投資の評価方法とは
「投資」とは、収益を目的として事業などに資金を投入することをいいます。
このようにあくまでも収益が目的ですので、実際に当該投資によって収益が可能か、またその収益額はどの程度になるか、その額は投資額に見合ったものか、さらに将来性はどうか、などの評価や見極めが大変重要になります。
そこで、この投資に対する評価を客観的、合理的に行う方法がいくつか考えられてきました。これがいわゆる「投資の評価方法」です。
投資すべきかどうかの指標
では、具体的にどのように投資を評価するのでしょうか。
評価を客観的に行うには数値化が必須です。そこで、投資の評価にあたっては、収益可能性やリスク、将来性などに関わると思われる数値をもとにした計算式によって、算出される指標が使われます。
ただ、この指標にはその考え方によっていくつかの種類があり、それぞれの特徴を備えています。そこで、次項からはこれら指標について、個別にくわしくみていきましょう。
基本的な投資の評価方法は3つ
基本的な投資の評価方法として最低限おさえておきたいものとして、NPV法、IRR法、ペイバック法の3つがあります。
このうち、NPV法とIRR法はファイナンス理論に基づいており、時間的経過に伴う金銭価値の変化の評価などに共通する部分が多いのに対し、ペイバック法は他の二つとは根本的に異なる発想に立っています。
それでは、これらの代表的な投資評価方法について、以下で具体的に説明していきます。
NPV法について知っておきたいポイント8つ
ファイナンス理論とは、企業価値や理論株価などを分析し算出するための理論です。具体的には、リターンとして将来期待できるキャッシュフローや、資金調達にかかるコストなどの計算を行います。このファイナンス理論を利用した投資評価方法の一つがNPV法です。
NPV法を理解するにあたっては、次の8つの重要事項をおさえておくことが必要となります。
1:代表的な投資評価方法
今日、NPV法は最も代表的な投資評価方法として認識されています。したがって、投資評価方法を学ぶ上ではNPV法は欠くことのできない基礎的知識ないし常識として、しっかり理解しておくことが必要となります。
2:正味現在価値とは
NPVとは、Net Present Valueの略であり、「正味現在価値」と訳されます。正味現在価値とは、当該投資によって将来得られる利益の現在の価値をさします。
費用を差し引いたネットの数字である点で「正味」であり、また、将来発生する利益を現時点の価額に補正を行う点で「現在」と呼ばれます。
このNPVが多ければ多いほど有利な投資と評価され、逆にマイナスやゼロであれば投資する価値は無いと評価されます。
3:計算方法
NPVでの正味現在価値というのは、「当該投資によって将来発生するであろうキャッシュフローの現時点における価額-投資額」で計算することができます。
ここではまず「当該投資によって将来発生するであろうキャッシュフローの現時点における価額」を算定することが、投資評価の前提として必要になります。この点についてはさらに項目を改めて説明します。
4:キャッシュフローの予測
まず最初にしなければならないのが「当該投資によって将来発生するであろうキャッシュフローの額の予測です。
その事業によって具体的にどの程度のキャッシュフローが期待できるのかを、1年後、2年後、と細かく予測していきます。これが評価の対象となります。
5:「現時点における価額」へ
NPV法などの基礎になっているファイナンス理論では、金銭の価値の評価に時間的経過を織り込みます。
たとえば、銀行預金の金利が10%だとして、今日の100万円と1年後の100万円では前者の方が価値が高いと評価します。今日の100万円は預金すれば、1年後には1.1倍の110万円になるからです。
逆にいえば、1年後の100万円は、今日の価額(現在価額)でいうと100万÷1.1≒91万円の価値しかありません。
6:割引率
上記の例で1年後の100万円の現在価額を求める際の「10%」は割引率と呼ばれ、NPV法で将来価額を現在価額にするにもこの割引率を用います。
たとえば、1年後は100万円、2年後は150万円、3年後は200万円のキャッシュフローが予測される場合、割引率を10%とすると、それぞれの現在価額は下記になります。
年度 | 年間利益予想 | 現在価額 |
---|---|---|
1年後 | 100万 | 100万÷1.1≒91万 |
2年後 | 150万 | 150万÷1.1^2≒124万 |
3年後 | 200万 | 200万÷1.1^3≒150万 |
7:資本コスト
割引率は、高くすれば現在価額が低くなり、低くすれば現在価額が高くなるというように現在価額を左右します。そこで、投資評価する上で割引率をどう設定するかが重要になりますが、最低でも資本コストを超えることが必要です。
資本コスト(WACC)とは、会社債権者および株主に対して毎年支払が期待される利率をいいます。資金提供者である会社債権者および株主の要求に応えるのは、最低限必要と考えられるからです。
8:リスク評価
さらに、リスクの高い事業の場合はそれに応じて割引率を高く設定します。
このようにして設定された割引率を用いて各年度のキャッシュフローの現在価額を求めてそれを合計し、そこから投資額を差し引いたものがNPVとなります。
先の例でいえば各年度の合計額91+124+150=365万円から投資額を引いたものです。したがって、投資額が365万円以上なら、NPVはゼロ以下となり投資不適格と評価します。
