資本金等の額は、法人税の計算に使われる
様々な税金が法人に科せられています。
資本金が1億円以上であれば、「外形標準課税」がかかります。
個人の場合と同じように、以下のような法人税がかかります。
• 国税として法人所得税
• 地方税として法人事業税
• 地方税として法人住民税
法人所得税と法人事業税は益金から損金を差し引いた法人の所得に対しかかります。
法人住民税は、「資本金等の額」か「資本金と資本準備金の合計」のいずれか大きいものに対しかかります。
税法は、ほぼ毎年改正されています。それに合わせ、法人税法執行令も改定されています。
法人税法執行令第8条で資本金等の額が規定されていますが、多岐にわたっており、読みづらく、難解な印象があります。
資本金等の額に関して解説する項目
今回は、この資本金等の額について、「法人税執行令第8条 資本金等の額」の規定に基づき、以下の観点から概説します。
1.資本金の定義(会社法第445条)
2.資本金等の額の定義(法人税法執行令第8条)
3.資本金と資本金等の額の違い
4.自己株式の取得がある場合の資本金等の額の注意点
4.1 有償で個人より法人が自己株式を取得した場合
4.2 無償乃至は時価の50%以下で個人より法人が自己株式を取得した場合
5.税法改正で着目すべき資本金等の額に関する要点
1.資本金の定義(会社法第445条)
資本金あるいは出資金についてですが、税法上の定義は会社法の定義に準じています。
会社法における資本金の定義ですが、次のように規定されています。
会社法第445条の規定
会社法第445条は、資本金の額及び準備金の額について以下のように規定しています(一部分のみ引用)。
1. 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
2. 前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
3. 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。
資本金と資本準備金の関係
会社法第445条によれば、株主等からの払込みや給付のうち、半分以上は資本金、半分以下は資本準備金となります。
簡単な例で説明します。
株主からの100万円払い込みがあった仮定します。
このうち、100万円の半分である50万円を上限として、例えば40万円を「資本金とせず」、「資本準備金」として計上し、残りの60万円(100‐40)を資本金と計上できます。
資本金や資本準備金の額は、増資や減資により変化
法人として会社が存続すれば、いろいろな形で、増資や減資が起こります。
例えば、株式を新規に発行した場合、株式を取得した新株主からの払込みが行われると、資本金や資本準備金が増加します。
資本金や資本準備金以外の資本金に準じる勘定
資本金や資本準備金以外にも資本金に準じる勘定が存在します。
例えば、資本剰余金です。
資本準備金から資本剰余金に、いくらか移し、配当の際に、その一部を使うことがあります。
同じように、合併、分割、株式交換、資本金等の払い戻し、自己株式の取得など、様々な資本勘定に関係する取引により、資本金を含むその他の資本金に準じる勘定が増減します。
2.資本金等の額の定義(法人税法執行令第8条)
法人は、増資や減資に係る様々な取引を資本金勘定だけにブックするわけではありません。
外形標準課税がかからないように、資本準備金やその他の資本金に類する勘定にブックしているはずです。
従って、税法では、単純に「資本金の額」だけを課税対象とはしません。
資本金等の額として、資本金の額だけでなく、資本金の増資や減資に係る株式の発行、合併、分割、株式交換、資本金等の払い戻し、自己株式の取得など、様々な資本勘定に関係する取引を考慮しています。
法人税執行令第8条は、資本金及びその他の資本金に準じる勘定の勘定残について次が検証できるような資料の提供を求めています。
• 期末残=期首残+移動明細
詳細は法人税執行令第8条を参照下さい。
尚、法人税を申告する際に、「資本金等の額」について申告書別表5(1)を使い、資本金等の計算に関する明細書を提出しています。
法人税執行令第8条(一部引用)
同8条の冒頭のみ以下で引用しました。
読みづらいものになっています。
詳細については、税理士さん等の専門家にご相談下さい。
3.資本金と資本金等の額の違い
上記で概説しましたが、税法上、資本金等の額は、資本金の額をベースに、資本金に準じる様々な勘定、例えば、資本準備金、資本剰余金などの勘定の期首残と移動明細を考慮し、計算されています。
従って、資本金と資本金等の額は一致しません。
また、資本金と資本準備金を合計した金額と資本金等の額も必ずしも一致しません。
この点、以下の5を参照下さい。
4.自己株式の取得がある場合の資本金等の額の注意点
法人が自己株式を取得すると、資本金等の額の減算を行います。
但し、それだけでは終わりません。
みなし課税や譲渡所得税、場合により譲渡に係る税金が発生します。
以下、例示的に、法人が個人から自社株式を取得するものとして、有償と無償のケースについて、概説します。
但し、あくまでも例示的なもので、全てを網羅したものではありません。
詳細は、税理士さん等に相談して下さい。
4.1 有償で個人より法人が自己株式を取得した場合
● 譲渡税とみなし配当が発生するケース
1株当たりに引き直した価額として以下を想定
• 個人の取得価額:100円
• 取得した自己株式に相当する資本金等の額:120円
• 法人が個人に交付した価額:150円
このケースの場合、1株当たり、以下のような譲渡所得(いわゆるキャピタルゲイン)とみなし配当が発生します。
• 譲渡所得:取得した自己株式に相当する資本金等の額‐取得価額(120-100)
• みなし配当:交付した価額‐取得した自己株式の資本金等の額(150-120)
● 法人サイド
取得した株式に対応する金額は、資本金等の額から減算の手続きが行われます。
会社法上は配当ではなものの、税法上、取得した自己株式に相当する資本金等の額を超え、個人に対し支払い乃至は給付があったので、みなし配当が行われたと認識されます。
法人は、このみなし配当分に対し、源泉徴収を行い、納税の手続きが必要となります。
● 個人サイド
みなし配当は、配当所得として扱われ、配当控除を受けることができます。
4.2 無償乃至は時価の50%以下で個人より法人が自己株式を取得した場合
● 株主に対し金銭等の交付が行われない場合には、みなし配当は発生しないこととされております。
但し、受贈益課税や譲渡所得とあったみなされる場合があります。
● 法人サイドでは、受贈益課税が発生する場合があります。
● 個人サイドでは、時価で譲渡所得などが計算される場合があります。
5.税法改正で着目すべき資本金等の額に関する要点
平成27年度の税法改正により、法人に対し、段階的に区別され、均等に科せられる住民税の計算手順が変更されました。
要点は、次の2点となります。
• 資本金等の額の計算に際し、無償増資や無償増資等による欠損補強を考慮する
• 「資本金と資本準備金の合計」と「資本金等の額」を比較し、大きい額を均等割り税率区分のベースとする
改正前は、資本金等の額がベースでした。
資本金等の額の税法上の意義は重要です!理解に努めましょう!
資本金等の額は、法人税法で定義され、様々なケースで使われています。
会社法の資本金や資本準備金あるいは資本剰余金のといった勘定以外も資本金に準じる勘定として考慮しています。
株式の発行、自己株式、合併、分割、株式交換、資本金等の払い戻しなどの様々な資本金に係る取引が存在しています。
また、新しい資本金に係る取引が生み出されています。
資本金等の額の減額処理だけでなく、場合により、みなし配当が行われたと認識され、源泉徴収されるケースもあります。
譲渡所得があったと認識されるケースもあります。
税法は、こうした動きに合わせ、ほぼ毎年のように改正されています。
当然、法人税法執行令も改定されています。
資本金等の額の税法上の意義は重要です!
理解に努めましょう!