「拝見させていただく」の敬語・二重敬語か・使い方|丁寧語

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拝見させていただくは敬語として正しいのか?

「資料を拝見させていただきました」丁寧に話そうとするあまり、このような言葉遣いになっていませんか。実は拝見させていただくという言葉は、場合によっては正しい言葉遣いではありません。では、拝見させていただくという言葉はどのような使い方をするのでしょうか。

拝見させていただくという言葉を例に挙げて、二重敬語や連結敬語、また、敬語の種類についてなど、敬語のことを一つ一つ順を追って説明し、拝見させていただくの正しい使い方を知りましょう。

拝見させていただくの前に敬語の基礎を知ろう

敬語と聞いて皆さんはいくつの種類の敬語を思いつきますか。尊敬語と謙譲語はよく見聞きしますが、丁重語や美化語はご存知でしょうか。拝見させていただくの用法を説明する前に、まずは敬語の種類について解説します。

5種類の敬語について

敬語には丁寧語、尊敬語、謙譲語、丁重語、美化語の5種類があります。一つずつ説明していきます。

丁寧語と敬語って違うの?

丁寧語とは、語尾に「です、ます、ございます」をつけて物事を丁寧に表現する敬語で、敬語の種類のうちの一つが丁寧語です。敬語の基本ともいえます。「資料を読んだ」と「資料を読みました」では、受ける印象が全く違います。丁寧に話すことによって、相手への敬意を表しています。

ちなみに「拝見させていただく」を丁寧語にすると、「見せてもらいます」になります。少しくだけた間柄なら十分使えるでしょう。

尊敬語とは

尊敬語とは、相手や第三者を高めることで敬意を表す言葉です。話す相手や第三者の動作、状態、ものごとについて使います。

相手側の動作を高める

例えば「資料は読まれましたか」という文だと、相手側の「読む」という動作を高めています。丁寧語だと「資料は読みましたか」となりますが、尊敬語の「読まれましたか」は相手を高めて、より敬意を込めることができます。他に代表的な言葉では、「言う」という動作を「おっしゃる」、「食べる」を「召し上がる」と表します。

相手側の状態を高める

他にも、相手側や第三者の状態についての尊敬語の例では、「忙しい」を「お忙しい」、「詳しい」を「お詳しい」などがあります。「お忙しいところ、大変申し訳ありません」という言い回しをよく使いますが、これは相手側の忙しいという状態を高める表現をすることで相手側を敬う尊敬語です。

相手側の所有物を高める

相手のものごとについての尊敬語とは、相手側の所有物を高める表現です。例を挙げると、ご家族、お荷物、お名前などです。

謙譲語と丁重語

尊敬語は相手側を高める表現ですが、謙譲語と丁重語は自分を低く表現することで相対的に相手側を高める言葉です。

謙譲語と丁重語はかつてはどちらも謙譲語として使われてきましたが、謙譲語は相手側や第三者に向かう自分の動作を低める表現で、丁重語は自分側や第三者のことについて改まった表現をすることで相手への敬意を表します。

謙譲語の使い方

謙譲語の例を挙げると、「拝見します」「伺います」「お借りします」などがあります。「明日(相手側の会社へ)行きます」なら相手への自分の行動なので謙譲語を使い「明日伺います」となります。今回の例文、「拝見させていただく」は、敬語の種類でいうと謙譲語にあたります。

丁重語の使い方

丁重語は主に高める相手がいないときに使う表現で、「明日は東京に参ります」「電車が参りました」といった使い方をします。「明日(相手側とは関係のない場所へ)行きます」なら丁重語で「明日は東京に参ります」となります。

美化語って何?

