働き方で扶養が変わる!130万の壁について
結婚出産を終え、子供が学校へ通いだすと「自分も働きに出て家計を助けなきゃ」と考える主婦の方は増えてきています。また、企業側もパートタイマーとして働く労働者を重宝する時代となってきました。
このような場合「旦那の扶養に入れる範囲で働きたい」という方や「税金のかからない範囲で働きたい」という方が多いです。
それでは「扶養には入れる範囲」「税金のかからない範囲」とは具体的にいくらまでになるのでしょうか?また、一番合理的な上限額とはいくらなのでしょうか?
所得税の扶養の範囲は「103万」
まずは所得税に関する扶養の範囲の確認です。所得税法では「配偶者控除」と呼ばれる人的控除が設けられています。配偶者控除とは「生計を一にし、かつ、年間所得が38万円以下である配偶者(控除対象配偶者)を有する者」が適用できる控除で、控除額は38万円となっています。
この要件の中に「年間所得が38万円以下」とあります。この金額の基準こそが所得税法上の「扶養に入れる範囲」「税金のかからない範囲」となります。
計算例
「年間所得が38万円以下」とは具体的な上限額はいくらなのでしょうか?パートタイマーとして働く場合の所得は「給与所得」となります。給与所得の場合、実際に受け取った金額から「給与所得控除」が引かれた金額が「所得」となります。
給与所得控除は給与の収入金額により変動する計算になりますが180万円以下の収入の場合「収入金額×40%もしくは65万円に満たない場合には65万円」という計算になります。
この計算式を当てはめて考えてみると162.5万円までの収入については65万円の給与所得控除が引かれるという事になります。
所得税法での配偶者控除は年間所得が38万円以下という要件がありますので、この要件を満たすためには103万円が給与収入の上限値となります。
もう一つの境界線「130万の壁」
所得税法上の扶養の範囲は103万円になりますが、もう一つの扶養の範囲が存在します。それは「社会保険上の扶養の範囲」です。
健康保険については、組合ごとにルールが異なる部分が大きいため、一般的な全国健康保険協会管掌健康保険を前提に説明していきます。
社会保険の扶養の範囲は「130万」
健康保険上の扶養の範囲は、一般的に被保険者の収入によって生活を行っている家族が、被扶養者となります。「家族」であれば誰でもいいわけではないといところが、話を複雑にしています。まずは、被保険者と同居しているかどうかが判断基準となってきます。
同居していても別居していても関係なく被扶養者となる人
・配偶者(内縁関係であっても可)
・子(養子でも可)、孫、弟、妹
・父母や祖父母といった直系尊属(尊属とは、父母と同列か、父母よりも目上の血族をいいます)
同居が条件となる人
・兄、姉や、叔父・叔母といった3親等内の親族
・内縁関係の配偶者の父母や子
ただし、次に該当する場合は一時的な別居ですので、同居しているものと考えます。
・病気で入院している場合
・施設などに入所している場合
・転任に伴い新任地における住宅事情のため2~3ヶ月別居している場合
収入条件について
被扶養者として認定されるには、同居・非同居の条件に加えて「収入」が条件となります。
【同居している場合】
年間収入が130万円未満であって、かつ被保険者の年間収入の半分未満の場合は、被扶養者に該当します。この「130万円未満」という金額は、60歳以上であったり、障害厚生年金に該当するほどの障害がある人の場合は「180万円未満」と金額が緩和されます。
また、仮に被保険者の年間収入の半分よりも収入が多くても、130万円未満で被保険者の収入を上回らない場合は、被扶養者に該当します。
【同居していない場合】
年間収入が130万円未満であって、かつ被保険者から受け取っている援助(仕送りなど)の合計額よりも、年間収入が少ない場合は被扶養者に該当します。
厚生年金は配偶者限定
厚生年金上の被扶養者は、「20歳以上60歳未満の配偶者」に限定されます。年齢での区分に加え、「配偶者」に限られるため注意が必要です。
収入条件は健康保険と同じ130万円未満となります。厚生年金に加入する際は、健康保険に加入しないと厚生年金に加入できませんので、健康保険の収入条件がそのまま厚生年金の収入条件となります。
130万の壁を超えるとどうなる?
