「あしからず」の意味と使い方・例文・敬語・類語・語源|失礼なのか

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「あしからず」ってどういう意味?

「あしからず」とは漢字で「悪しからず」と書き、「悪く思わないでください」とか「気を悪くしないでくださいね」または「他意はありません」という意味です。相手の意向や気持ちに添えず申し訳ないという気持ちを表した、本来は丁寧な言葉です。

少し古いイメージのある言葉ですが、現代のビジネスシーンでも告知や謝罪、納得を促したりする場合には良く使われます。メールや文書で見たことがあるという人が多いでしょう。使い方を間違えると少し嫌味な感じを与え、本来の意味から湾曲して伝わることがあるので注意してください。

「あしからず」の語源は?

「あしからず」とは古語における悪し(あし)という形容詞のシク活用で、未然形「あしから」に打消しの助動詞「ず」がついた形です。「あし」には悪い、不適当だ、具合が悪いなどの意味があるので、「あしからず」を直訳すると「悪くない」となります。

また、悪し(あし)に似た表現で悪ろし(わろし)という言葉があります。悪し(あし)が悪いという全否定の意味があるのに対し、悪ろし(わろし)には良くないといった少しグレーの部分を含んだ意味があります。

ちなみに、反対語は良いという意味の「よし」で「物の良し悪しを見分ける」とか「まだ良し悪しの判断ができない」などという時に対で使います。

同じように「よし」に似た表現で「よろし」という言葉があります。「わろし」同様悪くないという意味で、古語には「よし」「よろし」「わろし」「あし」という順番で4段階の評価基準がありました。

「あしからず」ってどんな風に使うの?

では、実際にどんな形で「あしからず」が使われているのか、見ていきましょう。

一般的には文末につける

「本日の打ち上げには参加させて頂きます。ちなみに今日は車で来ているので飲めません。あしからず。」のように文末につけるのが一般的です。相手の意向に添えない理由があることをあらかじめ知っておいて欲しい時などに使います。

上記のような親しい間柄ではない場合には「あしからず」の前に「何とぞ」または「どうぞ」をつけて「どうぞ、あしからず。」またはより丁寧に「何とぞあしからずご了承ください。」とすれば失礼にはなりません。

また、悪く思わないでくださいとか、気を悪くしないでくださいというお詫びの意味で使う場合は、必ず謝罪したあとの文末に「あしからず」を付け加えましょう。

省略されている言葉

「あしからず」はそれだけでは「悪くない」「気を悪くしない」という意味です。本来ならば、「あしからずご了承ください」「あしからず思わないでください」「あしからずご容赦願います」となります。「ご了承ください」「思わないでください」「ご容赦願います」という言葉が省略されて使われているのが「あしからず」です。

これは、しつこい言い回しを嫌った江戸時代の名残だと言われています。江戸庶民は、最後まで言わない、ストレートに言わずぼかしたり、念押ししないのが恰好良いとされる「いきの」文化を大切にしていました。

つまり、「あしからずご了承ください」「あしからず思わないでください」と言いたいところを敢えて「あしからず」で止めたのが、「いき」とされ広がったと考えられています。

「あしからず」は「いき」な表現

「あしからず」が江戸時代に広がったのは、江戸の文化と深い関係があります。また、若者にはあまり聞きなれない言葉ですが、昭和生まれの人達にとって馴染み深い言葉である理由としては、コマーシャルに使われていたという背景があります。

江戸時代の「いき」な文化

江戸の文化について少しふれておきましょう。江戸の美意識は庶民の生活から生まれたといわれています。「いき」という概念がありますが、身なりや振る舞いが洗練されていて恰好良いことを指します。「いき」の反対は「野暮」、また型にはまり過ぎたものを「気障」といい、「気障」になるくらいなら「野暮」がよいとされ、「気障」が一番敬遠されていました。

会話においても、型にはまった決まり文句を避け、わざと外したり極限まで言葉を省略したりして、楽しんでいました。有名な江戸言葉に「あたぼうよ」という言葉があります。これは「あたりまえだ、べらぼうめ」が省略され「あたぼうよ」となり、それが「いき」とされ広がりました。

