「いみじくも」の意味と使い方
皆さんは「いみじくも」という言葉をご存知でしょうか。「聞いたことある」という方もいれば、「聞いたことすらない」という方も多いでしょう。しかし、実際に「聞いたことある」という方の中で使ったことがある方は非常に少ないのではないでしょうか。
今回はこの「いみじくも」という言葉について紹介して参りますが、まずは「いみじくも」の意味についてご説明します。実際はどのような使われ方をされているのか、また現代でも使用されているのかという点について理解しておきましょう。
古語
「いみじくも」という言葉の基は古語として使われていたほど古い言葉です。詳しくは後ほどご説明しますが、この「いみじくも」という言葉の基となった言葉は、あの有名な清少納言により執筆された「枕草子」にも使用されています。この事実から平安時代には既に使われていたことがおわかりでしょう。
しかし、「いみじくも」という言葉自体は古語のように思えますが、正しくはではなく現代語です。「いみじくも」の基となった言葉から時を経て、現代になって作られた言葉です。その点を間違えないように気を付けましょう。
意味①非常にうまく
では、正しくは古語ではなく現代語である「いみじくも」という言葉の意味を早速ご紹介します。まず1つ目の意味は「非常にうまく」です。「非常にうまく説明する」といった状況で「いみじくも説明する」というように使うことがあります。
自分の行動に対して使うことはありません。誰か別の相手の言動に対し、賞賛する意味を込めて使用することが多いです。「あなたはいみじくも言った」というように非常にうまく物事を説明できたというように使うことが可能です。
意味②適切に
「いみじくも」には「非常にうまく」と似た意味ではありますが、「適切に」という意味もあります。「上手に」という意味でも使用することができますが、「完璧に」「間違ったことなく」というニュアンスでも使用することが可能です。
「いみじくも指摘された」という使い方であれば、「適切に指摘された」という意味になります。「あなたにいみじくも指摘されたとおりでした」というように使用できます。ビジネスシーンでも使用されることがある使い方です。
現代でも使われることがある
ポジティブなニュアンスで「非常にうまく」や「適切に」といった意味を持つ「いみじくも」という言葉は、最初にお話ししたとおり古語ではなく現代語です。したがって、現代でもビジネスシーンや手紙などの文書で使用されることがあります。
今では「適切に」「上手に」という言葉の方がわかりやすいため、そちらを使用する人がとても多いですが、中には「いみじくも」を使用する人ももちろんいます。使われたときに「どのような意味だろう」と戸惑わないためにも意味を知っておくことは大切です。
「いみじくも」を使った例文
「非常にうまく」「適切に」といった言葉は現代でも多く使われます。この意味を持つ「いみじくも」という言葉はビジネスシーンでも使用できるため、正しい使い方や例文を覚えておくことでボキャブラリーの幅を広げることにも繋がります。
では、実際にどのような使い方をされるのでしょうか。具体的に例文をいくつか確認し、「いみじくも」を実際に使える知識として習得しましょう。
古語では「いみじ」を使用
実際に使える例文を知る前に、「いみじくも」の基となっている古語「いみじ」についてご説明します。最初にお話ししたとおり、「いみじくも」という言葉は現代語です。この言葉は前述した「いみじ」という古語から時間の経過と共にできた言葉です。
では、この「いみじ」という言葉にはどのような意味があったのでしょうか。「いみじ」には「並々ならぬ」や「すばらしい」「ひどい」といった意味があります。「いみじくも」はポジティブな意味で使われますが、「いみじ」はポジティブな意味だけではなくネガティブな意味でも使用されていました。
この「いみじ」という言葉が時間が経つにつれて「いみじくも」という使われ方をされ、その時にポジティブな意味だけ残ったと伝えられています。
「いみじくも言ったものである」
「いみじくも」の語源となった言葉は「いみじ」であり、ポジティブな意味だけでなくネガティブな意味でも使用されていたことを理解していただけたところで、早速実際に使われている例文を確認していきましょう。
