「おかげさまで」ってどういう意味?
「おかげさまで」は、自分が良い状況にある時に、他人から受けた何らかの恩恵に対して感謝の気持ちを込めて使います。「おかげさまで」は神仏や人の助けなどから受ける恩恵という意味の「おかげ」に「さま」をつけて丁寧にした言葉で、ありがたいことにというような意味です。また、漠然と心身の状態が良い時などに挨拶の言葉としても使います。
「おかげさまで」とは漢字で「御蔭様で」と書きます。通常はひらがなで「おかげさまで」あるいはひらがなと漢字を混ぜて「お蔭さまで」「お蔭様で」と書くことが多いです。また「お陰さまで」と書いても間違いではありません。
「おかげさまで」の由来は?
「おかげさまで」という言葉は、仏教とも深く関わっています。また、江戸時代に流行した言葉とも言われています。奥が深そうなこの「おかげさまで」の語源や由来を見ていきましょう。
そもそも「おかげ」ってなに?
「お蔭」の「蔭」は訓読みでは「かげ」音読みでは「おん」と読みます。古くは飛鳥時代の大宝律令によって制定されたと言われる蔭位の制(おんいのせい)により、高位者の子孫をその父祖である高位者の位に応じて一定以上の位につけるという制度です。
そもそも「おかげ」とは、父祖の功績によって子孫が恩恵を受けることから丁寧語の「お」をつけ「お蔭」となり、広く神仏や人から受けた恩恵を指して「おかげ」という使い方がされるようになりました。
「おかげさま」ってなに?
「おかげ」に「さま」がついたのは江戸時代と言われています。「お疲れさま」「ご苦労さま」「お気の毒さま」「ご愁傷さま」「お互いさま」「お粗末さま」「お待ちどうさま」など、同じように「さま」がつく言葉はたくさんあります。
「おかげさま」は、江戸時代、人同士のつながりを重視した風潮の中、人への同情や感謝、お詫びなどの気遣いの気持ちに「さま」をつけて強調し表したものとされています。それが流行し、今でも使われているという訳です。
また、江戸時代には「お蔭参り」と呼ばれる伊勢神宮への集団参詣が起きました。一生に一度の命がけで行う伊勢神宮までの旅は、神恩の「おかげ」、またあたたかく迎えてくれる沿道の人達の「おかげ」でという意味から「お蔭参り」と呼ばれました。
仏教用語としての「おかげさまで」
仏教には「諸法無我」という教えがあります。すべての物事は繋がり影響し合う因果関係にあり、自分という存在は主体的に存在するのではなく、他との関係の中で生かされているという教えです。
「おかげさまで」という言葉の中には、自分が今日幸せに暮らしているのは、今まで出会った多くの人との縁や先祖、または自然の恵みといった目には見えない、自分以外のあらゆるものに感謝する気持ちが込められています。
「おかげさまで」ってどんな風に使うの?
実際にどんな形で「おかげさまで」が使われているのか、順を追って見ていきましょう。
「おかげで」と「おかげさまで」の使い方の違い
「先生のご指導とアドバイスのおかげで、無事第一志望の大学に合格することができました」のように、特定の人や物を具体的に指してあなたのおかげでという場合には、文中に使用することができますが、この場合は「おかげで」を使います。
「おかげで」が文中に使用するのに対し「おかげさまで」は基本的に文頭および読点のうしろに使用します。「おかげさまで、第一志望の大学に合格することができました」のように感謝する相手が漠然として、後に続く文章全体に繋がってきます。
また、「おかげさまで」を使って特定の人や人物を具体的に指したい時は、「先生からいただいたアドバイスがとても役に立ちました。おかげさまで、第一志望の大学に合格することができました」のように文を分けるとよいでしょう。
漠然とした「おかげ」の意味
上記のように「おかげさまで、第一志望の大学に合格することができました」という文章を見てみましょう。「おかげ」の意味するものは、実際は自分の力だけで合格したとしても、目には見えない自分に関わる全ての人や神仏の助けがあって合格することができましたといった、謙虚なニュアンスです。
この概念は日本特有のもので、さらに深く突き詰めていけば、「いただきます」や「ご馳走様」にも通じていきます。私たちが生きていくために取る食事について考えても、自分ひとりで生きている訳ではない「ご縁」への感謝というものが根底にあると考えられます。
注意!「おかげさまで」の間違った使い方!
