「当職」と「小職・貴職・当方」の違い・使い方・反対語|敬語

ビジネススキル

「当職」や「小職」「小生」の違い

ビジネス実務の現場において、取引先などの人から来たメールでときおり見かけるのが「当職(とうしょく)や小職(しょうしょく)」などという言葉です。これらはいったいどういう意味で、どのようなときに使う言葉なのでしょうか。

これらの言葉は自称する際、「わたし・ぼく」にかわる言葉として使われる一人称です。今回は「当職」「小職」「弊職」などの正しい意味を確認し、ビジネス実務の現場において違和感ない自称について考えてみましょう。

年配の方が好んで使う一人称

これらは、「自分」をへりくだって表現する一人称(自称)で、おおむね年配の方を中心に手紙やメールで好んで使われることが多い言葉です。「小職」「弊職」「小生」などには大まかな意味に違いはありませんが、やはり微妙な使い方の違いがあります。

「当職」は一人称を表す言葉

「当職」も「小職」「弊職」などと同様、「僕」「私」と同じように自称する際に使う言葉です。例えば、「当職の考えとしては、その方法を選択すべきではないかと存じます」などというように使用します。

「当職」の「職」は一定の職業を指しており、実際的には弁護士の方が主に使用する傾向にあります。他にも弁護士に類する職業として、司法書士や弁理士などの士業が一人称として使うことが多くあります。まずは意味を見てみましょう。

「当職」という言葉の意味

「当職」という言葉の意味をご紹介します。

(名詞として)
(1)この職務。この職業のこと。
(2) 現在の職務。また、現職のこと。

(代名詞として)
(1)一人称。現にその一定の職務についている者が用いる呼称。自分。わたくし。

「当職」の一人称以外の使い方

「当職」のべつの使い方として、「当職の慣例として、こちらからご説明に出向くことはできかねます。」などというかたちで、文字どおり「この職業」という意味で用いられる場合があります。この意味で用いる場合の職業は、弁護士を代表とする士業などの一定の職業に限定されませんので、どの職業の人が使用しても問題ありません。

「当職」は、弁護士などの一定の職業の人が自称する際の一人称として用いる場合と、「この職業」を表す意味として用いる場合の2通りがあります。

「当職」とその他類似語との違い

「当職」と似た言葉はいくつかあり、その使い方や意味の違いなどに迷うところです。そのうち、「小職」「弊職」「当方」「小生」「下名」について、意味合いや使い方などを見比べてみましょう。

「小職(しょうしょく)」の意味と使い方

「小職(しょうしょく)」は本来、おもに国家公務員などの官職にある人が役人として自称する際に、へりくだる表現です。自分がへりくだることで相手に敬意を示す謙譲語に当たります。それが転じて、やがて民間にも使われるようになりました。現在では一般的に広く使われています。

たとえば民間の企業や事務所などでも課長や部長といった管理職である「役職についている人」にとって、「小職」は使いやすい呼称と言えるでしょう。役職者以外が使う場合でも間違いではありませんが、本来の由来や意味は知っておくとよいでしょう。

気を付けるべきポイント

「小職」は元々位の高い人が自分の立場をへりくだって用いる「謙譲語」なので、多用しすぎるとかえって慇懃無礼に感じられ、相手に「自分は偉い」という印象を与えることもあるので気を付けましょう。

また、目上の役職にある相手に対して役職のない立場の人が使うのは不自然である場合があります。 必要以上に堅苦しく、形式ばった印象を与える可能性があるのでその点も注意が必要です。

「弊職(へいしょく)」の意味と使い方

「弊職(へいしょく)」は、「その職務についている自分をへりくだる一人称表現」です。現在は辞書に載っている言葉ですので、実務の現場で使っていても間違いではありませんが、その一方で、「弊職」は「弊社」と「小職」をあわせた造語と言われることもあり、一般的ではないとする見方もあるということを知っておきましょう。

「当方(とうほう)」の意味と使い方

「当方(とうほう)」とは 「こちら」「われわれ」「自分の所属する組織 」 を意味する自称表現です。ビジネス実務の現場では、主に自分が所属している会社やチームなどを指す場合に使用されることの多い言葉です。本来は複数名の団体を指す言葉ですので、一人称としての「わたし・ぼく」にかわる意味での「当方」の使用は誤りになります。

