Web上でコンテンツを公開する時には著作権に要注意
ここ数年で、個人でコンテンツを作成してWeb上に公開するユーザーが圧倒的に増えていますが、それに伴って、YouTube動画にBGMなどの音楽をつけたいとか、ブログに掲載する写真をインターネット上から取ってきたいなどのニーズが高まっています。
しかし、これらは作業としてはとても簡単で誰でもできるのですが、その手軽さゆえに多くのユーザーが見落としている落とし穴があります。それが、「著作権」です。
有名どうかに関わらず、どのような音楽や動画、画像であっても、それが他人が作成したものである限り、必ず著作権が存在することを意識する必要があります。人の労力によって制作された作品はすべて著作権が認められており、その作者である著作者に了解を得ずに利用できる範囲は、法律によって制限されています。
著作権利者に許諾を得ずに利用できる範囲については、下記の文化庁の公式文書を参考にしてください。
Webに著作物をアップロードすると著作権違反になる?
Web上に、他人が作った画像や動画、文章を掲載することは、誰でもアクセスできる公の場に公開することになるため、「著作物が自由に使える範囲」を逸脱した行為に当たります。
コンテンツ制作とWebへのアップロードに慣れているユーザーであれば、「著作権フリー」の素材をWeb上から探すということを当たり前にしていますが、知識がないがゆえに、著作権について意識せずに、不用意にさまざまな著作物をWeb上に公開してしまうユーザーも増えています。
例えば、YouTubeチャンネルで著作権に触れるような音源を使った動画を公開してしまった場合、その動画の公開やチャンネルそのものが停止されてしまう、といったペナルティを課せられることがあるため、注意が必要です。
Webで公開できるコンテンツかどうかの判断は慎重に
ライセンスやコンテンツ管理関係の仕事をしている方以外では、著作権について正しい知識がなく、「この音楽や画像は、このまま使ってもいいのだろうか」と悩むこともあるでしょう。
今回は、複雑で難しい音楽や映画、キャラクターなどのさまざまな著作権について、その概要を分かりやすく整理し、特にその期限がいつ切れるのか、切れた後は自由に使えるのか、という点を重点的に解説していきます。
これを機会に正しい著作権の知識を得て、さまざまなコンテンツや作品と上手に付き合えるようになりましょう。
著作権の期限に対する考え方
これから、著作権の期限について、どのように考えればいいのかを解説していきます。まず、日本の法律である著作権法では、下記のように定められています。
第四節 保護期間(保護期間の原則)第五十一条 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)五十年を経過するまでの間、存続する。
つまり、原則として、その作品を制作した著作者が亡くなってから50年間は、著作権が存続するということになります。51年目以降は、その著作権を保護する期限が切れ、万人が自由にその作品を利用できるようになる、ということです。
なお、実物の著作者が誰か分からない作品であったり、団体名義の作品については、作品が公表されてから50年間が保護期間とされています。
海外で作られた作品の著作権期限は?
1つ注意が必要なのは、この50年間の保護というのは日本の法律で定められた期限であり、海外の著作期限については、また別の取り決めがあるということです。例えば、アメリカで作れた音楽をBGMに使いたい場合などに、著作権フリーで自由に使えるかどうかを調べる必要が出てきます。
著作権は、ベルヌ条約などの国際的な枠組みで取り決めされています。例えば、外国の作品を使用する時、その作品が作られた国の法律で定められた著作権期限が、日本の法律で定められた期限よりも短い場合は、短い方の著作権期限が適用されるなどのルールがあります。
ただし、いくつかの例外規定などもあり自分で調べることが大変な場合もありますので、使いたい作品の著作権の期限が切れているかどうかを、下記のような公的な機関に問い合わせてみることが賢明と言えます。
海外における著作権の期限
先述したとおり著作権には、ベルヌ条約という国際的な枠組みがあり、168カ国がこれに加盟して共通のルールを遵守しています。しかし、ベルヌ条約では、死後もしくは公表後50年以上を保護期間とすることを原則として定めているだけで、それ以上の長期間を期限とすることは、各国の裁量に委ねています。
例えばアメリカでは、法人の著作物は公表後95年間の保護期間としており、96年目に期限が切れることになっています。中国や東南アジア、中東の多くの国は、日本と同じ50年間の原則で保護期間を定めています。
日本で著作物を利用するときは、日本の法律が適用されますが、特に有名な映画や出版物、キャラクターなどの著作物は、誰が作成したのかという点も含めて、非常に権利関係がややこしくなっていますので、著作権保護の期限が切れて自由に使えるかどうかは慎重に調べるようにしましょう。
パブリックドメインとは?
