Jカーブ効果
Jカーブ効果とは、為替レートが変動したときに短期的に予想される方向とは逆方向に貿易収支(もしくは経常収支)が動く現象のことを指す経済用語です。リターン曲線が、アルファベットの「J」に似ていることからこのように呼ばれています。
もともと貿易収支を説明するための経済用語ですが、ベンチャー企業のキャッシュフローの動きが同様の動きをすることから、ベンチャー投資の際にもJカーブを用いて説明されることがあります。
経常収支と為替レート
為替レートが円安になれば、通常は貿易収支の黒字増加が予想されますが、実際には既に契約済みの輸出数量は変化しません。したがって、短期的には貿易収支の赤字が増加するため、貿易収支の軌跡はJの字のようなカーブを描くことになります。
つまり、為替レートの変動に際して、本来は長期的にプラスになるはずが、短期的に収支がマイナスになることを「Jカーブ効果」と呼びます。
マーシャル・ラーナー条件
マーシャル・ラーナー条件とは、通貨安によって貿易収支が改善するためには、輸入と輸出の価格弾性値(価格の変動により、ある製品の需要や供給が変化する度合い)の合計が1よりも大きくなければならないという条件のことです。
ですが、短期的に貿易の諸条件が固定されていることで価格弾性値が小さくなりJカーブ効果を引き起こします。
Jカーブ効果は、短期的にマーシャル・ラーナー条件が満たされないために発生します。
スタートアップ企業(ベンチャー)とは?
ベンチャー企業とは、新たなビジネスモデルを開発しており、市場を開拓する段階にある企業を指します。一般的に、創業から2~3年程度の企業を指すことが多いです。
ベンチャー企業の特徴として、短期間で急成長を遂げる点、これまでに市場に存在しなかった新しいビジネスを掲げている点が挙げられます。
したがって、既存のサービスの延長線上にあるビジネスの場合、創立間もない段階であってもベンチャー企業とは呼びません。
スタートアップ企業(ベンチャー)のJカーブ
ベンチャー企業のキャッシュフローは、事業を始めて2〜3年は赤字であることが多く、その後黒字転換して累積損失を回収しにいくという「Jカーブ曲線」を描くモデルとなっているケースが多いです。
しかし、ベンチャー企業は、市場に破壊的イノベーションを起こし、急激な成長を目指しているため、創業当初の経営が赤字になるのは当然のことであり、今後の大きな成長性のために必要な時期でもあります。
スタートアップ企業(ベンチャー)とスモールビジネスの違い
ベンチャー企業とスモールビジネスでは①市場環境②成長方法に違いがあります。
「市場環境」
ベンチャー企業は、市場が存在するかどうか不確実な段階でビジネスを始めますが、スモールビジネスは既に存在する、商圏の限られた市場をターゲットにします。
「成長方法」
ベンチャー企業は、赤字が続く創業期を経て急激に成長するためJカーブ曲線を描いて成長しますが、スモールビジネスは、着実な線型的成長をします。
3つのビジネスモデルの特徴とキャッシュフロー3つ
ベンチャー企業のビジネスモデルとして代表的なビジネスモデルに「クリティスカルマス型」「ストック型」「フロー型」の3種類があります。どのようなJカーブを描いて成長するビジネスモデルなのかという観点で、それぞれの特徴とキャッシュフローについて説明します。
ビジネスモデルの特徴とキャッシュフロー1:クリティスカルマス型
「クリティスカルマス」とは、新しい商品やサービスの普及率が一気に跳ね上がる分岐点を指します。具体的なベンチャー企業としては、UberやAirbnbがその一例です。
開発期間には莫大な資金がかかる一方、サービス普及までは無収入であるため創業初期から赤字が続きます。クリティスカルマス到達以降、一気に収入が跳ね上がり黒字化するのが特徴です。
黒字化に時間がかかるため、深いJカーブを持つビジネスモデルです。
ビジネスモデルの特徴とキャッシュフロー2:ストック型
顧客と契約を結び、サービスを継続して利用してもらい、その利用に対する対価が継続的に入ってくるビジネスモデルが「ストック型」です。
月額料金制(電気料金、携帯電話など)をとるものなどがこれにあたります。ベンチャー企業でありながらもそれほど大きな資金調達をせずとも黒字化を達成できる一方で、キャッシュフローを大きく伸ばすことには向いていません。
