「致す」の意味と使い方
「致す」という言葉はどのような意味か、まともに考えたところで「少しむずかしい」と感じられたことはないでしょうか。基本的に「致す」の意味は「する」となり、「○○をします」という意図的な行動において使われる言葉となります。
・不徳の致すところです。
・そのような行動を致し兼ねません。
・連絡を致します。
このような使われ方がなされ、特に「主語が意図的にそれを行なう」という場合の「行なう内容」を示す場合に「致す」が使われます。
「致す」は「到らせる」の意味
「致す」という言葉の根本的な意味合いには、この「到らせる・行き届かせる」などの活用があります。つまり行動をする場合には、「その行動の影響力や効果を隅々にまで到らせる・行き届かせる」という活用となり、一つ所でずっとその行動が抑え付けられるといった意味合いとは逆の意味合いとして用いられます。
行き届かせる
「致す・致します」という言葉・表現について考える場合には、まずこの「行き届かせる」という言葉の効用を考慮するとわかりやすいでしょう。「物事の影響力を行き届かせる」や「特定の言動・行動による効果や影響力を行き届かせる」などといった場合に使われることになり、その場合に「致す」の意味合い・活用が認められることになります。
「尽力する」の意味
また「致す」という言葉には「○○について尽力します」という「特定の物事に対して力を尽くす」という意味合いが含まれます。この場合も「行き届かせる」の意味合いと同じく、「その言動・行動を精一杯行ない、その効果・影響力を隅々にまで行き届かせるために尽力する」といった活用方法となります。
「致す」の敬語
「致す」という言葉はすでに謙譲語による敬語表現となっており、「自分の行動について、へりくだった姿勢をもって相手に伝える」という形になっています。
・○○を致します。
・資料の配布を致しました。
・苦しい思いを致しておりました。
・わたしはすでにその大学への合格を致しておりました。
「致す」という言葉は基本的に「動詞表現による謙譲語」となるため、「動詞として使える箇所」でのみ「致す」と表記されます。
「致す」と「いたす」の違い
これは非常によく質問される内容ですが、「致す」と「いたす」の使い分けがはっきりわからないと言う場合がいろいろな場面で散見されます。一般的に「致す」という言葉はほとんど「いたす」とひらがな表記されており、あまり「致す」という言葉が単独で使われている場面は見掛けません。
「致す」という言葉は先述のように「動詞として使える箇所においてのみ使われる」という性質を持つため、「○○を致す」などと「名詞を冠した上で、その名詞的表現を○○のようにする」などといった場合に「致す」が使われます。
ひらがな
先述の続きとなりますが、「いたす」という表記は「する」の謙譲語をする場合でもよく使われており、本来なら「致す」が使われる箇所においても普通に「いたす」の表記が散見されます。
一般的に「いたす」というのは「致す」とは活用方法が異なっており、その活用方法に沿った形で使われなければなりません。「いたす」は補助動詞として使われるため、動詞として使われる「致す」とは根本的に使用方法が違ってきます。
他の漢字表現と識別するため
また先述とは違った見方によるご紹介ですが、「致す」がなぜ多くの場面で使われないかと言えば、前述の漢字表記や後述の漢字表記などと連なって読まれてしまうことにより、読みづらくなってしまうことに起因します。
「お説教致します」や「運動致します」などと言う場合、前述の漢字(あるいは後述の漢字)による表記とつなげて見られてしまう可能性が高く、正しく表記している場合でも「その表記によって誤読されてしまうこと」がかなり多くなってしまうためです。
動詞の活用では「致す」
先述までのおさらいとなりますが、「致す」という言葉は基本的に「動詞的活用の語句・言葉」として使われるため、その他の活用方法で使用することは基本的にできません。これは文法的な活用方法になりますが、「名詞+動詞+補語+目的語」などといった「SVOC」の基本文型に沿って使い分けるための、きわめて基本的な言葉の使用となるため重要です。
「致す」を使用する場合、一般的には「名詞の後に続く形で動詞として使用する」という例になるため、たとえば「○○を致す」や「○○の致す」などといった、「○○を」という助詞によるクッションが必ず必要となります。
補助動詞の活用では「いたす」
先述のように「いたす」という言葉は補助動詞として扱われることになるため、「動詞と連ね合わせて使っても一向にかまわない」という使用法になります。たとえば「お願いいたします」という表現では、「お願い」と「いたします」という動詞が重複されていますが、この場合でも補助動詞として活用するためOKです。
この場合に「お願い致します」とした場合、「お願いする」という動詞と「致します」という動詞が重複されてしまうことになるため、基本的にこの場合の「致します」は動詞を補助する活用を持つ「いたします」が使用されます。
補助動詞の場合でも語気を強める場合は「致す」
先述で「動詞」としての「致します」と「補助動詞」としての「いたします」の例についてご紹介しましたが、絶対に「致します」を「いたします」と同じ「補助動詞として使用してはいけない」ということはありません。
