「労う」の意味と使い方
「労う」という言葉を目にしたり、耳にすることは多いのではないでしょうか。意味としては「苦労をなぐさめる」「相手の努力や苦労に対して感謝を表す」などになります。感謝の気持ちとニュアンスが若干違うのは、苦労に対する言葉という部分ではないでしょうか。
潤滑油になる言葉
「労う」は、相手に対する思いやりを表す言葉です。労いの言葉を適切な場面で正しく使うことは、人間関係をスムーズにさせます。いわば潤滑油になるのが、労いの言葉です。
他にも社会生活での潤滑油になる言葉はあります。例えば、相手を褒める言葉、敬う言葉、感謝の言葉、承認の言葉、謝罪の言葉などがあげられます。その中でも労いの言葉は、特に大切な言葉と言えるでしょう。
苦労をしたとき、困難や障害に向かっているとき、人知れず努力しているときにかけられる言葉は相手の心の奥に響きます。調子のよいときにかけられる言葉よりも、苦労のさなかにかけられる言葉で人の本心を感じることがあります。
また相手の人柄に信頼を感じるときとは、こうした言葉をかけられたときではないでしょうか。
相手を労わる(いたわる)言葉
例えば苦労しているときに、「もっとがんばれ」「あなたのやり方のここがイマイチ」「だからダメなんだよ」のような言葉をうっかりかけてしまったらどうなるでしょう。
相手は大変な状態なのでとても傷つきます。また言葉を発した相手の人格を疑いたくなるでしょう。その後の付き合いががらりと変わってしまうこともあり得ます。
「労う」には慰めるという意味も感謝とともに混じっています。相手の苦労を思いやり、共感し、いたわる言葉でもあります。
いたわる、とは相手のほねおりや苦労に対する「大丈夫?大変だったね、いつもありがとう、あなたのおかげよ」というこちらの心をかける言葉と言えます。
「労う」の読み方
「労う」は「ねぎらう」と読みます。「労」という字自体を調べてみると、ほねおりという言葉が見つかります。他にも「心づかい」「つとめ」「疲れ」「経験を積む」などがあげられます。
「労う」のイメージを考える
全体的に大変な事柄の後に伝える言葉という印象を持ちます。「労う」は労働につながるイメージがあり、労働の困難や苦労に対する言葉として、イメージをざっくりつかんでおくと良いのではないでしょうか。
「労う」の類語
ここでは「労う」の類語を考えてみます。調べてみてすぐに見つかるものは、「なぐさめる」「謝する」があります。
「なぐさめる」はやはり苦労や困難に会った人に対する言動です。対して「謝する」は感謝を表しますから、自分に関係する相手の言動に対してお礼を言う意味になります。
いたわる
「いたわる」は感じで書けば、「労わる」となるので、「労い」に通じていることが字からもわかります。「いたわり」とは、「功労をねぎらう」、「憐み」や「恩恵」、「心を用いて大切にする」「気にかける」なども挙げられます。
相手のために心をくだくという意味にも通じるのではないでしょうか。例えば、高齢者や病気の人などに対してよくかけられる言葉です。相手の方は、病気や持病で苦労をされているので、そこに思いをはせて言葉を選ぶ必要があります。
また仕事で疲れて帰ってきた人や、何かをがんばった人にもかける言葉です。
思いやる
「思いやる」は言葉のとおり、相手を気にかける言葉なので、「労う」の意味にも通じるのではないでしょうか。
相手の苦労を思いやる、といったところです。目の前にいる相手がどうして今疲れているのか、または調子を崩したのか、あるいは悲嘆にくれているのかなど、相手の状況に対して想いをめぐらせてみます。
「今日一日、大変だったね、お疲れさまでした」という言葉なども相手を思いやる言葉と言えるでしょう。
憐れむ(あわれむ)・哀れ
憐れむは「労う」の意味をよく表す別の言葉と言えるのではないでしょうか。普段はあまり使わない言葉ではありますが、労うを表すときにそのニュアンスをよく伝える言葉として感じられます。
憐みというとキリスト教の教えなどでよく表現される言葉ですが、「同情」や「愛する」「不憫に思う」を意味します。何か困難な状況にある相手に対しての感情を表す言葉と言えます。