比較的浅いJカーブを持つビジネスモデルです。
ビジネスモデルの特徴とキャッシュフロー3:フロー型
フロー型ビジネスとは、その都度、商品を販売・サービス提供をして、仕事を請け負うビジネスモデルです。飲食店、美容室などがその一例です。
売上は従業員数に比例して大きくなっていきますので、売上を急激に伸ばすのは難しいでしょう。一方で、設備投資が要らない業種であれば、初月から黒字化も可能です。
Jカーブ的な成長よりも、スモールビジネスのような線型的成長をするビジネスモデルです。
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3つのビジネスモデルの資金調達
ベンチャー企業の資金調達は、キャッシュフロー黒字化までの必要資金の大きさや事業の成長性などの2つの観点から検討する必要があります。上記の3種類のJカーブを描くビジネスモデルが、それぞれ「出資」と「借入」どちらに向いているか、そして出資を受ける適切なタイミングについて説明します。
ビジネスモデルの資金調達1:クリティスカルマス型
創業当初の収支が赤字になるため、借入を選択することはできず、返済の必要のない「出資」が向いています。
資金調達のタイミングとしては、創業期に一気に調達してしまうのが良いでしょう。例えば創業後2年が経ち、当初よりもクリティスカルマスの到達が遅れてしまった場合、企業価値が下がり出資を受けにくくなる場合があるからです。
ただし、創業時に一気に集めると創業者の出資比率が大きく下がることに注意が必要です。
ビジネスモデルの資金調達2:ストック型
ストック型の場合、出資か借入かはケースバイケースとなります。
自己資金だけで早めに黒字化できるのであれば借入を検討できますし、目先の黒字化よりも将来の大きな成長性を期待して出資を選択することもできます。
どちらの場合であっても、調達は段階的に行うことをオススメします。徐々にでも売上を着実に伸ばしていけるのであれば、売上に応じて企業価値を高めることで有利な条件で資金調達を行うことができるからです。
ビジネスモデルの資金調達3:フロー型
フロー型は既存市場での着実なビジネスモデルであるため、大きな成長は期待できません。一方で、相対的に大きな投資が不要であり早期に黒字化を達成できるため、返済能力が高いと評価を受けることから、「借入」に向いています。
ファイナンスの種類とケース別の向き・不向き
ベンチャー企業が資金を調達する手段は、「デットファイナンス」と「エクイティファイナンス」の2つに大きく分けられます。資金調達は、常に意識するべき課題であり、どのようなJカーブを描くビジネスモデルなのかを判断した上で資金調達方法を選ぶことが重要になります。
デット(債権)ファイナンス
デットファイナンスは、借入によって資金を調達することを意味します。Jカーブが比較的浅いビジネスモデルに向いています。
【メリット】
さまざまな金融機関からの融資を検討できるため、資金調達の可能性が広がります。返済義務は生じますが、返済実績を積むことで今後も好条件で融資を受けやすくなります。
【デメリット】
自己資金比率が下がるため金融機関に経営難だと評価を受け、融資を受けにくくなる可能性があります。
エクイティ(株式)ファイナンス
エクイティファイナンスとは、株式を利用することで資金を調達する手段を意味します。返済義務は生じませんが、企業が大成功した場合、投資家に配当金を払う必要があります。深いJカーブを描くビジネスモデルに適しています。
【メリット】
返済義務が生じないため、毎月の返済の負担がありません。
自己資本比率が高くなるため、金融機関から融資を受けやすくなります。
【デメリット】
株主に経営権を握られてしまうため、自由な経営がしにくくなります。
Jカーブについて理解を深めよう!
ベンチャー企業のキャッシュフローを語るにあたり、どのようなJカーブを描くビジネスモデルがあるのか、そして適する資金調達方法とそれに伴うメリット・デメリットなどをお伝えしました。
この記事を参考に、Jカーブとベンチャー企業のビジネスモデルに関する知識を深めていただければ幸いです。