「お伺いいたします」の敬語での使い方はこれだ
普段よく耳にする、「お伺いいたします」という敬語の使い方が分かりますか。この使い方には「聞きます」と「行きます」の二つあります。いずれもビジネス会話や文書では欠かせない敬語です。ビジネスでは敬語が使えて当たり前、上手く使えていますか。
「お伺いいたします(聞きます)」の場合:
・それでは内容を順番にお伺いいたしますので、お答えください。
・以前、お伺いいたしました内容に変更はありませんか。
「お伺いいたします(行きます)」の場合:
・午後からお伺いいたしますので、近くに着いたら電話します。
・私どもの責任でお伺いいたしますので、どうぞお構いなく。
これらを聞き手は、前後の文脈からどちらの事を言っているのか瞬時に聞き分けます。敬語はマナーとして上手に使いたいです。
「聞きます」とは
「お伺いいたします(聞きます)」ですが、もう少し分解して考えてみましょう。
「聞きます」という意味での「お伺いいたします」は、話し手の話を聞く準備ができていますよという意味です。「聞かせてください」「何でも言ってください」という、相手に対して敬い自分をへりくだった表現の敬語です。
それらは、こちらが聞き出したい情報であったり、相手の苦情を聞くことかも知れません。いずれにしても受け身ではなく誠実な対応を望んでいるという姿勢がみえます。
「お伺いします」でも間違いではありませんが、「いたします」を付けることでさらに、最高級な対応にしたいという気持ちからだと言えます。
自分にとっての相手がどいう関係なのかどういう位置づけなのか、相手に何を望むのか、どうあって欲しいのかなどと考えれば自ずから敬語に力が入ります。
「行きます」だったら?
「お伺いいたします(行きます)」ですが、同じくもう少し考察してみましょう。
「行きます」という意味での「お伺いいたします」は、交渉相手だったり、得意先が自分のために時間を割いてくれることに敬意を表しています。「飛んでいきます」「お会いしたいです」という意味に近く、相手に対して自分をへりくだった敬語の表現です。
それらは、1分1秒たりとも無駄にしてはならない交渉・契約だったり、いずれにしても受け身ではなく誠実な対応を望んでいるという姿勢が見られます。
「お伺いします」でも構いませんが、「いたします」を付けることによってさらに、少しでも丁寧な言い方にしようとしています。
「お伺いいたします」は二重敬語なのか
敬語は私たちの生活に欠かせません。「お伺いいたします」が二重敬語なのか考察します。「お伺いいたします」を分解すると次の言葉から成り立っていることが分かります。
・丁寧語の「お」
・謙譲語の「伺う」
・謙譲語の「致す」
・丁寧語の「です・ます」
丁寧語の「お」って?
接頭語の「お」という言葉は、名詞の前につけて丁寧に表現されるものとして使われています。敬語では丁寧語と呼ばるカテゴリーに分類されます。他にも「ご」というのもあります。
「お」がつく例には、お手紙、お心遣い、お礼、お喜び、お花、お帰り、お届け、お元気、お知らせ、お母様、などがあります。
・お手紙を頂戴しましてとても懐かしく思いました。
・お花のお礼をせずに帰りまして失礼いたしました。
・その後はお母様もお元気にしていらっしゃいますか。
「ご」がつく例には、ご住所、ご注文、ご連絡、ご一報、ご依頼者、ご鞭撻、ご報告、ご説明、ご請求、ご祝儀、などがあります。
・ご住所に間違いが見つかりまして申し訳ありませんでした。
・ご連絡が遅くなりましたが、まだ間に合います。
・ご請求書にありますように、振込先が変更致しました。
和語には「お」漢語には「ご」を付けて区別をしています。自分の行動に接頭語をつけるのは間違いです。
謙譲語の「伺う」とは
社会人になってから耳にした「伺う(うかがう)」ですが、二つの意味があります。伺うは「行く」と「聞く」というまったく違う行動の謙譲語があります。
「伺う」①の例
まず一つ目の「伺う」は「行く」という行動です。
・今週中には伺える予定でおります。追ってご連絡いたします。
・本日伺った者が佐藤と申します。今後ともお見知りおきをお願いいたします。
同じような意味では、「参る」があります。どちらでも間違いではありませんが、少しだけ使い分けがあります。
・私の代わりとして立ち合いに、弟が参ります。
・午後一番に参上します。
日本語の敬語は「内と外の関係」から成り立っていて、「外の相手」に対して謙る場合と「自分や身内の行動」を謙る場合で違ってきます。つまり、「伺う」は相手に対してであり、自分や身内の行動に対しては「参る」と使い分けましょう。
「伺う」②の例
二つ目の「伺う」は「聞く」という行動です。
・上司に伺いを立てますので少々お時間をください。
・先方に伺ったところ、ご存知ないとの返答でした。
・まだ、その案件についての回答は伺っていません。
「致す」も謙譲語
謙譲語の「致す」にも「至らせる」「及ぼす」などの意味を表し、その自身が動詞です。意味からしても強い意志を持って行動に出ることを相手に伝える潔さが分かります。
「致す(いたす)」とは「する」という自分のことを相手に伝える時の謙譲語です。相手・目上の人が「する」のは「なさいます」となります。
「致す」の例には、
・今後の動向を見まして変更致す所存です。
・今回のことは致しかねます。
・私の不徳の致すところです。
「なさいます」の例には、
・今日の予定はキャンセルなさいますか。
・コーヒーになさいますか、紅茶になさいますか。
・どうなさいましたか。
二重敬語に違いない?
