貸借対照表の見方と書き方
会社の経理や簿記を勉強したことがある方は聞いた事がある方は多いと思いますが、一般の業務を行っているとなかなか触れる機会の少ない内容になってしまいます。しかし、貸借対照表は会社の財産状況を表した重要な財務諸表の一部になります。最近では投資をする方も増えてきましたが財務諸表を見ることによって投資先の判断材料にもなります。まずは貸借対照表とはどのようなモノなのかを確認していきましょう。
財務諸表の構成について
【財務諸表】とは、会社が利害関係者(投資先・融資先など)に対して一定期間の経営成績や財務状況などを公開するために作成される書類のことを言います。【一般的には決算書】と呼ばれることが多く1年間の会計期間で区切って作成されることが一般的です。
また、期中の確定していない状況で作成する書類は【試算表】と呼ばれています。上場企業などでは四半期ごとに決算書を作成していますが中小企業では一年毎に決算を行って決算書を作成します。
【財務諸表は四つの構成】に分かれています。
財務諸表の構成①貸借対照表
貸借対照表はバランスシート(Balance sheet)とも呼ばれ、B/S(ビーエス)と略して呼ばれることもあります。会社の一定時期の財産状況を表した書類になります。詳細については次節にて説明していきます。
財務諸表の構成②損益計算書
損益計算書はP/L(ピーエル)と略して呼ばれることもあります。「Profit and Loss Statement」の略で利益(Profit)と損失(Loss)の略になります。会社の一定期間の収支状況を表した書類になります。
財務諸表の構成③キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書はC/Fと略して記載されることもありますが「キャッシュフロー」とそのまま呼ばれることが一般的です。第三の財務諸表と呼ばれる書類で会計期間の資金の増減を表した書類になります。上場企業では作成義務がありますが中小企業では作成義務がありません。作成していない企業が一般的ですがキャッシュフロー計算書の重要性は中小企業でも変わりはありませんので資金繰り管理として作成を行っている企業も多くあります。
財務諸表の構成④株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書はS/Sと略して記載されることもありますがそのまま呼ばれることが一般的です。貸借対照表の一部である純資産の変動を表した書類になります。中小企業では純資産の動きは少ないためあまり重要度の高くない書類です。一般的に毎年の利益や増資減資、準備金の積立などの動きを表した書類になります。
貸借対照表の見方
貸借対照表は財務諸表の構成の一部になりますが、その中でも会社の財産と債務を表している書類になります。わかりやすく言葉を変えると、会社の【貯金がいくらあるのか・借金がいくらあるのか】が一目でわかってしまう書類なのです。会社にとっての財産はお金だけではありません。お金以外の財産についても勘定科目別に表現されています。反対に債務も借金だけではなくこれから払わなければいけない未払金なども表現されています。
貸借対照表の内容もいくつかの構成に分かれています。
まずは構成内容から確認してみましょう。
貸借対照表の見方①資産の部
【資産の部】では会社の財産が項目ごとに表現されています。さらに項目の内容によっていくつかの中分類に分けられています。中分類としては【流動資産】【固定資産】【繰延資産】に分けられます。
【流動資産】は、[ 現金預金・受取手形・売掛金・貸付金・棚卸資産・仮払金など ]が当てはまります。一般的に1年以内に変動が大きな項目が流動資産として表現されています。
手持ちの現金や銀行に預け入れている預金だけではなく、商品の在庫や貸しているお金なども勘定科目ごとに処理をすることになっています。
【固定資産】は内容によってさらに細分化され、[ 有形固定資産・無形固定資産・投資その他の資産 ]となります。
固定資産は全般的に会社が購入した物として残っている財産を表しています。建物や土地、車や機械など形の有るモノは有形固定資産として処理され、ソフトウェアや権利などの形の無いモノは無形固定資産となります。投資その他の資産では、名前の通り投資有価証券やその他の長期的な資産が表現されています。
【繰延資産】では、開業費や新株発行費など繰延資産として処理できる取引が会計原則で定められているので当てはまる取引が処理されています。
貸借対照表の見方②負債の部
【負債の部】では会社の債務が項目ごとに表現されています。
負債の部でも項目が分けられており【流動負債】と【固定負債】に分けられます。
【流動負債】は、[ 支払手形・買掛金・短期借入金・未払金・預り金など ]が当てはまります。流動資産と同様にに1年以内に変動が大きな項目が流動負債として表現されています。
負債と聞くと借金をイメージする方が多いのですが、ここでは借金の中でも1年以内に返済しなければいけない借入金や仕入代金の支払残や一時的に預かっているお金などが表現されています。
【固定負債】では、1年以上に亘って返済をしていく長期の借入金や分割払いなどの未払金などが処理されます。社債なども固定負債として処理されますが中小企業では社債を発行することはほぼありませんので長期的な支払の取引が処理されていると覚えてください。
