「聞く」の謙譲語
「聞く」という言葉はどの場面でも普通に常用される日常用語として認められます。この「聞く・聞いた」という言葉の謙譲語表現の使い方についてですが、この場合には主に「謙譲語表現と尊敬語表現との誤用・交錯した常用・単純に誤用している場面」が多く見られており、きちんとした「聞く・聞いた」の謙譲語表現を学ぶ必要があります。
特に謙譲語と尊敬語は「主格と目的格」の混同によってその用法を大きく違えてしまうことがあるため、ビジネスシーンではそれぞれの用法を的確に分けてインプットしておくことが大切です。
承る
「聞く」の謙譲語表現として最も多く使われる言葉としては、まずこの「承る・承りました」という表現となるでしょうか。「承る」という言葉の基本的な意味合いは「相手の言うこと・相手から発信された情報を受容する・受け取る」という自分の行動をへりくだらせて表現する場合に使われます。
・○○さまからのご連絡を、今朝、承りました(聞いておりました)。
・先日におきまして、その件につきましては承っております(聞いております)。
・ご意見を承ってもよろしいでしょうか(聞いてもよろしいでしょうか)。
このように、「承る」という言葉はそのまま「聞く」という言葉の代用語として用いることが可能です。
伺う
「伺う」という言葉の意味合いは主に「相手の気持ちを察する・聞く・表面的に知る(把握する)」といった、この場合でもやはり「聞く」という行動にそのまま直結する用法で使われます。
この「伺う」という言葉の関連語として「窺(うかが)う」という言葉がありますが、この「窺う」の意味は「心を探る・情報の裏を調べる」などという、「伺う」と言う場合に比べて「比較的、深く追求する・推察する」といった用法で使われるため、場面や状況の違いが認められます。
拝聴させていただく
この「拝聴させていただく」という表現も「聞く」という言葉の謙譲語として非常に多くの場面で使われている表現になります。
・彼女の発言を折り入って拝聴させていただきました。
・魅力的なメッセージを、今朝、拝聴させていただきました。
・このような貴重な朗読を拝聴させていただき、誠にありがとうございます。
このように、「拝聴させていただく」という言葉を使う際には、「ありがとうございます」や「感謝いたします」などの謝意を伝える表現とワンセットで使われることがよく見られるため、そうした関連用語を覚えておくと便利です。
拝聞させていただく
「拝聞させていただく」という言葉の基本的な意味合いは、先述しました「拝聴」の意味とほぼ同じになります。そのため、その用法においても同じ場面・状況において使われます。
・大統領のお声を拝聞させていただきました。
・今朝からずっと、○○氏の朗読を拝聞させていただいております。
・お声を拝聞させていただけることは、誠に名誉なことです。
「拝聞」の意味合い・用法の場合は「拝聴」と言う場合に比べて「声を聞く・文章朗読の一部を聞く」などといった、主に「部分的に聞く」という意味のニュアンスが強いため、「拝聴」の用法に比べてややその使用範囲が狭まる傾向が見られます。
お聞かせください
この「お聞かせください」という表現も「拝聴させていただく」などの使われる頻度の高い言葉と同じく、「聞く」という旨を伝える際には非常に多くの場面で使われます。
・どうぞあなたの気持ちをお聞かせください。
・ご感想をお聞かせください。
・今後の展望をお聞かせください。
お聞きしてもよろしいでしょうか
「お聞きしてもよろしいでしょうか」という表現は先述の「お聞かせください」と言う場合に比べてさらに丁寧な謙譲語表現として認められます。
・あなたのご経験内容をお聞きしてもよろしいでしょうか。
・ご感想をお聞きしてもよろしいでしょうか。
・成果のほどをお聞きしてもよろしいでしょうか。
インタビューさせていただきたいのですが
「インタビューさせていただきたいのですが」という表現は主にキャスターやアナウンサーなどが使うやや専門的な用語となるため、その言葉が使われる範囲は狭まる傾向があります。当然のことですが、間違ってもビジネスシーンでは使わないようにしましょう。
・今日のご成果に対するご感想を、インタビューさせていただきたいのですが。
・○○氏にインタビューさせていただきたいのですが。
・今後のビジョンにつきまして、ぜひインタビューさせていただきたいのですが。
「インタビュー」という言葉の基本的な意味合いは「内側を覗く・気持ちを覗く」などの言葉どおりに、「その人が現在において考えていること・感想」などを聞き取るという意味合いになるため、特に「窺う」の意味合いでも使用されます。
「聞く」の謙譲語と尊敬語の違い
「聞く」という言葉を謙譲語にする場合は、先述のように「お聞きしても」や「拝聴」などの言葉を用い、特に「話者が自分の姿勢・立場をへりくだらせて示す敬語表現」となります。
これに比べて尊敬語表現では、「お聞きになられた」や「お伺いになられた」などと、その行動の主格を相手に置き換えた上で、その相手への敬意を示す敬語表現をする形になります。
「聞く」の謙譲語の使い方
さて、先述では「聞く」の謙譲語の使い方や例文などをさらっとご紹介してきましたが、ここからはさらに多角的な「聞く」の用法についてご紹介します。ビジネスシーンではこの「聞く」という言葉も非常によく使われるため、間違った表現方法をインプットしないよう十分心掛けておきましょう。
社外
