出張の日当とは何か
出張日当は、ふつうは出張手当と呼ばれ、出張の際に支給される宿泊費や交通費以外の費用を補てんするための給与であり、主として食事や雑費などに当てられます。基本思想としては、出張しなければ不要であった費用を出張日当でカバーするということです。ただしもう1つ意味があって、本来の職場以外へ出向くことによる負担への対価の意味で支払われる場合もあります。
出張日当には、国内出張・海外出張と日帰り出張・宿泊出張の種別があります。
出張日当の支給条件
出張手当の支給条件は会社によって異なりますが、一般的には、給与規程の一部あるいは出張手当規程としてその支給条件を定めます。その条件としては「業務上の必要があって行う出張であること」が必要であり、それに加えて、国内出張であれば移動距離や移動時間の加減を、海外出張であれば訪問国の値域を定めます。
国内出張であれば、あまりに近い地点への出張は除外されます。これは人事部が出張であるかどうかを判断しなければならないので、たとえば移動距離であれば、勤務地から目的地まで「片道50km以上」「片道100km以上」とか「片道2時間以上」「片道3時間以上」など、時刻表で判別できるように規定します。「片道50km以上」とは大船以遠であり、「片道100km以上」とは熱海以遠、「片道2時間以上」はほぼ名古屋以遠、「片道3時間以上」はほぼ大阪以遠ということになります。
出張の日当と給与の関係と課税・非課税
社員や役員に支給する基本給以外の「手当」は、原則として給与所得となります。具体的に列挙すると、残業手当、出張手当、職務手当等のほか、地域手当、家族(扶養)手当、住宅手当なども給与所得となり、所得税の課税対象となります。しかし、例外として、次のような手当は非課税となります。
(1) 通勤手当のうち、一定金額以下のもの
(2) 転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
(3) 宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの
所得税法による非課税所得
所得税法第9条第4項では、「給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合(中略)、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの」については課税しない。」と定められています。
すなわち、「必要な範囲」の出張日当は非課税ですが、「必要な範囲」を超えると課税されるということです。その限度はどれくらいかというと、明確な基準はありませんが、「主として食事や雑費など」という観点から考えれば数千円が限度です。ちなみに、総理大臣の日帰り日当は3,800円です。また、役員だけが特に高い出張日当も「通常必要」とは認められません。
なお、消費税の課税・非課税は、出所にかかわらず課税されるので、支給時には消費税分が加算されて支給されることはなく、使用時にはすべて課税されます。つまり、出張日当は消費税分込みで支給されることになります。
非課税とされる日当の範囲
これは、所得税法基本通達9-3で以下のように規定されています。
(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。
1.の「適正なバランス」については、役職などによって金額の基準を設け、2については、同業他社の金額と比較して高額すぎないように配慮します。この日当は役員のみに限定して支給することはできません。
これらの役職ごとの基準や金額などを規定するのが「出張旅費規程」です。日当は旅費規程を作成してからでないと支給できません。規程がないのに日当を支給すると、社員の場合は給与、役員の場合は役員賞与として課税されてしまいます。
出張日当の決め方
一般的に、支給金額は以下の内容を考慮して定められています。
○日帰り出張の場合: 昼食代+α
○宿泊出張の場合: 昼食代+夕食代+朝食代+α
○移動距離・移動時間が長いほど高くなることがあります。
○自宅からではなく会社からの距離で決まります(自宅から至近の場合は、出張者が出張申請しない場合もあります)。
○平社員から社長・役員まで、順次高くなります。
○出張地域によっては、食費などの経費の地域差が大きいため、手当が異なることがあります。海外出張の場合には、ほぼ区域分けされています。
○出張日数が長くなっても、宿泊出張手当は日数分支払われるので一定です。ただし、これも常識の範囲内であり、「1カ月を超えたら一度は帰宅させるべき」ですが、それができない場合には「特別手当」による補てんが必要でしょう。
