「とんでもないです」の意味と使い方・敬語・言い換え表現・例文

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「とんでもないです」の意味と使い方

普段の日常生活の中で「とんでもないです」という言葉はよく使われています。くだけた会話の中はもちろん、社交の場やビジネスシーンでも頻繁に使われます。ここでは「とんでもないです」という言葉の意味と用法についてお話していきます。

言葉の成り立ち

「とんでもないです」の元々の形は「途でもない」という言葉です。長い間使われているうちに転じて「とんでもない」という一語になりました。このような変化は言葉においてはたびたび起こることです。

「途でもない」の意味

「途」は「みち」「みちすじ」という意味を持つ文字です。道というのは実際の道路を差す言葉でもありますが、他に「道理」「常識」という意味も含まれます。「途」という文字からはあまりイメージできないでしょうが、「途方」「途轍」という言葉にその片鱗を感じることができます。

「途方もない」「途轍もない」とは「常識外れ」「想定外」という意味で使われます。つまり「途」には常識ですとか理に叶った範疇という意味合いが含まれています。「途でもない」とは常識である「途」を否定し「常識から外れている」という意味を表しています。

「とんでもないです」の二つの意味

「とんでもない」は日常よく使われている言葉であり、多くの意味を含んでいます。途方もないとか予想を越えているとか、非常識であるという意味でも使われます。しかし「とんでもないです」と敬語で語られる場合、使われる場面は多少限られてきます。「とんでもないです」という言葉には大きく分けて二つの意味があります。ここではその二つに絞って解説します。

常識を越えている

先に紹介したように、「とんでもないです」には途方もないとか、思いがけない、想像や常識の範囲を越えている、という意味があります。単純に驚きを表したり、予想を上回るという意味で使われることもあれば、常識や倫理を外れている、といった否定的な意味で非難を込めて使われることもあります。

強い否定

「とんでもないです」は人の言葉や行いを強く否定する意味でも使われます。否定する言葉ですがネガティブな意味ばかりでなく、こちらに対する賛辞や好意的な申し出について謙遜し辞退する、といったへりくだった場面でも使われます。

ビジネスシーンでの使い方

ビジネスの場面で使われる場合、「とんでもないです」は主に謙遜の意味で使われることが多くなります。称賛に対し謙遜する、過分なもてなしを辞退するなど、そういった場面で使います。

「とんでもないです」には強い否定の意味がありますが、相手が目上の人であったりビジネス上の顧客であったりする場合、本当の否定の意味で使うのは失礼に当たります。相手の言葉や考えを否定し間違いを正さねばならない場合、もっと遠回しで柔らかい表現を選ぶべきです。

「とんでもないです」は想像を越えている、という驚きの意味でも使われます。その場合の「とんでもないです」は多少くだけた言い回しであるため場合によっては適切ではないこともあります。相手との関係や場所、自分の立場を考慮して使いましょう。

いつ使うのか

「とんでもないです」がよく使われる場面は、相手から感謝や賛辞を贈られたときでしょう。自分に対する評価が身に余るものと考え、相手の言葉を受け入れつつもへりくだって否定する、というときに使います。このときに否定するのは相手の言葉や考えではなく、自分の価値です。

相手からの好意的な申し出を辞退する場合も「とんでもないです」は使われます。好意に感謝しつつも自分には分に過ぎる、という意味を含んだ断わり方なので、失礼にはなりません。

「とんでもないです」の敬語

「とんでもないです」はそのままでも既に敬語ですが、さらに敬う気持ちを強めて表現したい場面もあるでしょう。そんなときの表現は「とんでもないことでございます」あるいは「とんでものうございます」という敬語の形が昔から使われています。

「とんでもありません」は間違いか?

結論から言うと、「とんでもありません」という表現は間違いではありません。

「とんでもないです」の「とんでもない」の部分は一語として扱われています。ですから「とんでもない」の「ない」の部分を「ありません」「ございません」などと変化させるのは本来なら誤った使い方です。

しかし「とんでもないです」が改まった場で多く使われるうち、「とんでもありません」「とんでもございません」という言葉が頻繁に使われるようになりました。現在ではすっかり定着しています。

本来なら正しいはずの「とんでもないです」「とんでもないことでございます」に代わってこのような表現が使われるようになった理由としては、「とんでもない」には非常識である、無礼であるといった意味が含まれているためだと指摘されています。目上の人に対してそのまま使うのがはばかられるため、「とんでもありません」という形に変化したと考えられます。

