「取り急ぎ」の意味と使い方
「取り急ぎ」は「取り敢えず、急いで」という意味で使われます。文字通りの素直な意味です。では、実際に「取り急ぎ」を使う場面には、どのような場面があるでしょう。どういった場面で使うべきか、どういった場面では使わない方が懸命か、考えみましょう。
急いでいるときにどう使うか
「取り急ぎ」は、「大変急を要するような事態があり、十分な準備はできていないものの差しあたって」という意味で使います。急いでいるので、配慮すべき礼儀などを取っ払って行動を起こすことを、相手に対して断る一文です。
「とにかく急いでいるので、無礼をお許しください」ということを伝えるための言葉なので、「取り急ぎ」としながら、時候の挨拶をしたり、長々と話を続けるようなことは、不適切な使い方といえます。
「取り急ぎ」を使うときのルール
「取り急ぎ」を使うのは「急いでいるが一報を入れたいとき」です。時間はないが、とにかく緊急事項だけでも知らせておく必要があるというときに、挨拶も何もかも置いておいて、主旨だけ伝えるための言葉です。
そのため、「取り急ぎご連絡まで」としながら、挨拶があったり、主となる連絡以外の連絡があったりすると、「何が『取り急ぎ』なのだろう」ということになってしまいます。「取り急ぎ」を使うときのポイントは、「メインとなる連絡事項のみを述べる」ことにします。
次に「取り急ぎ」として伝えた内容のフォローを行う必要があります。「取り急ぎ」で伝えるのは要点のみなので、後日正式な開催通知をしたり、顛末の説明をしたりする必要があります。
内容は要点のみ
再三、ご紹介していますが、「取り急ぎ」を使うポイントでもっともキモといえるのが、「要点しか述べない」ということです。「取り急ぎ」が使われているのに、通常のお知らせや報告と変わりない内容が述べられるのでは、「取り急ぎ」を使う意味がありません。「取り急ぎ」を使う場合は、「言葉は足りないが要点のみ述べる」ことが必要です。
【文例】
8月1日に予定されていた会議ですが、クライアントの都合により、急遽7月30日に前倒しとなりました。スケジュールの再調整をお願いします。
取り急ぎご連絡まで。
あとで正式な対応をする
「取り急ぎ」として連絡する場合は、多くの礼儀やマナーを後回しにし、要点のみを伝えます。この後回しにした礼儀やマナーは、あらためて正規通知としてフォローしておく必要があります。会議の日程変更を「取り急ぎ」として連絡した場合は、正式な開催通知をビジネスマナーに則って通知します。
「取り急ぎ」に対するフォローをする場合は、先に「取り急ぎ」として礼儀やマナーを無視したことについての簡単な謝罪も行うことも忘れないようにしましょう。
【文例】
先ほど、取り急ぎ、日程変更のみ通知させていただきました。皆様にはスケジュール調整など、お骨折りいただきありがとうございました。
あらためて開催日程をご連絡いたします。
日時:7月30日 13:00
場所:○○社第一会議室
間違った使い方
「取り急ぎ」を使ううえでのルールをご紹介しましたが、「正しい使い方」だけみていても「間違った使い方」についてはぴんと来ない人も多いでしょう。ここでは、先にご紹介したルールに反する例文をご紹介します。守るべきルールを外している部分に注目して、例文を参考にしてください。
要点以外を含む「取り急ぎ」例文
ご依頼の件、承知致しました。
取り急ぎ、ご連絡いたします。
また、別件ですが、先にご依頼していた見積もりの確認についてはいかがでしょうか。
回答をお待ちしております。
この文章では、取り急ぎ連絡しながらも、別件についての依頼も合わせて行なっており、文章全体としてのちぐはぐした感じが否めません。
正式な対応によるフォローがない
先ほどご連絡した通り、会議の開催日程が変更になっております。
周知いただきますようお願いいたします。
この文章では「先に連絡済みのことは繰り返さない」という姿勢がみて取れます。フォローを兼ねた正式な対応としては、連絡済みの変更事項を含めた、正式な通知を出す必要があります。つまり、変更点だけでなく、変更のない点についても「通常通りの開催通知」の形式で周知しなければなりません。
