個人事業主の消費税の基礎知識・課税取引と非課税の取引

財務・資金

消費税は法人でも個人事業主でも仕組みは完全に同じ

消費税は法人でも個人事業主でも課税のしくみは完全に同じなので、その説明に違いはありません。しかし非課税事業者から課税事業者への発展のチャンスが2回存在し、法人成りした場合に課税事業者の立場を継承する必要がないことは、十分利用できるメリットです。
個人事業主になると、消費税の見方が変わります。個人事業主でない場合は消費税は消費者として「支払うだけ」でしたが、事業を行うと「払い戻し」ということも出てきます。また個人事業者の場合には「自家消費」という留意事項があります。

消費税は付加価値税である

消費税は、一般的には「付加価値税」と呼んだ方がわかりやすい、売買のたびに価値が上がった分(付加価値)を納税する仕組みです。定価100円の商品を、8%の消費税を含めて108円で買うと、売主は8円の消費税を納入します。108円で買った商品を8%の消費税を含めて216円で売ると、納税するのは付加価値が増えた200-100=100円の8%の8円を納税します。事業として改めて考えると、結構難しい話かもしれません。
多段階課税のしくみに関して、財務省HPに非常にわかりやすい図版がありました。

消費税は間接税であり一般消費税である

この消費税が税の中でどんな位置づけにあるのかを考えるには、消費税が税分類でどんな位置づけなのかを考えればよいでしょう。消費税は、「間接税」であり「国税と地方税のミックス」であり、「一般消費税」です。
直接税は、所得税、法人税、相続税などのように、「税の負担者と納税者が同一である税」のことであり、間接税は、消費税、酒税、揮発油税、たばこ税、関税などのように、「税の負担者と納税者が異なる税」のことです。

あまり知られていないかもしれませんが、消費税8%のうち1.7%は地方消費税であって、残り6.3%は国税です。地方消費税は、納税地のある都道府県に払い込まれ多後、消費が実際に行われた都道府県の税収となるように、統計数値に基づいて都道府県間の清算が行われ、清算後の金額の半額が各市町村に交付されます。

また、消費税には2種類あって、ふつうに消費税と呼んでいるもは「一般消費税」であり、一部の例外を除けば何を買っても課せられる消費税であり、これは「販売者が納税」します。一方「個別消費税」というものもあり、これは酒税、タバコ税など、特定の商品にのみ課せられている消費税であって、多くの場合「製造者が納税」します。
ビール大びん1本(633ml)には、個別消費税(酒税)139円(39.2%)と消費税(一般消費税)26円(7.3%)の両方がかかっています(二重課税)。

消費税がかからない3つの取引

前項で消費税は「一部の例外以外はすべてかかる」と述べましたが、その「一部の例外」を説明します。すべての商品の販売やサービスの提供に消費税がかかるのではなく、「不課税取引」「非課税取引」「免税取引」の3つの取引に分類される取引には消費税がかかりません。

1.不課税取引

消費税が課税される条件は「国内における」「事業者が事業として」「対価を得て行う」「資産の譲渡および貸付ならびに役務の提供」であることであり、「外国での取引」「個人間の取引」「寄附など、対価のない取引」には消費税はかかりません。

たとえば、海外旅行の添乗員の海外現地でのみサービス提供や海外で広告を制作し掲載した場合などは「外国での取引」にあたり、個人で売買するオークションなどは「個人間の取引」に当たります。

2. 非課税取引

「課税することになじまない」とされるものや、「社会政策的な配慮に基づくもの」など、一定のものを限定して非課税としています。

たとえば、消費されることのない土地の譲渡・貸付、住宅の貸付け、有価証券・郵便切手類・印紙・証紙等の譲渡、社会保険料・医療費、助産・埋葬・火葬、学校教育法に規定される学校の授業料、入学金、教科書などは非課税です。

3. 免税取引

日本の消費税制度においては、「消費地課税主義」(国境を越えた取引は、生産地ではなく消費地で課税する)という原則を採用しており、一方国際競争力の低下防止の観点も考慮して、輸出取引などにおける消費税は免除されています。

たとえば、商品の輸出や国際輸送、国際電話、国際郵便などは免税されます。

消費税の納税義務がある個人事業主・ない個人事業主

本稿冒頭に多段階課税のしくみを図示しましたが、その図にあるように、すべての取引事業者はその取引で発生した消費税を、事業者の納税地の税務署に納税する義務があります。しかしここに1つ例外があり、次の2つの条件を満たす事業者は、消費税を納める義務が免除されています。
(1) (個人事業主の場合は)前々年または(法人の場合は)前々年度(これを基準期間といいます)の課税売上高が1000万円以下の事業者
(2) (個人事業主の場合は)前年上半期または(法人の場合は)前年度上半期(これを特定期間といいます)の課税売上高が1000万円以下の事業者
この1000万円を「免税点」と呼び、この免税制度を「事業者免税点制度」といいます。

