スーツの歴史
スーツの起源は、15~16世紀にヨーロッパで着用されていたフロックコートだと言われています。農民の農作業着・軍服・貴族のコートとして、用途は違いますが幅広く着られてきました。18世紀~19世紀頃になると、前裾をカットした形のモーニングコートや、乗馬をするときに邪魔にならないように作られた燕尾服などがイギリスで誕生します。
これらの進化は、貴族が日課である朝の乗馬後に、そのまま宮廷に上がれるようにと礼服化したのがはじまりで、現在でも正礼服としてその役割が残っています。
現代では、皇族の結婚式や勲章授与式典などの格式高い場所や社交ダンスをしているかたなどが燕尾服を着る機会があり、一般の男性が着る機会はほぼないです。ホワイト・タイというドレスコードは、燕尾服のことを指し、ブラック・タイはタキシードのことを指しています。
トラディショナルスーツのタイプ紹介
トラディショナル・スタイルとは、男性の伝統的なファッションスタイルになり、スーツの3大生産地であるイギリスの流れを汲んだブリディッシュ・トラディショナル、イタリアの流れを汲んでいるクラシコ・イタリアン、アメリカンの流れを汲むアメリカン・トラディショナルの3つのスタイルに分かれています。
これらのスーツは、それぞれの国の特徴と個性が反映されており、形状と着心地の違いがあります。また、最近ではインターナショナルモデルといい、3つのスーツのタイプの良いところを合せたタイプがあり、インターナショナルモデルは個性が強すぎないため昨今の日本では、ビジネスシーンでよく着られてるオーソドックスなスーツのタイプになります。
今回はスーツの基本であるイギリス・イタリア・アメリカの3種類のスーツスタイルを詳しく紹介します。
ブリティッシュトラディショナル
スーツの原点はイギリスだと言われており、そのイギリスの伝統的なスーツの形がブルディッシュトラディショナルになります。特にロンドンのサヴィルロウのテーラーで作られる、オーダーメイドで作るスーツこそがブリティッシュトラッドスーツの最高峰だと言われています。
このスーツは全体的に立体的な作りになっており、テーラードショルダーと呼ばれる広めに角張った肩のラインに、ウェストはきつめに絞り、まるでXの文字のようなシルエットになっています。このように立体的で、体にフィットした形に作られたものをコンストラクテッドと呼び、ウエストを絞ったラインのためスーツを着用すると窮屈に感じます。その他の特徴としては、ラペルが広めだったり、ベントがサイドベントだったりします。英国スーツの最大の特徴であるチェンジポケットと呼ばれる小さなポケットが、ジャケットのポケットの上には付いています。
クラシコ・イタリアン
かつてのイタリアは、イギリススーツの受注してつくっていましたが、徐々にイタリアでもスーツを製作するようになりました。そこから生まれた文化がクラシコ・イタリアンです。スーツスタイルはイギリスと似ていますが、着心地が全く違い、イギリススーツにはない男らしさと色気を強調するようなスーツのラインになっています。チェンジポケットはあまり付けませんが、そのかわりわざと重なるように取り付けるキッスボタンがよく使われます。
イタリアスーツは、スーツラインが自然体に近く、肩はやや撫で肩の形になりウェストの絞りは自然なラインになっています。イタリアスーツは、スタイルも重視していますが、シルエットは綺麗なままテイストが現代よりになっており、全体的にスマートで洗練された若々しい印象があります。同じイタリアンスタイルでも生産地によって個性があり、イタリア国内でもさまざまな性質があります。
アメリカン・トラディショナル
アメリカン・トラディショナルは、アメリカのスーツのことで一言で言えば実用的なスーツになります。アメリカを代表するスーツブランドであるブルックスブラザーズから誕生したスーツのスタイルになり、ストレートハンギングと呼ばれている前面にダーツを取らない緩やかなウエストが最大の特徴になります。その結果として、体格のいい人でも着心地よく着ることができるボックス型のシルエットになるスーツになります。また、ナロー&ナチュラルショルダーといわれる自然な肩が魅力になります。
アメリカントラディショナルらしいスーツが欲しければ3つボタンの段返りというスタイルを選びましょう。アメリカン・トラディショナルは、アメリカを代表するスタイルになり、日本ではトラッドI型と呼ばれています。
スーツの種類
スーツには、ダブルスーツなどのたくさんの種類のスーツが存在しています。今回はダブルスーツ・スリーピーススーツ・シングルスーツの3種類を詳しく紹介しますので見てみてください。
