「伺う」と「参る」の意味と違い
「伺う」と「参る」には、それぞれにいくつかの意味があります。「伺う」は、様子を見る、聞く、尋ねる、問う、など多くの意味を持つ謙譲語です。「参る」は、降参を認める、困難や対応できない状況に心身が弱る、など、やはり複数の意味を持つ言葉です。
そして、この記事で紹介していく「伺う」と「参る」に共通する意味は、「行く」「訪問する」という意味です。「行く」という意味はどちらも同じですが、「伺う」は行く先に敬意を払った謙譲語であるのに対し、「参る」は話す相手に対して自分の「行く」という行動をへりくだって表現する場合の謙譲語です。
続いての項目で、もう少し詳しく違いを紹介していきましょう。
行く先に敬意を払った表現は「伺う」
ビジネスの場面では、「伺う」という表現が文書や会話の中で頻繁に使われています。「参る」という謙譲語が丁寧語の意味も含んでいるのに対し、「伺う」は話題に出ている人や話し相手を立てて、自分を一段下げて「行く」ことを伝える謙譲語としての意味だけを持つからです。
話す相手や話題に出ている人物が話者より上位にある場合、自分や自分側の人間が「行く」ことを伝える場合は、「伺う」という表現で伝えましょう。
話す相手に敬意を払う場合は「参る」
「伺う」が話題に出た人や場所、話す相手を立ててへりくだった表現であるのに対し、「参る」、自分を一段下げて話し相手を立てて「行く」ことを丁寧に述べるときに使われる表現です。例えば「来週から出張で○○(地名)へ参ります。」のように使います。この場合、行く先が自分から見て上位の場所ではありません。
このように、話す相手に対して敬意を払った謙譲語で「行く」ことを伝える場合に「参る」を使います。
話す相手と行き先の相手が同じ場合はどちらもOK
上の2つの項目で「伺う」と「参る」の違いは、話す相手に敬意を表しているのか、行く先に敬意を表しているのかの違い、と述べましたが、それでは話す相手が行く先と同じ場合は、どちらの表現がよいでしょう。
例文:ご連絡をいただき次第、御社へ伺います。/ご連絡をいただき次第、御社へ参ります。
この例文のように、どちらの表現でも行き先や話している相手を敬う謙譲語表現となります。
ただし、実際のビジネスシーンでは、丁寧語という解釈も可能な「参る」ではなく、謙譲語としてのみの意味を持つ「伺う」の表現を使うのが一般的です。
自分側以外が行く場合「参る」「伺う」はNG
「参る」「伺う」は、「行く」という行動を取った人物を一段下げて表現する謙譲語です。そのため、話す相手や、話題に出ている話者が上位の人が「行く」ことを伝える場合、「参る」や「伺う」と表現するのは、話す相手や話題に出ている上位の人に対して失礼に当たります。
話す相手や自分より上位の人が行くことを表現するときは、尊敬語で言い表しましょう。詳しくは、この後で紹介する「伺う」と「参る」の敬語の項目で紹介していきます。
上司が「行く」場合も「参る」や「伺う」でいいのか
話題に出ている「行く」行動に出る人物が自分の上司の場合、尊敬語なのか謙譲語なのか迷った経験がある人は少なくないでしょう。
話す相手が社外の人間の場合、上司は社内の人間=自分側の人間になるため、上司が「行く」ことを伝える場合も「伺う」と述べるのが正解です。社外の人物であっても、お互いに対等な立場であると認識している場合は、自分側を一段下げた丁寧な表現とされる「参る」という表現で述べても間違いではありません。
「伺う」と「参る」の使い方
「伺う」と「参る」の概要を紹介してきましたが、この項目では、具体的なビジネスシーンでの使い方を紹介していきましょう。「伺う」と「参る」を使い分けるポイントは、話している相手が自分より上位の立場にいる人かどうか、そして話題に上った人物や場所が敬意を表すべき相手や場所かどうかです。
面接
