契約社員の位置づけは
契約社員の定義を法律的に定めたものはありません。1年契約とか6ヵ月契約などと契約期間を定めて雇われる有期契約労働者を契約社員と呼んでいます。
契約期間を定めた有期労働契約は、嘱託社員や派遣労働者、パート、アルバイトなどの人も結んでいるので広い意味では契約社員と言えます。しかし、それら嘱託社員などは就業形態がある程度定義付けられているので、「契約社員」はそれらの定義付けられた就業形態以外の有期契約労働者と言って良いです。
もちろん、正社員や正社員も含む無期契約労働者とは異なる位置づけになり、ボーナスや退職金制度が無かったり、契約満了後に契約が更新されない場合は職を失うことにもなりますので、正社員などと比べると身分が安定していない就業形態と言えます。
ただ、契約社員の仕事内容は雇用契約によって定められ、労働時間、労働条件、勤務内容などすべて会社側との話し合いで、契約社員の意思によって決めることができるので、専門的なスキルなどがあれば、正社員よりも多くの収入を得ることも可能になります。
契約社員の実態:厚生労働省の調査から
契約社員を雇用している会社はどのくらいあるのでしょうか。また、契約社員と言われる人はどのくらいいるのでしょうか。
厚生労働省が「就業形態の多様化に関する総合実態調査」という調査を3~4年おきに実施しています。この調査のなかから、契約社員の実態がみえてきます。
厚生労働省のサイトからデータを引用:http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keitai/14/
事業所の就業形態割合ー契約社員がいる事業所の割合
平成26年の厚労省の調査では「正社員以外の労働者がいる事業所」の割合は80.1%となっています。この正社員以外の労働者の就業形態の内訳は複数回答で次のようになっています。
出向社員 6.1%
契約社員(専門職) 13.0%
嘱託社員(再雇用) 18.5%
パートタイム 60.4%
臨時雇用者 7.2%
派遣労働者 10.1%
その他 17.5%
契約社員については平成22年が13.8%、平成19年が10.9%となっていて10~15%で推移しています。
業種別で契約社員を雇用している比率が高いのは次のようになります。
教育・学習支援業 33.3%
情報通信業 26.1%
その他サービス業 16.6%
医療・福祉 15.1%
宿泊業、飲食サービス業 14.6%
学術研究、専門・技術サービス業 14.2%
専門的なスキルが必要な業種が高くなっていますね。
企業規模別に契約社員を雇用している比率をみると、
1000人以上 62.5%
300~999人 43.1%
100~299人 32.8%
30~99人 23.1%
5~29人 10.6%
企業規模が大きくなるに従って契約社員を雇用する企業が多くなっています。
就業形態別就労比率ー契約社員の割合
全就労者に対する就業形態別の比率が厚労省の平成22年の調査にあります。
正社員 61.3%
契約社員 3.5%
嘱託社員 2.4%
出向社員 1.5%
派遣労働者 3.0%
臨時雇用者 0.7%
パートタイム 22.9%
その他 4.7%
全就労者の3.5%が契約社員ということになります。契約社員の比率は前回平成19年の調査では2.8%、男女比でみると3:4くらいで女性のほうが多くなっています。
契約社員の職種、何が多い?
平成22年厚労省の調査では各就業形態での職種を発表しています。正社員と契約社員とを比較してみてみましょう。
正社員 契約社員
管理的な仕事 19.6% 3.5%
専門的・技術的な仕事 15.6% 31.2%
事務的な仕事 39.3% 24.9%
販売の仕事 7.9% 9.9%
サービスの仕事 4.8% 10.6%
保安の仕事 0.5% 2.6%
生産工程の仕事 6.3% 6.8%
輸送・機械運転の仕事 2.3% 4.0%
建設・採掘の仕事 1.9% 1.5%
運搬・清掃・包装等の仕事 1.5% 4.2%
その他の仕事 0.2% 0.3%
不明 0.1% 0.3%
管理的な仕事と専門的・技術的な仕事、事務的な仕事で正社員と比べて大きな差がでています。契約社員の男女別では管理的な仕事、専門的・技術的な仕事で男性が、事務的な仕事、販売の仕事で女性が大きな比率になっています。
なぜ契約社員を選んだのか?
各就業形態別になぜその形態を選んだのか、という調査を厚労省が平成22年に行なっています。複数回答の調査ですが、契約社員はなぜ契約社員を選んだのでしょうか。上位の理由を紹介します。
専門的な資格、技能を生かせるから 41.0%
正社員として働ける会社がなかった 34.4%
家計の補助、学費等を得たいから 16.9%
通勤時間が短いから 16.9%
より収入の多い仕事に従事したかったから 15.9%
家庭の事情や他の活動と両立しやすい 12.4%
自分で自由に使えるお金が欲しいから 11.9%
自分の都合の良い時間に働けるから 11.8%
専門的な資格、技能を生かせるという理由、意識が強いですね。
会社は契約社員に何を求めているのか?
