家事按分とは何か
家事按分は「かじあんぶん」と読みます。「按分」とは、比例配分の意味であり、「何かの量を、基準となる数量に比例した割合で分配すること」です。
フリーランスなどの個人事業主が、自宅を事務所にしている場合には、その生活の事業の中で発生する費用の中には、生活費と事業費が混在している状態となります。しかし、家賃や光熱費の一部は事業のために必要な「経費」であると考えることができます。このように自宅で発生した経費のうち、「事業にかかった経費」を「合理的な基準によって」「生活費と事業費に分ける」ことを「家事按分」といいます(生活で使っている部分を「家事消費」といいます)。
たとえば、家賃、水道光熱費、電話・携帯電話の費用、プロバイダ料金などは、その一部を事業経費として計上することができ、節税することができます。この場合の「合理的な基準」は、費目ごとに異なります。
青色申告と白色申告における相違
家事按分は、青色申告と白色申告でルールが少し変わってくるので、注意が必要です。国税庁では、青色申告者の家事(生活)と業務(事業)の両方にかかわる費用を「家事関連費」と呼び、事業にかかわる「必要経費」にできるものは、「取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額」という条件をつけています。逆にいうと、青色申告者は、事業用費用を合理的に区分できれば、家事関連費をすべて経費にできます。しかし白色申告者は、事業用の割合が50%超の家事関連費しか経費にすることができません。以下、青色申告の場合について、述べていきます。
借家家賃の家事按分
家賃の場合は、「事業で使用している面積」が按分割合です。この場合、不動産物件図を保管しておく必要があります。例えば、月額家賃8万円の賃貸住宅の1部屋を仕事に使っている場合は、全体の面積を75㎡、仕事に使っている部分を15㎡とすると、8万円×15/75=2万円が事業の必要経費にできます。
しかし、もしリビングなどの一角で仕事をしている場合には経費計上が少し難しくなります。「業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合」を証明するためには、「生活と仕事とが完全に分離されている状態」にしておくことが必要になります。つまり、リビングを「パーティションなどできちんと区切る」「そのスペースには仕事で使う以外の物を置かない」などのひと手間が必要になります。これは、税務調査を受けたときに「明確な根拠を提示できる」ことが必要になるからです。
持ち家経費の家事按分
持ち家の場合も、「事業で使用している面積」が按分割合であり、借家の場合に大家さんが費用計上している金額、すなわち、固定資産税、住宅ローンの利息、火災保険料、持ち家の原価償却費、マンションの管理費・共益費・修繕積立金などの一部を面按分した金額を必要経費にできますこの場合、家の間取図を保管しておく必要があります。
ただし、ローン元金返済額は元々費用ではないので経費にはできず、マンション購入時に加入する生命保険の費用も本来的に住宅費用ではないので経費にはできません。
家賃の究極の家事按分
筆者が昔やっていた家賃按分をご紹介します。これは究極の家賃按分であり、税理士さんによっては「ダメ」といわれることもありますので、よく相談することが必要です。
家賃は居宅全体に発生しますが、中には共用部分(玄関、バス、トイレなど)とキッチンがあり、居室とキッチンは事業用とは言えないでしょうが、では共用部分にかかる費用はどう考えたらよいでしょうか。
上の場合の例を考えてみましょう。これで面積が48㎡で家賃が9万円の場合、6畳は約10㎡なので、共用部分は18㎡となります。普通なら9万円×10/48=1.9万円が按分結果でこれを事業で費用計上します。しかし、共用部分の家賃も経費計上しようと考えるなら、居室部分+DK=20㎡に対して仕事部屋が10㎡なので、9万円×10/30=3万円の経費計上が可能です。差分がたかが1.1万円というなかれ、これが年間では13.2万円も差が出てしまいます。大きくありませんか?これで10年ほど事業をしていましたが、税務調査はありませんでした。
水道光熱費・電気料金の家事按分
水道光熱費とは、経理上の「勘定科目」の1つであり、電気・ガス・水道代や石油・灯油などの総称です。事業のための費用であることが「明確に説明できる」のであれば、電気代、ガス代、水道代、燃料費は経費として計算することができます。
例えば、自宅で料理教室を開いている場合には、電気代、ガス代、水道代の必要性は明確なので、費用計上自体は可能ですが、問題は按分割合です。これは事業に使用する時間帯と生活に使用する時間帯などから、事業用経費の割合を「明確に説明する」必要があります。
1日の25%が業務時間で月の電気代が1万円の場合、費用に計上できる金額は月2,500円になります。しかし、ライターなどの仕事をしている場合には、ガス代、水道代が事業に必要不可欠であると「明確に説明する」ことは難しいので、経費計上は難しいといえます。
家族と同居している場合の電気料金の家事按分
