「渡す」の敬語は?
「渡す」の敬語には「謙譲語」「尊敬語」「丁寧語」の用法があります。
「渡す」の謙譲語は「自分が目上の人に物を渡す」ときに使います。「『渡す』という自分の行為を謙遜することで、『渡す』対象の相手に敬意を示す敬語」です。
「渡す」の尊敬語は「目上の人が物を渡す」ときに使います。「『渡す』という相手の行為を敬うことで、相手に敬意を示す」ときに使う敬語です。
「渡す」の丁寧語は、謙譲語や尊敬語に比べると軽めの敬語表現です。「話の聞き手に対して、敬意や丁寧さを示す」ときに使う敬語です。
それぞれ敬意の対象が異なります。「渡す」を敬語にするときは、「誰が誰に渡すのか」に着目して使い分けましょう。
「渡す」の謙譲語
「渡す」の謙譲語は「お渡しする」です。謙譲語の「お渡しする」を使うシーンは「自分が目上の人に何かを渡すとき」です。
この「お」は漢字で「御」と書きます。動詞の連用形につき、下に「する」「いたします」「もうしあげる」などを添えることで、謙譲の意味を表します。「お連れする」と同じ用法です。
「お」は謙譲語にも尊敬語にも使えます。この「お」は尊敬語ではなく、謙譲語です。
「お渡しさせていただく」は正しい謙譲語?
「渡す」の謙譲語は、他に「お渡しいたします」や「お渡しさせていただく」という言い方があります。「お渡しいたします」は「お渡しする」よりもさらに上位の謙譲表現です。
「お渡しさせていただく」は、「相手の許しや指示があった上で渡す」という意味を持つ、少々回りくどい言い方です。
単純に何かを渡すシーンで、「お渡しさせていただく」を使うと、余計な意味が入り込みしつこく感じます。その場合は「お渡しする」とシンプルに表現するのが適切です。
「渡す」の尊敬語
「渡す」の尊敬語は「お渡しになる」です。尊敬語の「お渡しになる」を使うシーンは「目上の人が誰かに何かを渡すとき」です。目上の人に何かを渡してほしい時は「お渡しください」を使います。
この「お」は漢字で「御」と書きます。動詞の連用形につき、下に「になる」「なさる」「あそばす」「くださる」などを添えることで、尊敬の意味を表します。「お連れになる」と同じ用法です。
「お」は謙譲語にも尊敬語にも使えます。この「お」は尊敬語です。
「渡す」の丁寧語
「渡す」の丁寧語は「渡します」「渡してください」です。「渡す」の場合、このように語尾を「ですます調」にすることで丁寧語になります。
丁寧語は謙譲語や尊敬語に比べると敬意が軽めの敬語です。上下関係は強くありません。目上の人に使うとぶっきらぼうに聞こえるので、親しい相手や後輩・同僚など、下から同等程度の相手に使うのがよいでしょう。
「渡す」という意味の熟語を敬語にすると?
「渡す」という意味を持つ熟語は「譲渡」「提出」「献上」などがあります。
「譲渡」は「権利や財産、地位などを譲り渡すこと」を意味します。「提出」は「書類などをある場所に差し出すこと」です。「献上」は「目上の人に物を差し上げること」を意味します。
「譲渡」の敬語
「譲渡」の謙譲語は「譲渡いたします」、「譲渡」の尊敬語は「譲渡なさる」、「譲渡」の丁寧語は「譲渡します」です。「譲渡」は「権利・財産・地位」などを渡すときに使用できます。
「提出」の敬語
「提出」の謙譲語は「提出いたします」「提出させていただきます」、「提出」の尊敬語は「提出なさる」「ご提出ください」、「提出」の丁寧語は「提出します」です。
より丁寧にお願いする場合は、「ご提出願います」や「ご提出の程お願い申し上げます」を使ってもよいでしょう。
「献上」の敬語
「献上」の謙譲語は「献上します」「献上いたします」です。
「献上」という言葉自体に「目上の人に物を差し上げる」という謙譲の意味があります。よって、「献上」に尊敬語・丁寧語はありません。
「渡す」の敬語の使い方は?