謙遜の意味でなら使える

現在「とんでもありません」「とんでもございません」は現在発行さてれいる多くの辞書にも語法のひとつとして載っています。平成19年に文化庁が出した「敬語の指針」でも謙遜の意味で使う場合であれば「とんでもありません」「とんでもございません」は問題ないとされ、新たな表現として容認されています。

ただしそれ以外の使い方、例えば途方もないとか常軌を逸したといった意味で使う場合は「とんでもありません」という敬語では不自然です。そこは従来通りの「とんでもないことでございます」の方が適切です。

使い方は慎重に

ただ、年配の方や言葉遣いに敏感な人の中にはそうした変化を受け入れられず、間違った語法であると信じて疑わない人もいます。「とんでもありません」「とんでもございません」は今では容認された使い方ですが、まだ歴史の浅い表現であることを知っておくべきでしょう。

「とんでもないです」の類語・言い換え表現

「とんでもないです」と似たような使われ方をする言葉には次のようなものがあります。

・滅相もない
・恐れ多いことです
・恐れ入ります
・恐縮です
・もったいない
・お恥ずかしい
・赤面の至りです

これらの中で「とんでもないです」と同じように否定の意味を含んだものは「滅相もない」だけです。他の「恐れ入ります」「恐縮です」などは相手の言葉を肯定しつつ、低姿勢で返す言葉です。それぞれ同じ場面で使用される言葉ですがニュアンスは微妙に違います。

これら同じような言い回しをニュアンスの違いで使い分けることができると、より気持ちの入った会話ができます。堅苦しい場が苦手な方はどうしてもその場の会話を乗り切ることで精一杯になってしまいますが、表現のバリエーションを知っておくと心に余裕が生まれ、会話もなめらかになります。

使い分ける

相手に褒められた場面を想定してみましょう。何を褒められたかによって、適切な返答は違ってきます。スムーズに会話を進めるには状況を判断し、表現を使い分ける必要があります。

腕時計を褒められたとかネクタイのセンスを褒められたとか、些細なことが対象ですといちいち「とんでもないです」と強い否定をしてへりくだるのは厭味に感じられます。その場合は「恐れ入ります」「恐縮です」と軽く受け止める方が会話がスムーズに運びます。率直に「ありがとうございます」でもいいでしょう。

また、自分自身ではなく身内を褒められた場合も「とんでもないです」と返すのは適切とは言えません。「お宅の会社は活気がありますね」とか「可愛いお嬢さんですね」とか言われたのに対し「とんでもないです」では褒められた相手を侮辱することになってしまいます。この場合も「恐縮です」などの肯定的な謙遜で返答すべきです。

肯定することも大切

相手から賛辞を寄せられた場合、何でもかんでも「とんでもないです」と否定することはありせん。称賛が本当に嬉しく誇らしいと感じる場合は素直にその気持ちを表現することもまた相手に対する誠実な態度です。「もったいないお言葉ありがたく存じます。まことに赤面の至りです」と答えた方が気持ちが伝わりますし、相手も褒めた甲斐があるというものです。

否定がふさわしい場合

一方で「とんでもないです」という否定的な謙遜がふさわしい場面もあります。相手が本心からではなく社交辞令として褒めてくれているような場合は、真に受けて喜ぶより冷静に「とんでもないです」と答える方が理性的な対応です。相手の礼儀に対する感謝と、気を遣わせてしまって申し訳ないという気持ちをその言葉で表すことができます。

また相手の意図はいざ知らずこちらが本当に称賛に値しないと感じているのであれば、その気持ちを正直に「とんでもないです」という言葉で表すのは誠実な返答といえるでしょう。

「とんでもないです」の例文

「とんでもないです」の使い方の例を幾つか紹介します。

例文1:合気道の演武会を終えて、先輩から一言。

「見事な演武だったね」

「とんでもないです。まだまだ稽古が足りません」

例文2:職場にて上司からの一言。

「君は人をまとめるのが上手いね」

「とんでもないです。皆に助けてもらっているだけですよ」

例文3:顧客との打ち合わせを兼ねた会食にて、会計の際に顧客から。

「ここの支払いは私が」

「とんでもないです。お客様に出していただくわけにはまいりません。ここは私が持ちます」

例文1、2は謙遜の意味で使われています。例文3は相手の申し出を謹んで辞退するという意味合いで使われています。

ありがとうに「とんでもないです」と答えるのは?