貸借対照表の見方③純資産の部
【純資産の部】では会社の資本金や設立から現在までに積み上げてきた利益が表現されています。他の部と同様に若干分類分けはありますが中小企業の場合は[ 資本金・資本準備金・利益剰余金など ]が一般的です。
貸借対照表の書き方
貸借対照表では会社の財産と債務が項目ごとに書かれており、これまでの営業成績によって利益をどれだけ計上し、会社の財産を増やしたか・減らしたかを見ることが出来ます。貸借対照表を作成するためには複式簿記に基づいた会計処理をしていかなければいけません。簡単に言い換えると、取引内容を仕訳に変換して記録していく必要があるのです。簡単な取引を基に貸借対照表の書き方を見ていきましょう。
貸借対照表の書き方①会社設立
会社の設立も会社の形態により変わりますが、一般的な株式会社の場合は以下のようになります。
まずは会社設立に伴い、出資者からの入金が行われます。
仕訳に変換すると、
【現金預金 300万円/資本金 300万円】となります。
これを貸借対照表に転記するとこのようになります。
[貸借対照表]
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資産 |負債
現金預金300万円|なし
|---------
|純資産
|資本金 300万円
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
資本金の金額により数字は異なりますし、設立時には様々な費用が掛かりますのでこのような綺麗な数字になる事はほとんどありませんが瞬間的にはこのような状況になります。
貸借対照表の書き方②営業開始
この状態から、営業を開始したとして、まずは販売商品として50万の商品を2個仕入たとします。この取引を仕訳に変換すると。
【商品 100万円/買掛金 100万円】となり、貸借対照表では、
[貸借対照表]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
資産 |負債
現金預金300万円|買掛金 100万円
商品 100万円|---------
|純資産
|資本金 300万円
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
となり、この時点で決算を迎えるとこのような決算書が作成されることになります。
次に商品代金の支払を行わなければいけませんので買掛金の100万円を支払ったとします。
仕訳に変換すると【買掛金100万円/現金預金100万円】となります。
[貸借対照表]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
資産 |負債
現金預金200万円|買掛金 0万円
商品 100万円|---------
|純資産
|資本金 300万円
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
貸借対照表では支払った分の現金預金が減少して買掛金の残高も減少します。
次に仕入た商品が1個100万円で売れたとします。
仕訳は【売掛金100万円/売上高100万円】と【仕入高50万円/商品50万円】
になります。※通常の仕訳とは若干異なる表現にしています。
[貸借対照表]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
資産 |負債
現金預金200万円|買掛金 0万円
売掛金 100万円|---------
商品 50万円|純資産
|資本金 300万円
|繰越利益 50万円
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[損益計算書]
ーーーーーーーーーーー
売上高 100万円
仕入高 ▲50万円
純利益 50万円
ーーーーーーーーーーー
このように、財産債務に関する取引は貸借対照表へ、収支に関する取引は損益計算書へ転記され、損益計算書の純利益(当期純利益)の金額が貸借対照表の繰越利益(繰越利益剰余金)と一致します。
この状態で決算を迎えた場合、利益の50万円に対して税金が課税されて未払税金を計上した状態で決算書を作成します。
仮に利益50万円に対しての税金が20万円だとします。
仕訳は【法人税等20万円/未払法人税20万円】になります。
[貸借対照表]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
資産 |負債
現金預金200万円|買掛金 0万円
売掛金 100万円|未払法人税20万円
商品 50万円|---------
|純資産
|資本金 300万円
|繰越利益 30万円
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[損益計算書]
ーーーーーーーーーーー
売上高 100万円
仕入高 ▲50万円
法人税等 ▲20万円
純利益 30万円
ーーーーーーーーーーー
これが第一期の決算書となります。
貸借対照表の書き方③二期目以降の事業年度
決算終了後の財務諸表は【貸借対照表の残高は引き継がれます】が【損益計算書はリセット】されます。
[貸借対照表](開始バランス)
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資産 |負債