まず社外で「聞く」という言葉の謙譲語を使う場合についてですが、これはもちろん「その場の状況・経過によって言葉の表現方法が変わる」ということに配慮した上で、「聞く・聞いた」という言葉の表現方法にもいくつかの変化が出てきます。
まずこの場合、自社の社員を先方の社員に紹介する際には、社長から下々にいたる社員まで、すべての社員を対象にする形で敬語表現は使いません。これは他社の社員に対する基本的な礼儀・マナーとなるため、しっかり覚えておきましょう。
そのため、「聞く・聞いた」という言葉を使用する場合でも、その「聞く・聞いた」というのが自社の社員の言動である際には、尊敬語表現を使わず、すべて謙譲語表現で相手に示します。つまりこの場合は、「聞かせていただいた」、「拝聴させていただきまして」などの用法になります。
社内
これは主に「社内での言葉遣い」についてのご紹介となりますが、社内で「聞く・聞いた」という言葉を謙譲語・尊敬語などに直す場合には、先述どおりに「目上の人に対する言葉遣い・目下の人に対する言葉遣い」によって、その場面・状況に応じて的確な表現をする形になります。
そのため「聞く・聞いた」という言葉を敬語に直す場合でも、自分が目上の人に対して使う場合には謙譲語による「拝聴させていただきます」や「お聞きしてもよろしいでしょうか」などの表現を使い、そのまま上司の言動に対して敬語を使う場合は「お聞きになられた」や「お伺いになられました」などと、そのまま尊敬語表現をする形でOKです。
メール
電子メールでの連絡のやり取りをする場合でも、先述のように「聞く・聞いた」の尊敬語・謙譲語を使い分ける場合には、社内と社外の使い分けを念頭に置きながら、場面に沿った使い方をする必要があります。
・先週、課長が社長にその件でのご意見をお伺いになられていました。
・ぜひ、先週にお渡しさせていただきました資料へのご感想とご意見につきましてお聞かせください。
・部長のお話を拝聴させていただき、貴重な糧とさせていただきました。
手紙
手紙において「聞く・聞いた」の尊敬語・謙譲語を表記する場合でも、基本的には先述のメールの場合と同じになります。
・先日にお送りいただきましたテープの内容を、本日、拝聴させていただきました。
・ご貴重なご意見をお聞かせくださり、誠にありがとうございます。
・本日にお手紙が届きました。内容を拝読(拝聴の意味)させていただきました。
「聞く」の謙譲語の身内への使い方
「聞く」という言葉の謙譲語の身内への使い方についてですが、これは主に一般的な日本語文法による言葉の使い分けのご紹介となります。特に身内で謙譲語表現を使う場面というのは、家族といる場合よりもむしろ従兄弟や親戚の人たちと一緒にいる際に多く使われるでしょうか。
・最近の、お孫さんのご様子などをお聞かせください。
・お金が入用になられた理由を、できましたら、お聞かせいただければ幸いです。
・今年のお正月にこちらへ来られるかどうかについて、伺ってよろしいでしょうか。
このように、身内の間で使う場合の「聞く」の謙譲語表現では、「拝聴」や「拝聞」などの堅い表現よりも、「お聞かせください」という柔らかい表現の方が好まれる傾向が見られます。
「聞く」の謙譲語の例文
「聞く」の謙譲語の例文についてですが、これは先述でもご紹介しましたように、まず場面や状況・経過によって、それぞれの場面で適当な形の表現に使い分けられます。
・その件につきまして、ぜひお伺いさせていただきます。
・あなたの過去につきまして、お聞きしてもよろしいでしょうか。
・新しい事業プランの内容につきまして、ぜひお伺いさせていただければ幸いです。
「聞く」の謙譲語における諸注意
この「聞く・聞いた」という言葉を謙譲語表現に直す際の注意点ですが、まず先述しましたように「主格と目的格の転倒・混同」をなくしておくことが大切です。これは尊敬語表現との使い分けにおいて非常に多く見られる例になるため、まずは尊敬語と謙譲語の使用法を基礎から学ぶことが大切になります。
たとえば、「お聞きになりたいです」や「わたしがお聞きになったとき」などと、場面においては言葉の用法が混同してしまうことによって、普段では間違わないようなミスを犯したままで相手にそのまま伝えてしまうことがあります。
謙譲語を使う場合にはまず「(話者が)自分の言動や立場をへりくだらせて示す敬語表現」であることを意識しておき、さらに尊敬語の場合は「相手の言動に対してのみ修飾する敬語表現」であることをしっかりインプットしておき、上記のように「自分に対して尊敬語を使う」という誤用をなくしましょう。
「ちょうだいできますか」のニュアンス
「ご意見をちょうだいできますか」といった表現がこの「聞く」という言葉を使う際によく聞かれますが、これは表現においては間違っていませんが、しかしビジネスシーンで使うことはNGです。
「ちょうだい」という表現はそもそも敬語表現ではなく、また付随する言葉でもっていくら敬語表現として修飾したとしても、その「ちょうだい」のニュアンスがそのままよくない響きを持ち続ける結果になります。そのため、相手によっては非常に失礼な表現となるため、ビジネスシーンでは禁句としておくことが大切です。
「お聞きいたしました」の誤用
もう一度、先述のおさらいとなりますが、「(わたしが)お聞きいたしました」という表現は尊敬語でも謙譲語でもなく、単なる表現の誤用となってしまいます。これは謙譲語として使うべき表現がまず間違っており、その上で尊敬語の主格に相手を当てるところが自分(話者)になってしまっているという、なんとも訂正のしようのない誤表現となります。