保護されている期限が切れているなどの理由で、著作権が消滅した著作物で、誰でも自由に利用できるものを「パブリックドメイン」と呼びます。パブリックドメインは、コピーしたり、編集したり、一般ユーザーが作成するコンテンツに追加するなど自由な利用が可能です。
法律で定められた保護期間の期限切れによって、自動的に著作権の権利が消滅するケースだけではなく、著作者が自ら権利を放棄することによって、パブリックドメイン作品になるケースもあります。
インターネット上には、コンテンツ作成における利用や、著作物の幅広い共有を目的として、このパブリックドメイン作品だけを集めて、ユーザーに自由な利用を促しているサイトがあります。これらのサイトに掲載されている画像や動画などのコンテンツは、自由にダウンロードして、利用することができるため大変便利です。
パブリックドメインの画像を公開しているサイト
Pixapayは、パブリックドメインの写真画像だけを集めたサイトで、ここに掲載されている画像素材は、自社のWebサイトやブログを作成するなどの目的で、自由にダウンロードして使うことができます。
インターネット上には、著作権で保護されている写真画像がたくさんあり、誤ってこれらの画像を使用してしまうと、著作権違反に該当してしまう恐れがあります。Pixapayのようなパブリックドメイン作品のみを集めたサイトを利用することによって、権利関係を考慮することなく、自由にコンテンツ作成に画像を活用できるようになります。
パブリックドメインの出版物を公開しているサイト
青空文庫は、出版物のパブリックドメイン作品を集めて、そのテキストを公開しているサイトです。例えば、日本には100年以上前に制作された優れた文学作品がたくさんあり、当然のことながら、これらは著作権の期限が切れています。
そういった作品を集めてWeb上に公開しているのが青空文庫です。夏目漱石や芥川龍之介など、古き時代の有名な作品を無料で読むことができ、そのテキストをさまざまなコンテンツ作成に流用することができます。
ボランティアスタッフが一つ一つの作品を入力、校正するという膨大な作業をこなすことによって成り立っているサイトですが、人の手が加わっている分だけ、正確なコンテンツが手に入るのが魅力と言えます。例えば、自分のブログ記事で有名な書籍の文章を、引用したい場合などにも活用すると良いでしょう。
著作権の期限が切れたら何をしても自由?
それでは、50年という期限が過ぎ、著作権の保護期間が終了した著作物については、誰がどのように扱っても問題ないのでしょうか。この質問に対する回答を正しく理解するために、まず、著作権には2つの権利が存在することを知っておく必要があります。
著作物を利用して、経済的な利益を得ることを守るために設けられている財産権と、著作者の人格を守るために設けられている著作者人格権の2つを区別して理解しましょう。
財産権については、著作権保護の期限が過ぎると自動的に消滅し、経済的な利益を得るかどうかに関わらず、その著作物を自由にコピーしたり、利用することが可能になります。しかし、著作者人格権についてはこの期限を過ぎても消滅せず、著作者の意向に沿わないような悪質な改変をすることは禁止されています。
二次的著作権と著作隣接権とは?
二次的著作権の存在にも注意が必要です。例えば、芥川龍之介の作品をアレンジして、新たな小説を作ったとすると、その小説は新しい著作物として認められ、それが作られた時点から著作権が発生します。例えばあなたが、同じような小説を書こうとした場合、アレンジした新しい著作物のコピーだと訴えられる可能性もあるということです。
また、著作隣接権という権利もあります。例えば、ある映画を制作した時に、その脚本を書いた人や監督として作品を仕上げた人、あるいはそういった人材を束ねた会社は、その映画の著作権を有します。同時に、その映画の放映に関わったテレビ局などの放送事業者には、著作隣接権という形で放映する権利など、さまざまな権利が認められています。
過去の作品で、著作権の期限が切れているからと言って、必ずしも自由に使えるわけではないことには注意が必要です。
音楽の著作権期限
ここまでの解説を元にすると、Web上へアップロードしたり、お店で流すBGMなどの音楽を選ぶ際は、著作権の期限が切れているクラッシックなどの昔の曲にすれば良いと考えてしまいますが、ここでも注意が必要な点があります。
まず、一言に音楽の著作権と言っても、実際には、「作曲」「作詞」「編曲」「音源」の4つそれぞれに別の著作権が存在します。
例えば、ベートーベンの楽曲はすでに、著作権の期限が切れていますので、「作曲」の著作権については自由に扱うことができます。つまり、ベートーベンの曲を演奏したり、人格権を侵害しない範囲でアレンジすることは可能ということになります。
しかし、「音源」については、他に音源を作った著作者がいるということです。例えば、10年前にある楽団が演奏したベートーベーンの曲を収録したCDをお店で流すと、「音源の著作者」に対する著作権侵害に該当してしまう、ということです。