新設法人の場合は基準期間・特定期間がないので、設立決算期と第2期の課税・免税の判断は、資本金の額のみで判定します。つまり、資本金1,000万円未満の新設法人は、設立当初の2年間、免税事業者となります。一方、資本金1,000万円以上の新設法人は、設立当初の2年間、「事業者免税点制度」が適用されないため課税事業者となります。
この「事業者免税点制度」は、小規模な個人事業主の事務負担や税務執行コストへの配慮から設けられている特例措置なのですが、「免税事業者へは消費税は払わない」とする企業や、「免税事業者は税金泥棒」とテレビで公言するとんでもない大学教授までが存在します。税法を理解していない経理マンには驚きましたし、件の大学教授も、いくら元官僚だとはいえ、個人の意見の吐露によって、どのような影響が生じ、個人事業主がどのように扱われてしまうのかを考えるべきです。
この制度の趣旨は、財務省の次のHPに明記されています。

消費税は最長4年間も免税される方法がある

個人事業主が会社を設立して法人成り(法人化)すれば、新会社は個人事業主から事業を引き継いでいくことになります。しかし新会社は、個人事業主に課されていた「消費税の課税事業者であるという立場」まで引き継ぐわけではありません。納税義務の有無は、あくまで「事業者単位」でおこなわれるのに対し、個人事業主は個人名、法人は会社名であって、税務上は別の事業者なので、新会社は、設立時の資本金が1000万円未満であれば、消費税の免税事業者としてスタートすることができます。
たとえば、個人事業主として開業した場合、初年度の売上高に関係なく、一定の要件を満たせば、開業年度から2年間は免税事業者として消費税の納付が免除されます。そして、個人事業主として開業してから2年を経過する時期に合わせて会社を設立し、法人成りする際に再度一定の要件を満たせば、さらに2年間、免税事業者でいることが可能です。そうすると、都合4年間、消費税の免税を受けることができるのです。

消費税の計算のしくみ

消費税額は「預った消費税」から「支払った消費税」を差引いて計算するのが基本です。冒頭に示した例では、定価100円の商品を、8%の消費税を含めて108円で買ったときには8円の消費税を支払っており、216円で売った時には16円の消費税を預かっていると考え、「預った消費税16円」から「支払った消費税8円」を差し引いた8円が納税しなければならない消費税です。
この考え方を「仕入税額控除」といいますが、課税売上高が全売上高の95%を超える場合は、資本金が5億円今の場合に限りにおいて認められています。このあたりは非常に複雑なので詳細は省きます。

上の計算は「原則課税方式」と呼ばれるものなのですが、事務的にはかなり煩雑になるので、他に「簡易課税方式」という計算方式が用意されています。すべてを語ると複雑になるので、免税取引のない個人事業についての実を解説します。

「簡易課税方式」では、「預った消費税」の計算は原則課税方式と同じですが、「支払った消費税」の計算は一切しないで、「預った消費税」に一定率(「みなし仕入率」)を掛けて算出した額を「支払った消費税」とみなして、簡便的に納税額を計算する方式です。「預った消費税」のみを集計すればよいので、原則課税方式よりも計算が簡易です。

簡易課税方式のみなし仕入率

簡易課税方式のみなし仕入率は、事業主によって次の6つに分けられています。
○卸売業    90%
○小売業    80%
○製造業等   70%
○サービス業等 50%
○不動産業   40%
○その他事業  60%

簡易課税方式の選択の仕方

簡易課税方式は、個人事業主などの中小事業者の事務負担などを軽減するために導入された、年間課税売上高5000万円以下の「中小事業者」にのみ認められる計算方式です。簡易課税方式を選択するには、その選択したい年の前年末日までに「簡易課税制度選択届出書」を管轄税務署に提出する必要があります。

この制度は、一旦選択したら2年間は必ず適用しなければなりません。この制度の選択をやめる場合には、その年の前年末日までに「簡易課税制度選択不適用届出書」を管轄税務署に提出する必要があります。
年間課税売上高が5000万円を超えた場合には自動的に原則課税となりますが、この「選択不適用届出書」が提出されない限り「選択届出書」は有効なので、年間課税売上高が5000万円以下となった場合には再び簡易課税方式により計算することになります。

消費税に関する手続きと届出書

前項で述べた2つの届出書を含めて4つの書式を紹介します。すべて国税庁のHPからダウンロードできます。
○消費税課税事業者届出書(基準期間用)
年間課税売上高が1000万円を超えた時点で、翌々年から課税事業者となることが確定するので、それが判明した時点で届出書を提出します。

○消費税課税事業者届出書(特定期間用)
上半期の課税売上高が1000万円を超えた時点で、翌年から課税事業者となることが確定するので、それが判明した時点で届出書を提出します。

○消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書
基準期間の課税売上高が1,000万円以下となり、翌々年から免税事業者となる場合に提出します。

○消費税簡易課税制度選択届出書
簡易課税制度を利用するときに、適用課税期間の開始日の前日までに提出します。

タイトルとURLをコピーしました