「若干」の意味と使い方
「若干」という言葉を聞いたことがないという人は少ないでしょう。ビジネスなどの少々堅苦しい場面ではよく耳にする言葉です。実際に使っているというひとも多いでしょう。
ただ、詳しい意味や用法を問われると、困ってしまうのではないでしょうか。なんとなく使い分けができていればそれで十分という人もいますが、微妙なニュアンスがわかっていないと、大事な場面で誤用してしまって恥をかいてしまいます。
今回は知っているようで知らない「若干」の意味や使い方について、詳しく解説します。
「若干」の意味は?どういうときに使うの?
「若干」の意味を理解するには、よく似た「弱冠」という言葉と比べてみるとわかりやすくなります。しばしば誤用の例として紹介される言葉ですが、読みはどちらも「じゃっかん」なので、とても紛らわしい言葉です。
意味も似ているようで、その実まったく違う場面で使う言葉なので注意が必要です。以下で詳しく解説します。
「若干」と「弱冠」は違う!
まずは例文を読んでみましょう。
・なかなかのアイデアだが、若干問題がある
・彼は弱冠18歳で小説家としてデビューした
2つの例文の意味が全くわからないという人は少ないでしょう。問題が「少し」ある、18歳という年齢が「若い(少ない)」という意味であることはわかります。一見似たような意味ですが、この2つの「じゃっかん」を入れ替えることはできません。
「弱冠」は年齢にしか使えない
「弱冠」という言葉は、中国の古典「礼記」に由来する言葉です。元々は年齢が20歳の男子を表していました。しかし、時代を経て意味が変わっていき、今では20歳の男子に限らず、年が若いこと(実力や才能のわりに年が若いというニュアンス)を表す言葉になっています。
例文の場合は「18歳という若さにも関わらず小説家としてデビューした」というニュアンスです。
年齢にしか使えない言葉なので、例文を入れ替えて「弱冠問題がある」としても、意味が成り立たたず、明らかな誤用です。
「若干」は幅広い用法を持つ
それに対して「若干」は、「あまりはっきりしないが多くはない」ことを表す言葉です。「弱冠」のように年齢だけではなく、数量や程度を幅広く表す言葉です。
例文の場合は「はっきりこれぐらいだとは示せないが、少し問題がある」というニュアンスです。
であれば、例文を入れ替えて「若干18歳」としても、「年齢が多くはない」という意味になって通用しそうですが、これはおかしな表現です。
そもそも「弱冠」という他に適した言葉があるのだからおかしい、という理由もありますが、それよりも「若干」には「はっきりしていない」という意味があるため、「18歳」という具体的な数字とセットで使ってしまうと矛盾してしまいます。
誤用に注意!
この2つの言葉は読みが同じなので、会話では間違えてもごまかせますが、文章ではごまかしようがありません。
さらに漢字の書き間違いもしばしば見受けられます。辞書に誤りとして掲載されていますが、「弱冠」を「若干」と混同して「若冠」と書いてしまう人がいます。
「若干」と「弱冠」の違い、「若干」には「はっきりしない」「量が程度が多くない」という意味があることをしっかり理解しておきましょう。
「若干」の語源は?
「若干」の意味がわかりにくい理由のひとつに漢字の難しさがあります。漢字の意味をそのまま解釈しても、意味がさっぱりわかりません。
「若い」という漢字と「干す」という漢字が合わさるとなぜ「はっきりしないが多くない」という意味になるのでしょうか。
「若干」は中国から来た言葉
「若干」の意味を詳しく理解するには、この言葉の語源を知る必要があります。
まず「干」の字を2つのパーツに分解します。すると「十」と「一」という数字になります。これと「若」の字を合わせると「一の若(ごと)く十の若(ごと)し(一のようでもあり十のようでもある)」と解釈できます。一のような十のようなはっきりしない数、すなわち「はっきりしないがあまり多くはない数」という意味になります。
古くは中国の戦国時代の思想書、「墨子」に「若干人」という形で使用例があります。これは現在でいうところの「若干名」を表しています。
日本でも平安中期の軍記物語、「将門記」に「何ぞ若干の財物を虜領せしめ」という記述があります。とても古くからある由緒正しい言葉です。
「若干」は敬語でも使える?