ダブルスーツ
ダブルスーツとは、上着の合せ部を大きく重ねたスーツのことで、ボタンが縦に2列あるスーツのことになります。昔は左右のどちらでも開け閉めできましたが、現代では片方でしか開け閉めできないジャケットが多くなっています。立場などにより、重厚感やフォーマル感を演出したいときに最適なスーツがダブルスーツになります。
少し前までは日本でも大流行したデザインになり、ボタンの数は一般的なデザインで各列1~4個程度になり、ボタンの掛け合わせとデザインによってばらつきがあります。営業で軽く見られないようにしたり、経営者など偉い人が着ることが多く、なぜか同格であるシングルスーツより格上だと思われている印象があり、重厚感が欲しい年配の方や西欧の方に好まれているスーツになります。
昔は、葬式でダブルスーツを着ると不幸が重なる言われ、毛嫌いする人も多くおり、着るのに迷うところですが年配の方には着用している方もいます。
スリーピースーツ
3ピーススーツとは、普通のスーツであるジャケットとスラックスの他にベストを合せたセットのスーツになり、日本では三つ揃えスーツとも呼ばれおり、3ピーススーツは、ジャケット、ベスト、スラックスの3点ともに同一の布で仕立てられています。
3ピーススーツの絶対条件は、3点全てが同じ生地ということです。別の生地のベストを合わせて着てたとしても、そのスーツを3ピーススーツとは呼ぶことができません。スーツ発祥の地である英国でのブリティッシュ・スタイルのスーツでは、ベストを欠かすことができず、もともとこのスタイルが通常のスタイルでした。
しかし第二次世界大戦以後にアメリカの簡便ルックの影響もあり長年忘れさられていましたが、最近ではこの3ピーススーツがまた流行りはじめており、日本でも若手俳優が着用しはじめたりしています。
シングルシーツ
シングルスーツとは、ジャケットの前ボタンが縦一列に並んでいるスーツのことで、ビジネスシーン、パーティー、普段のオシャレ着までと幅広く活用できる最も一般的なデザインになり、若年層で主流のスーツになっています。
シングルスーツのフロントボタンは縦1列に配列され、2つボタン、3つボタン、3つボタン折り返し、4つボタンのタイプがあります。シングルスーツは、ビジネススーツの中では定番のスタイルになっています。一般的にシングルスーツの2つボタンスタイルのジャケットは、上のボタンだけを留めるのが一般的になり、ここを無理に2個留めるとダサイので注意してください。
3つボタンのシングルスーツはまさしく定番中の定番になっており、少し前まではビジネスシーンや式典では、敬遠されていたシングルスーツの3つボタンですが、今ではすっかり問題のないスタイルになり、上2つのボタンを掛けて最後は掛けないのがお洒落です。
ダブルスーツのボタンの留め方
今までは、スーツのことについて紹介してきましたが、次はダブルスーツのボタンの留め方のマナーをみていきましょう。
基本的にダブルスーツは、ボタンの列が2列あるスーツのことになり、ダブルスーツはボタンの数により、ダブル2つボタン、ダブル4つボタン、ダブル6つボタン、ダブル8つボタン、ダブル10つボタンと種類があります。ダブルスーツの今の主流は、4つボタンと6つボタンのジャケットになります。
ダブルスーツ4つボタン1掛
まず、ダブルスーツの基本である4つボタンですが、4つボタンは6つボタンよりも、おとなしく控えめな印象を与えるボタンの配列になっています。
4つあるボタンのうち1つだけ掛けるのが、ダブルスーツの4つボタン1掛になります。このタイプは、バブル時代に一世を風靡したソフトスーツでよくみるスーツの形になり、当時はオーバーサイズのジャケットが好まれていましたが、現在は全体的に狭く、体にフィットしたタイプのジャケットが主流になっています。
ダブルスーツ6つボタン1掛
ダブルスーツの6つボタンは、4つボタンのタイプと違い、華やかな印象になります。ダブルスーツの6つボタンには、ボタンの掛け方に3種類の方法があり、ボタン・ワン・ダブルは名前のとおり、1番下のボタンをひとつだけ掛る形になるので、Vゾーンが一番広くとれルーズになりやすい形になります。
ダブルスーツの6つボタンは、前面から見たときボタンの位置が左右に3個ずつ並び、逆梯形型になっており、視覚効果で胸が広くなって見え逆にウエストは締まっているように見えます。
6つのボタンは一番下のボタンだけが機能し、上の4つのボタンは使用できず飾りになっているスタイルになり、このデザインは防寒などの機能のためではなく、豊かな胸を強調しするためのデザインになっており、1980年代にイタリアから広まり世界中で流行しました。