メール
「取り急ぎご報告します」「取り急ぎご連絡します」という表現を使ってメールを作成する場合、メール本文は数行で終わるくらいの長さにしましょう。メールを書き始めると、あれもこれもと報告すべき内容を書きたくなりますが、「取り急ぎ」とは、「きちんとしたメールを書くだけの時間がない」ことを表しています。
「取り急ぎ」として急いでいると断っているにも関わらず、長々としたメールを書くのでは、内容に矛盾があるということになります。
「取り急ぎ」で始めたメールは、要点のみを本文に書くようにしましょう。例えば、会議日時の変更について「取り急ぎ」連絡するのなら、「予定していた日は中止になった」ことだけを伝えるか、「○日に変更になった」旨を伝えるだけにします。
「取り急ぎ」の例文
「取り急ぎ」には、定型ともいえる使われ方があります。「取り急ぎお礼まで」「取り急ぎご連絡いたします」などが代表的な使い方といえます。これらの定型文を覚えてしまえば、その場の状況に応じて、もっとも適した定型文を用いれば良いだけなので、すぐに自分の言葉として使えるようになります。
お礼まで
「取り急ぎお礼(れい)まで」とは、相手に何かをもらったときや、してもらったとき、配慮してもらったときなどに、きちんとしたお礼状を書く前に、とにかくお礼を述べたいというときに使います。時候の挨拶も何もかも取っ払って、とにかくお礼を述べたい、というときの定型文です。
【例文】
・○○の送付ありがとうございました。取り急ぎお礼まで
お礼申し上げます
「取り急ぎお礼(れい)申し上げます」とは、「取り急ぎお礼まで」と同義ですが、相手が目上の人の場合などに使われる、敬語表現になります。急いでいるとはいえ、少しでも相手に対する配慮を見せようという場合には、「申し上げます」と付け加えるだけで、丁寧な表現で相手に伝えることができます。
【例文】
・○○の件についてご対応いただきありがとうございました。取り急ぎお礼申し上げます
ご連絡
「取り急ぎご連絡まで」「取り急ぎご連絡いたします」も、重要事項のみ急ぎ連絡する場合の締めの言葉として使われます。多くはメールや手紙の文末に使います。「取り急ぎご連絡いたします」であれば、文書書き始めに使い、本来文頭で書くべき挨拶文などを割愛することもできます。
「取り急ぎご連絡まで」として文書を締めた場合、動詞がないので、受け取った側に連絡を求めていると勘違いする人もいます。ビジネス文書に慣れていない人宛ての場合は、「取り急ぎご連絡いたします」「取り急ぎご連絡差し上げました」などと書いた方が親切です。
【例文】
・今回の件は合意に達しました。取り急ぎご連絡まで
・明日お伺いします。取り急ぎご連絡いたします
失礼します
「取り急ぎ失礼します」は、話の締めくくりに使います。急ぎ連絡しなければならないことがあった場合、連絡を終え、話を打ち切る際に、「取り急ぎ失礼します」とすることで、「きちんとしたご挨拶ができなくて失礼いたします」という気持ちを表現できます。主にメールや手紙などの文書の締めとして使われますが、電話や対面の会話の中で使うことも可能です。
【例文】
・内容がわかりにくく申し訳ありません。取り急ぎ失礼いたします
対応
「取り急ぎ対応いたします」は、応急措置などが必要な事項に対して使います。正式な対応ができない可能性があっても、放っておくことができない事態が発生したときなど、「取り急ぎ」を使えることで、相手に対しても「完璧ではないが緊急対応する」という気持ちを伝えることができます。
【例文】
・この度はご迷惑をおかけしてもうしわけありません。日常業務が行えるよう、取り急ぎ対応させていただきます。もうしばらくお待ちください。
ビジネス文書の書き方
「取り急ぎ」という言葉の意味を知らなかったという人や、意味はわかるが自分では使いこなせないという人には、「しっかりとした敬語表現マナーですぐに書けるビジネス文書の書き方」がおすすめです。ビジネス文書を書く際に気にするべきポイントと文書作成のテクニックが紹介されています。
TPOに合った、適切な文書の記載例が数多くあり、すぐに役立ちました!
