固定比率と固定資産
「固定比率」は企業の財務分析において固定資産投資の安全性を見る指標で、固定資産投資が自己資本の範囲内であれば資金繰り面から企業の財務的安全性が高まり、固定比率が低いほど指標として好ましい数値といえます。
「固定資産」は、企業が営業目的で長期保有する財産で、土地・建物・機械など有形固定資産、特許権・鉱業権など無形固定資産、有価証券など長期投資資産があります。投下資本の多くは減価償却により回収されます。
固定比率
「固定比率」は、固定資産を自己資本(純資産)で除した百分比で表し、流動化率とともに企業の財務的安全性を見る経営指標の一つです。固定比率は固定資産投資の安全性の側面から重要な指標になっています。
資本には他人資本(負債)と自己資本があり、返済義務のある他人資本と異なり自己資本は返済義務のない安定的資本で、固定資産投資が自己資本の範囲内であれば、固定比率は低い数値を示し、資金繰りの面で安全といえます。
固定資産
「固定資産」は、有形固定資産(土地・建物など)、無形固定資産(特許権・のれん代など)、長期投資資産(有価証券、差入れ保証金など)に大別されます。
土地・家屋などを除く有形固定資産や借地権以外の無形固定資産は、その減価償却費が法人税法または所得税法の規定により損金または必要な経費に算入されます。
このように減価償却を行うと、「固定資産の流動化」や「自己金融効果」という2つの財務的効果が得られます。
固定比率と固定資産の関係性
企業の固定資産投資の安全性を見る場合、固定比率の数値が低い方が安全といえますが、投資の安全性の観点から、単に固定比率に固執することなく固定資産の中味を見ることも大切です。
換金性の高い投資有価証券を保有する場合、算出された固定比率より安全性は高くなります。
機械や備品など減価償却資産が多い場合、減価償却が進むと固定比率が改善されますが、換金性の低い子会社株式などの保有は固定比率の改善に役立ちません。
固定比率の計算式・適正水準
「固定比率」の計算式は、自己資本を分母化し、固定資産を分子化して除して表します。
分子である固定資産の数値が分母である自己資本の数値の範囲内である場合、固定比率は100%以下となり、固定資産投資の安全性を確保できたと判断できます。
以下、固定比率の求め方と固定比率の適正水準の目安について見てみましょう。
固定比率の計算式・求め方
「固定比率の計算式」は、「固定比率=固定資産/自己資本*100(%)」で表します。
上記の固定比率の計算式における固定資産の数値が小さいほど、または自己資本の数値が大きいほど、固定比率は低い数値を示します。
この観点から、固定資産の流動化は固定比率のさらなる低減に大きな効果をもたらすメリットがあるといえます。
固定比率の適正水準・目安
固定資産投資が自己資本(純資産)の範囲内であれば、返済義務はなく資金繰りの面で安全といえ、固定比率の適正水準としては100%以下が理想的数値となります。
固定比率が100%以上の場合は、固定資産投資の一部が有利子負債などで賄われているなど財務的に不安定な状態にありますが、営業活動などによるキャッシュフローが潤沢で資金繰りに問題がなければ許容範囲ともいえます。
固定長期適合率
企業では、退職給付金・長期借入金・社債などの固定負債は、返済義務があるものの返済期間が長期にわたるため比較的安定した調達資金として扱われます。
「固定長期適合率」とは、固定資産に投資した資金の源泉が長期借入金や社債などの長期資金でどれだけ賄われているかを見るための指標で、固定資産投資と調達資金の関係を分析して、固定資産に対する投資の適格性を判断します。
固定長期適合率の計算式・求め方
「固定長期適合率の計算式」は、「固定長期適合率=固定資産/(自己資本+固定負債)*100(%)」で表します。
固定資産の数値が自己資本+固定負債の合算数値の範囲内である場合、固定長期適合率は100%以下となり、固定資産投資の安全性を確保できたと判断できます。
固定長期適合率の適正水準・目安
固定比率では、固定資産投資が自己資本の範囲内で賄われているかを確認しますが、固定長期適合率では、固定資産投資が自己資本に固定負債も加えた調達資金の範囲で賄われているかをチェックします。
固定長期適合率が100%を超える場合、固定資産投資に返済期限が1年以内の流動負債を充てていて資金繰りが厳しいと判断されるます。このため、適正水準の目安としては、100%以内の数値が望ましいといえます。
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固定比率と固定長期適合率は投資に着目した指標
企業の保有する長期使用目的資産としての固定資産は、その使用をとおして徐々に収益で回収される性質のため、この固定資産に対する投資資金は弁済義務のない自己資金や社債などの財務的基盤に影響の少ない資金で賄われることが大切です。
固定比率(固定資産に対する自己資本の比率)と固定長期適合率(固定資産に対する自己資本+固定負債の比率)は、固定資産投資の財源適合性を判断する指標として多く用いられます。
投資をするには資金力が必要
製造業など巨額な設備投資を必要とする企業では、設備投資の財源のすべてを自己資本に求めることが困難な場合が多く、自己資本に加えて、社債や長期借入金などを調達資金に充てることとなります。
固定資産投資の資金は、減価償却などにより収益として少しずつ回収していく性質のものであり、この間における調達資金の返済などが滞らない財務基盤の安定が企業に求められます。
流動比率との決定的な違いは?
「流動比率」は、流動資産(1年以内に現金に転化する資産)を流動負債(1年以内に支払わなければいけない債務)で除した百分比で、企業の財務的安全性を示す経営指標の一つです。
流動比率は企業の短期的支払い能力を判断する指標で、固定資産とその調達資金の関係から企業の長期的な支払い能力を分析する指標としての「固定比率」や「固定長期適合率」とは性質が異なります。
なぜ固定長期適合率は100%以下が良いのか?
製造業における工場設備など企業の固定資産は長期にわたり使用されて徐々に収益を回収するため、それらの投資資金も自己資金や長期の借入金など短期間の弁済義務のない範囲でなければ企業の資金繰りを圧迫します。
このため、固定資産の金額が自己資本と固定負債の合計額を上回らない状態(固定長期適合率が100%以下)が、企業の財務的安全性を保つため必要です。
固定長期適合率100%超えが示唆するリスク
小売業など現金販売の業種では、固定長期適合率が若干高い傾向にあるなど業種・業態により若干の差異があります。一般的に固定長期適合率が100%を超える場合、投資資金が短期債務の転がしで調達されている可能性があり、いわゆる「自転車操業」に近い状態といえ要注意です。
固定比率(固定長期適合率)を会社経営に活かすポイント
製造業などで大型機械など工場設備を導入する際に、その工場設備を期間限定のリースやレンタルで賄うことにより、工場設備の使用にあわせて支払う形式に変更(変動費化)します。
このような変動費化により、固定比率や固定長期適合率の押し上げ要因となっていた固定資産が流動資産化して、固定比率や固定長期適合率の改善が見込まれ、財務上の安全性にもプラスとなります。
固定比率について理解を深めよう!
固定比率は、その企業の固定資産投資の安全性を見るための重要な指標となっていて、固定比率の割合が低い方が安全といえますが、固定資産の中味もしっかりチェックしましょう。
固定比率の高い企業については、固定長期適合率のチェックと長期借入金の返済状況の確認が必要になります。
ビジネスシーンや就活などでかかわる相手先企業については、とりあえず固定比率をチェックしてその企業の財務的安全性を確かめましょう。