自営業者の保険
自分に合っている保険かどうか、は人によって違い、職業、年齢、性別、家族構成といった自身の生活の状況に応じて、選ぶべき保険も変わります。そして、自分に合った保険かどうかを考える際に、自分の職場が「会社員」か「自営業」かは、重要なポイントになるでしょう
保険に関して、「自営業」の方は「会社員」の方よりもしっかりと保険に対して備えておく必要があります。とはいえ、どうして「自営業」の方が保険をしっかりと備えておかなくてはならないのか、しっかり備えるとは言ってもどういった保険加入したらいいのか、などの疑問がわいてくるのは当然です。
そこで、「自営業」の方が保険をしっかりと準備しておかなくてはいけない理由や、「自営業」の方が加入しておいた方がいい保険について、紹介していきます。
自営業者と会社員の保険の違い
自営業者と会社員では、入るべき保険が違ってきます。なにがどう違うのか、詳しく見ていきましょう。
公的保険と民間保険
まず、「公的保険」と「民間保険」について説明します。
日本では国民皆保険制度のもと、一定の条件を満たす会社・個人は、原則的に「公的保険」に加入しなくてはならない決まりになっています。「公的保険」とは、国や地方公共団体などとの公的機関が運営・管理している保険のことです。「公的保険」というと健康保険をイメージされる方が多いと思いますが、他にも「労災保険」「雇用保険」「年金保険」「介護保険」などいろいろあります。
この「公的保険」に対して自分の意思で自由に加入することができる保険を「民間保険」といいます。「民間保険」は、民間の会社が運営・管理を行っている保険のことです。「生命保険」や「損害保険」などがあります。
自営業者と会社員の公的保険の違い
「民間保険」を選ぶときに重要なポイントになるのが、「公的保険」で補うことのできないリスクを「民間保険」でいかに補うか、ということです。まずは「公的保険」の内容をしっかり踏まえたうえで、足りない部分を補えるよう加入するのが「民間保険」になります。
自営業者と会社員の方では「公的保険」の内容に違いがあるので、加入するべき「民間保険」も変わってくるというわけです。その違いを理解したうえで、加入するべき「民間保険」を考えていきましょう。
では「自営業者」と「会社員」では「公的保険」の内容がどのように違ってくるのでしょうか。「公的医療保険」「雇用・労災保険」に分けて説明します。
公的医療保険
「会社員」が加入する「公的医療保険」は、大企業などにお勤めの方を対象とした「健康保険組合」と、中小企業にお勤めの方を対象とする「全国健康保険協会」に分かれていて、このどちらかに加入することになります。それに対して「自営業者」の場合は、「国民健康保険」へ加入することになっています。
「健康保険組合・全国健康保険協会」と「国民健康保険」では、「保険料の負担」「病気やケガで仕事を休むときの手当」が、大きく異なるのです。まず「保険料の負担」では、「健康保険組合・全国健康保険協会」では会社と加入者が半分ずつ負担することになりますが、
「国民健康保険」では加入者が全額自己負担となります。
また「健康保険組合・全国健康保険協会」では、病気やケガで仕事を休んだときには「傷病手当金」、出産前後に仕事を休んだときには「出産手当金」などがありますが、「国民健康保険」にはそれらがありません。
雇用・労災保険
「雇用保険」とは、失業した時に安心して就職活動に専念できるようにするための「失業給付金」や、スキルアップのための「職業訓練給付金」などを受け取れる保険のことです。「労災保険」は通勤中や勤務中に病気や怪我などをしたり、亡くなったりした場合に給付金を受け取れる保険です。
「雇用保険」と「労災保険」は「会社員」の方を対象とした保険のため、「自営業者」は加入することができません。そのため職を失ったり、病気や怪我などで働けなくなった場合の保障がないことになります。
このように「会社員」の方の保険の手厚い保障に対して「自営業者」の保険に問題が多いため、「民間保険」への加入の有無が大きな問題となってくるわけです。
年金
「年金」についても「自営業者」と「会社員」では内容が大きく違ってきます。どのように違うのかを見ていきましょう。
自営業者と会社員の年金の違い
「公的年金」には、職業に関係なく国民全員が加入しなければならない「国民年金」があります。「自営業者」や「会社員」も例にもれず加入します。しかし「会社員」は「国民年金」に上乗せして「厚生年金」にも加入します。
