「承知いたしました」の意味と使い方
相手に対して使う言葉、特に上司や目上に対して使う敬語には尊敬語や謙譲語や丁寧語があり、実際に今自分が使っている言葉は正しいのだろうか、と悩むことがあります。
「承知いたしました」は、ビジネスの場面でもよく使われる敬語で、上司や先輩だけでなく、お客様や取引先相手の言葉や説明に対して理解ができたときに広く使われ、研修でも使用することを教えられる言葉でもあります。
では、実際にどのように使用することがあるのかを見て行きましょう。
「承知」の意味
ここで改めて「承知」の意味をおさらいしましょう。
承知は、命令や指示や依頼されたことを聞き入れることを意味し、さらに「事情などを知ること」の意味もあります。
そのため、目上の方や上司や取引先などから、何か指示されたり依頼されたりしたときに、OKの返事をするときは「承知いたしました」は一番適切と考えられます。
メールで使う「承知いたしました」
仕事上のやり取りはメールで行われることが多く、「打合せは15時からです」「ファイルの確認をお願いします」などのメッセージを日々受け取るシーンは日常茶飯事といえます。その際、あなたならどのようにメールで相手に返事を送ることが多いでしょうか。
「わかりました」「はい」などもありますが、「承知いたしました」も多いのではないでしょうか。この場面で「承知いたしました」は正しい使い方のため、問題はありません。
「承知いたしました」は正しい敬語なのか
自分では正しいと考えて使用している敬語でも、よく調べてみたら、実は失礼に当たることがありますので、「承知いたしました」も、もしかしたら失礼にあたるのでは、と考えてしまうケースやシーンがありそうです。
しかし、先ほども説明したように「承知いたしました」は、相手に対する支持や依頼に対してOKの返事として使用するのであれば正しい敬語といえます。
いたしましたと致しましたはどう使い分ける?
「承知いたしました」が正しい敬語であることを理解したところで、さらに「いたしました」と「致しました」といったように、メールなどで使用する場合、ひらがなで表記するのか、漢字で表記するのかで悩む方もいるのではないでしょうか。
「承知いたしました」のひらがななのか漢字なのかに関しては、補助動詞として使うのかそれとも単独動詞として使うかに注意すれば間違いが起こりにくいといえるでしょう。
補助動詞は、動詞の本来の意味が薄れてしまう場合や言葉の前に使う動詞を補助する役割の時はひらがなで表記します。そのため、承知の後に続く「いたしました」はひらがな表記ということになります。
一方、「いたしました」を「わたしがいたしました」、のような使い方をする場合は「わたしが致しました」と漢字で表記します。
漢字表記とひらがな表記で間違いやすい他の言葉
「いたしました」と同じように、他にも漢字表記とひらがな表記で迷う言葉があります。
「ください」は「下さる」という動詞の活用形、「いただく」は「もらう」の謙譲語になるため、「いたしました」のように補助動詞として使う場合はひらがな、単独動詞として使う場合は漢字表記が正しいでしょう。
他にも「おく」「みる」「いう」は、動詞として使うなら漢字、それ以外ならひらがなで表記することが正しいでしょう。
「承知いたしました」は二重敬語なのか
ビジネスシーンで敬語を使用する場面は多々あり、丁寧に話そうとしたり敬語を使おうと考えたりし過ぎてしまい、その結果、二重敬語を使ってしまう人を見ることがあります。二重敬語は、過剰敬語、異常敬語と呼ばれることもあり、ビジネスシーンや公式の場はもちろんですが、メールなどの文章でも使わないことが基本といえるでしょう。
「承知いたしました」が二重敬語かどうかですが、「承知いたしました」は「いたしました」のみが謙譲語のため、二重敬語ではありません。
つい使ってしまう二重敬語
二重敬語に関しては、知らず知らずのうちに使ってしまうことがありますので、よく耳にしたり口にしたりすることが多い二重敬語を改めて確認してみましょう。
まず「うかがわせていただきます」は何も考えずに口に出したりメールで使用したりすることが多いですが「うかがう」も「いただきます」も謙譲語です。「うかがいます」と使いましょう。
「お帰りになられる」や「ご覧になられる」もよく聞きますが、これも二重敬語です。「お~になる」や「ご~になる」ですでに尊敬語ですので、正しくは「お帰りになる」で十分です。
まれに「社長様」や「ご担当者様各位」のように敬称に敬称を重ねてしまう人も見かけますが、「〇〇社長」や「担当者各位」が正しい使い方です。
