できないことを断る事も責任感の一つ
人に何かをお願いされたとき、断ると言うのは相手の立場に関わらず、気が引ける行為です。しかし、できない理由があるにもかかわらず、断らないと言うのは都合よく利用されているだけですし、無責任な行為になります。
後先考えずにお願いを引き受けてできなかったとなれば、大変な迷惑をかけてしまいます。できないのであれば断るのが正しい責任の取り方です。
上手な断り方とは
お願いを断ると言うのは、部分的にとはいえ、相手を拒絶することですので、注意を払わなければ無意味な摩擦を生んでしまいます。上手な断り方とは、あれこれ言い訳はせず、誠実に丁寧に、相手のお願いに応じることができない旨を伝えることです。
不必要に相手を刺激しないポイントの一つとして敬語があります。お願いを断る時に「できない」ではなく、他のソフトで丁寧な敬語表現を用いることで、相手に謙虚さと丁寧さを示しつつ、お願いを断ることができます。
「できない」は敬語ではない
「~できない」「~できません」という表現は、一見すると丁寧な言い方ですが、敬語ではありません。特に、取引先や上司、恩師などの敬意を払いたい相手には使わないことが無難です。
基本的には同じような立場であっても、部下などの立場的に下の相手であっても、敬語を用いてソフトに断るのが上手な断り方です。
しつこいときは「できない」と言おう
「できない」ということを、敬語表現などを使ってソフトに表現していると、いわゆる空気の読めない人や、非常にしつこい人が引き下がってくれない場合があります。こういった場合は、敬語表現やソフトな言い回しをやめて、ストレートに「できない」と伝えてしまいましょう。
敬語やソフトな言い回しのないストレートな表現なので、その場で摩擦などの小さなトラブルが生じるかもしれませんが、できないことを無理に引き受けて大きなトラブルを招くよりは、ずっと責任感のある行動です。
「できない」の変わりに使えるソフトな表現
お願いを断る時に「できない」と伝えるのは、ストレートすぎて、相手の反発などの無意味な摩擦を招きかねません。お願いを上手に断るコツは、誠意を持って丁寧に断ることです。
そこでここからは、「できない」の変わりに使える、敬語のような丁寧で誠意も伝わる表現をご紹介します。
~致しかねる
「できない」を敬語でソフトに伝える場合に最も汎用性が高い言い回しです。「致す」は「する」のへりくだった言い方で、「~しかねる」という言葉を加えることで「することが難しい」という意味になります。
非常に丁寧な敬語なので、取引先や上司など目上の相手に対して「できない」と伝えたい場合に使いやすいです。「本日中の納品は致しかねます」などのような形で使うと良いでしょう。
~できかねる
「できない」を敬語でソフトに伝える場合に比較的使いやすい言い回しです。「できない」をそのまま丁寧に表現した形で、相手が同格である場合や、看板などで広くお断りする場合などに使いやすい表現です。「当施設のお子様一人でのご利用はできかねます」などのような形で使うと良いでしょう。
辞退させていただきます
「できない」よりも、「引き受けるのは難しい」というニュアンスを含む敬語表現です。能力的に困難な場合や、資源的に困難な場合などで断る場合に使いやすいです。「家族の事情もあり今回のプロジェクトからは辞退させていただきます」などの形で使うと良いでしょう。
見送らせていただきます
「できない」よりも「難しい」のニュアンスが強めの敬語表現です。スケジュールに影響が出たり、能力的に難しく、お願いに応じることができない場合に使いやすいです。「お仕事が不十分になってしまう恐れがあるので見送らせていただきます」のように使います。
ご遠慮
「できない」を敬語でソフトにというよりは、歪曲的に表現する場合に使え、使い方によっては相手の行為を注視させることもできる表現です。
「出席できない」と伝えたい場合は「出席はご遠慮させていただきます」と表現することができ、歪曲的な表現ですが「できない」とストレートに伝えるよりもやわらかい印象になります。
また、「~はご遠慮ください」と相手に言うことで、相手の行為を中止させることも可能です。この場合は「館内での喫煙はご遠慮ください」などのように使うと良いでしょう。