相手に良い印象を与える「おかげさまで」という言葉ですが、間違った使い方をしてしまうと、せっかくの思いが伝わらないことがあるので注意が必要です。
よく見かける、間違った使い方や正しい使い方をご紹介しましょう。
「おかげさまです」は正しい?
「おかげさまです」というフレーズを時々目にすることがあります。「おかげさまです」と文末に使うのは間違いです。正しくは「おかげさまで○○○です」というように使います。
これは、「おかげさまです」というタイトルのアルバムやゲームソフトのタイトルにも使われていることから、目にする機会が多いようですが、本来の使い方とは違う間違った使い方になるので、注意してください。
「おかげさまで元気です」は正しい?
久しぶりに会った人から、「お父様はお元気ですか?」のように、自分自身や家族の体調や様子をについて尋ねられることがあります。この場合、「おかげさまで、元気にしております」という返答の仕方をします。実際に直接お世話になってはいないのに、「おかげさまで」ということに抵抗のあるという人がいます。
しかし、直接はお世話になっていなくても、広い意味で取り囲む全てのもののおかげで元気に生活させていただいています、という感謝の気持ちを謙虚に表した言葉になります。
「お元気ですか?」という問いに対して「おかげさまで、元気です」という返答は正しい表現です。
マイナス的なイメージの言葉
「おかげさまで」は感謝の気持ちを込めて使う言葉なので、マイナス的なイメージのある言葉と一緒に使うのは適切ではありません。
「おかげさまで、成績が下がりました」「おかげさまで、減給になりました」という使い方は違和感があり、嫌味に聞こえる間違った使い方です。
間違っている例として、「先輩のおかげで、失敗しました」「あなたのおかげで、遅刻してしまった」という使い方がされていることがあります。このように自分が被害や不利益を受けた時には「おかげ」ではなく「せい」を使います。「先輩のせいで、失敗しました」「あなたのせいで、遅刻しました」というのが正しい使い方です。この使い分けにも注意しましょう。
また、自分自身で成し遂げ、誰かの協力を連想させないような表現と一緒に使うことも避けましょう。
「おかげさまで」って敬語なの?
「おかげさまで」という言葉自体が非常に丁寧な言葉なので、そのまま敬語として使用することができます。間違った使い方さえしなければ非常に良い印象を与えるという効果もあるので、目上の人やビジネスシーンでは敬語として積極的に使ってほしい言葉です。
ただし、目上の人やビジネスシーンで使う場合には特に、相手に失礼にならないような正しい使い方をしてください。上記の間違った「おかげさまで」の使い方を参考にしてください。
各シーン別例文
便利な言葉を上手く使い分けられるように、各シーン、相手ごとに例文を見ていきましょう。
目上の人に使う場合
「おかげさまで」はそのまま敬語として使用することができる好感度の高い表現なので、目上の人に対しては特に積極的に使ってもらいたい言葉です。
「入院中はお忙しい中、わざわざお見舞いにお越しいただきありがとうございました。大変ご心配をおかけしましたが、おかげさまで先週末、無事退院することができました」
この場合、お見舞いに来ていただいたことに対する感謝の気持ち「ありがとう」という言葉と同時に使っています。二重に感謝の気持ちを込めた言葉を並べることにより、一層相手に対しての感謝の気持ちを強く表すことができています。
返答として使う時
相手に褒められた時に「おかげさまで」という返答をすることができます。この場合も漠然とした相手に感謝の気持ちを表し、自分自身を謙遜する好感度の高い言葉の選び方だといえます。
褒められた時などの返答として使う「おかげさまで」や「ありがとうございます」は単体で使用することもできますが、目上の人やビジネスシーンで使う時は「おかげさまで、ありがとうございます」とすると、より丁寧になり好感度もあがります。
また、「調子はどうだい?」というように挨拶がわりに聞かれた場合でも「おかげさまで」を使うことができます。褒められた時同様、「おかげさまで、絶好調です」と続ければ、よりスムーズな会話を続けることができるでしょう。
ビジネスシーンで使う場合の例文
「先日ご尽力いただきました商談の件ですが、おかげさまで双方合意の上契約成立となりました。その節は大変お世話になり、ありがとうございました。今後とも何卒ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます」