二重敬語は回りくどく見えたり聞こえたりするだけでなく、慇懃無礼に感じることもあります。これを機会に、普段よく使う言葉を見直してみましょう。
「承知いたしました」の目上の人への使い方
それでは「承知いたしました」を実際にどのように使うのか、例文をこのコーナーではいくつか紹介します。
上司に対するメールで使用する場合の例文
まず、上司に対してメールで「承知いたしました」を使用する場合の例文を紹介します。
○○課長
お疲れさまです。〇〇(自分の名前)です。
社内通達の誤記の件、承知しました。
訂正した文書をプリントアウトし、各部署に通達しておきます。
上記のように簡潔に文章をまとめ、必要な場合は自分の名前の後に導入文章を一行程度加え、「よろしくお願いいたします。」でしめくくることが望ましいでしょう。
また、よく使用する「お願いいたします」の「いたします」を漢字で表記する人もいますが、先ほど説明したように、こちらも補助動詞として使用しているため、漢字ではなく、ひらがな表記が正しでしょう。
販売元から消費者へ対しての例文
注文後に配送日や配送先を変更するケースもよくあることです。現在、ネットで店舗展開をする人も増え、そういったケースに対応する際、相手に対して不快感を与えないメールの書き方を知っておくことも大切です。
○○様
配送先変更の件、承知いたしました。
ご注文の品は連絡先のご住所へ配送させていただきます。
今後とも変わらぬご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。
必要な内容とともに、次回も利用してももらえるようなひと言を添えることも大切です。
問題発生に対する返答の例文
色々な人が利用する場所や施設は、発生する問題によって命の危険が伴うことがあります。そういった問題に対して、真摯な態度を示すことがとても重要といえます。メールや文章の書き方も、言葉の使い方ひとつで相手に不信感を抱かせてしまうため、十分な配慮が必要といえるでしょう。
・この度は、弊店駐車場の照明設備の不具合のお知らせをいただき、誠にありがとうございます。また、夜間の不審者の問題につきましても承知いたしました。早速、警備員による巡回警備の回数を増やし、照明設備を修理・増設いたしました。駐車場のご利用者と近隣にお住まいの皆さまにご不便とご心配をお掛けしましたことを心よりお詫び申し上げます。
利用者が一番知りたい対処方法とお詫びの言葉が添えられることにより、安心して利用できることが伝えられます。
「承知いたしました」と「承知しました」の違い
「承知いたしました」「承知しました」はどちらも同じように見えるため、類語ではないか、と考える人もいるようですが、実はこの二つの言葉は類語ではありません。
「承知しました」は、相手の言葉をきちんと理解した、事情を知った、相手の要望や命令を把握して受け入れたことを意味します。
「承知しました」は尊敬語ではない?
敬語は、相手をたてるときや目上の人の行動を敬語にするときに使う「尊敬語」、自分をへりくだるときに使う「謙譲語」、相手や話しの内容をとわず語尾に「です」や「ます」をつけ丁寧に話すときに使う「丁寧語」の大きく3つの種類にわけられます。
「承知しました」という言葉は、誰が承知したのかを考えると「自分」であることがわかります。先ほどの敬語の種類からみて「承知しました」が尊敬語でないことがわかります。同じように、「承知いたしました」も自分が承知している言葉のため尊敬語ではありません。
「承知しました」は上司には使えない?
では、「承知しました」を上司に使ってはダメなのか、というと決してそんなことはありません。しかし、「承知しました」は丁寧にいっているだけともいえるため、軽く聞こえてしまう可能性もあります。
かなり目上の上司や、失礼があってはならない上司に対しては「承知しました」ではなく、謙譲語の「承知いたしました」を使用することが無難であり、望ましいといえるでしょう。
しかし、気心の知れた上司や仲の良い上司に対してや、職場の雰囲気、堅苦しい言葉を嫌う性格の上司に対しては「承知しました」を使用する方が合っているといえます。
慣れるまでは「承知いたしました」を使用し、上司や職場の雰囲気がわかったところで「承知しました」に変えるのもよいでしょう。
「承知いたしました」と「了解いたしました」の違い
「承知いたしました」と同じ意味に取られる言葉に「了解いたしました」もあります。「了解いたしました」も「いたしました」という謙譲語が使われているため、上司や目上の方へのメールなどに使用しても問題ないように感じますが、本当のところはどうなのでしょうか。
了解と承知は意味が違う?