まずは「いみじくも言ったものである」という例文です。これは言い換えると「非常にうまく言ったものである」となります。例えば「とても上手に説明しますね」と言うときに、「いみじくも言ったものですね」というように使われることがあります。
「いみじくも仰るとおりです」
続いてご紹介する例文は「いみじくも仰るとおりです」という使い方です。この例文はビジネスシーンでも使用されることが多いため、使い方をしっかり理解することができれば、ビジネスシーンにおいて使うことが可能です。
では、具体的にどのような時に使用するのでしょう。例えば、相手から言われたことに対して納得した場合、「あなたが適切に仰ったとおりです」という意味で「いみじくもあなたの仰るとおりです」と使われ方をします。
「いみじくも示している」
3つ目の例文として「いみじくも示している」という使われ方をします。こちらは「いみじくも」の意味である「非常にうまく」と「適切に」の両方の意味として使うことが可能です。「非常にうまく示している」「適切に示している」とどちらも意味がとおります。
例えば「この資料はいみじくも示していますね」という使い方であれば、「この資料は非常にうまく示されていますね」といった意味になります。他にも同じような意味で「いみじくも指摘している」というように使うことも可能です。
「いみじくも」の語源
先ほど例文をご紹介する前に「いみじくも」の語源は、古語として平安時代には既に使われていた「いみじ」という言葉であるという話をしました。例えば日本人ならば誰でも知っている清少納言の『枕草子』にも「いみじ」という古語は使用されています。
ここではより詳しく「いみじくも」の語源となった「いみじ」という言葉について理解を深めていきましょう。語源についてしっかり理解することで、より「いみじくも」という言葉に対する理解にも繋がります。
語源は「いみじ」
ここまでにも何度かご説明したように、「いみじくも」の語源は「いみじ」です。「いみじくも」という言葉自体は古語として当てはまりません。この点は間違えないように注意しましょう。
この「いみじ」という古語は前述したとおり、清少納言の「枕草子」にも登場しますし、平安時代よりも後世となる鎌倉時代を生きた歌人であり随筆家として活躍した吉田兼好の「徒然草」にも記されています。
古語は皆さんもご存知のとおり、活用形があります。「いみじ」の場合は語幹が「いみ」になります。
したがって、未然形では「いみじく(じから)」、連用形では「いみじく(じかり)」、終止形は「いみじ」、連体形は「いみじき(じかる)」、已然形は「いみじけれ」、命令形は「いみじかれ」となります。
「いみじ」には多くの意味が当てはまる
先ほどお話ししたように、「いみじ」には多くの意味が含まれています。大きく分けて3つの意味が含まれていますが、ポジティブな意味からネガティブな意味まで、さまざまな使い方のできる古語でした。
1つ目は「並々ならぬ」や「甚だしい」と現代で言うところの「とても」に類似する意味を持ちます。
2つ目は「いみじくも」に繋がる「素晴らしい」や「立派な」というポジティブな意味があります。
そして3つ目が「いみじくも」には反映されなかった「ひどい」「大変な」というネガティブな意味です。
この2つ目と3つ目の意味には「すごく」という意味に類似した意味だけではなく、2つ目には「とても嬉しい」、3つ目には「悲しい」や「恐ろしい」といった感情を表す意味も含まれています。
「いみじ」からの誤用に注意
「いみじくも」の語源である「いみじ」にはネガティブな意味も含まれていましたが、現在使われることのある「いみじくも」には、その要素は影響を与えませんでした。
しかし、「いみじ」が語源であるからか、「いみじくも」をネガティブな意味で使用してしまう人もいます。現在は「非常にうまく」「適切に」といったポジティブな意味で使用されています。したがって、ネガティブな意味では使用しないように注意しましょう。
また「いみじくも」を偶然にもという意味を持つ「奇しくも」と勘違いし誤用してしまう方もいます。こちらはまったく別の言葉です。混同させないように気を付けましょう。
間違った使い方
上記でもご紹介したように、「いみじくも」をネガティブな意味で使用してしまったり、「奇しくも」と混同させて使ってしまう方が時々いらっしゃいます。
例えば「偶然にも同じ場所で亡くなった」という場合、「いみじくも同じ場所で亡くなった」と間違った使い方をしてしまうと、ポジティブな意味合いを持つ「いみじくも」という言葉によって、相手に失礼となる恐れもあります。
