかし、出資されたお金のすべてが「資本金」なるわけではありません。残りのお金は「資本剰余金」とされ、会社を経営していく上で重要なお金となります。

資本剰余金と資本金の大きな違いは?

資本剰余金は、資本準備金と資本準備金以外の資本剰余金(その他資本剰余金)に区分されています。この項でご説明する資本剰余金は「その他資本剰余金」を対象とし、「その他資本剰余金」は資本としての性格を持った剰余金として位置付けられています。

つまり、会社の事業による利益から発生する「利益剰余金」とは異なり、資本剰余金は株主からの払込などによる資本取引から発生する剰余金という意味です。その他資本剰余金には、以下のものが含まれます。

•資本準備金の取り崩し額
•自己株式処分差額
•組織再編における増加資本の内、資本金や資本準備金に組み入れなかった金額

会社が配当する際、純資産の内資本金や資本準備金は配当原資することはできませんが、その他資本剰余金は配当原資にすることが認められています。この点が、資本準備金とその他資本剰余金の大きな違いだと言えます。

資本準備金

資本準備金は先ほど説明した「資本剰余金」の区分の1つで、資本金とは別の蓄えとして積み立てることができます。また、平成18年に改正された会社法に基づき、株主が出資してくれた資金の半分を超えなければ、「資本剰余金」または「資本準備金」として蓄えることができます。

他にも、会社分割、合併、株式交換、株式移転の差益を資本準備金とすることができますので、詳しくご説明いたします。

会社分割

会社分割とは事業を分割し、既存の会社、または新設の会社にその事業を承継することです。その際に、分割する会社にも株式を分割しなければなりません。分割した株式の株価の差益はそのまま資本準備金となります。

合併

企業間の合併は、複数の事業または法人が一つにまとまることを意味します。合併には主に2種類あり、吸収合併と新設合併があります。例えば、A社という会社とB社という会社があったとします。このとき、A社に対してB社が全事業を譲渡し、A社がB社を包括する場合、吸収合併をしたということになります。A社とB社が、新たに事業を新設すべく、C社という新しい会社になった場合、新設合併したということになります。

吸収合併と新設合併のいずれも、合併の際に生じた差益は資本準備金とすることができます。

株式交換

株式交換とは、既存の子会社、またはほかの会社を買収し、100%完全子会社にするための組織再編行為となります。株式交換では、株主全員の同意を得る必要は無く、該当会社における同意と特別決議による会議で株主の3分の2以上の同意が得られれば良いとされています。

このとき、株式譲渡による株式の差益は資本剰余金とすることができます。

株式移転

株式移転とは、会社が吸収合併する際に、親会社に対して、株式を譲渡することを言います。このとき、親会社は新設の会社でなければまりません。株式移転の際には、株主総会を開き、株主の同意を得る必要があります。

このとき、発行株式による移転による差益は資本剰余金とすることができます。

その他資本剰余金とは?

前述いたしましたが、「資本剰余金」は資本準備金とその他資本剰余金に区別することができ、資本準備金として積み立てているお金以外は「その他資本剰余金」となります。この「その他資本剰余金」は、「資本剰余金」から自由に資本準備金とその他資本剰余金に区別することはできません。

基本的に、その他資本剰余金は何らかの理由により資本準備金を取り崩した際に発生します。また、資本金を減資した際に発生する差益もその他資本剰余金に計上することができます。

利益剰余金とは?

利益剰余金は、会社が生み出した利益を蓄えとして積み立てているお金のことを言います。貸借対照表では純資産の部として扱われており、それぞれ「資本金」、「資本剰余金」、「利益剰余金」と区別されています。

利益剰余金は会社の利益に直結しているため、利益剰余金をみれば、その会社の経営状況を推測することができます。

資本金とは?

資本金の金額は株式会社の設立や株式の発行をした時に、株主が支払ったい金額の1/2以上ということになります。会社法が定められる以前は、会社の財産を多く所有する方が債権者を保護できるという考え方の下、株式会社は1000万円、有限会社が300万円という「最低資本金」制度が設けられていました。

しかし、前述したとおり「資本金」と「資産」では、すなわち会社の財産額が異なります。このため、新規開業を促進することを目的として最低資本金制度が廃止され、「資本金1円」の会社を設立できるようになり、維持していくことも可能となりました。

現在も資本金額によって会社の規模を判断される事が少なくありませんもが、近年はこういった背景が影響し、会社の規模の判断基準としない傾向が強まりつつあります。

配当金とは?

株式を発行した企業は、事業を経営した上で利益が出た場合には、株主にそれを分配します。その分配された利益のことを「配当金」と言います。株主は「利益配当請求権」に基づいて配当金を受け取ることができ、配当起算日における株主のみが受け取れることになっています。

企業は、自らの活動や経営の成果として獲得した利益を源泉として、株主に対して配当を支払いますが、これはさまざまな条件によって常に変動します。具体的に変動するものには、利益が利益があります。

利益が増えると当然配当金は増額されますが、利益が減ると配当金が減額される他に、政策的配慮の観点から、同業他社とのバランスや過去の配当金状況を見直したり、記念行事の一環として配当金を増やしたりすることもあります。

資本取引とは?

資本取引とは、「募集株式の発行などによる増資などの「資本金の額」の増加または減少を生ずる取引」や、「剰余金の配当など、剰余金の分配や残余財産の分配」のことを指します。

資本取引は、原則として法人税の課税対象外とされていますが、デット・エクイティ・スワップなど基本的にひ資本取引でありながら、損益取引としての特徴も有する取引もあるので、注意が必要です。

資本取引の特徴

資本取引の特徴は、法人税法22条2項に基づき、所得金額に影響を及ぼさないという点にあります。これは、企業の「儲け」ではなく「元手」であることから、法人税が課されない仕組みになっています。

したがって、企業が第三者割当増資を実行し、払込みを受けたとしても、企業の所得金額が増加する訳ではありません。また、企業が剰余金の配当を行ったとしても、会社の所得金額が減少する訳でもありません。

注意が必要なのは、取引当事者ごとに資本取引に該当するか否かを判断するという点です。第三者割当増資も発行企業にしてみれば資本取引になりますが、引受人にすると資本取引ではありません。なぜなら、株式を引き受けても「資本金の額」は増えないためです。

資本金、資本準備金、資本剰余金と企業の成長

この記事では、資本金、資本準備金、資本剰余金の違いについて、会社法を中心にその他の制度も含めて解説させていただきました。

最低資本金制度が廃止されたことで、中小企業の起業や経営をする場合「資本金の大小」を意識する場面は以前と比べて圧倒的に少なくなりました。しかし、後にIPO(上場)に向けて準備をしたり、他社をM&Aしたりすりことを検討する場合には、この論点を意識して物事を進めなければならない場合も出てきます。

中小企業にとって最も大切なのは「資金繰り」です。確かに「資本金1円」で会社の設立は可能となりましたが、開業当初の会社には1円しかないので、起業時の準備費用すら支出できないことになります。

起業時の資金調達は誰もが苦労する点ですが、自己資金、借入金などバランスよく組み合わせながら、資金繰りに工夫をしつつ、ビジネスを成長させていくことが大切です。

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