「お願いできますでしょうか」の文法的な是非
「お願いできますでしょうか」という言葉、日常的によく耳にする言葉ですが、この「お願いできますでしょうか」は文法的に正しい表現なのでしょうか。また、「お願いできませんでしょうか」と表現することもありますが、その意味に違いはあるのでしょうか。
「お願いできますでしょうか」の敬語は正しい?
「お願いできますでしょうか」という言葉は、ビジネスの場面はもちろん、日常の生活の中でもよく使われている言葉です。特に違和感を感じずに使っている方も多いのではないでしょうか。
「お願いできませんでしょうか」はとてもよく使われる言葉ですが、実は文法的には誤った表現の言葉です。というのも、「おねがいできます」の「ます」と「でしょうか」の「です」と二つの丁寧語が入っているからです。
その場合二重敬語と呼ばれ重複表現になってしまいます。二重敬語は望ましくない表現とされています。したがって、「おねがいできますでしょうか」は厳密には、文法上誤った表現ということになります。
文法的に正しいのは?
では、「お願いできますでしょうか」を正しい文法で表現すると、どういう言葉になるのでしょうか。
答えは「お願いできますか」です。意外に思われる方もいるでしょうが、非常ににシンプルです。正しく伝えるためには、「です」の丁寧語は必要ありません。「ます」の丁寧語のみで十分に伝わります。
普段「お願いできますでしょうか」という表現に慣れてしまっていると、「お願いできますか」では少しぶっきらぼうで失礼な表現に感じてしまうのも事実です。そのような心理から「お願いできますでしょうか」という二重敬語が一般に使われるようになったといえます。
日本人特有の気質である、腰を低く、相手には丁寧に接するという心理が、より丁寧さを求め生まれた言葉とも言えます。
「お願いできませんでしょうか」との違いは?
「お願いできますでしょうか」と似た表現に「お願いできませんでしょうか」という言い方があります。「お願いできませんでしょうか」も特にビジネスのシーンでは頻繁に使われる言葉ですが、両者にどのような違いがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
「~できません」「~でしょうか」で分けて考える
「お願いできませんでしょうか」を「~できません」と「~でしょうか」に分けて考えることにします。まず「~できません」の中の「ません」のもとの形は丁寧語の「ます」になります。一方「~でしょうか」に含まれる「でしょう」のもとの形は丁寧語の「です」になります。つまり「お願いできませんでしょうか」も二重敬語ということになります。
ニュアンスの違い
どちらも表わす意味は同じですが、「お願いできますでしょうか」と「お願いできませんでしょうか」という表現は少しニュアンスが異なっています。まず「お願いできますでしょうか」という場合の方が、「できる」という可能性を強調した言い方になります。こちらの方が、強い依頼の気持ちを表わす表現といえるでしょう。
一方で「お願いできませんでしょうか」と聞く場合は、「できる」という可能性に対して、少しやんわりとした控えめな表現になります。そして、こちらの方が、相手に対する敬意をより高く伝える表現と言えます。特に相手の方が自分より目上の方の場合、敬意を表すといった点では、「お願いできませんでしょうか」の方が丁寧な表現です。
「お願いできますでしょうか」と「お願いできませんでしょうか」はどちらも同じ意味の言葉ですが、「できる」という可能性に対しての表現の違いにより、ニュアンスの違いが生まれてきます。
「お願いできますでしょうか」目上の人への使い方
現在では、「お願いできますでしょうか」はビジネスマナーとしても当たり前のように使われる言葉です。そのため、それが間違った言葉であると知らずに使っている人が多いのも事実です。しかしご年配の方はそうとは限りません。中には、「お願いできますでしょうか」という表現が誤った日本語だと気にする方もいます。
したがって、相手の方に一度伝えてみて、反応が良ければそのまま使うのは問題ないでしょう。しかし、不快な感情を抱いているようならば、別の言い方にすることをおすすめします。
「お願いできますでしょうか」の言い換え表現
では、「お願いできますでしょうか」に代わる適切な表現にはどのようなものがあるのでしょうか。ビジネスシーンにおいて、「お願いできますでしょうか」に代わる言い方はたくさんあります。上司や取引先のクライアントなどにお願いするときに使う表現のほかに、同僚や部下に使う場合の表現も見ていきましょう。
上司やクライアントなど目上の人に使う場合
目上の人に対して「お願いできますか」と言う表現を使うと、ややぶっきらぼうな印象に感じる方もいるのではないでしょうか。そのような場合には、より丁寧な表現が適しています。
いくつか例を挙げますので見ていきましょう。
「お願いいたします」
「お願いいたします」という敬語は、「する」の謙譲語である「致す」に丁寧語の「ます」が付随した形になり、敬語としては正しい表現となります。基本的に、相手に敬意を払い、「~させてもらいます」という意味合いになります。こちらも目上の人との会話などでよく使用される言葉です。
