「ワークシェアリング」とは
皆さんは、「ワークシェアリング」という言葉をご存知ですか? おそらく、「ワークシェアリング」という言葉をご存知ではない方が多いのではないでしょうか。もしくは、この「ワークシェアリング」という言葉を一度は耳にしたことがあるけれども、「ワークシェアリング」というもの自体についてはあまり知らないという方がほとんどだと思います。
今回は、そんな「ワークシェアリング」に注目して、様々な観点から考察していきたいと思います。まずは、「ワークシェアリング」とは一体何なのか、「ワークシェアリング」の意味について迫っていきたいと思います。
では早速ですが、「ワークシェアリング」の意味について見て行きましょう。
「ワークシェアリング」とは仕事を分かち合うこと
「ワークシェアリング」とは一体何なのかというと、「勤労者同士で仕事や雇用を分かち合うこと」を言います。英語の単語ごとに区切るとわかりやすく、「ワーク(仕事)」を「シェア(共有)」することを「ワークシェアリング」と呼びます。
また、この「ワークシェアリング」というワードは、日本では「ワーキングシェア」とテレビのニュースや新聞の記事で取り上げられることが多いので、そちらの方がなじみ深いです。
「ワークシェアリング」の種類
一概に、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」が「勤労者同士で仕事や雇用を分かち合うこと」と言っても、実際には「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」は様々やり方で行われています。今度は、その「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」の種類やタイプについて見ていきたいと思います。
以下に、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」の種類とタイプについていくつか例をまとめてみました。
~「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」の種類~
・週当たり労働時間の短縮による雇用創出
・ジョブシェアリング
・早期退職措置としてのパートタイム化
・自発的パートタイム化
・連続有給休暇時の代替要員
・キャリア・ブレーク時代の代替要員
~「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のタイプ~
<雇用維持型>
不況などが原因で企業の業績が悪化した際に、従業員一人当たりの勤務時間を減らすことによって、企業全体での雇用を維持するやり方。典型的な例としては、ドイツで行われた「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のやり方が挙げられる。
<雇用創出型>
様々な業務ごとの短時間労働を組み合わせることによって、意図的に雇用機会を増やすやり方。典型的な例としてはオランダで行われた「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のやり方が挙げられる。
今挙げた6つの種類と、二つのタイプが「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」にはあります。基本的には、従業員各々の労働時間を短くするなどの時短によって行う「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」が典型的な方法となっています。つまり、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」と言ったら、すでにその企業に従業員として勤めている人たちの雇用を維持する<雇用維持型>が一般的ということです。
具体的に言うと、今まで9時から18時まで勤務していた3名のチームがあったとしましょう。不況の影響で企業の取り組んでいる事業を縮小したことによって、従業員の仕事が激減し、1名分の仕事がなくなったとします。このとき、一人当たりの勤務時間を減らして、3名で2名分の仕事を分け合うといったことを<雇用維持型>の「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」といいます。
「ワークシェアリング」の目的
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」の意味やその種類・タイプが何となくわかってきたところで、今度は「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」の元々の目的について見ていきたいと思います。
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」の元々の目的はというと、「労働者の過労死・失業による自殺の解決方法」として用いられたのが始まりです。
背景にあるのは、フランス・オランダ・ドイツといった欧州の各国々の不況に伴う、労働市場の悪化や労働者の過労死・失業による自殺が増加したことです。つまり、この「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」という意識が高まったのは、ヨーロッパ圏が始まりということです。
「ワークシェアリング」のメリット
次に、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を行うことで、実際にどんなプラスの面があるのか、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のメリットについて見ていきたいと思います。
雇用の幅が広がる
早速ですが、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のメリットについて見て行きましょう。
まず、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のメリットの一つ目はというと、「雇用機会が広がる」という点です。
一人当たりの勤務時間削減や一人当たりの仕事負担が小さくなることで、非常に幅広い雇用が可能となります。例えば、子育て中でなかなか仕事に割く時間を確保することが難しい主婦や労働的負担の比較的大きいとされる介護業務をこなしている社員なども、仕事を続けやすく、雇用機会が大幅に広がります。
優秀な人材の流出を防ぐことができる
続いて、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のメリットの二つ目はというと、「企業の優秀な人材の流出を防ぐことができる」という点です。
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を通して、雇用機会の幅が広がるだけではなく、元々企業に勤めている社員の雇用を維持したり、新たな社員雇用枠を増やすことで、優秀な人材の流出を防ぐことができたり、また新たに優秀な人材を確保することができ、企業にとって失いたくない人材を守ることが可能になります。
失業率を抑えることができる
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のメリットの三つ目はというと、「失業率を抑えることができる」という点です。
先ほども言ったように、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を始めた元々の目的である、失業率の低下を実現することができます。
社会福祉金の削減につながる
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のメリットの四つ目はというと、「社会福祉金の削減につながる」という点です。