敬語とは、話し手と聞き手の間、あるいは書き手と読み手の間において、社会的力関係や親密な関係を表す言葉として用いられています。さて、「お伺いいたします」は二重敬語なのでしょうか。
敬語には尊敬語・謙譲語・丁寧語があります。尊敬語は相手を敬い高め、謙譲語は自分をへりくだり、丁寧語は「お」「ご」「です」「ます」を使うことによって相手に対して丁寧に話す・書くことを大切にしています。
このことから、丁寧語の「お」と謙譲語の「伺う」・「致す」を繋げて用いている「お伺いいたします」は二重敬語であることを証明しています。
現実には「お伺いいたします」と誰もが使っていますから、大勢が使えばそれも日本語として成立するきらいがあります。
「伺い」の意味を探せば
「伺い」の意味を探します。漢字・類語・類義語から、きっと何かがわかるでしょう。
人べんに司と書いて漢字の「伺」になります。「伺」の読み方は、音読みで「し」、訓読みで「うかがう」ですが、音読みではほとんど使いません。「司」は「穴からのぞいて見る」が漢字本来の意味です。よって、「伺」は様子を見る・見守る・観察するという意味で、とても謙虚な行動を表す漢字です。
その意味がどこからか、使われ方に「上に立つものが下を見る」となり、「役目を受け持つ(つかさどる)」という意味になり、謙虚でもなんでもない事が分かります。しかし、使えばとても便利な言葉です。
「伺い」の類語からわかること
「伺い」の類語には、諮問する、諮る、お聞きする、相談する、意見を求める、問うなどがあります。これらに共通して言えることは、ものを人に聞くという行動です。
聞き出したいこと、聞いてみたい事、話を聞いてもらいたい事、私の考えをどう思うか確認したい事、ある事柄について答えを求めたい事など、少しずつ違うニュアンスが含まれている類語・類義語です。
強要するものから自分の答えに近ければいいなという事柄までいろいろあります。それらをまとめて、「お伺いいたします」という言葉一言でくくれる便利な敬語であることが、面白いという人も少なくないはずです。
「お伺いいたします」の使い方
普段の会話の中でも聞こえてくる「お伺いいたします」ですが、ビジネスでの使い方、電話での使い方、英語での使い方などさまざまな角度から考察してみましょう。
ビジネスでの使い方
ビジネス会話の手段として、メールやFAXや手紙はいつの時代も重要です。よく使われる「お伺い」言葉として例を挙げてみると、次のようになります。
・お伺いいたします
・お伺いしてもよろしいですか
・お伺いしたいと存じます
・お伺いしました
・お伺いできます
・伺います
・伺いたく存じます
文章では感情を表すことができないため、より一層的確な言葉を選び、相手に敬意を伝え円滑なビジネスになるよう心掛ける必要があります。
電話での使い方
電話においても、「お伺いいたします」の使い方はメールや手紙と同じです。話し手は相手が見えないため、言葉と声のニュアンスだけで聞き手に情報を正確に伝えなければなりません。
話し手は急を要する案件なのか、第三者が関わっているのか、今どういう状況であるのか、情報は多岐に渡り全部を電話で正しく伝えることはとても難しく、結局メールを送るので読んくださいあるいは、お会いしましょうと簡単な業務連絡に使われるにすぎません。
最近では、「先ほど、御社宛にメール(FAX)をお送りいたしましたが、受け取って頂いてますでしょうか。」というお伺いの電話が主流になってきています。
英語で伺うをどう使うか
外国人を交えたコミュニケーションをしなければならない現代社会の方々も少なくはないはずです。英語はコミュニケーションの道具です。難しい単語を使わなくても、よく知られている単語で文章が成り立っています。
・ask someone’s instructions (伺いを立てる)~に説明をお願いする
・Let me ask about you (お伺いしたい)あなたに~について聞きたい
・pay someone’s respect to (ご機嫌伺い)~に敬意を払う
・It’s pleasure to hear that (~と伺い嬉しい)~と聞けて嬉しい
・request for approval (決裁伺い書)決裁を仰ぐ申請書
「ask」「 respect」「 hear」「 request」これらも「お伺いいたします」に相応する言葉に使えるということです。つまり、英語にも言語の法則があって、どの場面でも「ask」を使って済ます訳にはいきません。
シーン別「お伺いいたします」の使い方
次にご紹介したいのはこれらです。
・上司に伺いを立てる時
・相手に訪問する事を伝える時
・見知らぬ人にでも問いかける必要がある時
シーン別にどの様な使い方がされているのかみましょう。すでに体験している方も多いのではないでしょうか。それぞれのシーンに合った言葉には微妙な心理状態が現れていてます。
上司に伺いを立てる時にはどう話す?