「ありがとう」という感謝の言葉に対して「とんでもないです」と返す場面はちらほらと見受けられます。感謝に対してこの返答はおかしい、と指摘する方も多いです。確かに感謝の言葉に対して「とんでもないです」はよく考えると違和感のある受け答えです。

「ありがとう」に対し「いえ、礼には及びません」という意味で否定する口調がさらに力強く否定する「とんでもないです」に置き換わったものでしょう。ただ「とんでもない」には途方もない、非常識、言語道断というような強い否定の意味があり、どれほど丁寧な言葉に言い換えたとしても相手に使うのは失礼です。

自分の行為を否定するにしても「大したことはしていません」「当たり前のことをしたまでです」と普通にへりくだるだけで充分です。「とんでもないです」ということさらに強い口調で否定する必要はありません。

感謝に対する例文

もちろん、感謝を伝える文脈の中で自分に対する過分な称賛があったとすれば、それに対し「とんでもないです」という答え方は適切です。感謝に対する「とんでもないです」の使い方が適切である場合とそうでない場合の例を紹介します。

例文4:

「ありがとう。この埋め合せは必ず」

「とんでもないです。どうかお気になさらず」

ここでは埋め合せをするという申し出に対し恐縮し辞退するという意味で「とんでもないです」を使っています。

例文5:残業で上司から。

「遅くまでがんばってくれて、ありがとう」

×「とんでもないです」

○「いえ、大したことじゃありません」

感謝されたことに対して「とんでもないです」は少々大袈裟です。普通に「どういたしまして」でもいいでしょう。

謝られた時に「とんでもないです」というのはありか

謝罪に対しつい「とんでもないです」と返答してしまう人は意外に多いです。特に相手が目上の人であったり充分な敬意を払わなければならない相手であったりする場合、謝られると恐縮してしまい強い打ち消しの意味を持つ「とんでもないです」という言葉がつい出てきてしまうのでしょう。しかし謝罪にとんでもないですと答えるのは適切ではありません。

「とんでもないです」を考える

謝罪に対し「とんでもないです」を使うのがなぜ適切でないか、言葉の意味を掘り下げて考えてみましょう。例えば、あなたが上司に謝られたとします。この場合、上司に何か謝罪するべき過ちがあったことになります。「あなた」は何もしていません。

何が「とんでもない」のか

「とんでもないです」と強く否定するのは何に対してでしょうか。上司が謝罪するという行為でしょうか。それとも、過ちがあったとする上司の認識でしょうか。どちらにしても「それは違います」と普通に否定すればいいだけの話です。「とんでもないです」と強い否定の言葉を使う必要はなく、かえって失礼に当たります。

では、謝られる側の「あなた」の何かを否定しているのでしょうか。「とんでもないです」の用法からすると、謙遜して自身の評価を強く否定する意味で使われます。しかしこの場合、「あなた」には否定する要素がありません。

これが自分に向けられた否定であるならば「自分は謝罪を受ける価値もないのだ」という意味になってしまいます。それではあまりに自虐的です。仮に、あなたの側にも何かしらの非があったとします。その場合も「とんでもないです」と答えるより「こちらこそ申し訳ありませんでした」と明確に謝意を示すべきです。

「とんでもないです」は強い否定

「とんでもないです」は何かを強く否定することで謙遜し相手を立てる言葉です。つまり、賛辞ならともかく謝罪に対して「とんでもないです」と返答するのはよく考えるとちぐはぐな答えと言えるでしょう。

謝られたときは

謝罪に対してはまずそれを受け入れるのが礼に適った対応です。「とんでもないです」と否定するより謝罪を受け入れた上で「お気になさらないでください」と返す方が相手の気持ちも晴れるでしょう。

このように、相手から謝られたとき「とんでもないです」と返すのは適切な返答とは言えません。もっとふさわしい表現方法があることを知っておくべきです。手紙やメールの返事はもちろん、会話でも気をつけましょう。

意味を理解し「とんでもないです」を使いこなそう

言葉は自分を表現する道具です。自分がどう思っているのか、相手に何を伝えたいかによって選ぶ言葉は違ってきます。言葉選びを間違えると自分の気持ちがうまく伝わらなかったり、場合によっては誤解されることもあります。

「とんでもないです」は便利な言葉ですが、便利さに甘えて多用するのは避けたいものです。本来の意味を知らなければ思わぬ誤用をすることも多く、また仮に使い方が間違っていなくても上手に使えているかどうかで会話や文章の品位に影響します。

「とんでもないです」という言葉が持っている本来の意味を理解すれば誤用を避けられ、どの場面でどう使うのがいいかがわかります。便利な言葉を効果的に使う一方ひとつの言葉に頼らずさまざまな言葉を使い分けるのが、言葉という道具を操る秘訣です。

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