「致しかねます」の意味と使い方
「致しかねます」はビジネスの場において使用されることが多い言葉です。「致しかねます」という言葉を使うことは社会人において必要不可欠なことだと言っていいでしょう。しかしその反面、学生や子供など社会に出ていない人にはあまり聞き覚えのない言葉であることも事実です。ビジネスの場以外ではほとんど使われることのない言葉と言えます。
意味
「致しかねます」は、できないことを示す時や、丁寧に拒否する時の表現として使われる言葉です。「致しかねます」は「致す」の否定形であり、「致す」は「します」「実行します」という意味を表す言葉です。「致しかねます」の意味で最も重要な部分は、ただの否定ではなく、丁寧は否定であるということです。
一般に「できない」という意思を相手に示すことは避けたほうがいいとされています。特にビジネスや接客業においては、安易にできないと相手に伝えるより「致しかねます」と丁寧な拒否表現を使うことが求められます。「致しかねます」という表現は学校では習わないため、社会に出て身をもって学ぶことが大切です。
使い方
「致しかねます」という表現は、相手と対面していても、電話口でも、メールや手紙であっても、いろいろなシチュエーションで使用することができる言葉です。「致しかねます」は、相手から何らかの要求があった時に、それに応えることができない旨を伝える時に使われる表現なので、どのようなシチュエーションであってもへりくだった姿勢で使われます。
「致しかねます」という言葉には、相手の要求に応えることができないという謝罪の意味も込められているので、「申し訳ありませんが」「恐縮ではございますが」などの言葉とともに使われることが多いです。また相手と対面している場面では、頭を下げながら「致しかねます」と伝えることも多々あります。
ビジネス
ビジネスの場において、相手の要求と自身の要求を擦り合わせていくことは最も重要なことの一つだと言っていいでしょう。相手の要求を全て飲んでしまうと自身の不利益になってしまうこともありますし、逆に自身の要求のみを押し付けてしまうと、契約そのものを結ぶことができなくなってしまう可能性もあります。
そういったビジネスの場において活躍する言葉の一つが「致しかねます」です。「致しかねます」は、相手の意思を読み取った上で擦り寄っていきたいという姿勢を示すことができる言葉です。社会人の方であれば「致しかねます」という言葉の使い勝手の良さを知っているという人も多いでしょう。
飲食店
主に、ビジネスの場において使われる「致しかねます」という言葉ですが、ビジネス以外で耳にする機会があるとすれば飲食店が挙げられます。店員に対しなんらかの要求をした際に、「致しかねます」と返事をされることがあります。多種多様な要求が飛び交う飲食店では、その要求に応じた柔軟な返答が必要になります。
飲食店では、お店ごとに定められたルールと、それとは別に従業員の共通認識としてのルールがあります。お客様から要求された時には、そのどちらのルールに乗っ取ればいいかを考え判断する必要があります。場合によっては「致しかねます」ときっぱり断ることが必要になる場面も多いでしょう。
「致しかねます」の例文
「致しかねます」という言葉は、使い方を知っていないと咄嗟の時に出てきません。メールや手紙ならともかく、相手と対面していたり電話口で話している時に困らないように、「致しかねます」の例文を幾つか挙げてみます。自然に「致しかねます」という言葉を使うことができれば、ビジネスマンとして恥じない言動ができると言ってもいいでしょう。
保証致しかねます
何か商品を買った時、保証ができるかどうかは購入者にとって最も重要な事項の一つと言えるでしょう。商品には一般には保証が付いていることが多いですが、「ご自身の過失により破損した場合には、保証致しかねます」という文章が書いてあることも多くあります。「購入して1年を過ぎたものに関しては、保証致しかねます」のように期間が定められているものもあります。
ご了承
ビジネスの場において提案をした時に、「いただいたご提案に関しては了承致しかねます」と返答をもらうこともあります。また、「契約書の第3項につきまして了承致しかねますので、ご再考願います」のように、了承できない旨を伝えたのちに、相手に対して提案を投げかけることもよくあります。「了承できないので別の解決策を探したい」という意味を含みます。
致しかねますこと
「致しかねますことお許しください」「致しかねますことご了承ください」という表現は、クレームに対する返答としてよく使用される言葉です。クレームはクレームを出す側と受け取る側に明確な上下関係が生まれるため、「致しかねますことお許しください」という表現を使うことでより丁寧な言葉遣いが必要になります。
「致しかねます」の敬語