会話だけでなく服装や髪型、行動や生き方などのあらゆる分野において最上級のほめ言葉となる「いき」という概念は現在でも日本人の心の中に根付いています。

コマーシャルにも使われていた

「100円でカルビーポテトチップスは買えますが、カルビーポテトチップスで100円は買えません。あしからず。」というインパクトのあるCMが話題になりました。1970年代、当時10代だった藤谷美和子を起用したカルビー株式会社のこのCMは一世を風靡したので、70年代以前に生まれた方は聞き覚えがあるはずです。

どちらかといえば、茶目っ気たっぷり「ごめんね」という軽いイメージで使われています。良くも悪くも、現在の「あしからず」から受けるイメージは、このCMの影響によるところが大きいと考えられます。

「あしからず」って失礼なことば?

「あしからず」という言葉自体、本来は「悪く思わないでください」「気を悪くしないでください」という相手を思いやる気持ちがこもった言葉です。「あしからず」は決して失礼にあたるような言葉ではありません。

しかしこの表現を受け入れられない人もいます。一方的に言われているような気がしたり、バカにされているようだとか、上から目線で言われているように感じることがあるからです。

なぜ不快に感じるの?

「あしからず」を受け入れられない理由としては、丁寧さに欠けるというところでしょう。こちらの意向が反映されず、ただでさえ良い心持ちではない時に一方的に「はい、あしからず」と窓口をシャットアウトされる感じです。

「セール品のため返品、交換はできません。あしからず。」「質問は一切受け付けませんのであしからず。」のように使うと高圧的で、一方的な印象を与えます。このような使い方がされてきたため、不快なイメージがついてしまったと言われています。

目上の人に使ってもいいの?

本来、「あしからず」という表現は「悪気はないのですが、ご意向に添えません」という申し訳ないという気持ちを表したものなので、目上の人に使っても問題はありません。しかし、不快に思う人がいるというのも事実です。

「あしからず」は目上の人に限らず、相手を良く知った上で慎重に使いましょう。

使ってはいけない場合はどんな時?

「あしからず」という表現は、使用する側が本当に悪いことをした時や、使用する側の落ち度があって謝罪する場合には適切ではありません。

「この度は、当方の手違いにより大変なご迷惑、ご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。どうぞあしからずお許しください。」という使い方はできません。

この場合、使用する側の落ち度があるので、「この度は、当方の手違いにより大変なご迷惑、ご心配をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした。」というようにしてください。

また、「あしからず」は相手を気遣う言葉なので、相手に対して失礼な言い方をしたあとに「あしからず」と結ぶのも適切ではありません。この場合、典型的な嫌味に聞こえるので注意しましょう。

「あしからず」の敬語って?

仕事の上で、または目上の人には敬語を使います。「あしからず」自体は丁寧な言葉なのですが、「あしからず。」と唐突に言われると違和感を覚える人もいます。そして、中には不快な感情を抱く人もいます。

トラブルを避けるためには、「あしからず、ご了承ください」または「あしからずご容赦ください」というように、より丁寧な言い方にしたほうがよいでしょう。

あしからずご了承くださいを使った例文

「PTAの研修旅行にご応募いただき、ありがとうございました。集計の結果、定員を大幅に上回りましたので、残念ですが先着順とさせていただきます。何とぞ、あしからずご了承くださいますようお願いいたします。」

この場合、応募者が多かったため、研修旅行には全員が参加できるわけではありません、という通知の文章です。PTA会員という多数の相手に送る文章なので、「何とぞ、あしからずご了承くださいますようお願いいたします。」という丁寧な言い方が好ましいです。

あしからずご容赦くださいを使った例文

「自治会長とのご指名をいただき、ありがとうございます。現在体調を崩しておりまして、先日退院してきたばかりです。しばらくは、通院しなければならず自宅でも安静にと医者からも言われております。せっかくのお話、申し訳ありませんが辞退させていただきます。あしからずご容赦願います。」

この場合も、「辞退させていただきます。」だけでは少し物足りなさを感じます。「あしからずご容赦くださいますようお願いいたします」とすればより丁寧になり、勘弁してくださいという気持ちが伝わります。

ビジネスシーンで使うには

ビジネスシーンで「あしからず」を使う場合は、目上の人に対して使う時よりも、より慎重になる必要があります。相手がどう受け取るのかによって、その企画の、さらにはその会社のイメージに大きく関わってくるからです。

大切なポイントとは?

