持ち株会社とは(子会社・株価・相続対策)+持ち株会社のメリット・デメリット+持ち株会社例(第一生命・東電・google)
持ち株会社とは
持ち株会社の制度の概要
経営に携わる方であれば、持ち株会社という言葉を耳にされたことがある方は少なくないと存じます。持ち株会社制度は、いわゆるM&Aやグループ会社の形成など企業規模を拡大していくための制度です。後述致しますが、巨大企業は、ほぼ例外なく持ち株会社の手法を利用して企業を拡大させています。
ただ、持ち株会社の詳しい制度やメリットなどについては、なかなか理解が難しい面があります。そもそも会社という制度そのものが人工的に考え出された制度である上に、その結合、支配関係を制度できっちりとつくろうとするのですから、制度は自然と複雑なものとなってしまいます。
ただ、一方で、制度を理解して、持ち株会社制度を利用すれば会社のより一層の発展に益する有益な手法となります。また、ひとつのビジネス常識として持ち株会社制度を理解しておくことも必要と言えます。
ここでは、持ち株会社の意味やメリット、そして持ち株会社制度をイメージしやすいように大企業に見られる持ち株会社などを紹介していきます。
前提として株式会社の支配権:株式
持ち株会社についてご説明する前に、株式会社の基本的な仕組みから確認して行きたいと思います。株式会社とは、文字通り、株式を発行している会社です。そして、株式とは、会社に対する支配権を意味します。
例えば、株式所有者(株主)は、株主総会で議決権(会社法第309条)を行使して、会社の運営や役員人事を決定する権限があります。また、会社に分配可能額という利益が発生すれば、配当を受けること(剰余金の配当を受けること)が可能です。(同法454条)このように、株式を所有しているものが会社の支配者というのが株式会社の仕組みです。
会社というと、役員等の経営陣が取り仕切っているというイメージが一般には強く、事実上の問題としては、そのイメージは間違ってはいません。しかし、法律的にはあくまでも株式会社を支配しているのは株式を所有している株主ということになっています。
持ち株会社とは
このように、株式会社の支配者は、株式を所有している株主であるとすれば、株主が人間ではなく、会社であることも、法技術的にはまったく問題がありません。法律的には会社が何かを所有することは可能です。
例えば一般的にも「あの土地は○○会社の所有だ」などということがあるように、法技術的には会社が所有権を得ることは可能です。とすれば、会社が他社の株式を所有して他の会社を支配するということは基本的に問題がないということになります。このようにして、ある会社が他の会社の株式を所有し、他の会社の事業を支配することが目的となっている会社を持ち株会社と呼びます。
なお、持ち株会社に株を「握られている」会社のことを子会社といいます。子会社についてやや詳細に説明します。会社法第2条によれば、子会社とは
「子会社 会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。(会社法2条第3号)子会社等 次のいずれかに該当する者をいう。
イ. 子会社
ロ. 会社以外の者がその経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」
この定義を読んでも、法律独特のわかりにくい感が否めない点はあるかもしれませんが、
重要なポイントは2条3号における「総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるもの」という部分です。つまり、
①議決権を他の会社などに握られている
②法務省令で定められた経営を支配されている
というケースに該当するときに子会社となります。なお、法務省令とは、正式には会社法施行規則という法務省が作った決まりのことで、3条の2に非常に細かく子会社に当たるケースが定められています。持ち株会社や子会社の詳細にご興味がおありの方は、会社法施行規則をご覧ください。
持ち株会社設立のメリット・デメリット
税務上のメリットとデメリット
子会社設立のメリットは税務・法務・経営の面でそれぞれあります。以下では、税務・法務・経営の3つの面に分けてメリットのポイントをまとめていきます。またデメリットも述べていきます。
まず、税務上のメリットとしては、受取配当金の節税があります。受取配当金とは、要は、株式の配当のことです。この受取配当金について子会社からのものは、財務上は消去され極めて大きな節税効果があります。会社の規模によっては数十億にのぼる節税があります。
デメリットとしては、いわゆる連結会計によって、高度な会計、財務知識を持つ税理士等の関与が事実上不可欠で、税理士費用等がかかるという点が挙げられます。ただ、受取配当金の節税は税理士等の費用をはるかに超えるものとなれば、デメリットとは言えないと言えます。
法務上のメリットとデメリット
法務上の最大のメリットは、敵対的買収に対する防衛にあると言えます。敵対的買収とは、2000年前半に話題となりましたが、ありていに言えば、お金にものを言わせて、株式を買い取り、経営権を乗っ取るというタイプの買収です。優良資産や経営ノウハウなどが流出するなどの可能性があります。
しかし、持ち株会社制度を利用すれば、子会社となる会社の株式は持ち株会社が保有をしてくれている状態ですので、敵対的買収にあうリスクは限りなくゼロとなります。一方で法務上のデメリットとしては、労働者を雇っている(雇用契約を結んでいる)のが持ち株会社なのか、子会社なのかが不明確になり、労使間のトラブル発生の際にはトラブルが極めて複雑なものとなってしまうことが想定されます。
特に、巨大企業が持ち株会社化した場合に、残業代や賃金未払いのトラブルが発生した場合に、巨額の残業代等を持ち株会社が支払うのか子会社が支払うのかなど問題が深刻化します。また、いわゆるコンプライアンス(法令遵守)という点から、子会社は持ち株会社に頭が上がらない状態になってしまう可能性があり、いわゆる不正の温床となり得るということもありえます。今日、企業のコンプライアンスに対しては社会の目は非常に厳しく、万が一不正が存在し、発覚することとなれば、会社の経営が一気に傾くおそれもあります。
ただ、法務上のデメリットは、労務管理や遵法意識の問題である面が強く、制度設計や社内教育の充実で十分に回避することが可能と言えます。なお、法律の手続きとして持ち株会社の設立には、株式移転や株式交換、事業譲渡、会社分割など会社法上に多様な手続きが用意されています。
経営上のメリットとデメリット
経営上の第一のメリットは、事業規模の拡大です。例えば、持ち株会社Aが、飲食店事業を展開する子会社Xと不動産事業を展開する子会社YとIT事業を展開する子会社Zを傘下に収めれば、持ち株会社Aは多様な事業に進出することができます。
また、リスク分散も可能です。上記の例で仮に、子会社Xの経営が傾いてしまったとしても、基本的に子会社Yや子会社Zには関係がありません。法律的には会社は1つ1つが別人として扱われるためです。比喩で言えば、XYZという3人の子供のうち、Xが怪我をしたからといってYとZが怪我をするということはないということです。
さらに、会社は人間とは異なりますので、子会社Xが本当に致命的な損失を生じさせてしまった場合には、解散や清算をして消滅させてしまうことや(廉価となるかもしれませんが)売却して処分するということも可能です。このようにして、持ち株会社では経営上のメリットが非常に大きいシステムです。
一方でデメリットとしては、「コングロマリット・ディスカウント」が挙げられます。
つまり、一部の子会社の業績が悪い場合に、他の子会社の信用も落ちる可能性があり得るというリスクです。また、子会社は証券取引所のルールで上場が事実上不可能な状況ということもデメリットとして挙げられます。
持ち株会社の例
代表的な持ち株会社のごく一部の例を挙げれば以下のような会社があります。
①野村ホールディングス
②日本郵政
③第一生命ホールディングス
一般には金融系において持ち株会社が多い傾向にあります。
持ち株会社を理解して就活などに生かそう
いかがでしたか?
株式会社にもいろいろな種類があります。就職活動をする際や、転職する際は、行きたい企業がどのような経営方法なのかまで、調べるようにしましょう!