また注目するのは、「愛する」という言葉が含まれていることです。愛しているからこそ労うとも考えられます。「労い」は「愛」を伝える言葉と言えるのではないでしょうか。
ご苦労様
「ご苦労様」や「お疲れ様」などは労わりの言葉と言えます。その意味で類語に含まれるのではないでしょうか。職場や普段の生活でよく使われる言葉ですが、状況によって二つを使い分ける必要があります。
「ご苦労様」と「お疲れ様」の使い方
「ご苦労様」「ご苦労様です」は、目上の人や立場が上の人が、立場の下の人や年下の者にかける言葉です。労いの言葉であり、これも相手の苦労を心にかける言葉です。
「お疲れさま」は、対等、または立場の上の人には「お疲れ様です」「お疲れ様でございます」などにして伝えます。
「情けをかける」
「情けをかける」は意味として「労う」に通じる言葉と考えられます。では、情けとは何でしょうか。最近はあまり聞かないように感じますが、いたるところで使われる言葉です。「人間としての心、感情」「ものを憐れむ」「慈愛」ともあります。
他にも「恋心」「義理」などその意味は大変広いです。こうした人間らしい心を相手に対してかけることを「情けをかける」と考えてよいのではないでしょうか。
そうして考えてみると、「労う」は人間としての情け深い言動なのではないでしょうか。
似た言葉を考える「報いる」
労うの類語とまでは言えませんが、「報いる」や「報い」は似た言葉として「労う」に対する連想を膨らませる言葉と言えるのではないでしょうか。
意味としては、受けた恩や、払われた労力に対して、ふさわしいお返しをするという意味になります。例えば、「恩に報いる」や「いつか報われる日が来る」などです。
相手が苦労をしているときに、労う言葉として、「いつの日かあなたの苦労が報われると思っています」や「あなたの努力が報われることをお祈りしています」などの使い方もできるのではないでしょうか。
「労う」の例文
「労う」の意味が感じられたところで、次は「労う」を実際に使った例文をみていきましょう。
・高齢の父母を労うために、温泉旅行へ招待した
・苦労して交渉が成功し、上司からは労いの言葉をかけられた
・父の日には、家族がお父さんを労おうと肩たたきをした
・退職の日、長年の苦労を労うために職場の部下たちが送別会で花束贈呈を用意してくれた
・入院した母を労うために、好物の果物を手土産にして見舞った
・現役引退の会見では、「これまで本当にお疲れさまでした」の労いの言葉がたくさんかけられた
労をねぎらう
例文をあげてみると、どれも何かの終わる頃にかけられる言葉であることが多いのではないでしょうか。退職や引退、試合終了、仕事の成功など努力した後に労う言葉を使うことが多いことに気が付きます。
その意味で、ものごとの終わりは「労をねぎらう」言葉ならではの、言葉をかけるタイミングと言えます。
労う言葉
さまざまな場面で、いろいろな言い方で「労い」を表すことができます。相手に対する愛情表現にもなりますから、使うシーン別に労う言葉にどんなものがあるのか見てみましょう。
職場で労う言葉
職場はさまざまな苦労を伴う作業や交渉事、人間関係などにあふれています。そんな場所では労う言葉が一言あるだけで、仕事を頼みやすくなり、相手との関係を良好に保つことができます。いろいろな場面で使うことができるので、一例をあげてみます。
同僚にかける言葉
同僚にかける労いの言葉は相手への共感、感謝、気づかいを感じさせる表現で具体的に伝えましょう。
・あなたの気配りのある仕事にはいつも助かっています。
・先日は風邪を引いた自分の代わりに、○○をやっていただきありがとうございました。
・いつも迅速な対応をしていただき、ありがとうございます。
・先日はお疲れさまでした。
・このたびは大変でした。週末はゆっくり休んでくださいね。
部下にかける言葉
部下には仕事を頼むことも多く、ときには急な残業などで無理をさせる場合もあります。そんなときに一言労いの言葉を添えると信頼関係を保つことができます。
・残業、ご苦労様。そろそろ一息入れてみては?