不況の影響によって、各企業が雇用削減や人員削減を進めて行ってしまうと、先ほども言ったように国内に失業者が増加します。そうなると、生活保護費や医療費、年金などの生活福祉金が失業率が上がる前よりも大幅に膨れ上がります。
しかし、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を行って、失業率を下げることによって、生活保護費や医療費、年金などの生活福祉金の増加を抑えることができます。
税金を安定して確保することができる
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のメリットの五つ目はというと、「税金を安定して確保できる」という点です。
不況によって各企業が人員削減や雇用削減を進めて行くと、税金を比較的多く取りやすい給与所得者の数が減ってしまい、国としては税金の額が減ってしまうことで、公務員(国会議員など)への給与も削減せざる負えない状況になってしまうことが問題です。
さらに先ほども言ったような、生活保護費や医療費、年金などの「生活福祉金」は、国民の税金で賄われているので、不況による各企業の人員削減や雇用削減が原因で起こる給与所得者の数の減少は、同時にそういった国民へのサポートが上手く機能しなくなる要因の一つにもなります。
サポートがない失業者はさらに生活が苦しくなり、正規社員になるのは難しくなります。それによって、より税金の収集の効率は悪くなり、さらにまた国民へのサポートが疎かになるという悪循環にはまってしまいます。
しかし、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を行い、失業者を減らすことで、そういったことを未然に防ぐ、もしくはそれができなくとも影響を軽減することは可能になります。
生産性が向上する
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のメリットの六つ目はというと、「生産性を向上することができる」という点です。
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を行い、一人当たりの労働時間を減らしたり、一人当たりの仕事量を減らすことで、生産性が向上するというメリットもあります。
人員削減や雇用削減を行って、従業員一人当たりの労働時間をだらだらと長時間にするよりも、短時間に仕事が完了するように考えて動くことで、結果的に生産性が上がるという考え方です。
従業員が適切な余暇を確保できる
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のメリットの七つ目はというと、「従業員が適切な余暇を確保できる」という点です。
先ほど言った生産性には、労働時間に加えてしっかりと余暇が取れているのかが重要になってきます。労働者にとって仕事へのやる気というのは、労働時間と余暇のバランスに左右されます。
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を行うことで、余暇が適度に生まれることで、労働者の仕事や会社への満足度は高まり、さらにまた生産性が向上します。
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のデメリット
ここまでは、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を行うことのメリットについていくつか挙げてきましたが、今度は「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を行うことのデメリットについて見ていきたいと思います。
企業の雇用コストが増す
では早速ですが、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を行うことのデメリットについて考えて行きたいと思います。まず、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のデメリットの一つ目はというと、「企業の雇用コストが増える」という点です。
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を行って、一人当たりの労働時間を減らしたり、新たに雇用を増やすことで、生産性の向上や従業員の満足度は上がるかもしれません。しかし雇用を増やすということは、賃金にかかる費用が増えるということですから、もちろん企業側としてはよりコストがかかり苦しい状況になります。
ましてや、不況という企業側としては人員削減や雇用削減でコストを抑えておきたい中で、むしろ新たな雇用を生み出し、経費を増やすというのは、会社のさらなる赤字を招き、最悪の場合、倒産の危機に陥るリスクもあります。
サービス残業が増える
続いて、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のデメリットの二つ目はというと、「サービス残業が増える」という点です。企業側としては、今までの従業員の労働時間を減らすということは、事業を縮小せざる負えないですよね。しかし、そんなことをしてしまうと、競争で他のライバル会社に負けてしまう事態になりかねません。
さらには、最近ではグローバル化が進み、国内企業間だけの競争だけではなく、海外の多くの企業を相手にしなければ会社としての大きな成長は望めません。そんな競争の激しい環境下での「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」の実施というのは、企業側としてはハイリスクです。
そのため、企業側はどうにか今までどうりに会社を経営していくために、従業員にサービス残業を強いることが増えるというデメリットがあります。ましてや、日本はすでにサービス残業が多く、その発見が困難であるため、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」の導入は、さらなる労働環境の悪化につながる可能性もあるということです。
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」の実施企業例
ここまでで、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」のメリット・デメリットについてご紹介してきましたが、最後は実際に「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を実施したことのある企業例をご紹介したいと思います。
以下に、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」を過去に実施したことのある会社の概要についていくつかまとめてみました。
・所在地
本社・工場 京都市南区。京都東事業所、九州事業所、宇治工場。中国蘇州。
・資本金
75億3,197万円
・業種
半導体製造装置、プラスチック用精密金型、プラスチック精密成型品の開発/設計/製造/販売
・東証1部、大証1部上場
・所在地
大阪府守口市 工場は、群馬県大泉町、大阪府大東市、兵庫県加西市他5工場
・資本金
1,722億円
・売上高
811億円(平成14年度実績)
・業種
AV・情報通信機器、電化機器、産業機器、電子部品関連、電池関連商品の製造・販売
・社員数
16,167名
「ワークシェアリング」は良い点も悪い点も様々
いかがでしたでしょうか? 今回は、「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」について様々な観点から考察してみました。
「ワークシェアリング(ワーキングシェア)」には色々なメリットとデメリットが存在します。そのため、その時の社会的状況や世界情勢、その企業の経営状況をしっかりと見極めて、実行するかどうかを決定することが重要になってきます。