もしかすると、はじめて知った方もいるのではないでしょうか。美化語とは「お酒」「御祝儀」のように、ものごとを美化して述べるときに使う言葉です。

「お酒」「お料理」など、相手の所有物でなく相手を高める状況でなくとも丁寧に表す言葉があります。相手の所有物ではないので「酒」と言っても間違いではないのですが、「部長、料理は何をお召し上がりになりますか」と言うよりも「部長、お料理は何をお召し上がりになりますか」のほうが丁寧な印象をもちます。

何にでも「お」や「御」をつければいいというものではないですが、適度に使うと丁寧で敬意をもった表現になります。

使える二重敬語と使えない二重敬語

ところで、敬語について調べていると二重敬語という言葉をよく見聞きするのではないでしょうか。二重敬語とは、一つの語について同じ種類の敬語を重ねて使う表現のことで、一般的に許容されない表現です。

例を挙げると、「資料をお読みになる」は「お読みになる」という尊敬語を一つだけ使っていますが、これを「資料をお読みになられる」と表現すると「読む」という動作に対して「お~になる」と「~れる」という二つの尊敬語を使っているので二重敬語になります。少ししつこい表現になります。

一般的に許容されない二重敬語ですが、許容されている例もあります。「お召し上がりになる」は「召し上がる」と「お~になる」という二つの尊敬語を使っていますが習慣として定着しています。同じような例として「お見えになる」という定着した二重敬語もあります。「課長がお見えです」よりも「課長がお見えになりました」と言う方が丁寧な印象があるでしょう。

敬語連結は二重敬語ではない

二重敬語と混同しやすいのですが、敬語連結という表現もあります。敬語連結とは二つかそれ以上の敬語をつなげた文のことで、これは二重敬語にはあたりません。

例えば、「資料をお読みになっていらっしゃる」という文だと、「読む」と「いる」のそれぞれを尊敬語にして一つの文にしています。「読む」という言葉に対しては「お読みになって」の一つの敬語表現だけなので、この場合は二重敬語ではありません。

敬語連結にならない例

また、敬語の意味がバラバラで一貫性がない場合は敬語連結にはなりません。例えば「先方に、こちらの提出した資料を拝見していただく」という文だと、「拝見」が自分側を低める言葉、「いただく」は相手側を高める言葉になるので意味が通らず、敬語として適切ではありません。この場合は「お目通しいただく」や「ご覧になっていただく」だと自然です。

頭の中で敬語を組み立てるときに、誰を高めるのか、誰を低めるのかを意識しましょう。

拝見させていただくは敬語としてどう?

では今回の例文、「拝見させていただく」について考えてみましょう。「拝見」は相手に対する自分の動作を低める表現なので謙譲語です。「いただく」は「もらう」の謙譲語ですが、「させていただく」という言葉は相手の許可を得て、そのことが自分の利益になる場合に使う言葉です。

以上のことから、「拝見させていただく」という敬語が、「拝見」したものが相手の許可を得て見たもので、そのことによって自分の利益となる場合ならば正しい敬語となります。

「拝見させていただく」という文の中に「拝見」と「いただく」という二つの敬語がありますが、「見る」という動作には「拝見」のみが使われているので、この場合は二重敬語ではなく敬語連結が当てはまります。

拝見させていただく?拝見する?

前述のとおり、「拝見させていただく」は「拝見」と「いただく」の連結敬語だということが分かりました。では「拝見する」とどちらが相応しい敬語になるのでしょうか。

「拝見させていただく」は相手の許可を得て、なおかつそれが自分の利益になる場合に使う言葉です。自分のために相手の持ち物を見せてもらうときなどに「そちらの資料を拝見させていただけますか」といった表現をするならば問題ありません。

「拝見させていただく」と違って、「拝見する」は、上記の条件に当てはまらない場合でも使えます。例えば、先方からあらかじめ提出された資料について話すときに「先日お送りいただいた資料を拝見しました」という使い方ができます。許可を得ているときでも許可を得ていないときでも使えるので使う場面が広がります。

拝見させていただくの具体的な使い方は?

使いどころが難しい「拝見させていただく」という言葉。実際にどのようなケースで使えばいいのか、具体的な例を挙げていきましょう。

メールで拝見させていただくを使う

例えば先方に資料の提出をお願いする場合、許可を得て見せてもらうことになるので「拝見させていただく」という表現が使えます。

例文「Aの件でBの資料を拝見させていただけますか」「添付いただいた資料のCの部分も拝見させていただきたいのですが」「明日までに拝見させていただくわけにはいかないでしょうか」相手の所有物を見せてもらうときなども許可を得る形になるので「拝見させていただく」が使えます。

