「もらう」の敬語
「もらう」という言葉は、何かを受け取る、引き受けるという意味の言葉です。敬語ではなく普通に使う場合は「〇〇をもらう」や、「〇〇を受け取る」といった言い方で問題はないのですが、敬語で表す場合には「もらう」を言い換えて使わなければなりません。
敬語は大きく分けて「尊敬語」、「謙譲語」、「丁寧語」に分けられます。いまいち違いが分からない、という方のために分かりやすく尊敬語、謙譲語、丁寧語の違いについて見ていきましょう。
尊敬語
まずは「尊敬語(そんけいご)」です。尊敬語は基本的に目上の人、自分よりも立場が上の人に対して尊敬を込めて使う言葉です。先生や会社の上司、取引先の相手、またお客様などに対して使うことがあります。
尊敬語の場合は、主語は相手になり「〇〇さまがいらっしゃる」や「〇〇をご覧になる」、といったように相手の行動に対して敬語として尊敬語にかえて使うことになります。「もらう」の敬語、尊敬語で表すと「〇〇をお納めになる」、「お受け取りになる」となるでしょう。
謙譲語
敬語の2つ目、「謙譲語(けんじょうご)」です。謙譲語というのは、目上の相手などに対して自分のことをへりくだって言うときに使う敬語です。尊敬語と違い、主体になるのは自分ですが相手よりも低くみせるためにへりくだった言い方をします。
「もらう」を敬語の謙譲語で表す場合は、「〇〇をいただく」や「頂戴(ちょうだい)する」といった言い方になります。尊敬語と同じく相手を立てるための敬語ですが、相手を立てるのが尊敬語であり、自らをへりくだって言うと謙譲語となります。敬語はなかなか複雑なところがあります。
丁寧語
最後の敬語、「丁寧語(ていねいご)」です。丁寧語は、話す相手に対して敬意をこめて丁寧に話すための敬語です。語尾に「ます」や「です」をつけたり、言葉そのものに「お〇〇」とつけたりします。「お酒」や「お茶」、「お弁当」などの言葉は、丁寧語としても用いることができます。
「もらう」の敬語の意味がある単語
「もらう」という言葉を敬語として使う場合の単語です。すでに上記で紹介したものも含めて、挙げてみます。
・お受け取りになる
・お納めになる
・いただく
・頂戴する
・もらい受ける
などの単語があるでしょう。
第三者が「もらう」場合の言い方
誰かが、例えば自分の上司が資料などをすでに受け取る、もらっていた場合の敬語の言い方はどうなるでしょうか。
・上司がすでに受け取っておられます
・上司がすでにもらわれています
・上司がすでに受け取られました
・上司がおもらいになりました
などの敬語としての言い方があります。「おもらいになりました」というのは耳慣れない言葉ですが、敬語として間違っているとか、誤った使い方という訳ではありません。ただあまり使う人のいない言葉ですので、使うと違和感を覚える人もいらっしゃる可能性はあります。その場合は素直に、「受け取られる」や「もらわれる」を使いましょう。
「もらう」の意味がある熟語
ここでは「もらう」と同じような意味がある熟語について挙げてみます。
・頂戴(ちょうだい)
・拝受(はいじゅ)
・拝領(はいりょう)
・下賜(かし)
・受領(じゅりょう)
・請取(うけとり)
・納受(のうじゅ)
・収受(しゅうじゅ)
などの熟語があります。普通に受け取るという意味の熟語から、「下賜(かし)」のように目上の人から何かをいただく、もらうという場合に使われる熟語もあります。
「もらう」の敬語の例文
これまでに解説してきましたように、「もらう」という言葉を敬語にする場合は、基本的に言い換えて使っていく必要があります。ここでは、色々なパターン別にどういった敬語にしていけばよいのか紹介します。
教えて
「教えてもらう」の場合は、教えてもらうのが自分になりますので、敬語の中でも謙譲語を使うとよいでしょう。その場合は、「教えていただく」となります。
・教えていただけますでしょうか?
・教えていただけませんか?
・教えていただきました
・教えていただき、ありがとうございました
といったような例文が挙げられます。
来て
「来てもらう」を敬語にする例文です。「来てもらう」の場合は、「来ていただく」という敬語にするのはおかしいです。「来てもらう」のは相手であるため、謙譲語である「いただく」を使うのはおかしいからです。「来てください」でも悪いという訳ではないのですが、敬語としては物足りないものがあります。
・ぜひ弊社(へいしゃ)にお出で願いたいのですが
・こちらにお越しください
・ぜひこちらにいらしてください
・ぜひいらっしゃってください
「来てもらう」をこのくらいの敬語にすると、とても丁寧な印象を受けるでしょう。
お金を
「お金をもらう」の敬語の例文になります。「お金をもらう」の場合、もらうのは自分で主体が自分である、ということになりますので尊敬語にした場合には「上司がお金をお受け取りになりました」といった使い方をします。主体が自分なので「いただく」を使うこともできます。
・お金をいただく
・お金をいただきました
・お金を頂戴いたします
・お金を頂戴します
といった例文になるでしょう。ものがお金ですので、直接お金と使わずに「お心遣いありがとうございます」や、「お心遣いをいただきました」としても構いません。
印鑑
「印鑑をもらう」ですが、これにはかなり有名な言い回しがあります。「捺印(なついん)」や「押印(おういん)」です。「ご捺印」や「ご押印」というだけでも、丁寧な言葉になります。
・こちらにご捺印をお願いします
・こちらにご押印頂戴できますか?
・こちらにご捺印いただけますか?
これらの例文があります。直属の上司など近しい人なら、「捺印お願いします」だけでも充分でしょう。より立場が上の目上の人や社外の人を相手にするなら、より丁寧な言い回しをした方が好印象です。捺印と押印については、とくに違いはありません。昔は諸説もあったという話がありますが、現代においては同じ意味として使われています。
「もらう」の敬語の使い方
「もらう」について敬語や単語、熟語について紹介してきました。ここでは主に、ビジネスシーンで「もらう」を使う場合の敬語での使い方について、紹介していきます。
ビジネス
・ご対応いただき、ありがとうございました
・ご了承くださいますよう、お願い申し上げます
・ご配慮に感謝申し上げます
・お土産をいただきました
ビジネスにおいて「もらう」を敬語で使う場合も、もらうとそのまま使うことはありません。してもらう、という場合でも「~してくださいますよう」といったように敬語にします。
間違った敬語の使い方
間違った敬語の使い方をしている人は少なくないのですが、「もらう」の敬語でもそういった誤用があります。「~をしてもらってもいいですか?」という言葉です。使っている人が多いので、知らずに使っている人が多いのでしょうが、実は相手に失礼な印象を与えかねない誤った敬語です。
「~してもらう」といった場合、命令になります。「~をしてもらってもいいですか?」と本人は命令したつもりはなく丁寧に言ったつもりでも、相手からしてみればどうでしょうか。ここはストレートに「~をお願いできますか?」や「~していただけますか?」と聞いた方が印象が良いです。丁寧な敬語にしたつもりが違和感のある言葉になる、よくあるので気をつけましょう。
言葉遣いに気をつけよう
「もらう」という言葉を敬語で使う場合は、そのままもらうを使うことはほとんどありません。たいていは「受け取る」や「いただく」などの言葉に言い換えて使っていくことになります。「〇〇さまからもらいました」と言うよりは、「〇〇さまからいただきました」の方が敬語としても合っており、受け取る印象も変わってきます。
言葉遣いは見た目ほどではありませんが、人の印象を左右することがあります。できるだけ丁寧で、正しい敬語を使うように心がけましょう。