エンジェル投資家とは?
エンジェル投資家とは、起業して間もない小さな会社に対して資金を提供する、個人の投資家のことを言います。
できたばかりで実績のない会社の場合、銀行などの公的な金融機関から融資を受けることは大変です。とくに一般的な飲食業などと違って、成長やサービス内容の変化の予測が難しいIT企業などは、従来の仕組みの中では資金を十分に集めることができません。
そこで、資産を持つ裕福な個人が金銭を援助し、その見返りに株式などのリターンを得るというのが、投資のモデルです。
エンジェル投資家は個人であるため、金融機関ほど杓子定規な基準に依らず、自分の判断ひとつで出資をします。事業計画の確実性に限らず、どれくらい成長するか、本人の意欲がどれほど高いか、自分が面白いと思えるか、なども大いに判断基準となります。
エンジェル投資家の語源
エンジェルという用語は、もともとイギリスの演劇界で駆け出しの役者や劇団を経済的に援助した資産家を表現していた言葉です。その後、アメリカのブロードウェイやハリウッドも使われるようになりました。日本で言えば歌舞伎や相撲のタニマチ、芸術家のパトロンなどと似たイメージです。
この言葉がビジネス界に導入されたのは、1978年、ニューハンプシャー大学の教授からだとされています。
エンジェル投資家の役割
創業間もない企業に対し、金融機関やベンチャーキャピタルが本格支援に入る前に潰れないよう、第二ステージでの支援を行うことが、エンジェル投資家の大きな役割です。
個人が1,000万円以上を、自分の貯金や、友人・家族から集めることは大変です。金融機関から融資を受ければ、毎月の返済が発生します。ベンチャーキャピタルは通常1億円以下の投資は行いません。
そこで1000万円〜数千万程度をエンジェル投資家からの投資でまかない、事業を持続・成長させることとなります。アメリカの統計では、エンジェル投資家とベンチャーキャピタルの投資総額は大きく違いませんが、投資先の数は10倍以上の差があります。つまり金額ベースで言うと、1社あたりの投資額は、エンジェル投資家はベンチャーキャピタルの1/10以下となります。
エンジェル投資家の実像
エンジェル投資家は、引退した実業家が多く、自らもゼロから起業した人も多く含まれます。そのため、自分の知識や人脈を提供したり、自分が苦労したことに対して支援やアドバイスを送ることもよく見られます。
また、事業のみならず、次代を担う人材の育成を重視することもあり、経営者としての成長や人柄も大きく評価対象になります。金銭のリターンよりも何を為したかを見るため、確実に少し儲かるよくある話ではなく、新しい分野を切り拓き、不確実でも化ければ大きいハイリスク・ハイリターン型の事業計画も受け入れる余地があります。
エンジェル投資家の探し方
普通に生活しているだけでは、エンジェル投資家には中々めぐり会えません。探し方について紹介します。
①エンジェル投資家とのマッチングサイト
インターネットを通じて、エンジェル投資家を探すサービスが複数あります。互いの情報が分かるため効率良く投資家探しが可能です。
もちろんサイトがしてくれるのは紹介までで、そこから先は、魅力ある事業計画や、経営者としての熱意を相手にプレゼンする必要があります。
②クラウドファンディング
より小口の出資者を多数集める資金調達の仕組みです。ビジネス的な事業計画と言わずとも、アイデアや計画をサイトで披露することで、その実現に必要な資金を集めることができます。
投資家とのマッチングサイトと違い、相手に会って説明する必要もなく、また出資者自体を初期のユーザーとして抱えることも可能です。
特に商品開発の資金調達では、事実上の「前売り」として開発費を先に回収できるので、リスクを大きく減らすことができます。
但し、小口のために大きな資金を集めることは難しく、多くても100〜1000万円以下が多くを占めます。
③ビジネスコンテストへの応募
各所で行われているビジネスコンテストは、それ自体でも賞金がありますが、受賞することで審査員や主催会社にコネが出来、コンテストの視聴者の中にも投資家が混じっていることもあります。