この辺りが日本語の奥深いところで、これは筆者・話者の気持ち(心情)を強く表現したい場合に使われる「感情的表現」として認められることになり、間投詞や感嘆詞などに見られる「主語の気持ちに配慮した上での文法的表現」として扱われます。
たとえば「お願い致します」と言う場合、「お願いする」という表現をさらに相手に対して強めて言いたい場合には「いたします」をさらに動詞的活用に変えて「致します」とし、二重の動詞的表現によって、「何度もお願いする」という語気を強めた活用法が取られます。
丁寧語による活用では「いたす」
さらに「いたす」という表現には「丁寧語による品のよい表現方法」が認められ、これは主に三人称表現や客観的表現において使用される文法表現となります。
・遠くからチャイムの音がいたします。
・彼女の行動には気品が漂う気がいたします。
・この商品は100万円もいたします。
・問題が発生いたしました。
これらの「いたす」の用例では特に「誰が何かをする」といった主観的行動の傾向がなく、ただ「状況説明をする」といった姿勢に留まります。こうした三人称視点による表現がなされる場合に、その状況を丁寧に(気品を保って)相手に伝える場合にも「いたす」という表現が使われます。
「致す」の例文
日本語や世界各国の言葉を覚える際には、例文や会話表現などを用いて反復練習することが最も効果的でしょう。この「致す」の活用方法を学習する場合でも、ぜひ例文や会話で実際に使って学習してみましょう。
・資金繰りが上手くいかなかったのは、すべてわたしの不徳の致すところです。
・彼らがきちんとここへ戻ってくるように、説得を致します。
・この件につきましてのご連絡を致します。
「致す」の読み方
「致す」という言葉の読み方は「致(いた)す」となります。他にも音読みで「致(ち)」という読まれ方がありますが、これは主に熟語や四字熟語による表現で読まれる発音となるため、普通に「致す」と使う場合は「致(いた)す」とだけインプットしてよいでしょう。
「致す」と「致します・差し上げる」の違い
これは基本的に「文法表現・敬語表現による言葉のニュアンスの違い」となります。この場合のニュアンスは基本的に活用による意味合いの効果となるため、その言葉の聞き手・受け手によっては大きくその印象は違ってきます。
「致す」というのは一般的に「自分の行動を主観的に捉えて言う言葉」として認められるため、主に「相手に伝えるための言葉」として扱う場合、敬語表現として認められることはほとんどありません。しかし「致す」は先述のように「する」の謙譲語表現となるため、基本的には「謙譲語による敬語表現」には違いありません。
一般的に使われる「する」の敬語表現では、主に「です・ます」を語尾に付ける「致します」が多く使われ、この場合は「致す」と「ます」(丁寧語)の二重の敬語表現が見られますが、基本的に間違った敬語表現には見られません。
「致す」の敬語での使い方
「致す」という言葉は先述のとおり「謙譲語による敬語表現」として認められ、その活用方法も「自分の行動をへりくだった言い方で相手に伝える」という形になります。しかし、この「致す」という言葉が「相手の行動まで示す敬語表現」として扱われる例も非常に多く、その場合には注意が必要です。
「致す」は謙譲語表現
ここでもおさらいとなりますが、まず「致す」という言葉は謙譲語表現としてあるため、その言葉の活用方法では「自分の行動を謙遜して相手に伝える」というものでなくてはなりません。
・郵送を致します。
・ご連絡を致します。
・運転を致します。
このように、まず「名詞と動詞」の区別をしっかり分けた上で使うのが常識とされ、その上で「自分の行動を相手に伝える際に使われる言葉・表現」として認められます。
「する」の尊敬語は「なさる」
先述を踏まえた上での「致す」の活用方法についてですが、この「致す」という表現を「相手の言動に対して使う場合」が非常に多くあるため、ここで「相手の行動に対して敬意を示す場合の敬語表現」と「自分の行動をへりくだった表現で示す敬語表現」の区別をしっかり付ける必要があります。
まず「相手の行動に対して敬意を示す敬語表現」は「尊敬語」となり、この尊敬語で「する」を形容する場合は「なさる」となります。
・社長がお電話をなさります。
・課長が運転をなさります。
・○○さまがお散歩をなされています。
このような使われ方がされ、この場合の「なさる」の活用方法はすべて「尊敬語による敬語表現」として扱われます。
「致す」や「致しますか」の誤った表現
先述でご紹介しました「致す」と「なさる」の使い分けについてですが、現代でもこの「致す」と「なさる・なされる」の混同した使われ方が非常に多く目立っています。
・どう致しますか。
・ご注文は何に致しますか。
・どちらの方法に致しますか。
・誰が車の運転を致しますか。
これらの「致す」はすべて「相手の行動に敬意を示す敬語表現」で伝えられなければならないため、「致す」の箇所はすべて「なさる」に置き換えられなければなりません。「どうなさいますか」、「どちらの方法になさいますか」と表現するのが正しい文法になります。
丁寧語表現による「致す・いたす」