日当と宿泊費
宿泊費と日当を合わせて支給したり、宿泊費を実費ではなく定額で支給したりすることもできます。宿泊費と実費との差額は非課税なので、実質的に日当と同じことになります。
役員の出張日当
出張が多い役員の場合、「役員報酬は課税対象、出張手当は非課税」であることから、「本給は控えめ、出張手当は高め」に設定したいという欲求にかられます。許容される範囲内ではこれは節税につながりますが、度を超すとこれは課税逃れにつながります。おおよそ1万円程度まではほぼ認められるでしょうが、これを超えると「食事他雑費として必要な範囲」を逸脱すると判断されて、税務署に否認される可能性が考えられます。
社員・役員の出張日当・宿泊費の相場
民間のシンクタンク機関である「産労総合研究所」が発行する定期刊行誌「労務事情」では、ほぼ3年おきに「国内・海外出張旅費調査」を実施しており、2015年6月の実施報告を要約してご紹介します。この報告では、出張手当と宿泊料を調査しています。
国内日帰り日当
日帰り出張の日当の平均支給額は、社長で3,881円、役員で3,082円、部長クラス2,497円,一般社員2,041円です。
国内宿泊出張日当
宿泊出張の日当の平均支給額は,、社長で4,496円、役員で3,496円、部長クラス2,809円,一般社員2,276円です。
宿泊出張の宿泊料の平均支給額は、社長で13,372円、役員で11,613円、部長クラス10,078円,一般社員9,088円です。
海外出張の日当と宿泊費
日当の平均支給額は,北米で役員7,039円、部長クラス5,827円、一般社員4,988円,東南アジアで役員6,507円、部長クラス5,326円、一般社員4,567円です。
また,役職・資格別の格差については、一般社員を100とすると,役員では,北米で140.9、東南アジア142.5、部長クラスでは,北米で116.8、東南アジア116.6,課長クラスでは,北米111.1、東南アジア111.0などとなっています。
宿泊料の平均支給額は,北米で役員17,851円、部長クラス16,008円、一般社員14,042円,東南アジアで役員16,128円、部長クラス14,501円、一般社員12,735円です。また,役職・資格別の格差について,一般社員を100とした指数でみると,役員では127.1、126.6、部長クラスでは,北米114.0、東南アジア113.9,課長クラスで,北米107.8、東南アジア107.5などとなっています。
国家公務員の出張日当
国内出張の日当・宿泊料・食卓料
さきほど、「総理大臣の日帰り出張日当は3,800円」と述べましたが、では出張手当の比較対象として、国家公務員の出張手当を見てみましょう。これは「国家公務員等の旅費に関する法律」の「第20条~第22条と別表第一」に規定があります。国家公務員の場合は日当には夕食代(食卓料)が含まれません。したがって、日当と食費を合わせると7,800円になります。そのような場合、役員日当10,000円もうなづけます。
第20条(日当)
日当の額は、「別表第一」の定額による。
2 鉄道100km未満、水路50km未満又は陸路25km未満の旅行の場合における日当の額は、公務上の必要又は天災その他やむを得ない事情に因り宿泊した場合を除く外、前項の規定にかかわらず、同項の定額の二分の一に相当する額による。
3 鉄道、水路又は陸路にわたる旅行については、鉄道4km、水路2kmをもつてそれぞれ陸路1kmとみなして、前項の規定を適用する。
第21条(宿泊料)
宿泊料の額は、宿泊先の区分に応じた「別表第一」の定額による。
2 宿泊料は、水路旅行及び航空旅行については、公務上の必要又は天災その他やむを得ない事情に因り上陸又は着陸して宿泊した場合に限り、支給する。
第22条(食卓料)
食卓料の額は、「別表第一」の定額による。
2 食卓料は、船賃若しくは航空賃の外に別に食費を要する場合又は船賃若しくは航空賃を要しないが食費を要する場合に限り、支給する。
備考:宿泊料の欄中甲地方とは、東京都、大阪市、名古屋市、横浜市、京都市及び神戸市のうちの一部の地域をいいます。
海外出張の日当・宿泊料・食卓料
これは「国家公務員等の旅費に関する法律」の「第35条と別表第二」に規定があります。
第35条 日当及び宿泊料の額は、旅行先の区分に応じた別表第二の定額による。
出張の日当相場
いかかでしたでしょうか。今回は、出張の日当相場について説明してきました。
もし、出張される場合はしっかりと確認しましょう。その際に、今回の記事がお役に立てれば幸いです。