他に、受賞で得られる支援プログラムの中に、投資家とのマッチングが入っていたり、講評やブラッシュアップを経てプラン自体も磨かれるため、投資家から資金を得られる可能性が高まるでしょう。
④経営塾や起業塾
企業や学校、民間や個人の主催により、世の中には社会人向けのビジネスを学ぶ場がたくさんあります。中でも、現役の経営者や起業を志す人材を集める社会人塾にはチャンスが多く転がっています。
講師の人脈で投資家を紹介してもらったり、運営が起業資金を出すコンテストを主催したり、もちろん受講生同士の情報ネットワークもバカにできません。
⑤起業をテーマにした交流会やイベント
企業、自治体、起業支援の団体などが主催する交流会やイベントも、大きな出会いの場になります。
特に、特定の業種に絞られた専門的な交流会やイベントでは、事業計画の持つメリットや斬新さを的確に評価してもらえる人が揃います。
特にIT系の起業の場合は、技術的な理解も必要になるのでお勧めです。
エンジェル投資家とベンチャーキャピタルの違い
エンジェル投資家とベンチャーキャピタルは何に違いがあるのでしょうか。
違いに焦点をあててみていきましょう。
①出資者の違い
創業間もない企業に対する資金提供では、他にベンチャーキャピタルも存在します。
ベンチャーキャピタルとエンジェル投資家の違いは、前者は法人として、他者が出資した資金を代理で投資するのに対し、後者は、個人として、自分の保有する資金を使って投資するということです。
エンジェル投資家の場合は、個人対個人ですから、距離も近く、ビジネスライクというよりは、同じ船に乗った共同体と言えます。良くも悪くも、細かいところに口を出してくる可能性もあります。それに対しベンチャーキャピタルは、法人としての事業ですから、より数字に対してシビアとなります。その代わり適度な距離を取って、乗っ取りや必要以上の口出しは少なくなります。
②ステージの違い
ベンチャーキャピタルとエンジェル投資家の違いは、企業の成長ステージにもあります。
エンジェル投資家は起業したての時期に、最初の成長に必要な金額を調達するのに向いています。ある程度までの金額で、ハイリスク・ハイリターンを目指すモデルです。
ベンチャーキャピタルは最初の成長を確立し、そのまま拡大させていこうという時に、それなりに大きな金額を纏めて集め、比較的リスクの少ない状態で、それなりのリターンを目指すモデルです。
ただし、その境界を明確に分けることは出来ませんので、あくまで傾向的なものとなります。
③出資金額の規模の違い
一般に、ベンチャーキャピタルは複数の顧客から資金を集めて運用するため、エンジェル投資家と比べて確実性に関する審査は厳しい代わり、融資の金額は大きくなります。
それに対して、エンジェル投資家の場合は、自分ひとりの資産に限られるため、融資される金額は低めになります。
エンジェル投資家からは1000万円〜数千万円、ベンチャーキャピタルからは1億円〜数億円を調達するケースが多いと言えます。
出資を受けるうえでどちらが良いか
エンジェル投資家とベンチャーキャピタル、投資を受けるなら、どっちにメリットがあるのでしょうか。決め方の観点をご紹介します。
①ステージと金額で決める
先述のように、会社が創業直後で規模が小さく、また収益もあまり上がっていない場合は、計画と熱意を元に、エンジェル投資家から一定の金額での投資を受けた方が良いでしょう。
そのステージを通過して、売上が確実に出るようになり、お金をかけて拡大させようという場合は、実績を元に、ベンチャーキャピタルからまとまった資金を集めた方がいいでしょう。
②業種と成長率で決める
エンジェル投資家は、ハイリスクハイリターンの投資を好みます。実際に多い業種が、ヘルスケア、医療機器、ソフトウェア、バイオテクノロジーなどです。これらの業種では、形になるまではエンジェル投資家がリスクを引き取りますので、まずはそちらに相談すると良いでしょう。
③会って決める
とは言っても、これらは傾向的なものであり、実際にはビジネスの現場も相手の判断も千差万別です。まずは評価されることが先ですから、色んな人に会って事業に対する評価を聞き、自身の事業計画や実績、成長率やキャシュフローなどから判断するのが良いでしょう。