雇う側の会社は契約社員に何を求めているのでしょうか?
平成26年の厚労省調査では、「専門的業務に対応するため」が49.9%(平成22年は41.7%)と最も高い割合となっています。次に「即戦力・能力のある人材を確保するため」が38.7%(22年37.3%)となっています。
会社側は、即戦力の専門的な業務のスキルを持った人材を契約社員に求めていることが解ります。
契約社員の契約期間上限は3年?
契約社員の会社との契約期間は多くの場合、6ヵ月か1年のですが、契約社員などの有期契約労働者の契約期間の上限は労働基準法で定められています。
法律上の契約社員の期間は
労働基準法第14条は、有期労働契約について「原則として3年」を超えて締結できないことを定めています。したがって、契約社員の契約期間は原則として、最長でも3年間です。ただし、高度専門職および満60歳以上の者については、例外として5年を上限の期間とする労働契約を締結することが認められています。
5年を上限期間とする例外が認められる高度専門職は厚労省告示で次のような職になっています。
・博士の学位を有する者
・公認会計士
・医師
・歯科医師
・獣医師
・弁護士
・一級建築士
・税理士
・薬剤師
・社会保険労務士
・不動産鑑定士
・技術士
・弁理士
などです。本当に高度な専門職ですね。これらの人たちは5年までの労働契約が認められています。
契約期間の実態は?
契約社員の労働契約の期間は上限が3年になっていますが、実態はどうでしょうか。
平成26年の厚労省調査から契約社員の契約期間をみてみましょう。
1年~2年未満 62.2%
6ヵ月~1年未満 17.0%
3ヵ月~6ヵ月未満 4.6%
3年以上 4.3%
2年~3年未満 1.1%
1年~2年未満(実態は1年)が圧倒的に多いですが、3年以上も5%近い数字になっています。
契約社員の勤務年数の実態は?
契約期間は1年が最も多いですが、契約の更新などをしてどのくらいの期間、契約社員は勤務しているのでしょうか。
平成22年の厚労省調査で、就業形態別に現在の会社での在籍期間を発表しています。
契約社員の在籍期間は次のようになっています。
5年~10年未満 19.2%
3年~5年未満 18.3%
1年~2年未満 14.8%
2年~3年未満 13.5%
10年~20年未満 10.4%
となっており、3年以上の在籍期間が約50%になっています。1年以上の在籍期間では約80%になります。専門的なスキルなどがあれば有用されて、すぐに契約打ち切りということはありません。
契約社員の労働時間の実態は?
それでは、契約社員の労働時間はどうでしょうか。
平成22年の厚労省調査で、就業形態別に1週間の実労働時間を発表しています。
契約社員と正社員の違いをみてみましょう。
正社員 契約社員
60時間以上 7.1% 3.3%
50~60時間未満 13.1% 6.8%
45~50時間未満 20.8% 13.2%
40~45時間未満 33.0% 29.9%
35~40時間未満 20.2% 29.1%
30~35時間未満 2.9% 7.3%
正社員に比べると契約社員は実労働時間はやや少ないですが、労働基準法で定める1週間40時間の法定労働時間を超える、いわゆる残業に相当する労働時間を含んでいる人は50%強になっています(正社員は70%強)。正社員に準じた労働時間と言えます。
契約社員から正社員への道は
正社員への登用は契約社員の多くの人が望んでいます。会社の景況による見直しや契約の更新時などに正社員への登用チャンスがありますが、なかなか難しい壁にはなっています。
法律上では、正社員ということではありませんが、有期契約労働者の契約社員から無期契約労働者への切り替えの道が開けています。
さきほどの調査結果にあったように、契約社員は契約を繰り返しながら5年を超えて働いている人が19.2%もいる実態があります。そのなかで、一定期間雇用を継続している契約社員を契約期間の満了とともに退職させる「雇止め」の問題も発生しています。
この「雇止め」の不安を解消して雇用の安定を図る目的で、2012年、労働契約法が改正、公布され「無期労働契約への転換」が定められました。
改正労働契約法第18条では、同一の使用者との間の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える労働者が、現在締結している有期労働契約の契約期間満了までの間に無期労働契約への転換を希望した場合、会社はそれを了承しなければならないと定めています。つまり、通算で5年目の契約期間中に無期労働契約への転換を希望すれば認められるということです。