このように、ビジネスシーンで使う場合は、相手に対する感謝の言葉を重ねて使用することで、より丁寧に感謝の気持ちを伝えることができ、相手との関係を良好に保つことができます。
「おかげさまで」を年賀状で使う場合
「おかげさまで」という言葉は、年賀状においても使用頻度の高い言葉です。年賀状は日本の伝統的な風習の1つで、古くは平安時代から始まったと言われています。この頃の習慣であった年始回りを簡略化したものが年賀状のルーツだと考えられています。
一般的に年賀状を出すことが広がったのは、明治に入り郵便制度が開始されてからです。年賀状には、一年の節目にお互いの幸せを願って感謝の言葉や近況報告、健康を願う言葉、あるいは新年の抱負などを盛り込みます。
そんな年賀状で、相手に対する感謝の気持ちを伝えるには「おかげさまで」はぴったりの言葉です。メールでの年賀挨拶文にも使うことができるので、参考にしてみてください。
一般的な年賀状の例文
「謹んで、新年のお慶びを申し上げます。ご無沙汰しておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。旧年中は大変お世話になり、ありがとうございました。おかげさまでこちらは、家族一同元気にしております。今年こそは家族そろってお伺いしたいと思っています。お会いできるのを楽しみにしております。寒い日が続きますので、くれぐれもご自愛ください」
親戚や知人などに宛てた年賀状の例文です。年賀状は、できるだけ相手を思う気持ちのこもった文章を書くように心がけましょう。
ビジネス用年賀状の例文
「謹賀新年」
「昨年中は格別のご厚情にあずかり、心より御礼申し上げます。弊社は、お蔭さまをもちまして創業30周年を迎えました。ここまで来ることができましたのも、ひとえに皆さまのご尽力の賜物と深く感謝いたしております。御社の益々の発展を祈念いたしますとともに、本年もなお一層のお引き立てを賜りますようお願い申し上げます」
ビジネス用の年賀状の場合、より丁寧な言葉で、感謝の気持ちを盛り込みましょう。
「おかげさまで」を使うメリットとは?
「おかでさまで」という表現は、今の良い状態にあることは、自分だけの力ではないという意味あいが含まれています。「おかげさまで」は、単なる感謝の言葉に比べると、相手に対する感謝の気持ちがより強調されるというメリットがあります。
また、近年忘れられつつある人と人との繋がりを大切にするという面においても、利己主義に歯止めをかける、大きな効果がある言葉であると言われています。
「おかげさまで」の言い換え
文章の構成上、または前後の流れから「おかげさまで」という表現が使いにくい場合には、似たような意味を持つ言葉で言い換えることができます。例文を挙げておきますので、覚えておくといざという時に便利です。
「ご尽力」を使った言い換え
「先生のおかげで、無事に成功することができました。本当にありがとうございました」という文章を「無事に成功させることができましたのも、先生のご尽力の賜物です。本当にありがとうございました」と言い換えることもできます。
「ご尽力」を使う場合は、努力して助けていただくという意味が強くなります。意味はほぼ同じなのですが、「おかげ」よりも少し強いニュアンスになります。
「お力添え」を使った言い換え
同じように、「先生のおかげで、無事に成功することができました。本当にありがとうございました」という文章を「先生のお力添えがなければ、無事に成功することはできませんでした。本当にありがとうございました」のように言い換えることができます。
「お力添え」を使う場合は、力を添えていただくので、援助という意味が強くなります。意味はほぼ同じなのですが、少し狭いニュアンスになり「努力して」という意味は含みません。
「おかげさまで」を継承していきましょう!
謙虚さと奥ゆかしさを感じることができるのが「おかげさまで」という言葉です。言葉だけではなく、その日本特有の精神もしっかりと覚えましょう。
神仏のおかげというありがたいイメージを持つと、どんな小さなことにも感謝することができます。そして、日常生活を豊かにすることにつながっていきます。
古くから続く「おかげさまで」と「おかげさまで」に含まれているその精神は、今後も日本人が継承していきたいテーマの1つです。