「致しかねます」という言葉は敬語表現として使うことができる言葉です。口語では「できません」「ムリです」「難しいです」のような表現が使われます。敬語を使うべき場において「できません」や「難しい」ですのような表現を使うことは避けたほうがいいため、「致しかねます」という表現が最もよく使われます。
マニュアル
企業やお店によっては接客マニュアルの中に「致しかねます」の使い方について記載されていることもあります。とくに接客業のお店に関しては、お客様への対応が厳しく定められているところもあり、社内研修などでも厳しくチェックされる要因のひとつです。
ホテルのコンシェルジュや秘書など、誰かに何かを要求されることが多い職業は、その要求に応じた多種多様な受け答えの方法を学ぶ必要があります。マニュアルに則った受け答えはもちろん、場合によってはマニュアルとは異なる受け答えをしたほうがいい場面も多いでしょう。
「致しかねます」の漢字表記
「致しかねる」という言葉は、「致す」という言葉と「兼ねる」という言葉を組み合わせた言葉です。そのため、漢字表記をする時には「致し兼ねる」と書きます。しかし現代においては「兼ねる」という漢字はほとんど使われることが少なくなり、それに伴い「致し兼ねる」と書かずに「致しかねる」と表記されることが一般的です。
致す
また「致す」という言葉も漢字でもひらがなでも表記されることが多い言葉です。「よろしくお願いいたします」と表記する人もいますし、「よろしくお願い致します」と書く人もいます。どちらの表記も一般に浸透しているため、ビジネスの場や意見への返答などの場に使用しても問題ないと言ってもいいでしょう。
「致しかねます」の類語
「致しかねます」という言葉に最も意味合いの近い言葉としては、「できかねます」という言葉が挙げられます。「できかねます」という言葉は「できます」と「かねます」が組み合わさった言葉で、「致しかねます」同様に、相手の提案に対して承知することが難しい旨を伝えるシチュエーションでよく使用されます。
「致しかねます」と「できかねます」はほとんど同じ意味で用いられますが、微妙なニュアンスの違いがあります。「致しかねます」のほうがより硬いイメージを与え、「できかねます」のほうが柔らかいイメージを与えます。日常で聞くことが多いのは「できかねます」のほうでしょう。
お受けできません
「致しかねます」「できかねます」よりも強い否定の意味を込めた言葉として、「お受けできません」「お引き受けできません」という言葉があります。一般にビジネスや接客業において相手の要求に対して強く否定することは勧められませんが、無理な要求やあまりに自己中心的な要求に関しては、強い否定をすることも必要になる時もあります。
また「お受けできません」と強く否定する場合においても、「ご了承ください」と丁寧な言葉をつけるのが一般的です。特にメールなどでは相手の顔を見ることができないため、対面している時よりもさらに丁寧な言葉遣いが求められます。場合によっては「致しかねます」とやんわり断るよりも、「お受けできません」ときっぱり断ったほうがいい時もあります。
できません
「お受けできません」よりさらに強い意志を込めて断る場合には、「できません」と断ることも必要です。「致しかねます」「できかねます」と断ってもまだ要求を続けてくる人であっても、「できません」ときっぱり断ることで諦めてくれる人も多くいるでしょう。
「致しかねます」の言い方
相手の要求に対し拒否する姿勢を示す時には、選ぶ言葉はもちろんですが言い方も重要になってきます。メールでは「致しかねます」の前後につける言葉によって相手に与える印象は変わりますし、電話でも受話器の向こうから伝わる相手の呼気によって感情を把握することができます。そしてもちろん相手と対面している時の言い方は最も気をつけるべきです。
頭をさげる
「致しかねます」という言葉と一緒に、頭をさげる動作はよく用いられます。相手の要求に応えられず謝罪の姿勢を示すのに最も一般的に用いられる行動です。要求が通らず怒っている人が相手でも、「致しかねます」と頭をさげることで穏便にことを納めてくれる可能性が高くなるでしょう。
直立不動
場合によっては、要求をしてきた相手に対して真摯な態度で断らなければならないシチュエーションもあります。そういった場合、安易に頭を下げず直立不動で毅然とした態度で「致しかねます」と伝えるのが効果的でしょう。モンスタークレイマー、モンスターペアレントなど無茶な要求をしてくる人は、一度要求を飲むとつけあがってしまう可能性もあります。
「致しかねます」に見る日本の美学
日本には古来から「自分より相手を立てる」という美学があります。その美学は現在でも受け継がれており、「致しかねます」と断ることもその一つです。決して相手の要求を無下にすることなく、それでいて自身の意見もしっかりと述べることができます。
ビジネスや接客業において「致しかねます」という言葉は、自身と相手との円滑なコミュニケーションを助けてくれる言葉と言っても過言ではないでしょう。