またネガティブな意味で使用したいと「いみじくも」を使用した場合も同様に失礼に当たる恐れがあります。相手の気分を悪くさせないためにも誤用には十分気を付けてください。
「いみじくも」の漢字
「いみじくも」には「非常にうまく」や「適切に」という意味があることに加え、語源は平安時代から使用されていた「いみじ」であることを理解していただけたでしょう。
では、この「いみじくも」という言葉は漢字で表す場合、どのような漢字を使うことが適切なのでしょうか。もしくは、「いみじくも」に適切な漢字は存在しないのでしょうか。ビジネスシーンで間違って使用しないためにも知っておきましょう。
基本的には平仮名で使う
結論から言ってしまうと、「いみじくも」には漢字が存在しません。今ではポジティブな意味でのみ使用されている「いみじくも」という言葉には、適切な漢字がありません。したがって、「ビジネスシーンだから適切な漢字を」と無理矢理間違った漢字を当てることはやめましょう。
語源の「いみじ」は「忌みじ」
では、「いみじくも」の語源である「いみじ」はどのような漢字を使うのでしょうか。「いみじ」の場合は「忌みじ」という漢字を用いられていました。この「忌」という漢字には穢れや負の感情が含まれています。
では、なぜ「いみじくも」には用いられなかったこの漢字を「いみじ」には用いられていたのでしょう。これは「いみじ」という言葉にはネガティブな意味が含まれていたからだと考えられています。
現代では良い意味で使われるため不適切
先ほどもお話ししたように、「いみじ」はネガティブな意味を持つことから「忌みじ」と用いられていましたが、現在使われている「いみじくも」はポジティブな意味のみ含まれています。したがって、負のイメージを持つ「忌」という漢字を使用することは不適切であると判断されます。
「いみじくも」の類語
ここまで「いみじくも」の意味や使い方、語源などついてご紹介してきました。「いみじくも」には「非常にうまく」「適切に」という意味があるということは、何度も登場したため、皆さんももう理解しているでしょう。
ここで「いみじくも」と類似した言葉を見ていきます。意味を理解した皆さんも類語を知ることで、より「いみじくも」という言葉の意味やニュアンスを感じ取ることができるでしょう。
巧みに
「いみじくも」という言葉には「非常にうまく」という意味が含まれていることは何度も説明してきました。その意味に類似した言葉として「巧みに」という言葉が挙げられます。「巧みに説明した」「言葉巧みに」などと使われます。
「巧みに」という言葉は、「上手に」や「手際よく」といった意味があります。したがって、「いみじくも」の「非常にうまく」という言葉と同じ意味として言い換えが可能です。
見事に
「見事に」という言葉には、「素晴らしい」という意味と「完全な様子」という意味があります。「見事な作品だ」という言葉には「素晴らしい作品である」という意味と「完璧だ」という意味が込められていることがわかります。
「いみじくも」も「適切」や「非常にうまく」という意味がありますので、類似している表現と見ることができます。「非常にうまく」は「素晴らしい」に、「適切」は「完全な様子」に類似しています。
ばっちり
「ばっちり」は文書で使うような言葉とは違い、口頭でカジュアルな場面において使われることの多い言葉です。「これでばっちりだね」というように、「完璧」という意味で使われることが多いです。したがって、先ほどの「見事な」と同じように、完全な様子を表す言葉です。
「いみじくも」の敬語
「いみじくも」という言葉は「適切に」や「非常にうまく」という意味を持ちます。この「非常にうまく」や「適切に」という言葉自体が相手に対して使う場合、目上の人間から目下の人間に対して使う言葉であり、褒める際に使用されます。
上記のことを踏まえた上で考えると、目下の人間から目上の人間に対して使う言葉としては、あまり適切とは言えません。人によっては「上から目線だ」と感じる人も多いでしょう。したがって、敬語として使用することは避けるべきでしょう。
「いみじくも」を正しく理解しよう
いかがでしたでしょうか。今回ご紹介したように、「いみじくも」は「非常にうまく」「適切に」という意味を持った現代語です。ビジネスシーンなどで用いる際には、語源である「いみじ」と混同し、誤用しないよう気を付けて使用するようにしましょう。