「いただく」の敬語
「いただく」という言葉は、ビジネスシーンでよく使われる敬語です。また、学生であっても担任の先生に対しては使わないこともありますが、校長先生などに対してはよく使われる敬語でもあります。
いただく」は「食べる」や「飲む」の謙譲語、「もらう」の謙譲語として用います。この謙譲語は、厳密にいうと、自分側から相手側または第三者に向かう行動・ものごとなどについて、その向かう先の人物を立てて述べるものという謙譲語に分類されています。
食べる
食事の際に「頂きます」と言ってから食べる人は多いです。「頂きます」は自分の「食べる」という行動について、食事を作ってくれた相手または食事を提供してくれた人を立てて述べるという敬語表現です。謙譲語では、自らがへりくだって述べるなどと表現される場合もあります。
また、食べ物だけでなく、お茶などの飲み物をくれた場合にも「いただく」を使うことができます。そのため、日常生活で非常によく使う言葉といえるでしょう。ビジネスの場においても、客として他社を訪問した際にコーヒーなどを出されることが多いため、よく使われる敬語です。
もらう
物をもらう場合にも「いただく」を用いる場合があります。たとえば、目上の人から重要な書類をもらった場合や、プレゼントをもらった場合などに「いただく」を使います。
目上の人からプレゼントをもらっておいて「もらっておきます」などと言う人はいませんので、ごく自然に「頂きます」と言える人が大半でしょう。
「いただく」と「頂く」
「いただく」と「頂く」では意味が違います。「頂く」と漢字で書くのは、「食べる」「飲む」「もらう」の謙譲語である「いただく」です。ひらがなの「いただく」は「お読みいただく」「ご覧いただく」など補助動詞として使うときに用います。
「食べる」「飲む」「もらう」の謙譲語である「いただく」は、謙譲語のなかの「特定形」といわれる敬語です。たとえば日本語を知らない外国人が文字を眺めても、「頂く」が「食べる」「飲む」「もらう」と関係があるようには考えられないでしょう。このように、全く違う形になるのが特定形です。
「頂く」の他の特定形の例では、「言う」と「申し上げる」、「知る」と「存じ上げる」、「会う」と「お目にかかる」などの敬語表現があります。「見る」と「拝見する」、「借りる」と「拝借する」なども特定形ですが、これはやや関係がつかみやすい敬語といえます。
「いただく」の例文
「いただく」の例文を紹介します。
させていただく
使い方が意外に難しいのが「させていただく」という敬語です。例文を紹介、解説します。
例文
「させていただく」という表現を使う場合には、条件が2つあります。自分が行うことを相手の許可を取って行うということ、それを行うことによって自分が恩恵をうけること、の2つです。
それでは、実際の例文で確認していきます。
・1.「FAXを送信させていただけますか」
・2.「最優秀賞を発表させていだだきます」
・3.「夏季休業させていただきます」
・4.「お忘れかもしれませんが、先日の会議で同席させていただいた者です」
・5.「はじめまして。以前は新宿支店で働かせていただいた○○です。」
解説
例文について解説します。1については、許可をとり、かつ恩恵をうけているので問題ありません。2の場合は、条件を満たしてはいるものの、場によってはまわりくどい表現と感じられるケースもあります。3の場合には、客との関係がそれほど強くない場合は「休業します」でもかまわないでしょう。
4の場合も同様です。ただし、特別な配慮によって会議に参加させてもらえたならば適切です。しかし、単に同席したのであれば、相手から「何も許可を与えていないのに」と感じられる場合もあるので不適切です。
5の場合も、その場に社長がいるなどであれば、社長が仕事をする許可を与えてくれることにより、働くことができたということなので条件を満たします。しかし、仮に一般社員の前で言えば不自然な言い回しです。
いただきます
すでに説明したように「食べる」「飲む」「もらう」の「いただきます」という敬語は正しくは「頂きます」と使います。
違う敬語の使い方として「この仕事をしていただきます」のような表現があります。補助動詞としての「いただく」という敬語には、許可と恩恵の条件が揃っている場合に使うのが基本であることはすでに解説しました。
そのため、責任者でもない人が「この仕事をしていただきます」というのは不自然です。この場合、「この仕事をしていただけますか」と決定権を相手に委ねることで、強い物言いが柔らかく変わります。
この語感は日本人ならほとんどの人が持っているので、冷静に考えれば問題になることは少ないでしょう。ただし、うっかりきつい言い方になってしまわないように注意が必要です。
「いただく」と「くださる」の違い
「いつもご利用いただきまして誠にありがとうございます」といった敬語は、いろいろなお店で耳にします。しかし、「いつもご利用くださいまして誠にありがとうございます」と言われても、ほぼすべての人は気にならないでしょう。何が違うのでしょうか。
「ご利用いだだき」の「いただく」は謙譲語、「ご利用くださる」の「くださる」は尊敬語です。つまり、自分側が相手に対し「ご利用いただく」ということと、相手が「ご利用くださる」という目線の違いがあります。
「相手を立てる」という目的をどちらの敬語も満たしているため、どちらの敬語を使っても問題ありません。ただし、一部の人のなかには「くださる」が正しいと信じている人もいます。
しかし、文化庁の「敬語の指針」ではどちらも問題ないとされています。個人差がある言葉なので「いただく」と「くださる」で迷った場合は「くださる」のほうが「いただく」を使うより無難といえなくもありません。
「いただく」の敬語の種類
「いただく」にはいろいろな敬語があることがわかりました。普段よく使う言葉ですが、意外に奥が深いと感じたのではないでしょうか。前述した内容と重なる内容もありますが、もう一度「いただく」の敬語を整理していきましょう。
謙譲語
「食べる」「飲む」「もらう」の謙譲語としての「いただく」があります。これは「頂く」と漢字表記した方がよいことも紹介しました。
「ご利用いただく」など補助動詞としての「いただく」の敬語も謙譲語に分類されます。この場合はひらがな表記するように文化庁は推奨しています。
「いただく」の敬語の間違った使い方
「食べる」「飲む」「もらう」の敬語である「頂く」がありますが、「戴く」という感じを使った方がよい場合もあります。
頂くと戴く
「戴く」には「頭の上にのせてもつ」という意味があります。現代の日本では実際にこのような行動をすることは少ないため比喩的に使われる場合がほとんどです。
しかし、このような意味を持つ言葉のため、自分より非常に目上の人の場合は「頂く」より「戴く」とした場合がよいとされています。また、金品や貴重な品をもらった場合も同様です。なお、「戴く」と「頂く」が組み合わさった言葉に「頂戴する」がありますが、この言葉も最大限に敬意を表す表現と一般的に認識されています。
「いただく」の敬語を正しく使い分けよう
敬語のなかでも身近な言葉のひとつが「いただく」でしたが、意外に使い分けが難しく、奥が深いと感じたのではないでしょうか。とくに、相手から許可を受け、恩恵を受けるという条件を満たさないかぎり「させていただく」と使えません。ここは、間違いやすいところといえます。
ビジネスシーンではよく使う言葉なので、正しく使い分けられるように練習していきましょう。