「ご賞味ください」の使い方・類語・ご笑味との違い|手紙/敬語

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「ご賞味ください」の使い方

「ご賞味ください」という言葉はさまざまな場面で聞きますが、この言葉の意味を意識して使ったり使われたりしたことはありますか。聞いた時の語感がやわらかくきれいなので、つい聞き流してしまいがちですが、場面によってはとても礼を欠いた言葉になってしまいます。

「ご賞味ください」とは、どこで使うのがふさわしいのか、使うべきでないのはどういう時なのかを見ていきましょう。

「ご賞味ください」の意味

「賞味」という言葉は「賞味期限」などで日常的に目にします。未開封であることを前提に「おいしく食べられる期限」という意味です。では、「ご賞味ください」となるとどうなるでしょうか。「おいしいうちに味わって食べてください」といった意味になるでしょう。

ところで、この「ご賞味ください」は相手との関係しだいで適切であったり失礼になってしまったりします。そこで、どのように使い分けるといいのかご紹介します。また、使用がふさわしくない場合に代わりにできる似た表現についても取り上げてみましょう。

手紙の場合

お中元やお歳暮、その他なにかの折に贈り物をする時、添え状をつけて送るのが礼儀となっています。その時「どうぞご賞味ください」と何気なく書いてしまうと、相手によっては失礼にあたることがあります。

代用できる言葉として、読み方が同じということで「ご笑味ください」が挙げられます。また他には、「ご笑納ください」や「どうぞ召し上がってください」が適切な言葉になるでしょう。

直接手渡す場合

贈り物を郵送ではなく直接相手に手渡す場合は、さらに気を付けたほうが良いでしょう。手紙ではお勧めできる「ご笑味ください」も、口で伝えると発音が同じであるため「ご賞味ください」と勘違いさせてしまう可能性があるからです。直接手渡しする時は「お召し上がりください」のほうが誤解を招くことはないでしょう。

では、「ご賞味ください」がなぜ失礼になってしまうことがあるのか、次の項でご説明します。

「ご賞味ください」とその他の表現

「つまらないものですが」という言葉を聞いたことはないでしょうか。これは相手を気遣い、自らはへりくだった表現になります。

贈る側はおいしいから勧めたいと思っていても、相手の口に合うかどうかはわかりません。親しい間柄への贈り物なら「おいしいよ」と直接言っても問題はありませんが、礼儀を必要とする相手にそう言って贈るのは、日本ではあまり好まれません。

「ご賞味ください」という表現になると「おいしいのでぜひ味わって食べてください」と少々押しつけがましい感じになってしまいます。特に目上の人にはふさわしくない言葉です。

では「ご笑味ください」と「お召し上がりください」、「ご笑納ください」はどうでしょうか。

ご笑味ください

「ご笑味ください」は「笑って召し上がってください」という意味合いです。「つまらないものですが、どうぞご笑味ください」とすると丁寧でやわらかな印象になるでしょう。「お口に合うといいのですが、話のネタ程度にでも召し上がってください」といった意味になります。特に相手の立場に関わらず使える汎用性のある言葉です。

先にも書きましたが、発音が「ご賞味ください」と同じであるため、相手へ直接贈り物をわたす時は注意が必要です。

お召し上がりください

よく聞くフレーズですが、日本語の構成から考えると間違っているという説があります。

その理由は、「召し上がる」が「食べて」の尊敬語であり、そこにさらに「お・~ください」の敬語がついているため二重敬語になっているからです。通常、日本語ではこのような使い方はしません。本来なら「召し上がってください」だけで充分です。

ところがもう一つの説として、「お・~ください」は敬語ではなくただの丁寧語であるというものがあります。この考え方だと「お召し上がりください」はどこもおかしいことはない言葉ということになります。

そして日本語では、人々の中に定着してしまっている語については、誤用であっても例外として通用するという特徴があります。その点から「お召し上がりください」もまた汎用性のある言葉と言えるでしょう。

ご笑納ください

「ご笑味ください」や「お召し上がりください」と同じくらいに、さまざまな場で使える言葉です。「たいしたものではありませんが、笑い話のネタ程度としてお納めください」といった意味になります。わたす相手を慮り控えめに品を勧める日本的な言い回しです。