ダブルスーツ6ボタン2掛
ダブルスーツの6つボタンの主流がこのダブル6ボタン2掛になります。ダブルスーツの中でも、一番ドレスアップ度が高く、風格・格式・大人なイメージに満ちあふれたフロントデザインです。せっかくのダブルスーツですが、前ボタンを外しダラダラとした着方をするのは、着こなしとは言えないので注意しましょう。
ダブルスーツの6つボタンの2掛は、ダブルブレステッドの基本の形ちになり、もとは軍服で防寒のためにフロントスタイルになっており、風向きにあわせて、冷たい風が入ってこないように、左右どちらでも開け閉めができるタイプのジャケットになっていましたが、今は左右のどちらかしか開かないようになっています。
若者が選ぶダブルスーツの注意点
少し前まではダブルスーツを着るのは年齢層が高めな方が多かったのですが、最近では若者のなかでもダブルスーツが流行っています。そんな若者がダブルスーツを選ぶときの注意点などを紹介します。
スーツラインの選び方
ダブルスーツを選ぶときの注意点は、スーツのラインです。昔のダブルスーツは、ダボダボのラインで着ている方が多かったのですが、最近ではウエストが絞られた細身タイプで、スーツが体にフィットするタイプが好まれています。
ご自身の体のシルエットがそのままスーツのシルエットになるスーツが1番ベストになります。上半身が大きい方はどうしても緩いラインを選びたくなりますが、そうすると締まらないシルエットになるので気をつけますしょう。
体に合うダブルスーツを見つけたらボタンを留めてみましょう。そのとき体のラインにダブルスーツがあっているかを確認すると同時に、体を動かしキツくないかや、ボタンを留めることでX字の形にシワが入らないかなどを確認する必要があります。もし、ボタンのところにシワが入るようなら、それはキツい証拠になるのでサイズを検討する必要があります。
ベントの選び方
ベントとは、ジャケットの背中心や両脇などの裾に入っているスリットのことを指し複数の場合はベンツと呼ばれています。
・センターベントは、乗馬ジャケットがモチーフになり、背中に入れられたスリットで運動性を確保しています。ビジネススーツで1番多く採用されています。
・サイドベントは、イタリアスーツに多く見られるタイプのベントになり、シャープでスマートな印象を与えます。
・フックベントは、アメリカントラッドなテイストになり、中央バックシームのラインがカギ状に折れています。Jプレスなどがこの仕様を持つ代表的なブランドになります。
・ノーベントは、切り込みが入ってないタイプで、ベントのルーツである乗馬がモチーフとなではなく、フォーマルな形になります。
ベント位置はその時で、流動的に変化します。最近は、サイドベンツの人気が高いですが、ジャケットのデザインに合わせてベントを選択してください。
タックの選び方
タックとは、パンツなどのヒダのことを指し、このタックがあることでスラックスに立体感を与え、動きやすくなります。タックにも種類があるので紹介します。
・ノータック:タックのないスラックスのことになり、最近はジャケットがシャープな傾向にあるので、スラックスも細身でタックがないのが若者に人気があります。
・ワンタック:シルエットというよりも、体型的な面からデザインされた形になり、ノータックよりも巾で約0.5㎝ほど太く、2タックよりも巾で約1.5㎝ほど細みに作られており、太ももが太めという方におすすめです。
・ツータック:カジュアルスラックス・ビジネススラックスのほとんどがこのタイプです。ノータックに比べると巾で約2.0㎝太く作られており、それだけ楽に着用することができます。
その他にも、外向きのタックや内向きのタックなどの種類もあります。タックの数が多いほどクラシック調になります。
裾(カフ)の選び方
スラックスの裾のことをカフと呼びます。 スラックスの裾の折り方も種類があるので紹介します。
・シングルカフとは、内側に折り返してまつり縫いを施しただけスラックスの裾のことをさします。フォーマルのシーンではシングルカフがスラックスの裾の基本です。
・ダブルカフとは、外に折り返し縫った裾のことを言います。できた背景は、シングルカフしかなかった時代に、雨で濡れたくなかったために折り曲げた説などのお洒落からできた説が有効になり、そのためダブルカフはシングルカフと比べるとカジュアルな印象になります。