つまり「会社員」は「国民年金」「厚生年金」の2つに加入していることになります。しかし「自営業者」は「国民年金」のみです。(国民年金は毎月400円の付加年金を追加することができます)
そのため「自営業者」は「会社員」の方と比べて、万が一亡くなったとき、残された家族に支給される「遺族年金」、重い障害を負ったときなどに支給される「障害年金」、老後に支給される「老齢年金」などが少なくなってしまいます。
自営業者が加入する保険
「自営業者」と「会社員」での「公的保険」の違いについて説明してきましたが、「公的保険に」関して「自営業者」に対する保険の保障が手薄であることが理解していただけたと思います。
そこで、「自営業者」が「公的保険」では保障が不十分であると感じたときに加入するべき「民間保険」は、どのように検討していけばいいのでしょうか。何を優先的に検討すべきなのか考える必要があります。そのために保険が必要になるのはどのような場合なのか、考えてみましょう。
自営業者の病気や怪我でのリスク
「会社員」の場合、病気や怪我による手術や入院で仕事を休まなくてはならないとしても、「公的医療保険」から「傷病手当金」として給料の約3分の2にあたる保障を受け取ることができます。しかい、いくら「傷病手当金」が受け取れるからといって、仕事を休んでいる期間の出費をすべて賄いきれるわけではありませんが、あるとないのとでは大きく違います。
それに比べると「自営業者」は病気や怪我による入院・手術で仕事ができない状態になったとしても、「傷病手当金」を受け取ることができません。つまり、「自営業者」の場合、仕事を休まなければならない期間に入院や手術などの治療費を払わなけらばならないうえに、収入まで完全になくなってしまうということです。
そのような事態に備え、「自営業者」は民間の医療保険に加入することなどを検討した方がいいでしょう。
保険の種類
どのようなときに保険が必要になるかを考えていけば、検討すべき「民間保険」も絞られてくるでしょう。おもに検討すべき「民間保険」としては「医療保険」「死亡保険」「個人年金保険」などが考えられます。どの保険にどのような保障があるのかを見ていきます。
医療保険
民間の「医療保険」は、病気や怪我などで、入院・手術を行った場合に保障が受けられるというものです。
加入する保険によって違いはありますが、基本的な保障内容として、入院した場合「入院給付金」として1日に5,000~10,000円程度、手術をした場合「手術保障」として1回につき50,000~100,000円程度の保障が受けられるというのが一般的です。
さらに最近では、先進医療や三大疾病(がん、脳血管疾患、心疾患)など重篤な病気であったり、特に膨大な治療費がかかる場合に対して手厚い保障が受けられる「特約」をつけられる保険も増えてきています。
がん保険
がん保険とは、その名前の通りがんになったときに保証を受けることができる保険のことです。「医療保険」は病気から怪我まで幅広く保障される保険ですが、がん保険はがんに対してのみ保障される特別な保険になります。
がんでの入院や、がんと診断されたときに受け取ることができる「がん診断一時金」や、抗がん剤治療や放射線治療などという特別な治療を受けた時などに保障を受け取ることができる保険になります。
がんは人によって治療法や治療期間などさまざまな病気なので、膨大な治療費が必要になることもあります。仕事を続けながらの治療が可能な人もいますが、仕事を休まなければならないことも当然出てきます。その期間に治療費を払い続けるのは、非常に厳しい状況だと思います。そんなときに備えておくためにも、加入を検討する保険の1つだといえます。
死亡保険
「死亡保険」は、家族の誰かに万一のことがあったとき、まとまった「保険金」を残された家族が受け取れるようにするための保険になります。「死亡保険」は、「自営業者」と「会社員」の年金の違いについても関わってきます。
「年金」の加入者に万一のことが起こった場合、残された家族は「遺族年金」を受け取ることができます。これを「遺族基礎年金」といいます。職業にかかわらず全員が「国民年金」に加入していますから、「自営業者」の家族も受け取れます。さらに「会社員」の場合、「厚生年金」にも加入していますから、「遺族厚生年金」も受け取ることができるのです。つまり、「自営業者」の家族は「遺族基礎年金」のみ、「会社員」の家族は「遺族基礎年金」+「遺族厚生年金」を受け取ることができるということです。