気を付けるべきポイント

「当方」は例えば相手方の組織に対して、「自分の属しているチームやグループ」を示す言葉ですので、部署内や社内などの同じグループ内で使用するのは不自然です。

ビジネスの実務シーンでは、一般的な企業や法人では「弊社」もしくは「当社」、銀行であれば「当行」や「弊店」が用いられます。または、単純に「わたくしども」「てまえども」などで言い換えられることもあります。中でも、一般企業が自らを呼称する場合は「弊社」を使用することが最も一般的です。

企業全体として指す場合に「当方」を用いることは少なく、「当方」を使用する具体的な場面としては、例えば担当者がまだ決まっていない段階などで相手先から連絡があった場合などに(担当者名を出せないという理由などから)「当方よりご連絡いたします」といったかたちで使われることが多いです。

「小生(しょうせい)」の意味と使い方

「小生(しょうせい)」も一人称ではありますが、やや文語寄りでかたく、一般的に男性が使う言葉とされていますので女性が使うことは控えた方がよいでしょう。

「小生」は辞書には「自分と同等もしくは、目下の人に対して使うものとされる」とありますので、目上の人に対して使うと「無礼である」「生意気だ」と受け取られる可能性が懸念されます。また、大抵は手紙などで使用されますので、会話の中や口語ではあまり使用されることはありません。

気を付けるべきポイント

「小生」は自分が偉いことを前提に、「へりくだって使う謙譲語」であるため、目上の相手に使ってしまう際には注意が必要です。 たとえ相手が同等、もしくは目下の人であったとしても、ビジネスシーンで「小生」という一人称を用いることで「相手が目下の者だ」と暗示することになる恐れがありますので、「小生」を用いるのは避けた方が無難であるといえます。

「下名(かめい) 」の意味と使い方

「下名」とは「自分をへりくだって指す謙譲語」として使われています。 「当職」や「小職」などと異なり、職業に特にとらわれることなく男女隔てなく使用できるので、手紙やビジネスメールなどでも幅広く用いて問題ない表現です。

しかしながら、「下名」は日常で使用するには堅苦しい印象を与えてしまう可能性があり、自分や相手方の年齢などによっては不自然な違和感を持たれてしまうこともありえますので、注意が必要です。あえて用いる場合は特に気を付けましょう。

また、「下名」と「小職」は共に「自分をへりくっだていう謙譲語」なのでビジネスシーンでの一人称としての意味合いに大きな違いはありません。

立場別「当職」の使い方

これまで、「当職」やそれに類する一人称である「小職」「弊職」などの意味の違いや使い方を見てきました。では、「当職」はどういった立場の人がどのように使う言葉なのでしょうか。

会社員

「当職」は主に弁護士などの士業に身を置く専門家の第一人称として使用されています。通常、弁護士や司法書士、弁理士など決まった職業の人が使う一人称なので、一般的な会社員が使用するのには適していません。

弁護士・司法書士など

「当職」は弁護士をはじめとする士業の使う一人称であることは上記で説明したとおりですが、そもそも「当職」という言葉は一般的に馴染みがないため、使われるとされる弁護士や弁理士など士業の専門家のなかでも適切な言葉なのかどうか、懐疑的に思う人もいます。

「弁護士などの第一人称」という意味の場合

「当職」=「弁護士などの第一人称」という意味で使う場合の例

例文:先日お送りした資料にご捺印いただき、当職まで返送をお願いいたします。

「当職」=「この職業」という意味の場合

「当職」=「この職業」という意味で使う場合の例

例文:当職の問題点は定時勤務が難しく、拘束時間が長時間にわたりがちなところです。

「当職」の敬語での使い方

目上の相手にメールを書く際などにおいて「当職」を用いる場合の敬語表現についてみてみましょう。

一人称の「当職」に敬語はない

「当職」は自らを低くする一人称(つまり謙譲語)ですので、相手を上げるという意味での敬語的表現に言い換えることはできません。

謙譲語

より自らを低くへりくだる(謙譲する)という意味での謙譲語的表現は、類語の「小職」などが該当するといえます。

使い方例

例文をご紹介します。

例文:本日ご不在のようでしたので、小職より封書にて本件の審査結果を送付申し上げます。

「当職」の反対語

それでは、「当職」の反対語についてみてみましょう。

「当職」の反対語は「貴職」

一人称である「当職」の反対語は、二人称である「貴職」が該当します。読んで文字のごとく、あなたを敬意表現した言葉です。

「当職」の一般的な使い手の職業が弁護士などの士業に限定されているように、「貴職」も同様に主に公務員を指す場合に多く使われます。民間企業では、「あなた」という意味で呼称する際は役職名などを用いることが多いため、耳慣れず堅苦しく感じられる可能性もあります。