現金預金200万円|買掛金 0万円
売掛金 100万円|未払法人税20万円
商品 50万円|---------
|純資産
|資本金 300万円
|繰越利益 30万円
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第二期では、①前期の確定税金の支払と②新たに商品の仕入90万円(@30万×3個)、③商品の売上100万円(在庫と新たに仕入た商品全ての売却)が行われたとします。さらに第二期の④確定税金が15万円だとします。
①の仕訳【未払法人税20万円/現金預金20万円】
②の仕訳【商品90万円/買掛金90万円】
③の仕訳【売掛金100万円/売上高100万円】
【仕入高140万円/商品140万円】
④の仕訳【法人税等15万円/未払法人税等15万円】
仕入はこのようになり、財務諸表では以下のようになります。
[貸借対照表]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
資産 |負債
現金預金180万円|買掛金 90万円
売掛金 200万円|未払法人税15万円
商品 0万円|---------
|純資産
|資本金 300万円
|繰越利益▲25万円
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[損益計算書]
ーーーーーーーーーーー
売上高 100万円
仕入高 ▲140万円
法人税等 ▲15万円
純利益 ▲55万円
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第二期の決算書はこのようになります。貸借対照表の繰越利益(繰越利益剰余金)は一期目との通算になりますので第一期の[ 30万円+▲55万円=▲25万円 ]となります。
貸借対照表の書き方④事業年度の繰り返し
会社の決算は1年毎に繰り返されますが商売は継続的に発生し様々なタイミングで決算を迎えることになります。実際の決算書では色々な勘定科目が存在し勘定科目の意味を知ることが決算書の書き方を覚えるポイントになります。
書き方と言っても現在ではパソコンを使用して帳簿の作成をしている企業が大半を占めていますので実際に手書きをすることはほとんどありません。しかし書き方の基礎を覚えていないと出来上がった財務諸表の見方が変わります。
貸借対照表の書き方⑤応用編
仮にこのような貸借対照表があったとして皆さんはどのような情報を得ますか?
[貸借対照表]
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資産 |負債
現金預金180万円|借入金 400万円
売掛金 200万円|未払法人税15万円
商品 200万円|---------
貸付金 300万円|純資産
|資本金 300万円
|繰越利益165万円
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まずは表面上の数字から読み取れる情報としては【資産合計が880万円】ある事と【負債合計が415万円】ある事です。そして【繰越利益が165万円】あるのでこれまでの経営で165万円の利益が積み上げられているということが分かります。
表面上の数字からは純資産合計額もプラスになっているので悪くはない数字になりますが気になる数字もいくつかあります。
例えば【貸付金】です。これは他の法人・個人に対してお金を貸しているという事です。
中小企業では[ 株主=代表者 ]となっている場合が多くいのですが、その場合、代表者個人が会社取引とは関係の無い支払の為にお金を使用している場合もあります。必ずしもムダ金とは限りませんが銀行などからの評価は貸付金が過大になっていると悪くなってしまいます。
また、売掛金や商品(在庫)ですが本当に存在するモノなのでしょうか?実は粉飾決算の多くはこの二つで行われている場合がほとんどです。銀行などは残高が過大になっている場合、内訳の確認をしてくる場合があります。
売掛金の内訳が倒産間際の会社だとしたらさらに見方は変わります。もしも売掛金の相手会社が倒産した場合、代金回収が出来ない可能性が高くなります。そうすると資産として残っている200万円が損失200万円へ一転してしまうのです。
つまり、財務諸表の表面上から読み取れる情報は付随する情報をどれだけ関連付け出来るかで大きく変わるのです。
貸借対照表の書き方は簡単
貸借対照表の書き方は仕組を覚えてしまえば簡単です。実際に手書で作成するケースはほとんどありませんし、パソコンで仕訳の入力を行えば結果として貸借対照表を作成することが出来ます。書き方を覚える必要はありませんが、書き方を知っているのと書き方を知らないでいるのではその後の応用が大きく変わります。
貸借対照表の見方と書き方を説明してきましたが、貸借対照表は財務諸表の一部でしかありません。また、貸借対照表だけから読み取れる情報は表面上の情報だけになります。詳しく見方や書き方を勉強してみたいのであればまずは簿記の勉強をおすすめします。
簿記では一本一本の仕訳の書き方や、今回は触れていない総勘定元帳の書き方、補助簿の書き方、残高試算表の書き方など決算書の作成までに必要な帳票の書き方を勉強することが出来ます。
書き方が分かると見方も変わります。興味のある方は是非チャレンジしてみてください。