音楽の著作権を管理するJASRAC
音楽については、どこまでが著作者の許諾なく利用できる範囲なのでしょうか。著作権法には、以下のように定められています。
上演権及び演奏権)第二二条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。
この上演権と演奏権には、お店でBGMを流したり、Web上で公開することも含まれてしまうため、「音源の著作権」の期限が切れていない限り、著作権料を支払う必要があるということす。
日本では、JASRACという協会が音楽の著作権を管理しており、著作者の代わりに、使用者から著作料を徴収する役割を担っています。最近ニュースでも、音楽教室での演奏が著作権侵害にあたると、JASRACが勧告していることが話題になっていますが、音楽を公的な場で流すことには十分注意を払う必要があります。
もちろん契約料を支払うことで、公的な場での利用も認められることになります。Webに公開しているコンテンツで、J-POPなどの楽曲を使っているユーザーは、JASRACと契約して費用を支払っていることを知っておいてください。
映画の著作権の期限
著作権法における「映画の著作権」というのは、映画だけではなく、CMやミュージックビデオ、テレビドラマなど、映像作品全てを指します。「映画の著作権」は、その他の著作物に比べて、権利の保護期間が長いことが特徴です。
先述したとおり日本の法律では、著作者の死後もしくは公表後50年間の保護期間が基本ですが、「映画の著作権」のみが、70年の保護期間が保証されています。71年目以降は著作権の期限が切れ、その他の著作物と同じように自由に作品を扱うことができます。
キャラクターの著作権の期限
ミッキーマウスやウルトラマン、スヌーピー、ゴジラなど、日本やアメリカでは、長く愛されているキャラクターがたくさんありますが、これらの著作権の期限については、どのような管理になっているのでしょうか。
特に有名なキャラクターは、巨大な経済効果を生み出すため、その利用に関しては莫大な権利金のやり取りをすることも多く、権利者はこの権利を守るためにさまざまな施策を考えるのが普通です。
キャラクターの権利はどの会社、個人が持っているのか、一般人には把握できないことも多く、その権利関係は非常に複雑です。昔の作品だから自由に使えると、安易に思い込まないようにしましょう。
ミッキーマウスの著作権期限への対応
ミッキーマウスの著作権を保護するために、ディズニー社のロビー活動によってアメリカ政府が、著作権の期限を75年に延長する法案を通したのは有名な話です。現在ミッキーマウスは、2023年まで著作権の保護期間が適用され、2024年に期限が切れることになっています。
このように、多分に政治的な判断によって揺れ動くのが著作権でもあるため、安易な判断は危険です。また、たとえ著作権の期限が切れていたとしても、商標権によって保護されていることがほとんどであるため、無断でこれらのキャラクターを使用すると、権利を保有する企業から訴えられるリスクがあります。
どうしても有名なキャラクターを使う必要性に迫られた時は、必ず専門家へ相談するようにしましょう。
TPPで著作権保護期間は延長されるのか
TPPでは、著作権期限に関する改定が議論されていました。先述のとおりアメリカ政府は、ディズニー作品を保護するために、自国の著作権保護期間を延長しましたが、他国では50年間を著作権期限としていることが多いため、アメリカ企業が有する古い作品の権利が保証されない可能性がありました。
そこでアメリカ政府は、TPPを利用して、加盟する各国の著作権の保護期間を70年まで延長するように求めていました。
しかし、アメリカがTPPから脱退したこともあり、著作権期限を70年に延長する条約は凍結されました。しかしながら、今後、また国際政治の流れによって、この議論が再度沸騰する可能性もありますので、期限切れの著作物を使っているからといって安心するのは禁物です。特に商用利用する場合には、著作権法改正の情報には常にアンテナを張っておきましょう。
状況に応じて賢い著作権との付き合い方をしよう
著作権の期限については、原則50年間という決まりがありますが、これまで述べてきたようにさまざまな例外や複雑な権利関係の絡み、商標権のような他の権利との関連性などもあり、個別の著作物の利用に関して50年が過ぎているから自由に使えると、安易に判断することはリスクが伴います。
そして例えば、Web上のコンテンツ制作で使う画像やお店のBGMを選ぶなど、私たちの活動に意外と身近にあるのが著作権という存在です。こういった身近な活動で、他人の著作物を利用する場合には、パブリックドメイン作品だけを集めたサイトを利用するのが良いでしょう。
また、どうしても著作権期限が切れていない作品を使いたい場合には、これまで紹介してきたような専門的な機関に相談するようにしましょう。この記事で解説してきた内容を正しく理解し、上手な著作権との付き合い方をマスターしていってください。