・モーニングカットとは、折り返しを付けずに裾口を斜め後ろにカットしたものを言い、前裾のたるみが減り、スラックスのラインがきれいに出ます。モーニングコートやディレクターズスーツなどのドレッシーなスラックスに多くみられるカット法です。
色別での着こなし方
ネイビー
ネイビーのスーツは、ビジネススーツでも基本とされる色になります。ネイビーの色そのものがとても上品で知的な印象をもちそれが信頼感を感じられるからです。しかし、無難な色なので地味になりがちです。
そこでネイビー生地は無地だけでなく、ストライプなどの柄が入っているものも検討してみてください。また、スーツが無地でも、シャツなどの色や柄などを工夫すると印象がまた違ってきます。
着こなしテクニック
ネイビースーツを着こなすテクニックがあるので少しご紹介します。
・ネイビー色のダブルスーツの知的さと高級感を引き出すには、スタイリッシュでスリムサイズを選ぶ必要があり、細めな一着を選ぶのが丁度いいです。
・スーツスタイルに欠かせないシャツですが、ネイビースーツの着こなしで、無難なシャツの色は青になります。ネイビースーツと同系色のシャツと組み合わせることで、全体的に洗練された印象になります。
・スーツの基本的なコーディネートと、ネクタイは柄もののネクタイを選びましょう。スーツと同系色のネクタイだと無難ですが、シンプルに着こなすならその方がいいです。ですが、遊び心を取り入れたいときは、小さい柄などが入ったネクタイで、上品に着こなしてみても素敵です。
グレー
グレーのダブルスーツの着こなしはトーンで印象が変化します。グレーと言っても、ライトグレーからブラックに近いグレーまで色味の幅はとても広く、それに伴う印象は大きく変化します。
初めてグレーのダブルスーツを購入するのなら、ミディアムグレーからチャコールグレーのオーソドックスな色を選択しょう。初めてのときは、オーソドックスな色のほうが着やすく、アレンジもしやすいです。オーソドックスなグレースーツが着慣れたら、徐々にライトグレーや色味を帯びたグレーなどにもチャレンジしてみてください。
無地のグレースーツもいいですが、ストライプなどの柄が入っているグレースーツも素敵です。ストライプの太さなどでも印象が変わるので、気になる方は、いろいろこだわってみてください。ビジネスシーンでも、間隔の広いピンストライプスーツを着ることで迫力や風格を演出したり、逆にシャドーストライプで控えめな印象を演出できます。
グレースーツと小物
グレースーツをより印象づけるのが、小物になります。グレースーツと言えば、ブラックの革靴と言われるほど、この2つの組み合わせは、王道の組み合わせになっています。綺麗なブラックのレザーシューズを探してぜひグレーのダブルスーツに合わせてみてください。
その他にも、スーツの着こなしとしてベルトとシューズの色味を合わせたスタイリングの仕方は有名ですが、ポケットチーフやミラーレンズまで色味をリンクさせていくと、スタイリングが綺麗にまとめることができます。
黒
ブラックのスーツは最上位のフォーマルカラーでありますが、キリスト教文化圏では黒=葬式というイメージが根強くあります。そんな背景から、スーツにはうるさい英国人も結婚式に参列するときはブラックスーツは避けます。
ビジネススーツでも同じことが言え、定番色はネイビーとグレーになり、無地のブラックスーツは一般的ではありません。ビジネススーツや冠婚葬祭でブラックスーツを着る日本のスーツ事情はとても変わっています。
ブラックスーツの魅力は、強いフォーマルテイストやエッジの効いたモードテイストが演出でき、取り入れ方次第で他色のスーツとはひと味違ってきます。アパレルやIT業界では、個性的な装いをする人が多く普段から着ていても問題ないですが、一般の方は礼服のイメージが強いのでビジネスシーンでは避けましょう。
一般の方が着るのなら、異業種交流会や自社主催のパーティーシーンで着用することをおすすめします。
ダブルスーツの魅力
ダブルスーツを選ぶときはポイントがたくさんあります。昔のダブルスーツはダボダボしていておじさんが着ているスーツというイメージが強く根付いていましたが、最近のダブルスーツは全く違っています。
最近のダブルスーツを着るときの1番のポイントは、体にフィットすることで、昔のダブルスーツのポイントとは全く異なっており、今の着こなしのポイントをしっかり守ることでダブルスーツをとても綺麗に着こなすことができます。
そんなダブルスーツには魅力がたくさん詰まっており、今までおじさんぽいとダブルスーツを敬遠していた方は、この機会にダブルスーツを購入し、ダブルスーツのコーディネートを楽しんでみてはいかがでしょうか。