ポイントとしては、相手を気遣う気持ちをしっかりと伝えるということです。相手を気遣う言葉を必ず入れ、あとに続く「ご了承くださいますようお願い申し上げます」などの結びの言葉も省略せずに使いましょう。

また前述したように、ビジネスシーンで「あしからず」を使う時、自分の側に落ち度があるような場合には絶対に使わないでください。

「あしからず」の例文を見てみよう!

「あしからず」をビジネスシーンで使う場合、次の3種類のパターンに分けられます。それぞれに合った例文を見ていきましょう。

あらかじめ知っておいてほしいことの例文

すでに決定してしまったことや、変更になったこと、その決定を覆すことができないことを相手にあらかじめ知らせる文章です。

「ATMは8月15日から8月17日の3日間、点検のためご利用できなくなります。お客様には大変ご不便をおかけいたしますが、あしからずご容赦くださいますようお願いいたします。」

この場合、お客様に対して、ある一定期間ATMが使えなくなることをあらかじめ告知する文章です。あらかじめ決まっていること、知っておいてほしいことを告知する時には「あしからず」という言葉は便利に使えます。

ご不便をおかけしますという一文が重要で、「ATMは8月15日から8月17日の3日間、点検のためご利用できなくなります。あしからずご容赦くださいますようお願いいたします。」とすると、少し一方的に聞こえてしまいますので、注意してください。

謝罪・お詫びの例文

相手の気持ちに応えることができないとか、提案されたことに対して断る場合に使います。また、こちらのミスではないけれど相手が思うようにことが進まなかった時などにも使います。

「この度は、当社の企画にご応募頂き、誠にありがとうございました。応募者多数のため、社内で慎重に検討させていただいた結果、残念ながら不採用とさせていただきました。何とぞ、あしからずご了承くださいますようお願いいたします。」

この場合、応募者が多かったため、応募した企画が不採用になったという通知の文章です。「何とぞご了承くださいますようお願いいたします。」というより「何とぞ、あしからずご了承くださいますようお願いいたします。」の方がやわらかく、貴意に添えないことへの申し訳ない気持ちを伝えることができます。

数に限りがある場合の例文

「お電話によるご注文は、本日の午後5時までとさせていただきます。午後5時以降はインターネットのみの対応となります。あしからずご了承ください。」

「プレゼントは先着順で、数に限りがございます。なくなり次第終了させていただきますので、あしからずご了承くださいませ。」

数に限りのあるもの、または時間制限のあるものに対して相手に納得を促す場合に使います。

「あしからず」の類語は知っておくべき

ビジネスシーンなどで、失敗が許されないような時、少しでも自信がない場合は安易に使わず、類語を使うという選択肢もあります。「あしからず」の類語を知っておくといざという時に役にたちます。

念のため、似たような意味の言葉で言い換えることができる例文をご紹介しましょう。

申し訳ありませんがを使う例文

「申し訳ありませんが」を使う例文をご紹介します。

「ATMは8月15日から8月17日の3日間、点検のためご利用できなくなります。お客様には大変ご不便をおかけすることとなります。申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。」

ご希望に添えず恐縮ですがを使う例文

「ご希望に添えず恐縮ですが」を使う例文をご紹介します。

「PTAの研修旅行にご応募いただき、ありがとうございました。集計の結果、定員を大幅に上回りましたので、残念ですが先着順とさせていただきます。ご希望に添えず恐縮ですが、ご了承くださいますようお願いいたします。」

「あしからず」を粋(いき)に使いこなしましょう!

「あしからず」は、日本人特有の相手を気遣う思いやりの精神や、「いき」な文化が凝縮された奥の深い言葉です。覚えておくと大変便利に使うことができます。本来の意味とは少し違った捉えかたをする人や、間違った使い方をしている人がいることも事実です。

しかし、相手を気遣う気持ちとポイントさえ押さえておけば、きっと「いき」に使いこなすことができるでしょう。

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