承知も了解も、相手の言う言葉の意味を理解しました、という意味ですが、もう少し詳しく見てみると微妙な違いがあります。
了解は「相手の話しを理解し、それを認める」に対し、承知は「事情を知っている」という意味で、言葉の意味だけみれば、相手を選ばずどちらを使ってもよさそうに感じます。
了解は相手を上からみて許す場面や、上位の権限を持つものが許可を与えるときに使用する言葉ともいわれるため、目上の方や上司に対して「了解」を使うことは避けた方がよいといわれています。
「了解」は本当に失礼なのか?
実は、2008年以前のマナー関連の本では「了解」は決して失礼な言葉ではありませんでした。とりあえずの返信に「了解しました」を使用することを推奨する文章を見ることもありました。
現在も「了解しました」は目上の方や上司に対して失礼でも、「了解いたしました」と謙譲語を使用するなら問題ないとする説もあります。
「了解」以外にも使わない方がよい言葉がある?
「了解」が目上に対して失礼な言葉であることが定着しつつありますが、同じように目上の方に使うのは失礼にあたる言葉として、相手をねぎらう言葉の「ご苦労様」があります。
「ご苦労様」は目上の人が目下に対してねぎらう言葉として使い、目下の人が使う場合は「お疲れ様」を使うべきといわれ、日常的に気を付けている人が多い言葉です。
しかし、これも本来どちらも目上から目下へのねぎらいの言葉で、「ご苦労さまに存じます」や「お疲れのことと存じます」が目下から目上へ使う丁寧な言葉として、1960年に刊行された「新しい模範手紙文」に掲載されていました。
1960年刊行の『新しい模範手紙文』によると、「ご苦労様に存じます」「了解いたしました」は目上の人に使う言葉として問題なく、むしろ今では目上の人に使うべきとされている「お疲れさまでした」の記述がない。
「承知いたしました」と「かしこまりました」の違い
「かしこまりました」も「承知いたしました」と同じくらい使用することが多い言葉です。どちらも、相手の言葉を理解し、仕事を引き受けたり承諾したりしたことを伝える言葉ですが、「承知いたしました」と「かしこまりました」も微妙な違いがあります。
「かしこまりました」の意味
「かしこまりました」を漢字で書くと「畏まりました」となります。「畏まる」は、身分の高い人や目上の人をおそれ敬う気持ちを表した態度や、謹みの気持ちを表し、堅苦しい姿勢や正座をする姿や、依頼や命令を謹んで承ることを表す意味があります。
「かしこまりました」を使うことにより、承諾する内容を十分に理解し、その言葉に従うということが相手に伝わります。
「かしこまりました」を使う相手
「かしこまりました」を使う相手は、新規の取引先、大事な取引先、大切なお客様の他、かなり上のポジションである上司などがあげられます。
「承知いたしました」よりも「かしこまりました」を使うことで「あなたの指示に従い、喜んで引き受けさせていただきます」といったニュアンスを伝えることもできるといえるでしょう。
そういった意味も含め、接客業の中でもホテルや旅館やレストランなどのスタッフが「承知いたしました」ではなく、「かしこまりました」を使用するシーンを見ることが多いです。
「かしこまりました」は使う相手を選ぶべき?
今までのことから「かしこまりました」が一番失礼がなく「承知いたしました」も「かしこまりました」に変えれば誰に対しても問題がないだろう、と考えてしまいます。「かしこまりました」は相手を上に置くことにもなるため、距離を感じさせてしまうことがあります。
後輩や同僚などの親しい相手や、長年のお付き合いがある相手に対して「かしこまりました」と返してしまうと「一定の距離を置かれている」と感じさせてしまうため「かしこまりました」や「承知いたしました」の後に一言添えたり、感謝の気持ちなどを添えたりすることで、やわらかい印象に変わります。
距離を感じさせない使い方の例
「かしこまりました」を使う場合
・「かしこまりました。〇日までにやります」
・「かしこまりました。ただ今からお届けにまいります」
「承知いたしました」を使う場合
・「承知いたしました。それでは明日お伺いします」
・「承知いたしました。本日は、お忙しいところ誠に失礼をいたしました」
「承知いたしました」を使いこなそう!
「承知いたしました」はよく使われる敬語です。しかし「承知いたしました」と同じ意味をもつ言葉は他にもあり、使う相手により変える必要があるため、悩んだり迷ったりする方がたくさんいます。
敬語は日本人でも使いこなすことが難しいといわれますが、慣れれば誰でも使いこなせるようになりますので、まずは使うシーンの多い「承知いたしました」から使いこなしていきましょう。