「渡す」の敬語の使い方を相手別に見ていきましょう。基本的に、目上の人に物を渡す場合は謙譲語で「お渡しする」、目上の人が物を渡す場合は尊敬語で「お渡しになる」を使います。
上司に対して使う
上司に対して「渡す」を使う場合は、謙譲語か尊敬語を使います。自分が上司に物を渡す場合は謙譲語を使います。「渡す」の謙譲語は「お渡しする」です。「部長にお渡しした資料」のように使います。
上司が誰かに物を渡す場合は尊敬語を使います。「渡す」の尊敬語は「お渡しになる」や「お渡しください」です。「部長が専務に報告書をお渡しになる」のように使います。
取引先に対して使う
取引先の場合も上司と同じく謙譲語か尊敬語を使います。自分が取引先に物を渡す場合は謙譲語を使います。「渡す」の謙譲語は「お渡しする」です。
取引先が誰かに物を渡す場合は尊敬語を使います。「渡す」の尊敬語は「お渡しになる」や「お渡しください」です。
お客様に対して使う
お客様の場合も目上の人と同じように謙譲語や尊敬語を使いましょう。お客様に物を渡す場合は謙譲語を使います。「渡す」の謙譲語は「お渡しする」です。「荷物をお客様にお渡しする」のように使います。
お客様が誰かに物を渡す場合は尊敬語を使います。「渡す」の尊敬語は「お渡しになる」や「お渡しください」です。「係員にチケットをお渡しください」のように使います。
先輩に対して使う
役職や年齢が離れている先輩の場合は、謙譲語や尊敬語を使いましょう。先輩に自分が物を渡す場合は謙譲語を使います。「渡す」の謙譲語は「お渡しする」です。
先輩が誰かに物を渡す場合は尊敬語を使います。「渡す」の尊敬語は「お渡しになる」や「お渡しください」です。
プライベートや親しい間柄、役職が離れていない先輩の場合は、丁寧語の「渡します」「渡してください」を使っても良いでしょう。同期や後輩の場合も丁寧語で問題ありません。
「渡す」の敬語の例文は?
「渡す」の敬語を使った、具体的な例文を三つご紹介します。「請求書をお渡しする」と「香典をお渡しになる」と「お金をお渡しになる」です。
請求書の場合
「渡す」の敬語を使った例文一つ目は「お客様に請求書をお渡しする」です。
お客様は目上の人として扱いますので、謙譲語か尊敬語を使います。この場合は、「自分がお客様に請求書を渡す」ので、自分の行動を謙遜する謙譲語を使うのが適切です。
香典の場合
「渡す」の敬語を使った例文二つ目は「上司が社長のご家族に香典をお渡しになる」です。
上司は自分から見て目上の人です。謙譲語か尊敬語を使うことになります。この場合は「上司が香典を渡す」ので、主語を高める敬語である尊敬語を使いましょう。
お金の場合
「渡す」の敬語を使った例文三つめは「社長がご子息にお金をお渡しになる」です。
社長は自分から見て目上の人です。この場合は目上である社長がご子息にお金を渡しているので、主語を高める効果を持つ尊敬語を使います。
なお、「お金」に関しては「お支払い」「ご入金」「ご返済」「ご返金」などの別の言い方があります。お客様や取引先に対しては「お金」とストレートに言うよりも、お金の種類に合わせて言い換え表現を使ったほうが適切でしょう。
例えば、「お金をお渡しください」よりも「ご入金をお願いいたします」や「お支払いください」の方が丁寧です。
「渡す」の敬語の類語や言い換え表現は?
「渡す」の敬語の類語や言い換え表現を三つご紹介します。「差し上げる」と「与える」と「譲る」です。
差し上げる
「渡す」の類語・言い換え表現一つ目は「差し上げる」です。「差し上げる」は「与える」「やる」の敬語表現で、謙譲語です。
場面によって、「差し上げる」は「渡す」の謙譲語「お渡しする」の代わりに使うことができます。例えば、「景品をお渡しする」は「景品を差し上げる」に言い換えられます。「与える」という意味が強い場面では「差し上げる」を使うとよいでしょう。
与える
「渡す」の類語・言い換え表現二つ目は「与える」です。物を「渡す」だけでなく、その人に「あげる」場合は「与える」に言い換えられます。
「与える」を敬語にすると、謙譲語は「差し上げる」、尊敬語は「お与えになる」「与えられる」になります。
譲る
「渡す」の類語・言い換え表現三つ目は「譲る」です。他人に何かを与えたり、売ったりする場合に使います。
「譲る」を敬語にすると、謙譲語は「お譲りする」、尊敬語は「お譲りになる」になります。
「渡す」の敬語表現をマスターして適切に使おう
いかがでしたでしょうか。今回は「渡す」の敬語表現について、謙譲語・尊敬語・丁寧語に分けてご紹介しました。「渡す」という言葉には類語や言い換え表現も多くあります。
「渡す」の敬語表現は「誰が誰に渡すのか」によって謙譲語・尊敬語を使い分ける必要があります。「渡す」の敬語表現をマスターして、適切に使い分けましょう。