先述でもご紹介しましたが、「致す・いたす」という言葉は基本的に謙譲語になりますが、この「致す・いたす」の謙譲語表現をそのまま丁寧語に置き換えることが可能です。
・パンを焼く匂いが致し(いたし)ます。
・風の共鳴が致し(いたし)ます。
・あと1時間致し(いたし)ますと、電車がくるでしょう。
・何か、変な感じが致し(いたし)ます。
このように、「致す・いたす」という言葉は上品に相手に物事を伝えたい場合には丁寧語表現に置き換えて使うこともでき、その場合は基本的に「致す・いたす」のどちらを使用してもかまいません。この場合の「致す」は「広がる・行き届く・及ぶ」の意味合いを持ちます。
ただし、現代用語で多く見られるのは「いたす」の活用であるため、この場合は「致す」の使用の方は極力避けた方がベターとなるでしょう。
「致す」の英語表記と意味
「致す」という言葉を英語に直す場合、それぞれの英単語の意味合い・用法に配慮した上で以下のようにピックアップされます。
・will do(するつもり、致す、行なう)
・perform(演技をする、行なう、致す)
・conduct oneself(する、行なう、致す)
・accomplish(達成する、行なう、致す)
・achieve(成し遂げる、やり遂げる、致す)
・make sure(行き届かせる、行なう、致す)
・try(挑戦する、実践する、致す)
・carry out(実行する、成し遂げる、致す)
・serve as(なす、致す、仕出かす)
・practice(練習する、実践する、致す)
「致す」の英語表現と意味(1)
先でご紹介しました「致す」の英語表記を参考にして、「致す」の意味合いを含めた英語の例文をいくつかご紹介します。
・I already had a club attendance before the demonstration was done.
「わたしはその実演がなされる前に、すでにクラブ通学を致しておりました。」
・Regarding that matter, we will contact you on the weekend.
「その件につきましては、週末にご連絡を致します。」
・I will mail the package with today’s attachment.
「その荷物は本日付けでの郵送を致します。」
「致す」の英語表現と意味(2)
先述しました「致す」の英語表現に引き続き、さらに具体的な「致す」の例文をご紹介します。
・There is still room for defense in this case, but regarding the review of the new business plan, I will give priority to the decision of the other day.
「本件につきましてはまだ弁明の余地がございますが、しかし新しい事業プランの見直しにつきましては、先日に認められた議決の優先を致します。」
・For loan cards and other materials you applied for the other day, we will ship everything on Saturday this weekend.
「先日にお申込みをいただきましたローンカードやその他の資料につきましては、今週末の土曜日にすべて発送を致します。」
「致す」の英語表現と意味(3)
先述の具体的な「致す」の英語表現に引き続き、今度はいろいろな場面で使われる「致す」の例文をご紹介します。
・Because the word “will do” is a humble expression, it must be distinguished from the honorific expression in distinction.
「「致す」という言葉は謙譲語表現であるため、尊敬語表現とははっきり区別して使用されなければなりません。」
・The expression “I will do” is basically used separately for Chinese characters and hiragana, but their uses are clearly distinguished.
「「させていただく」という表現は基本的に漢字と平仮名に分けて使われますが、それぞれの用途は明確に区別されています。」
「致す」の正確な意味と用法を把握しましょう
いかがでしたか。今回は「致す」の意味と使い方・敬語・ひらがなとの「いたす」の違いと題して、「致す」の意味と使い方・敬語・ひらがなとの「いたす」の違いについての詳細情報のご紹介をはじめ、いろいろな場面で使われる「致す」の用例についてご紹介しました。
「致す」という言葉は一般的に「いたす」という補助動詞として扱われる言葉とは区別されており、それぞれの用法においては明確な文法の違いが見て取られます。「致す」と表記する際には「動詞的用法」によって表現されるため、基本的には動詞と連続する使用は重複表現となります。
日本語にはこのように、場面や状況によっていろいろとその用法や文法が変わってしまう言葉・表現があるため、まずはその言葉の根本的な成り立ちや活用方法をしっかり学んでおくことが大切です。