自分の決断では事を進められないポジションである場合は、自分の上司に指示を仰ぎましょう。それを「伺いを立てる」といいます。自分はこのように考えてみましたが、正しいか否か判断をしてくださいという意味です。
・〇〇産業の見積もりを取り寄せ、自分なりに積算しました。ご意見をお伺いいたします。
・契約書では不十分と判断し、覚書も取り揃えてました。ご判断をお伺いいたします。
・セキュリティ対策には、〇〇商事にと考えております。ご要望をお伺いいたします。
・電話の増設工事は、11月1日と考えております。専務の帰社時間をお伺いいたします。
常に、自分にできる事は整え万全な体制・対処を施し、あとは上司に指示を受けられるようにしましょう。何もせず何も考えずに伺いを立てるのはプロフェッショナルとはいいません。
相手に訪問する事を伝えるには
自分が訪問したいことを伝える場合に次のような表現を用います。
・先生、今日3時ごろ、田中さんの検査の結果報告にお伺いいたします。
・先月お話していましたものが入りましたので、納品にお伺いいたします。
・明日、商品の検品にお伺いいたします。
・明後日になりますが、必ず電話をしてからお伺いいたします。
基本、話し手に約束を守って会ってもらうには、自分をへりくだり時間を割いてもらえることを感謝しなければなりません。それがビジネスマナーです。
見知らぬ人にでも問いかける必要がある
自分が質問をしたいことを伝える場合に次のような表現を用います。
・ちょっとお伺いいたしますが、そちらの営業時間を教えてください。
・おっしゃっている意図が分からず、お伺いいたします、もう少し詳しくお願いいたします。
・すみません。お伺いいたします。ここは3丁目でしょうか。道に迷いました。
・先ほど、違う会館の職員にもお伺いいたしましたが、東口とはここのことでしょうか。
基本、相手が見知らぬ人でも、ものを訪ねる場合は自分をへりくだり丁寧な言い方をします。それが社会マナーでありルールです。
「お伺いいたします」「お伺いします」の違い
「お伺いいたします」と「お伺いします」の違いは二重敬語か正しい敬語かです。考察しました。あなたが求めていた答えでしょうか、比べてみましょう。
「お伺いいたします」
丁寧語の「お」謙譲語の「伺う」謙譲語「致す」丁寧語「ます」という事で二重敬語だという声は少なくありません。しかし、慣習となって二重敬語ではないという声も少なくありません。分かれています。あなたはどう考えますか。
また、「伺う」と「致す」が付くことによって、十分に相手に謙っています。が、「お」が付くことによって、本当は誰に敬語を使っているのか分からなくなりませんか。自分が聞きたければ、先方を訪問したければ、「伺います」で用は足りるはずです。相手に対して十分謙っています。
「お伺いします」
社内で、円滑なコミュニケーションのためにも、上下関係はしっかりと押さえていないといけない。「お聞ききします」ではなくて「お伺いします」くらいは普通に言える社会人マナーを持ちましょう。
先ほどと同じように「伺う」という言葉で十分に相手にへりくだっています。「お」という接頭語は丁寧語として敬語のカテゴリーにあります。
自分の行動に「お」や「ご」を付ける形、例えば「ご挨拶に参りました」と受付で訪問理由を聞かれて答える場合もこれが正しいのか疑いがぬぐい切れません。
「お伺いしたく存じます」を使うと
もう少し表現を広げてみましょう。「お伺いしたく存じます」とたまに聞く機会があったりします。「存じます」とは「思う」の謙譲語です。丁寧に言っていると信じて疑わない人も少なくないでしょう。どんなに敬語を重ねたからといって、言葉に重みが出るはずがありません。
逆に敬語を上手に使えていない人となり、自分の株を下げることになり兼ねません。気をつけましょう。
「お伺いいたします」言葉は生きている?
今回はよく耳にする「お伺いいたします」を意味や例文を通してご紹介してみましたが、いかがでしたでしょうか。確かに、日本語には変だなと感じる言葉が氾濫しています。「お伺いいたします」もその一つかも知れません。
言葉は生き物だとも言われていますし、誰かが使っていればと知らず知らずのうちに慣用句化しつつあります。他にも貴方の使っている言葉に疑問を感じるものがあるはずです。探してみてはいかがでしょうか。