家族と同居している場合は、あらかじめ仕事用のコンセントを決めておき、コンセントの数の割合で按分すると楽になります。自宅にコンセントが全部で10個あって、うち4個が仕事用で、年間の電気代が1万円の場合、業務で使用しているコンセントの数を全コンセントの数で割ります。1万円×4/10=4000円を事業用として計上することができます。
通信費・プロバイダ料金の家事按分
これらの費用は時間按分などでは事業用・生活用の区分けが難しく、経費計上が困難になります。この場合には「契約を分ける」などの対応が必要になります。しかし、契約を分けておけば、固定電話・携帯電話からプロバイダ料金までの全費用を経費計上できます。ただし、事業にそれらの費用が必要であることを説明できる場合に限られます。
「契約を分ける」ことができない場合は、クライアントとのやり取りを通話履歴やメールで残しておくことが必要になりますが、かなり煩瑣です。通信費の按分比率は、使用日数でも使用時間でも計算できます。インターネットを業務時間にずっと使用していて、それ以外の場合にはほとんど使用していない場合は日数計算の方が簡単です。週5日はインターネットを仕事に使用し、他の2日はほとんど使用していない場合なら、全額を事業用に計上することは認められるかどうか不明ですが、少なくとも費用の5/7は事業用として計上できます。
自動車関連費用の家事按分
旅客業や運送業などに用いる事業用自動車の場合は、運航費用をすべて経費にできますが、それ以外の自家用車の場合でも、事業活動に使っていれば、自動車の購入代金、駐車場費用、ガソリン代、自動車税、車検代などの自家用車利用経費も家事按分して経費計上することができます。購入代金そのものは、減価償却という方法で費用計上する金額を家事按分します。
この場合、「事業に供する割合」の算定が問題になりますが、一般的には、「走行距離数を按分」することで説明します。事業用使用に割合が日数で計算できる場合、つまり事業用に車両を使用するのが週5日に限られている場合には、全額を事業用に計上することは認められるかどうか不明ですが、少なくとも費用の5/7は事業用として計上できます。
駐車場費用は、業務時間中は100%使用していますが、業務時間外の使用率は0%になるため、「業務時間の比率」から事業用費用を算出します。業務に車両が必要なければ計上することはできません。
白色申告者による家事按分
白色申告者の場合は、「原則として、事業用割合がおおむね50%超の家事関連費だけが事業用に費用計上可能」です。つまり、家賃、水道光熱費、電話料金、プロバイダ料金、携帯代、インターネット接続代などのうち、「業務で半分以上使っている」ものしか経費に計上できないことになります。
自宅を事務所に兼用している個人事業主の場合は、事業に供している割合はせいぜい1~2割程度なので、家事按分できるものは「ない」のが普通です。50%超の家事関連費に当たる場合とは、「事務所を生活の場にしている」場合であり、自宅兼事務所の場合には、一部屋を明確に事務所として使っている場合、例えば「家族も使用させずに1部屋を仕事部屋として使用し「プレート」などで屋号を貼って分離している」場合なら、その事務所用の部屋の広さが全体の50%を超えていなくても、家事按分の対象にできます。
しかし、事業用であることの証明が困難な場合が多いので、節税のために、青色申告への変更を考えたほうがいいでしょう。青色申告には、「65万円の特別控除」「赤字の繰り越し」など、白色申告にはない特典がさまざまありますが、「必要経費にできる家事関連費の範囲が広い」というメリットが大きいといえます。
経費になるもの/ならないもの
初めから経費計上ができないものは家事按分の対象にはなりません。たとえば昼食代は、事業をしていてもしなくても必要なものなので、経費計上はできませんが、それがクライアントとの会議費に相当するなら、5000以下なら会議費にできます。経費の一覧表を次に示しておきます。これらは事業用であることが証明できれば、按分不要で経費にできます。
面倒なのは「仕事のために地方へ出張し、そこで1日休暇として過ごした」という場合であり、その場合には事業用と私用で按分します。たとえば3泊4日で出張し、1日は私用の場合、往復旅費・宿泊費は事業用2対私用1で按分します。
証憑書類の保管
家事按分するかどうかにかかわらず、事業用で経費計上する場合には、費用発生を証明する証憑書類として、契約書、領収書などを保管しておかなければならないのは言うまでもありません。これに加えて家事按分に関する情報が記載されたものも保管しておく必要が生じます。
事業用会計ソフトの家事按分機能を使う
たとえば「弥生会計」の青色申告の家事按分機能を使うと、経費を按分することができます。月々の経費の全額を経費としていったん入力し、年末の決算仕訳で家事消費分を「事業主貸」として返却するという手順になります。操作手順を紹介します。
(1) 水道光熱費として入力します。
(2) 決算・申告タブの家事按分アイコンをクリックして、家事按分振替ウィンドウを開きます。
(3) 家事按分振替ウィンドウで、勘定科目を選択し、事業割合と家事割合を入力します。
(4)仕訳書出をクリックすると、決算仕訳が書き出されます。