IRR法について知っておきたいポイント8つ
次に、IRR法です。「IRR」とは、Internal Rate of Returnの略であり、「内部収益率」と訳されます。
そして、この「内部収益率」とは、当該投資のNPVがゼロになるような割引率と定義されます。この「NPV」は、前述したNPV法におけるNPVと同じ意味です。
1:NPV法との違い
「IRR」の定義の中に「NPV」という言葉が出てくるように、IRR法はNPV法を基礎にしており、共通点がありますが、もちろん違いはあります。
このIRR法とNPV法との根本的な差としては、NPV法では前述のように将来発生するキャッシュフローの現在価額と投資額という金額同士の比較になるのに対し、IRR法では内部収益率と(基準として定めた)ハードルレートという利率同士の比較になる点があげられます。
2:基本的な考え方
すなわち、IRR法では、当該投資のNPVがゼロになるような割引率(内部収益率)を算出し、あらかじめ基準として設定したハードルレートと比較して、右ハードルレートよりも高ければ投資適格と考えます。
NPVは、割引率を高くすれば少なくなります。そうして割引率を高くしていき、ちょうどNPVがゼロになる割引率をIRR(内部収益率)とし、このIRRは、当該事業の予想利益率になります。
3:計算方法
たとえば、キャッシュフロー予想額が、1年後は100万、2年後は150万、3年後は200万で、投資額が300万だった場合、下記の方程式をみたすRを求めることになります。
(100万÷(1+R))+(150万÷(1+R)^2)+(200万÷(1+R)^3)-300万=0
年度が増えるとかなり複雑な計算になりますが、エクセルなどにはIRRを算出する関数が用意されていますので通常はそれを利用します。
4:基準とするハードルレートとは?
こうして算出されたIRRを、前述の通りあらかじめ基準として設定したハードルレートと比較しますが、この基準となるハードルレートとしては、資本コスト(WACC)が用いられます。
IRRとWACCを比較して、IRRの方が高くなければ投資不適格と判断されます。
前述したようにIRRは当該事業の予想利益率になるので、それを超える資本コストをかけて資金を調達しても損をしてしまうからです。
5:IRRが算出できない場合
IRR法に関して注意すべき点として、このIRRは常に算出できるわけではありません。
場合によっては解無しであったり、また逆に解が複数存在すること、さらには解を求める計算ができないこともあります。
したがって、これらのケースではIRR法を用いることはできません。
6:事業規模との関係
さらにIRR法の注意点としては事業規模があります。
前述の通りIRR法ではあくまでも利率同士の比較になるので、事業の規模を適切に織り込むことが困難です。
たとえば、投資額が100万円で1年後に110万円になって返ってくる案件Aと、投資額1億円で1年後に1億500万円になって返ってくる案件Bとでは、IRRでみると案件Aは10%、案件Bは5%となり、IRRで考えると案件Aの方が有利となってしまいます。
7:NPV法と食い違う場合
前述したようにIRR法とNPV法は共通する部分も多いですが異なる部分もあり、当該投資が適格か否かについて結論が異なる場合もありえます。
このように結論が食い違った場合には、基本的にNPV法による結論を採用すべきでしょう。前項の案件Aと案件Bの例からもわかるように、利益追求という観点からは、利回りの高さ自体が重要なのではなく、あくまでもその結果として実際に得られる金額の大小こそが問題だからです。
8:実務では
このように限界のあるIRR法ですが、実務ではNPV法よりもよく使われています。
NPVの算出には割引率の設定が必要でありWACCやリスクがわからないと出せません。もちろん、IRRも最終的にはWACCとの比較をしなくてはいけないのですが、IRR自体はWACCがわからなくても算出できます。
このような点から、IRRの方が使いやすいとされていますが、これが本来のIRRの使用方法ではないことは注意すべきです。
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ペイバック法とは
ペイバック法とは回収期間法と訳されます。その名の通り、投資額と予想される将来のキャッシュフローの金額から回収期間を算出し、それが短いほど有利な投資であると判断します。
計算方法
回収期間を算出するには、単純に、その投資額を何年で回収できるかを計算します。
たとえば、投資額が1,000万円で、毎年100万円が得られる場合には、その回収期間は1,000万÷100万=10年となります。
非常にわかりやすいとはいえますが、金銭価値の時間的経過による変化を考慮しておらず、さらに回収期間経過後のキャッシュフロー状況も織り込めないなどの問題があります。
基準を明確にしてから投資の評価方法を選ぼう
企業は利益追求をその存在意義としており、利益追求をする上では投資の有利不利の評価は必須であります。したがって投資の評価をどのように行うかは企業にとって大変重要な意味を持ちます。
その投資の評価方法としてはこれまで述べたようにいくつかのものがあり、それぞれメリット、デメリットがあります。これらの指標が持つ意味や限界を十分に理解しながら、適切に使い分けることが必要です。