・取引先への電話対応、いつも丁寧で関心しています。ありがとう。
・書類のコピーをありがとう。助かります。
・何か困っていませんか。いつでも相談にのりますよ。
・先日のクレーム対応、本当にご苦労様。大変だったね。
上司の場合
上司にかける労いの言葉はたいていの場合、立場上からも感謝の言葉になるでしょう。
・いつもアドバイスいただきありがとうございます。おかげで先日の契約がうまくいきました。
・いつも私たちにお気遣いいただき、ありがとうございます。
・何かお役にたてることがありましたら、どうぞお声かけください。
家庭での労う言葉
家庭はくつろぎの場所ですが、親しき中にも礼儀ありという言葉が示すように、相手に対する思いやりを失うと家庭がぎくしゃくしてしまいます。
家庭こそ、労いの言葉が潤滑油として効果を表すのではないでしょうか。夫婦の間で交わしたり、親子で交わす言葉に労う言葉を加えると気持ちが全く違ってくることもあります。
・いつもお仕事ありがとう、お疲れ様です。
・いつもおいしい料理を作ってくれてありがとう。健康なのは君のおかげだよ
・いつも子供たちを外に連れ出してくれてありがとう。日頃の疲れが癒されます。
・いつも家庭を明るくしてくれてありがとう
・今日も残業お疲れ様。大変だったね。週末はよく休んでね。
・いつも部屋をきれいにしてくれるおかげで、居心地がいいよ
・いつもお手伝いしてくれてありがとう、助かるよ。
・宿題がんばっていたね。疲れたでしょう。おやつがあるよ。
目上の人への使い方
目上の方への労いの言葉にはふさわしい言葉を選びましょう。これまでの長年の苦労に対して、温かい言葉をかけることで、「報われた」と感じてもらえることが大切です。
礼儀を尽くして伝えることで、相手を敬う気持ちも伝わります。関係を良好に保つためにも丁寧な言葉遣いで、相手を思いやりましょう。
体を気づかう
目上の方の場合、体調を崩されている方も多いので、体を労う言葉をかけて気遣うことも大切です。
・腰痛の調子はどうですか、無理をなさらないでくださいね。
・先日は体調を崩されたとお聞きしました。その後お加減はいかがですか。
・お体、くれぐれも大事になさってください。
・お疲れになりましたでしょう。どうぞご自愛ください。
感謝の言葉
また職場などの目上の方の場合、労うよりは感謝の言葉の方が、自然に使える場合が多いでしょう。
・大変勉強させていただきました。
・いつも温かいお言葉をいただき、ありがとうございます。感謝いたしております。
・この度の契約受注は、○○部長のご指導を頂いたおかげです。誠にありがとうございます。
・おほめの言葉をかけて頂くなんて恐縮です
・○○部長に褒めて頂いて光栄です。
「労う」の敬語
例えば、取引先とのやりとり、上司とのやり取り、などで労う言葉としての敬語が使われます。
「お疲れさまでした」以外の労いの表現方法として、「ご無理されませんように」を言葉の最後に添えてみるのも目上の方にかける言葉として、おすすめです。他にも「お疲れ出ませんように」のような労う言葉でも構いません。
くれぐれも間違って使うべきでないのは、目上の方に「ご苦労様です」と伝えてしまうことです。「ご苦労様」は労うと言っても、上から下にかける言葉なので、目上の方や上の立場の方には使わないように気をつけましょう。
また遠くからわざわざ来てもらう場合や、忙しいとき、雨の日などに苦労をして来てもらった場合に労う言葉として、次のような言葉があげられます。
・本日はお忙しい中、お越しくださいまして、誠にありがとうございます。
・足元の悪い中、お越しいただきまして、ありがとうございます。
「労う」は相手を思いやる大切な言葉
労う言葉をかけなかったことで、人間関係が悪化することがしばしばあります。相手が苦労をしているときに、見過ごし、知らんふりをしていると捉えられてしまうからです。また相手を知らず知らずのうちに傷つける場合もあります。そんなわけで相手を労う言葉は、大変重要な言葉ということが言えます。
相手を思いやるちょっとした一言が人間関係を円滑にし、円満を保つことができます。普段感じている感謝の気持ちをそっと伝えることで、がんばっている相手の心に寄り添うことができるのではないでしょうか。
たかが言葉、されど言葉、言葉ひとつで人間関係はどのようにも変わっていきます。大切な人との関係を良好に保つためにも、労う言葉を大切にしましょう。