例文「次回の打ち合わせの際に貴社のDのデータを拝見させていただくことは可能でしょうか」「本日はE様の貴重なコレクションを拝見させていただくことができ、大変勉強になりました」

いかがでしたか。使いどころが難しいですが、メールなら考える時間があるので「許可を得るケースか、それによって自分側が利益を得るか」を確認すると良いでしょう。

ビジネスの場で拝見させていただくを使う

じっくり確認できるメールとは違い、直接相手とお話しする場では、へりくだる余り多少敬語の使い方が間違っていてもそこに敬意が込められていることが伝われば許容されがちです。「拝見させていただく」のような「させていただく」という形の言葉なら、多少使い方を間違えても乱用しなければそこまで違和感はないでしょう。

ただし、せっかくなら正しい敬語を身に付けたほうが良いですから、普段から意識して正しく敬語を使えるよう心掛けましょう。

困ったら拝見するを使う

慣れないうちは、誰かと会話していて、とっさに「これは拝見させていただくなのか拝見するなのか」の判断をするのは難しいです。

そういうときは「拝見させていただく」ではなく「拝見する」を使いましょう。「拝見させていただく」を使って間違うことはあっても、「拝見する」を間違うケースは少ないはずです。自分を低める場合ならひとまず「拝見する」を使い、慣れてきたら「拝見させていただく」と「拝見する」を使い分けても良いでしょう。

拝見いたしますは謙譲語?二重敬語?敬語連結?

さて、前項では「拝見させていただく」と「拝見する」の違いについて述べましたが、拝見を使った言い回しで「拝見いたします」もよく使われる表現です。

「拝見」と「いたします」で二重敬語になるでしょうか。「拝見」は謙譲語で「いたします」は「する」の丁重語です。「拝見」も「いたします」も、どちらも見るという動作にかかった敬語なので二重敬語にあたります。

しかし、二重敬語にも関わらず許容されがちな表現ではあります。それは、謙譲語兼丁重語という形の敬語に近いからでしょう。次項で詳しく説明します。

謙譲語兼丁重語という形の敬語

「お(ご)~いたします」といった形の敬語は謙譲語兼丁重語で正しい敬語表現です。「ご案内いたします」「お待ちいたします」などがよく使われる表現です。「お」や「ご」をつけた謙譲語に「する」を丁重語にした「いたします」をつけた形です。

謙譲語で相手方や第三者などの、自分の動作の向かうほうを高めて、丁重語で話し相手にも敬意を表現できます。例を挙げましょう。

「ご案内いたします」という言葉を、案内する相手のAさんに言う場合、そのまま敬意を込めた表現となります。これを、Bさんに「今からAさんをご案内いたします」と言うと、Aさんに敬意を表し、話し相手のBさんにも丁重語によって敬意を込めた表現となります。

正しい敬語で差をつけよう

「拝見させていただく」に限らず「させていただく」は誤用しがちな言葉だということが分かりました。また、使いがちな「拝見いたします」は二重敬語にあたるので使わないほうが良いでしょう。

しかし、謙譲語兼丁重語という形や敬語連結という形の敬語もあるので、敬語を詰め込んだような表現でも一概に二重敬語とは言えないのが難しいところです。「拝見させていただく」は二重敬語にはあたりませんが、使いどころによっては間違った敬語となるので注意が必要です。

しかし、この記事を読んだあなたは「拝見させていただく」で間違った使い方をすることはないでしょう。正しい敬語を身につけて、周りに差をつけましょう。

敬語を正しく操ることは自信につながる

今回は「拝見させていただく」を例に挙げて敬語についてお伝えしました。

要点をまとめると、拝見させていただくに限らず「させていただく」という言葉は、「相手の許可を得る必要があるとき」また、「それによって自分の利益になるとき」この二つの条件を満たしたときに意味をもつ敬語です。

そして、「拝見させていただく」を使うケースか迷ったら「拝見する」を使いましょう。「拝見する」ならば上記の条件にあてはまらずとも使えます。

この記事が、「拝見させていただく」という言葉を通じて正しい敬語を知るきっかけとなれば幸いです。正しい敬語を知り、自在に操ることができれば自信につながりビジネスの成功にもつながるでしょう。

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