「貴職」の使い方

「貴職」という言葉は一般的に、文語扱いのため口語では使わず、手紙・文書やビジネスメール等の文面で用いるのが正しい使い方といえます。挨拶や文書の初頭につけることも多いでしょう。

メール文での使い方例

メール文での使い方例をご紹介します。

使い方例:貴職におかれましては、ますますご清栄こととお慶び申し上げます。

類語:貴殿(きでん)

二人称の代名詞で、敬語的表現の言葉です。主に男性が目上または同等の男性に対して用いることの多い呼称で、ビジネスメールや文書などで多く見かけます。公的な書類などでも「貴殿」と表記されることが少なくありませんので、なじみのある二人称の故障表現であるといえます。

「貴殿」は書き言葉の一種であり、話し言葉として使うことはほとんどありませんが、書面上では男性だけではなく、目上の女性にも用いることができますので覚えておくとよいでしょう。

貴社(きしゃ)

貴社とは、相手方の会社を指す場合に用いる代名詞的表現です。「貴社」という言葉はビジネスメールや文書だけでなく、就職や転職活動などにおいてもよく見かけますし、ビジネス実務の現場で実際に使ったこともある言葉ではないでしょうか。こちらは当然ですが、年齢・男女関係なく使って問題ない敬語的表現です。

注意するポイント

便利な「貴社」という敬語表現ですが、注意しなければいけないポイントがあります。「書き言葉」と「会話」では使う言葉がかわるという点です。この「貴社」という言葉は書類やメールなどのいわゆる「書き言葉」として用いるべきもので、会話中に相手方を呼称する場合は「貴社」ではなく「御社」を用います。

「御社」は意味合いは「貴社」と同じですが、口語で使う際に相手の会社を指す場合に用いるの話し言葉です。同様に、文書やメールなどで「御社」と記載するのは誤りと言えます。気を付けるようにしましょう。

「当職」の使い方

「当職」の具体的な使い方を、メール文例で見てみましょう。前後の文脈と併せて見ると、一人称としての「当職」のニュアンスが読み取れます。

メール文での使い方:使用例

メール文での使い方の例をご紹介します。

・当職はこの商標に関して、申請不受理の自由についての照会を希望します

・当職が知りたい情報は、添付要望書の項目すべてになります

・当職は、この事件については示談で進めるのが妥当であると判断します

「小職」とは異なる強気な姿勢

上記のように、どの職業においても「当職」は要求や進言、立場として意見を述べるときに使われ、謙譲表現である「小職」のニュアンスとは明らかに異なり強気な姿勢を示す一人称表現です。自分をへりくだった意味で使われる「小職」などの類語とはこういう部分で使い方が異なると言えるでしょう。

相手別「当職」の使い方

最後に、相手別に見る「当職」の使い方についてみていきましょう。上述のとおり、「当職」と一人称で用いる場合はその言葉の与えるニュアンスに注意が必要です。

相手が目上の人の場合

「当職」には強い主張や意見を述べるニュアンスが含まれますので、状況によっては上から目線なものの言い方だと相手に受け取られてしまう可能性があります。へりくだった謙譲表現のつもりで使っていたとしたら、このように受け取られてしまうことはとても残念です。

目上の相手に謙譲表現の意味で使う一人称としては、「当職」は適切でないと言えるのではないでしょうか。この場合は、「当方」や「わたしども」といった一般的な表現を用いるのが無難であると言えるでしょう。

相手がお客様の場合

自身が弁護士や司法書士など士業の立場にあり、クライアントであるお客様に対して一人称に「当職」を用いる場合は正しい意味で使用できていると言えます。かっちりとした姿勢の正しい印象を与えますので、使用には適した場面だと言えるでしょう。

ビジネス現場においての一人称は注意が必要

いかがだったでしょうか。「当職」と「小職」「弊職」など、類語だと思い使っていたこれらの一人称にはすくなからず違いがあり、場面や相手によってはこれらを用いることが適切でない場合もあることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

失礼のないよう、また丁寧に言葉を選んだことが正しく伝わるよう、意味の違いをしっかり理解しておくとよいでしょう。

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