この場合は「聞かせていただきました」や「拝聴させていただきました」などの「主格を自分に合わせた上で的確な謙譲語表現」に直しておき、さらに相手が「聞く・聞いた」と言う場合には、「いたしました」ではなく「なられました」と相手を主格にした表現にする必要があります。
目上の人に対しては尊敬語表現
これは当然の敬語表現をする場合のマナーとなりますが、目上の人・上司に対して使う言葉遣いはまず謙譲語ではなく「尊敬語表現を使うこと」が基本にあり、その上で自分の言動を謙譲語表現によって修飾する必要があります。
このように、尊敬語と謙譲語のあり方をまずしっかり識別して把握しておき、相手と自分の言動に対する敬語表現の修飾を混同しないようにすることが大切です。
謙譲語における「聞く」の英語表記と意味
「聞く」という言葉を英語に直す場合、それぞれの英単語の意味合い・用法に配慮した上で以下のようにピックアップされます。
・listen(聞く、傾聴する、聴き入る、承る)
・hear(聞く、聞こえる、承る)
・ask(尋ねる、質問する、聴く、聞く)
・tell me(教えて、お聞かせください)
・inquire(問い合わせる、質問する、聞く、訊く)
・enquire(問い合わせる、尋ねる、訊く、聞く)
・receive(承る、聴く、聞く)
・question(質問する、聞く、訊く、問い合わせる)
・query(聞く、質問する、問い合わせる)
・interrogate(聞く、訊く、聴く、質問する)
・hark(聞く、聞こえる)
・interview(インタビューする、聴く、聞く、質問する)
謙譲語における「聞く」の英語表現と意味(1)
先でご紹介しました「聞く」の英語表記を参考にして、「聞く」の意味合いを含めた謙譲語での英語の例文をいくつかご紹介します。
・Regarding the matter, please tell me a bit about the concrete opinion.
「その件につきまして、少々、具体的な見解についてお聞かせください。」
・I listened to the message of the teacher this morning.
「今朝は、先生のメッセージを拝聴させていただきました。」
・I heard to the president ‘s beautiful voice.
「大統領の美声を拝聞させていただきました。」
謙譲語における「聞く」の英語表現と意味(2)
先述しました「聞く」の英語表現に引き続き、さらに具体的な「聞く」の例文をご紹介します。
・As for the scientific research, it is in a state of a little disagreeing, so I would like to receive as much detail as possible about the research method and results of this research.
「科学研究につきましては少々疎い状態にありますので、ぜひなるべく詳細に、今回の研究方法とその成果について承りたく存じます。」
・Please tell us about how to handle this computer.
「このコンピューターの扱い方について、そのご説明をお聞かせください。」
謙譲語における「聞く」の英語表現と意味(3)
先述の具体的な「聞く」の英語表現に引き続き、今度はいろいろな場面で使われる「聞く」の例文をご紹介します。
・The word “listen” has many ways of being handled in many situations, and in particular in business scenes its meaning and usage can be divided by individual expressions such as “listen” or “receive”.
「「聞く」という言葉は多くの場面でいろいろな扱われ方をしており、特にビジネスシーンでは「拝聴する」や「承る」などといった、個別の表現によってその意味や用法が分けられます。」
・Humble language and respected word are very misleading.
「謙譲語と尊敬語は非常に誤用されやすいです。」
「聞く」の正確な謙譲語表現をマスターしましょう
いかがでしたか。今回は「聞く」の謙譲語の謙譲語・尊敬語との違い・使い方|社外/社内と題して、「聞く」の謙譲語の謙譲語・尊敬語との違い・使い方|社外/社内についての詳細情報のご紹介をはじめ、いろいろな場面で使われる「聞く」の謙譲語の用例をご紹介しました。
「聞く」という言葉は日常用語としてもビジネス用語としても非常に多くの場面で使われているため、それぞれの場面において的確な敬語表現に置き換える場合でも、相手に対して失礼のない、誤用に注意した表現をすることが大切になります。
またこの「聞く」という言葉そのものにしても、「聞く・訊く・聴く・尋(き)く」などといろいろな意味的用法が含まれるため、それぞれの微妙な意味的ニュアンスに配慮する上で、正確な敬語表現に置き換える工夫に努めましょう。