「若干」はビジネスなどの現場で使われることが多い言葉です。となると気になるのは敬語との関係です。
「若干」という言葉を使うと失礼にあたることは、あまりありません。ただ、どちらかというと文章で使われることが多い堅苦しい言葉で、柔らかさに欠ける面があります。会話などで使うと事務的な印象を与えてしまいかねません。
敬語表現で「若干」を使う場合は、ケースバイケースで柔らかい表現に変えたほうが自然に聞こえる場合があります。
以下で例文を上げながら、より詳しく見ていきましょう。
丁寧語の例文
丁寧語とは「です」「ます」などを語尾につけて、相手に対して丁寧に述べるための語です。敬語のなかでは最も用法が広い表現です。以下の例文を読んでみましょう。
・机の上に本が若干あります。
・机の上に本が少しあります。
言い換え前の文章が間違っているというわけではありませんが、どうにも固すぎる印象を受けます。ここでは意味がほとんど同じで、柔らかい印象を与える「少し」に変えています。
尊敬語の例文
尊敬語とは、相手、もしくは自分以外の第三者の動作や状態を立てて表現する語です。例えば次のような文です。
・先生は若干お忙しいようです。
・先生は少々お忙しいようです。
立てる対象である先生の状態が「忙しい」ので、「お」をつけて敬意を表しています。
「若干」でも意味は通じますが、やはり堅苦しい印象は拭えません。丁寧語のように「少し」でもいいですが、ここではやや固さを残した「少々」に変えています。
謙譲語の例文
謙譲語とは、相手、もしくは自分以外の第三者を立てるために、自分や自分の側のもの、動作などをへりくだって表現する言葉です。例文を見てみましょう。
・こちらで若干お待ちいただけますか。
・こちらで少々お待ちいただけますか。
「お待ちいただく」は「待ってもらう」の謙譲語です。「待ってもらう」の「もらう」を自分の動作と捉えて、へりくだって表現しています。この場合も尊敬語と同じく、「若干」でも意味はなんとなくわかりますが、違和感があります。「少々」や「少し」が適切です。
シチュエーションに応じて使い分けよう
いずれの例も「若干」を使うことが間違っていたり、失礼だったりするわけではありません。
「若干」に相当する敬語があるわけではないので使い分けが難しいのですが、柔らかく表現したほうがよさそうなシチュエーションであれば、言い換えましょう。
「若干」を使った言葉にはこんな例がある
ここでは実際に「若干」が使われている言葉のなかから、特によく見られる例を取り上げて、詳しく解説します。
「若干名」の例文
ここからは、「若干名」を使った例文を紹介していきます。よく理解して実際に使用する際に役立てて下さい。
商品が追加で若干数入荷しました。
これもよく見られる表現ですが、いったいどの程度の数を表しているのでしょうか。
似た表現に「数個」という言葉があります。辞書を引くと「2、3個から5、6個の数」とあります。それに対して「若干名」は「はっきりしていない」のですから、先に説明した語源に厳密にそった解釈をすると「1から10の間のはっきりしない数」となります。
実際にこの言葉が使用されるときに「1から10の間」という数字がイメージされているというよりは、「はっきりしない」という意味のほうが重要です。企業などがこの数字を使うときなどは、数字をはっきりと示すことはできないが、少ないことだけはわかるということです。
当店では現在若干名のスタッフを募集しています。
上の例文は企業の求人などでお決まりの表現です。ここまでの説明を読んできた人であれば、はっきりしないが少ない人数だろうというのはわかります。しかし、似た意味を表す「数名」という言葉もあり、どう使い分ければよいのかよくわかりません。
「若干名」という言葉を詳しく説明している辞書は少ないのですが、一説によると「1人も含んだ少ない人数」を表していて、「数名」よりも「若干名」のほうが少ない人数を表しているとのことです。
ただ、あくまでもイメージの話であって、実際にはそれほど厳密な使い分けはされていないというのが実情でしょう。「数名」と言い換えても特に問題ない場合がほとんどです。
「若干数」の例文
ここでは「若干数」を使った例文を紹介していきます。「若干名」との違いを理解して、使い分けましょう。
商品が追加で若干数入荷しました。
これもよく見られる表現ですが、いったいどの程度の数を表しているのでしょうか。
似た表現に「数個」という言葉があります。辞書を引くと「2、3個から5、6個の数」とあります。それに対して「若干名」は「はっきりしていない」のですから、先に説明した語源に厳密にそった解釈をすると「1から10の間のはっきりしない数」となります。
実際にこの言葉が使用されるときに「1から10の間」という数字がイメージされているというよりは、「はっきりしない」という意味のほうが重要です。企業などがこの数字を使うときなどは、数字をはっきりと示すことはできないが、少ないことだけはわかるということです。
「若干年齢」の例文
「若干年齢」という表現もあります。どういう場合に使うのでしょうか。
うちの店の客層は若干年齢が高い
この例文の場合はどうでしょうか。素直に解釈すると「はっきりとはわからないが年齢が少し高い」という意味ですが、だいたい何歳ぐらいを指しているのか曖昧でよくわかりません。
常識的に考えれば30歳から40歳ぐらいでしょうが、どういう場面で使われているのかによってどうとでも解釈できる曖昧な表現です。
はっきり示せるときは具体的な言葉を使おう
「若干名」「若干数」「若干年齢」と3つの例を紹介しましたが、全てに共通する用法は表現したい事柄が曖昧ではっきりしないときに使うということです。具体的な情報を示すことができないときに、それでもなんとか表現しなければならないので「若干」という言葉が使われる傾向があります。
とても便利な言葉ですが、なんでも「若干」で表現してしまうと文章全体がとても曖昧になってしまいます。具体的な情報を示せるのであればそのようにし、示せないのであれば「若干」を使うようにしましょう。
「若干」を言い換えることはできる?