「自営業者」は万一のときに備えて、保障の手厚い「死亡保険」の加入を検討しておくといいでしょう。
個人年金保険
民間の「個人年金保険」は、60歳または65歳など仕事を引退するまで毎月の保険料を支払うと、その後5年から10年に分割されて、年金形式と同様、一年に一度、まとまった保険金が支払われるという保険です。
「自営業者」が受け取ることができるのは「国民年金」のみで約5.4万円、一方「会社員」が受け取ることができるのは「国民年金」と「厚生年金」なので約5.4万円+約14.4万円ということになります。こうして比べてみると、かなり大きな差があるわけです。
引退後の生活を「国民年金」のみでやり繰りするのは不可能だといえます。老後の不自由ない生活のためにも「個人年金保険」への加入を検討してみるといいでしょう。
保険料
「国民健康保険」の保険料(国民健康保険税)は、医療分保険料、後期高齢者支援金分保険料、介護分保険料(40歳以上65歳未満)、この3つの合計額で決まります。そして、さらにそれぞれについて、「所得割」「資産割」「均等割」「平等割」の4つのポイントから保険料を算出します。
「所得割」とは、その世帯の所得に応じて算出(所得額×料率)されます。「資産割」は、その世帯の資産に応じて算出(固定資産税額×料率)されます。「均等割」は、加入者一人当たりいくらとして算出(加入者数×均等割額)されるのです。「平等割」は、一世帯当たりいくらとして算出されます。
これらの組み合わせや各項目の金額・割合は、各市町村ごとに定めます。そのため、住んでいる市区町村によって保険料は大きく異なってきます。
「国民年金」の保険料は、年ごとに決定されます。年々増加する傾向にあり、平成30年3月までは、月に16,490円となっているのです。
また、民間の保険料は加入する保険によって、保険料が変わります。
扶養のある保険
「国民健康保険」「「国民年金」に関しては、扶養はありません。国には「扶養」という概念自体がないからです。つまり、「自営業者」の配偶者は扶養に入ることはできません。
これが「個人事業主」となってくると、従業員を雇用しているかどうかなどで事情が変わってきますので、専門家に相談してみてください。
「国民年金」の「第3号被保険者」というのを聞いたことがあるという方もいるかと思いますが、「第3号被保険者」については誤解している方も多いそうなので、少し説明していきます。
「国民年金」に加入している人(被保険者)は第1号から第3号に分類されています。第1号被保険者は自営業や無職の人、20歳以上の学生などです。第2号被保険者とは、会社員や公務員など、お勤めしている人を指します。そして、第3号被保険者は第2号被保険者に扶養されている配偶者です。つまり「自営業者」の配偶者は「第3号被保険者」に該当しないということになります。
保険料の控除
「国民健康保険」では、保険料についての説明で触れた「所得割」に関して「所得控除」というものがあります。「所得控除」は実際の納税額ではなく、税率をかける前の所得計算の段階で差し引く控除になります。
じつはこの「所得控除」、平成25年度から少なくなってしまいました。それまで適用されていた扶養控除や医療費控除などが、「国民健康保険」には適用されなくなってしまったからです。ただでさえ「自営業者」の加入する「国民健康保険」は全額自己負担ですので、負担が高額化してきています。
保険の選び方
「国民健康保険」と「国民年金」の保険料が高くなってきている中で、民間の保険に加入するのは負担が大きいでしょう。しかし、「医療保険」は急な病気や怪我に対応するために、「個人年金保険」は引退・老後の生活のために必要になるかもしれない保険です。「自営業者」だからこそ、いざという時のために、保険に加入しておくのは大事なことです。
だからといって多くの保険に加入してしまうと、今度は保険料に悩まされることになりかねません。ご自分に合った保険料や保障を各保険と比較し、じっくり検討してから加入されることをおすすめします。
自営業者と保険
保険について説明しましたが、難しくややこしいことがご理解いただけたでしょう。しかし、「自営業者」ならではの保険の事情など、いろいろなことが分かりました。これらは、いざという時に必要になるかもしれない保険です。しっかりと理解し、納得したうえで、自分に合った保険に加入するようにしましょう。