ただし、契約期間以外の給与や出勤日数、退職金の有無などの労働条件について法律は言及していませんので、従来通りで変わらないということもありえます。つまり、無期契約社員は正社員と同じ待遇になるとは限らないということです。
ちなみに、厚労省の平成26年の調査で会社の各種制度等の適用状況を発表しています。契約社員が「フルタイム正社員への転換制度」の適用を受けているのは18.3%、「短時間正社員への転換制度」は3.4%(平成22年は1.3%)という数字になっています。今後、徐々に増えるものですが、不安の無い雇用状態の実現が望まれます。
6ヶ月以上の期間を空けた再契約の意味は
この無期契約社員への転換は最終の契約期間が過ぎてから6ヵ月以上過ぎると無効になってしまいます。6ヵ月以上の期間を空けての再契約の場合、前の契約期間はリセットされて5年の通算期間には算入されなくなってしまうので、通算して5年以上勤務しても無期契約社員への転換はできなくなってしまいます。
無期契約社員への転換は良い制度ですが、無期契約社員を嫌う会社は契約書に「在籍期間は最大で5年間まで」と記載したり、契約終了後6カ月以上のブランクを空けなければ再契約しないとすることが考えられます。契約社員雇用契約書をよく読んでから署名、捺印するようにしましょう。ブランクを空けるように言われた場合は、弁護士などに相談するのが良いでしょう。
契約期間の満了と退職あるいは解雇は
有期契約労働者である契約社員は、契約を更新しなければ契約期間の満了をもって退職ということになります。
いつ解雇されるか解らないと不安に思っている契約社員の方も多いですが、労働契約法第17条は、やむを得ない事由がなければ、契約期間が満了していない有期契約労働者を解雇できないことを定めています。
この「やむを得ない事由」というのは、正社員の解雇に求められる「客観的に合理的な理由」よりも、さらに高度で強い合理性が必要とされています。契約社員を解雇することは正社員を解雇するよりも難しいです。
逆に契約社員のほうから雇用契約を中途解約することも難しいことです。原則として「やむを得ない事由」がなければ中途解約は認められないことになっています(民法第628条)。ただ、1年を超える期間の有期雇用契約で1年を超えた日以降であれば、やむを得ない事由がなくても会社に申し出ることで退職できることが労働基準法附則第137条に定められています。
期間満了の場合、失業保険は?
契約社員が期間満了になって退職した場合、失業保険は受給できるのでしょうか。契約締結時に雇用保険などの社会保険に加入していることが第一の条件です。
平成26年の厚労省調査で就業形態別の各種制度等の適用状況をみてみましょう。
契約社員では次のようになっています。
雇用保険 83.0%
健康保険 87.6%
厚生年金 83.5%
企業年金 6.1%
退職金制度 14.2%
賞与支給制度 42.8%
となっています。失業保険に関わる雇用保険は83%の比率で加入していますので、多くの人はなんらかの形で失業保険を受給できます。
契約社員が退職するときは「会社都合」と「自己都合」で失業保険に違いがでます。
失業保険の給付には失業保険をもらえるまでの待ち時間となる給付制限があります。
自己都合・・・・給付制限3ヶ月+待機期間7日
会社都合・・・・給付制限なし+待機期間7日
会社都合の場合はその待ち時間の給付制限がなくて1週間ほどで失業保険の給付を受けることができます。
期間満了で契約更新の際に、自分としては契約更新する気が満々なのに、会社からもう更新しないと告げられた場合も会社都合になって、給付制限が無く更に給付日数が増えたりなどの恩恵を受けることが出来ます。リストラや会社が倒産してしまった場合などはもちろん会社都合ですが、会社にパワハラなどの問題があって退職した場合も認定されれば会社都合になります。
契約満了の時に退職すると、理由は自己都合になりますが、「契約満了」として扱われて給付制限の3ヵ月が免除されます。契約満了前に退職してしまうと、給付制限が3ヵ月となって、失業保険の給付が4ヵ月ちかく遅れてしまいますので注意してください。
契約社員はスキル次第で正社員にも
契約社員は有期契約労働者、正社員に比べれば安定とは言えない雇用形態ですが、厚生労働省の各種の調査によると会社からは専門的な知識、能力、スキルが期待されていて、成果次第では高い収入や正社員への登用の道も開かれています。
労働契約法などの法律でも契約社員などの契約労働者に対する条件向上のための改正などがされています。期間満了になって契約を更新するときなど、契約社員の待遇は契約書の内容次第です。契約書はよく確認してから署名・捺印するように注意しましょう。