「若干」には意味の近い言葉がいくつもあるため、言い換えは比較的簡単にできます。例文を見てみましょう。
「少し」の例文
・他の店より少し高い。
・他の店より若干高い。
「少し」は敬語のところですでに説明した言い換え表現です。日常生活でもよく使われる言葉です。使える場面が広いので、「若干」の言い換え表現の中では最も使いやすい言葉です。
「ちょっと」の例文
・ちょっと頭が痛い。
・若干頭が痛い。
「ちょっと」も日常生活でよく使われる言葉ですが、口語(話し言葉)なので文章や改まった場面での使用には適していません。
「多少」の例文
・会社に多少遅れるかもしれない。
・会社に若干遅れるかもしれない。
「多少」は「少し」や「ちょっと」よりは固い言葉ですが、「若干」に比べると柔らかい
表現です。「全体からすればほんの少し」というニュアンスで使われることが多い言葉です。
雰囲気やニュアンスの違いに注意
ここで紹介した全ての言葉が数量や程度が少ないことを表しているので、言い換えてもほとんど意味は変わりません。ただし、それぞれニュアンスが微妙に違うので言い換えには注意が必要です。
また、すでに説明しましたが「若干」はやや形式張った堅苦しい表現なので、「ちょっと」や「少し」などで言い換えると、同じ意味でも雰囲気が変わることにも注意しなければなりません。
「若干」の対義語・反対語はある?
「若干」に完全に対応する対義語、反対語は辞書には掲載されていませんが、「若干」の意味を考えれば、それに近い言葉をいくつも見つけることができます。例文を見てみましょう。
「たいそう」の例文
・私の兄は身長が若干高い。
・私の兄は身長がたいそう高い。
「たいそう」は程度や分量がはなはだしく大きいことを表す言葉です。似た意味の言葉に「たいへん」がありますが、「たいそう」のほうはやや改まった場面で使う言葉です。その点は「若干」と似ています。
「たくさん」の例文
商品が若干売れ残っている。
商品がたくさん売れ残っている。
「たくさん」は日常生活でよく使う言葉です。数量が多いことを表しますが、程度を表すときには使えません。「彼女は若干怒っている」とは言えますが、「彼女はたくさん怒っている」と言うと不自然です。「若干」と完全に対応しているとは言えませんが、覚えておきましょう。
「かなり」の例文
・今回の試験は若干難しかった。
・今回の試験はかなり難しかった。
「かなり」は程度が極端に大きいわけではないが、平均以上であることを表す言葉です。似た意味の言葉に「だいぶ」がありますが、「だいぶ」は「だいぶ暑くなってきた」のように現在進行系の事柄に使うことが多い言葉です。
微妙な意味の違いに気をつけよう
「たいそう」「たくさん」「かなり」と3つの言葉を上げました。これ以外にも「相当」や「いっぱい」、「だいぶ」などの言葉があります。
いずれも分量が多かったり程度が大きかったりするときに使う言葉です。分量や程度が少ないことを表す「若干」と意味が対立していますが、量や程度が「はっきりしていない」という点では共通しています。
どの言葉もおおまかな意味は共通していますが、意味が微妙に違うので使い分けに注意しましょう。
「若干」をうまく使いこなそう!
今回は使えているようで使えていない「若干」という言葉の意味や成り立ち、用法などを詳しく紹介しました。
語源にまでさかのぼって意味を追っていくと、なかなか使い方が難しい言葉です。特にビジネスなどの現場では思わぬ誤解を招きかねません。
しかし、うまく使いこなせればとても役に立つ言葉なので、しっかり意味や用法を理解しておきましょう。