その他の印象を良くする言い回し
「できない」を「致しかねる」など別な敬語に言い換えるだけでも、印象は悪くなりにくいですが、他にも断る場合に、なるべくソフトに伝えるためのコツがあります。
ここからは、丁寧に「できない」と伝えるコツについてご紹介します。
ワンクッション入れる
「できない」を敬語で言い換える場合に、さらに冒頭にクッションになるような言葉を入れると、印象がやわらかくなるので便利です。例えば「セール期間中のクーポン券の利用はできかねます」を「誠に残念ですがセール期間中のクーポン券の利用はできかねます」とすると、よりソフトに断ることができます。
使いやすい冒頭に入れる言葉として、「大変恐れ入りますが」「誠に残念ですが」「せっかくのお申し出ですが」などがあります。
表現を肯定的にする
敬語とは関係なく、一般的に、否定的な表現よりも、肯定的な表現のほうが印象が良くなります。有名な話ですが、水が半分入ったコップについて「まだ半分水がある」と「もう半分しか水がない」と表現した場合には、前者の肯定表現のほうが印象がよくなります。
断る場合も同じで、「出席できない」は「予定が入っています」、「商品がありません」は「売り切れました」などのように肯定的な表現にすると、拒否であっても印象が良くなります。
「できない」の敬語の使い方
「できない」のソフトな敬語表現についてさまざまなものをご紹介しました。次はそれらを踏まえて、具体的に「できない」の敬語表現をどのように使うのかについてご紹介します。
メールでの返事ができない場合
メールで問い合わせが来たものの、内容について相手には答えられない場合は少なくありません。そういった場合に「答えることができない」を敬語表現で伝えるには、「大変申し訳ありませんが、本件についてメールでのお返事は致しかねます」と表現します。
「対応できない」の敬語
何らかの要求を受けたときに、要求を呑むことができない場合は少なくありません。「対応できません」でも敬語表現ですが、よりソフトに相手に伝えるのであれば、「対応しかねてます」などの形や「対応致しかねます」のように表現します。
「判断できない」の敬語
職場では、与えられている職権では判断を行えないことも多々あります。「判断できません」でも敬語にはなりますが、よりソフトに「判断致しかねます」、もしくはより正直に「私では判断できないので担当(上司)に相談します」でもよいでしょう。
「協力できない」の敬語
引き受けていることや身の回りのことで手がいっぱいで、ほかに協力を行う余裕がない場合があります。「協力できません」でも敬語表現ですが、「協力致しかねます」と表現するとソフトな印象になります。
ただし、そのままでは冷たい人と思われやすいので、事情があるのであれば事情について説明したり、手が空けば手伝えることなどを説明すると良いでしょう。
相手別「できない」の敬語
相手を敬う敬語ですが、相手や状況により表現を変えたほうが無難です。取引先など敬わなければならない相手であれば「~致しかねます」、看板や会社内であれば「~できかねます」などです。
後輩なら「~できかねます」で良い
後輩だから雑に扱っても言い訳ではありませんが、後輩相手であれば、極端にかしこまった表現を使わなくても大丈夫です。むしろ、あまりかしこまった表現を使っていては、距離感を感じて、冷たい人と思われることもあるでしょう。
後輩相手であれば「~できません」「~できかねます」で問題ありません。
「できない」と「難しい」の敬語での違い
「できない」と「難しい」は敬語で置き換えるならば、「致しかねる」と「見送る」です。どちらも「できない」を伝える場合に使えますが、ニュアンスとしては「できない」をあらわす「致しかねる」は本当にできない場合に使います。それに対して「難しい」をあらわす「見送る」はできなさそうな場合に使います。
敬語を正しく使おう
完全に正しい敬語を使いこなせる人はほとんど居ませんが、社会人ともなれば敬語をある程度使いこなせる必要があります。敬語を正しく使いこなすことは、無用なトラブルを避けるうえでも有用です。敬語を正しく使い、自分の意図を誤解の無いように伝えるようにしましょう。