相手に直接贈り物をてわたす場合、「ご賞味ください」と同じ発音の「ご笑味ください」による無用の誤解を防ぐためにも「ご笑納ください」のほうが良いでしょう。

実際に贈る品の質とは関係ない

へりくだって贈り物を差し出すからといって、実際に贈り物の中身を貶めているわけではありません。あなたが誰かに贈り物をする時、本当に「つまらないもの」や「たいしたことのないもの」を贈るでしょうか。違うはずです。

最近の風潮として「おいしいものを、相手にもそう伝えて贈りたい」という流れが一部にあります。これが間違いとは言えませんが、日本には昔から、特に目上の相手には相手を尊重し自らはへりくだってものを言う慣わしあります。受け取る側もそれを承知していますので「つまらないものですが」と差し出されたものを、言葉どおりに受け取ることはありません。

また、どんなに親しい人が相手でも礼儀をもった対話が必要な場面は必ず出てきます。そういう時のためにも、場にふさわしい表現を知っておいて損はありません。

飲み物には使えるのか

食べ物の贈り物の種類はさまざまです。大まかに固形物と液体物に分けた時、「ご賞味ください」はどちらに使うのでしょうか。

答えは、どちらにも使えます。「ご賞味ください」の意味が「おいしく味わってください」であるため、食べ物であれば使用できます。

外国人におすすめしたい時は

たとえば「ご賞味ください」と外国人にお勧めしたい時、英語ではどう表現するのでしょうか。いろいろありますが、以下の三つを挙げておきます。

Hope you try and taste it.

Enjoy your meal.

Because it’s good, please try it.

どれも「ぜひ食べてみて」と勧める意味を持つ表現です。

「ご賞味ください」の類語

「賞味」の類語に「玩味(がんみ)」や「賞翫(しょうがん)」といった語があります。意味は「賞味」とほぼ同じで「じっくり味わうこと」や「おいしさを褒め味わうこと」という内容です。

たとえば、プロの料理人や食品メーカーが作った自信作をお客に披露するならば、「ご賞味ください」「ご賞翫ください」は正しい言い方になります。

「ご賞味ください」の敬語での使い方

たとえば食品メーカーが新商品を開発して、それをデパートやスーパーでお客に試食もらいたいとします。メーカーとしては、お客にじっくり味わって食べて気に入ってほしいので、「どうぞご賞味ください」と勧めるのは間違いではありません。しかし、それ一点で推し進めるとお客からはうっとうしがられてしまうでしょう。

あるいは、自分はプロの料理人ではないけれど、自慢できるものを作ったからぜひ食べてみてほしいと、人に勧める時も「ご賞味ください」は偉そうに聞こえてしまい適切ではありません。

似たような意味の別の言葉を用いたり付け加えたりして、印象に変化をつけることができます。

謙譲表現

いくら自信のあるお勧めの新商品だったとしても、押しつけがましいのは好ましくないでしょう。一歩引いて「召し上がってみてください」と言うと、聞いたほうに取っつきやすい印象を与えるでしょう。

ですが「召し上がってみてください」だけでは控えめすぎて、せっかくの自信作のイメージが薄れてしまいます。「新商品」であることや「お勧めの品」であることもアピールすると、「ご賞味ください」により近い意味になるでしょう。

丁寧語

「ご賞味ください」の「ご・~ください」がすでに丁寧語ですので、これにさらに何かを付け加えるとおかしな日本語になってしまいます。これはこのままにして、お勧めしたい商品のポイントを添えるのがいいでしょう。

仮に新商品を不特定多数のお客ではなく、メーカー上層部の人を相手に試食してもらう場合でも、「ご賞味ください」は間違いではありません。自信作であるなら、自信を持って使いましょう。

友人などに気軽に手料理をふるまいたい時

こういう場合は「ご賞味ください」の使い方は相手によりけりです。

もしあなたがほんの軽口として「ご賞味ください」と言ったとして、それを軽口と受け取ってくれる相手なら問題はないでしょう。しかし、そうと言い切れない相手の場合は、「気に入ってくれると嬉しいけれど」や「お口に合うといいけれど」と一言添えて「どうぞ召し上がってください」とお勧めするのが無難です。