「取り急ぎ」の類語
「取り急ぎ」には、多くの類語があります。「大慌て」「性急」「急いで」「至急」「てんてこ舞い」「大わらわ」なども「取り急ぎ」の類語です。その中でも、「取り急ぎ」と言い換える形でビジネス文書の中でも使える類語をご紹介します。
まずは
「取り急ぎ」を置き換えるのに「まずは」を使うととても簡単です。「取り急ぎご連絡まで」「取り急ぎお礼まで」といったここまでご紹介してきた「取り急ぎ」を使った文章について、「まずは」で言い換えることができます。
【言い換え文例】
・取り急ぎお礼まで/まずは、お礼まで
・取り急ぎご連絡まで/まずは、ご連絡まで
至急/急ぎ/性急に
「取り急ぎ」は、「至急/急ぎ/性急に」という言葉で言い換えることもできます。これらの言葉で言い換える際は、そのまま単純に言い換えるのではなく、言葉の入れ替えをしたり、言葉を補充する必要がある場合もあります。
【言い換え文例】
・取り急ぎご連絡いたします/至急ご連絡いたします/急ぎご連絡いたします
直ちに
「取り急ぎ」は、「直ちに」という言葉で言い換えることもできます。「取り急ぎ」をそのまま言い換えることができる場合と、少し言葉を補ったり、語順を変えて言い換える場合があります。
【言い換え文例】
・取り急ぎご連絡いたします/○○様にも直ちにご連絡させていただきます
「取り急ぎ」の敬語
「取り急ぎ」とは、急いでいることを理由に、本来配慮すべきマナーなどを欠いた対応となることに対する断りとして使われます。マナーを欠く対応となることから、上司や取引先などの目上の人にはあまり使うべき表現ではありません。
しかし、とにかく急いで伝えなければならないこともあります。絶対に目上の人に使ってはいけないというわけではありません。情報を伝えるべき相手を選んで使いましょう。「取り急ぎ」を使えるのは、直属の上司や、信頼関係が築けている取引先相手などに対してのみです。
「とにかく急いでいるので無礼を許してほしい」のが「取り急ぎ」を使う目的でもあるので、無理に敬語にする必要はありませんが、「ご連絡いたします」という謙譲表現が使えればベストです。
親しい目上の人に対する「取り急ぎ」
信頼関係が構築できている目上の人に対してであれば「取り急ぎ」を使って構いません。「取り急ぎご連絡まで」「取り急ぎ御礼まで」といった、動詞を省略する形式でも構いません。ただし、「取り急ぎ連絡まで」とはせずに、「ご連絡」という敬語を使うようにします。お礼に関しても「御礼(おんれい)」とした方が、適切な敬語になります。
【文例】
・このような結果となりました。取り急ぎご連絡まで
・結構な品物をいただき、ありがとうございました。取り急ぎ御礼まで
あまり親しくない関係者に「取り急ぎ」伝えたい場合
あまり親しいとはいえず、信頼関係が築けているとも言えない間柄の人でも、とにかく急いで何かを伝えなければならないということもあります。この場合、「取り急ぎご連絡まで」という簡単な報告を入れたいところですが、言葉遣いに配慮する必要があります。
親しくない人に対しては、「取り急ぎ」という言葉は不躾になるので、避けた方が無難です。代わりに「まずは」を使うようにします。また、「取り急ぎ連絡まで」のように動詞を省略する言い方も失礼なので、きちんと尊敬語や丁寧語の動詞を使うようにします。
【文例】
・まずは、ご報告いたします
・まずは、ご報告申し上げます
・まずは、ご報告のみにて失礼いたします
「恐縮ですが」を使った言い換え
あまり親しくない相手や、忙しくても配慮を欠くことができない相手に対し、「取り急ぎ」を使いたい状況になったときは、少し言葉数が増えますが「恐縮ですが」が便利に使えます。
「取り急ぎご連絡まで」を使いたい場合、この言葉の意味をそのまま表現します。「恐縮ですが用件のみご連絡させていただきます」「恐縮ですが急ぎにつき、要点のみ連絡いたします」などを使えば、目上の人への多少の配慮が感じられます。
「取り急ぎ」を適切に使い簡潔な報告を
「取り急ぎ」と適切に使って、伝えるべきことだけを簡潔に伝えることが可能です。忙しいビジネス社会の中では重宝するフレーズといえます。しかし、先にご紹介したように、誰にでも使えるわけではなく、自分と相手の立場や関係性を考えたうえで使い方を考える必要があります。
この機に、「取り急ぎ」を使える場面や使い方、使える相手などをきちんと把握し、自分の仕事上の連絡などでも使いこなしてみましょう。ビジネス時間が少し短縮できる可能性のある言葉です。