所得税法上・社会保険上での扶養の範囲は収入金額によって変わりますが場合によっては130万の壁を超える収入になってしまうこともあります。この130万の壁を越えてしまった場合はどのようなことが考えられるのでしょうか。
自身が支払わなければいけない所得税の発生+夫の所得税増加
まずは所得税に対する影響ですが、収入金額が103万円を超えてしまうとご自身が支払わなければいけない所得税が発生します。これは他の控除の有無にもよりますが、仮に控除が基礎控除のみの場合は超えた金額の約5%を所得税として納めることになります。
ご自身で納める所得税額は5%なので負担としては少ないように感じますが夫の所得税にも影響が出るので注意が必要です。夫の扶養控除がとれなくなってしまう為、夫の所得税の計算にも影響が出てしまいます。
控除額は38万円になりますが実際の負担額は38万円に所得税率を乗じた金額になります。所得税率は所得金額により変動しますので夫の所得金額により負担額は変動します。仮に所得税率が20%であれば38万×20%=7.6万円の所得税額となります。
自身が支払わなければいけない社会保険料の発生
次に社会保険に対する影響です。収入金額が130万円を超えると、配偶者の扶養から外れ、社会保険料を自己負担しなくてはなりません。ただし、年収が130万円以下の場合でも「1日又は1週間の労働時間が正社員の概ね3/4以上」「1ヶ月の労働日数が正社員の概ね3/4以上」の場合は、パートタイマーであっても被保険者になります。
社会保険は、報酬月額が63,000円未満の場合でも、健康保険2,917円(40際以上の場合は、3,366円)+厚生年金8,388円(一般)=合計で、11,462円の自己負担になります。所得税よりも、個人負担の金額が大きいので注意が必要です。
交通費は130万の壁に含まれる?
扶養の範囲を超えてしまうと負担額が増加してしまい思っていたよりも手元に残らなくなってしまいます。この130万の壁を超えないために自身の収入金額を基に計算をする必要がありますが、この「130万の壁」には交通費は含まれるのでしょうか?
所得税法上の交通費の考え方
所得税法上の考え方では交通費(非課税分のみ)は含まれません。いわゆる課税所得が対象です。電車・バス通勤者の非課税限度額は月10万円なので、超える方はかなりの少数です。
マイカー通勤者は、その通勤距離によって非課税限度額が意外に低めに設定されていますので、きわどい方は要注意です。当然、超えた部分は課税対象となり、103万円の計算に含まれます。
社会保険上の交通費の考え方
社会保険上の考え方では交通費(課税・非課税とも)を含んだ金額で判断されることになっています。厚生年金保険法でいう報酬とは、被保険者が事業主から労務の対償として受けるすべてのものをいい、賃金、給料、手当などその名称にかかわらず対象になります。
人事・総務系の仕事に従事されている方なら、「月額報酬算定基礎届」などと聞けば、“あっ、あの面倒臭い手続きね”と、ピンとくると思いますが、「月額報酬算定基礎届」とは簡単に言えば、毎年4月~6月の3ヶ月分の支払報酬の『平均月額』に基づき、その年の9月~翌年の8月までの社会保険料を決定する手続きのことです。
そして、この『平均月額』にあたるのが「標準報酬月額」といったところです。何よりここでのポイントは「厚生年金保険法でいう報酬は、すべての手当が対象となる」との表記です。
所得税の103万の壁と社会保険の130万の壁
改めて、103万円は所得税に関する扶養の壁で、税務署(国税庁)の管轄ですが、130万円は、社会保険に関する扶養の壁で、年金事務所(日本年金機構)の管轄となります。
いずれにしても自身の手取額を変動させる要因となる基準となりますのでこれから働きに出る方は内容の理解が必要です。
どのような働き方でも手元に残るお金は増えることにはなりますが少しでも効率的に多く残すためには仕組の理解をしておきましょう。