「~して頂いてもよろしいでしょうか」
「していただいてもよろしいでしょうか」は、一般的にしばしば見られる表現です。一方で、言い回しが長く、丁寧すぎる印象を与えることもあります。そのため、「お願いできますでしょうか」と同じ印象になるおそれがあります。
丁寧すぎる印象を与えないためには、「~していただきたいと考えておりますが、いかがでしょうか」などのように、文章を区切って、わかりやすい表現にした方が好ましい場合もあります。
「お願い申し上げます」
「申し上げます」は「いう」の謙譲表現になり正しい敬語です。「お願いいたします」と同じ謙譲表現ですが、敬意を表す補助動詞の「上げる」が付随しており、こちらのほうが「お願いいたします」より丁寧な表現になります。つまり、自分よりも立場が上の人に対して、より敬意を表わしたい場合に適している言葉です。
「お願いしたく存じます」
「お願いしたく存じます」は「お願いしたくおもいます」の謙譲語で正しい敬語となり、とても丁寧な表現です。目上の人や顧客など高い敬意を払うべき人に対して使う言葉です。
会社の上司には「お願いいたします」と一言でも問題ありませんが、上司よりも立場が上の人、大切なクライアントなどに対しての言い回しは「お願いしたく存じますという表現の方がより丁寧な言葉と言えます。
同僚や部下に使う場合
同僚や部下など目上の人以外に用いる場合は、「お願いできますか」とシンプルに表現することができます。実際は「お願いします」とよりシンプルな言い方が良く使われていますが、これは命令口調にも聞こえるため注意も必要です。場合によっては、謙譲語の「いたします」を用いて「お願いいたします」とした方が良いでしょう。
「お願いできますでしょうか」の使い方
では、「お願いできますでしょうか」は実際どのように使うのがよいのでしょうか。具体例を挙げながら見ていきましょう。
メールや電話での使い方
ビジネスシーンにおいて、メールや電話で何かをお願いしなければならない場面も多いでしょう。その場合大切なのは、メールでお願いする時の方が、声や態度で敬意を表わすことができないので、より丁寧な敬語の使い方が必要になる点です。
そもそもお願いするという時は、低姿勢と相手に対する配慮を示せているかが重要となります。正しい使い方の例としては、「ご多忙のところ恐縮ですが、~お願いできますでしょうか」「お忙しいところ恐れ入りますが、~をお願いできますでしょうか」などです。
このように文頭に、忙しい所申し訳ないですというニュアンスを入れることで、低姿勢と相手への配慮を含めた敬語の使い方になります。
メールでの使用例
「お忙しいところ大変恐縮ですが、資料を送っていただくようお願いできますでしょうか。」
「ご多忙のところ恐れ入りますが、本メールを読まれましたらご返信をお願いできますでしょうか。」
電話での使用例
「恐れ入りますが、折り返しのご連絡をお願いできますでしょうか。」
「~課の~様へのお取次ぎをお願いできますでしょうか。」
「先日お問い合わせ頂いた資料について、内容のご確認をお願いできますでしょうか。」
「お願いできますでしょうか」の返事
では、自分が「お願いできますでしょうか」と頼まれた場合はどうでしょうか。電話でもメールでも同じですが、質問に答える形で完結させるようにしましょう。
日常的に多用している言葉に、「大丈夫です」という言葉がありますが、ビジネスのシーンにおいては、「大丈夫です」と答えるのではなく、例えば、「はい。問題ありません」や「承知いたしました」などの表現を使うように心がけましょう。
「お願いできますでしょうか」は正しい日本語なのか
「お願いできますでしょうか」は厳密にいうと正しい日本語ではありません。しかし、実際にはとてもよく使われている表現です。二重敬語が誤りとされる理由は、くどい印象があること、丁寧すぎてかえって失礼になることなどが挙げられます。しかし、そこまで失礼な表現と感じられない場合は、二重敬語でも慣習化して使われています。
日本人らしさの表れとして、なるべくやわらかい表現で伝えたいなどの点から「お願いできますでしょうか」は慣習的に使われていると言えます。「ます」と「です」という丁寧語が2つ使用されることで、相手に対してやんわりと伝えることができます。より丁寧さを重視する日本人としての気質から生まれた言葉といえます。
「お願いできますでしょうか」を適切に使いこなそう
「お願いできますでしょうか」はビジネスシーンではもちろんの事、日常のシーンでもよく使われている言葉です。文法的には間違った日本語とは言え、慣習化しているともいえます。
お願いするときは正しい敬語を使いこなすこともそうですが、何より大切なのは、相手に「配慮する気持ち」が大切です。「お願いできますでしょうか」は正しい敬語ではないものの、相手の気持ちに配慮したやわらかい表現のニュアンスを重視した言葉です。そこに込められた配慮の気持ちは、大切に残していくべきです。
そして、使うシーンによって、言い換え表現も含め、適切な敬語が使えるよう心掛けていくべきではないでしょうか。大切なのは、相手の立場を考えることです。そのことを意識することで、正しい敬語の使い方は自然と身についていくのではないでしょうか。