種類別「ご賞味ください」の使い方

前の項のようにプロの料理人や食品メーカーが自信を持って勧めたい料理などを食べてもらう時には、「ご賞味ください」は間違いではありません。ですが、家庭菜園で採れた野菜や 趣味で作ったお菓子などを人に贈る時にはふさわしいとは言えないでしょう。そのような時は、「ご笑納ください」や「お召し上がりください」など別の言葉で言い換えます。

お中元・お歳暮の場合

「お中元をお送りさせていただきましたので、どうぞご笑納ください」

このような文面やあいさつであれば目上の人に失礼にもなりませんし、謙遜の気持ちのこもったやわらかい印象を与えることができるでしょう。

ちょっとした贈り物の場合

お中元やお歳暮のような時節の贈り物ではなく、日常的なちょっとした贈り物の場合はどうでしょうか。

「心ばかりのものですが、どうぞお納めください」や「お口に合うといいのですが、召し上がってみてください」とすると、相手もあまり堅苦しくなく受け取りやすくなるでしょう。

弔事など仏事に関する場合

「ご賞味ください」はもちろんのこと、「ご笑味ください」や「ご笑納ください」などにある「笑」の字は、仏事では避けたほうが良いでしょう。代わりに「お納めください」や「お供えください」などが場に合った言い方になります。

【その他】贈り物をする場合に気を付ける言葉

人にわたす贈り物が、たとえば他の誰かからもらったものであったり、目の前の訪問客からもらったものであった場合、はたして「ご賞味ください」は使うのにふさわしい言葉でしょうか。

おすそ分けをわたす場合

もし、誰かからもらったお中元やお歳暮の一部を他の誰かにあげる時に「おすそ分けですが、どうぞ」とストレートに言うのは、相手によっては失礼にあたるでしょう。ましてや「どうぞ」の後に「ご賞味ください」などと付け足すのはお勧めできません。

「おすそ分け」の「すそ」は「裾」であり、足元や地面に近い部分であることから、特に目上の人に対して使う言葉ではないと言われています。余計なことは加えずに「ほんのわずかですが」と控え目に差し出すのが良いでしょう。

「おもたせ」とは

こちらは誤用されやすい語です。語の雰囲気から、帰る訪問客へ持たせるちょっとした土産品のように思われがちです。本来の意味は「訪問客が持ってきてくれた手土産を、その訪問客の前で指す時」に使う尊敬語です。

実際に使う時は、訪問客が持ってきた手土産をそのお客の前で開けて持たせるので、「おもたせで恐縮ですが、召し上がってください」というふうになります。「おもたせですが、ご賞味ください」と言ってしまうと、たいへん失礼でとんちんかんなことになってしまいます。

食品の贈り物をもらった時のお礼に「賞味」を使う

ここまで挙げてきた例では「ご賞味ください」は、特定の立場の人にしか使えないような印象があります。しかし、逆に考えて、食品の贈り物を自分が食べた後のお礼に「賞味」を使うことはできます。

「ありがたく賞味いたしました」や「賞味させていただきました」のように、謝意として用いるなら目上の人に使っても失礼にはなりません。

「ご賞味ください」を気持ちよく使えたら

それでは最後に、「ご賞味ください」との付き合い方をおさらいしていきましょう。

・「ご賞味ください」は、贈り物、特に目上の人への贈り物をする時にはふさわしくない場合があります。「ご賞味ください」とは「味わって褒めて食べてください」という意味合いであるため、厚かましい印象を与えてしまうからです。

・「ご賞味ください」の言い換えとして「ご笑納ください」や「お召し上がりください」、「ご笑味ください」があります。ただし「ご笑味ください」は「ご賞味ください」と発音が同じであるため、使用時には注意が必要です。

・もしあなたがプロの料理人であったりパティシエであったり、食品メーカーの方であるなら、新作や新商品を自信を持って「ご賞味ください」とお勧めしても失礼にはあたりません。

使う相手や場所をわきまえて正しく「ご賞味ください」を使えたならば、相手も自分も気持ちの良いやり取りを交わせるでしょう。

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