面接の場面では、話者である自分が一番格下の立場です。自分が行くことを表す場合は「伺う」という言葉が最も適した表現になるでしょう。面接の相手が行くことを表すときに「伺う」「参る」を使うのは間違いです。
自分の身内や面接相手と直接関わりのない第三者が行くことを表すときは、丁寧語で第三者への敬意も意味する「参る」という表現を用いるのが無難でしょう。例えば、面接官から「同業他社には応募しているか」と尋ねられたときは、「先日B社の面接を受けて参りました」という表現も回答のしかたの1つです。
ビジネス
就業中の上司やクライアントとの会話やビジネス文書などでは、「行く」ことを敬語で表す機会が数多くあります。
ビジネスの場面では、話題に出てくる第三者と話す相手の立ち位置の関係が分からない場合や、上下関係を感じさせる「参る」という言い回しは、話の流れによっては相手を不快にさせてしまう場合もあります。
このような場合は「参る」という表現を控え、自分を一段下げたことだけが明確な表現「伺う」の謙譲語を使って行くことを伝えるほうが無難でしょう。
挨拶
ビジネスシーンでは、会社同士の関わりは長くても、担当者単位では初顔合わせという場面が少なくありません。また、仲介業者を通じて会社単位で初めて挨拶を交わすということもあるでしょう。
よく間違える敬語表現の1つに、二重敬語があります。「ご挨拶にお伺いさせていただきます」という言い回しを見掛けることがありますが、これは間違いです。「ご挨拶」「伺う」がすでに謙譲語という敬語表現になっているので「ご挨拶に伺います」が正しい敬語の使い方です。
また、「ご挨拶に参ります」という表現は避けたほうが無難でしょう。「参る」には「行く」という意味のほかに「来る」という意味も持っているため、挨拶に「行く」のか「来る」のかと、聞き手を混乱させてしまいます。また、謙譲語とも丁寧語とも受け取れる言葉で、話す相手にさまざまな誤解を抱かせてしまうでしょう。
二重敬語や誤解を招く表現に注意して、正しい謙譲語で挨拶を述べましょう。
補助動詞で使われる「参る」の使い方
「参る」を補助動詞として使う場合は、動詞の連用形に助詞「て」を付けた形で表現します。例えば「持っていく」という言葉は、「持って参ります」という敬語に置き換えます。持っていくという自分の行動をへりくだった表現で表現することにより、相手に敬意を表す謙譲語になります。
「伺う」と「参る」の敬語
「伺う」「参る」は、どちらも「行く」という意味を表す敬語ですが、相手が「行く」行動を取る場合は尊敬語で表現する必要があり、また、へりくだる形の敬語表現は、「伺う」「参る」のほかにもあります。特にビジネス文書で同じ表現を使い過ぎて稚拙な文章にならないよう、いくつか紹介していきましょう。
謙譲語
謙譲語は文部科学省文化審議会国語分科会の敬語小委員会で2つの種類に分類する指針が出されています。謙譲語1は「動作の向かう先を立てる敬語」で、謙譲語2は「話している相手を立てる敬語」で、謙譲語の中の丁寧語とのことです。
「伺う」の別の謙譲語として、動詞である「伺う」を名詞にした「お伺いします」、「ご訪問いたします」などがあります。
尊敬語
「行く」行動を取るのが話している相手や、自分側より上位の立場にある第三者である場合、尊敬語を使って表現します。「訪問される(なさる)」「行かれる」などが、「行く」行動を取る相手を立てた表現でよく使われる尊敬語です。「いらっしゃる」という表現もありますが、「来る」の尊敬語でも使われるので、上記の尊敬語を使うほうが無難でしょう。
敬意が正しく伝わるよう上手に使い分けを
自分側が行くことを伝えるときに使われる謙譲語「伺う」と「参る」の違いや使い方を紹介してきましたが、いかがでしたか。
「伺う」は謙譲語としてだけの意味を持つ敬語、「参る」は相手を敬いつつ丁寧語の要素が強い、という違いを踏まえ、相手に対する経緯が正しく伝わるよう上手に使い分けましょう。