偽装請負とは?
IT業界で耳にすることが多い「偽装請負(ぎそううけおい)」という言葉があります。聞きはするけどよくわからない、という感想が初見ででてきます。偽装、という言葉を使っていますので何か悪い言葉のようにも感じます。この言葉を説明するにはいくつかの事柄を知る必要がありますので、今回はまず2つの言葉の説明をします。
雇用契約と請負契約
雇用契約と請負契約という言葉があります。これらは働く際にある程度理解をしている言葉ではあると思いますが、ここでは説明を入れていきます。まず、雇用契約とは雇用者の指示に従って労働力を提供することです。
この契約方法のメリットは働いた分はきっちりと給料が支払われることです。労働者が何らかのミスをしてしまっても、余程の過失がなければ減給されることがありませんので、安心できる契約方法です。一般的に働く場合はこの契約方法が用いられることもあり、ご存知の方も多いものです。
次に請負契約です。こちらは単的に言えば、簡単に言えば決められた日までに指定されたものを納品するという契約です。こちらの契約のメリットは決められた日までに成果物を収める事さえできればそれまでの期間は何をしていても良いところにあります。
例えば、期限が60日後ならば最初の1週間で完成させてしまえば後の期間は遊んでいても良い契約です。しかし、逆を言えば完成しなければこの期間中は徹夜とわず作業をし続けるということになります。また、完成することができず、納品できない場合は報酬が支払われないどころか、最悪の場合は損害賠償問題にまで発展するケースもあります。
請負の場合には雇用契約と違い、「雇用」されている形とは違いますので、労働基準法の適応外になってしまいます。
では、偽装請負とはなにか
上記の2つの言葉の説明をして、ある程度は理解されたと思いますので本題の偽装請負について説明をしていきます。偽装請負とは、契約書面の内容が「請負」であるにもかかわらず、実態は「雇用」であることです。要は請負契約なのに労働環境は雇用契約と同じということですね。こうなってしまうととても不利な労働環境で働くことを強いられてしまいます。詳細は次の見出しで語ります。
偽装請負の問題点とは
契約書面の内容が「請負」であるにもかかわらず、実態は「雇用」であることがわかりました。しかし、これの問題点がいまいちわからないなんてこともあると思いますので説明をしていきます。
残業代が支払われない
偽装請負ではどれだけ残業をしても残業代が支払われないという問題点があります。これはなぜかというと、契約上では「請負」の扱いとなっているからです。請負の説明は上記でした通り、期間中に物を完成させて納品することにあります。こうなっていくと期間分の給料は支払われても、どれだけ労働時間が伸びても、それに対する給料はでないということになります。
この契約で客先に派遣常駐した場合、常駐先の会社でどれだけ無茶なハードスケジュールで連日残業続き、終電続きな過酷な環境で働かされたとしても支払われる報酬金額は何も変わらない、ということです。一定額払うことで人材を貸し出してもらっているので、働かせまくっても追加料金もかかりませんのでひたすらこき使うことができます。
もしも今働いている派遣先及び常駐先で残業代が支払われることもなくサービス残業を強いられている方は契約方法を見直してみると良いでしょう。偽装請負である可能性がありますよ。
労災保険に加入されてない
次の問題点として、偽装請負では労災保険に加入されていません。なぜなら、契約上は請負になっているからです。そのため、仕事上で何らかの事故や怪我に巻き込まれることがあるととてもややこしいことになります。
例えば、被害にあった偽装請負をしている労働者が労災を申請しようとしても派遣元や派遣先の会社に阻止される可能性があります。なぜ阻止されるかと言えば、偽装請負をしていることがばれてしまうからです。基本的に偽装請負は良いことではありませんので、労災隠しをしようと契約者も必死になりますので、かなりリスキーと言えます。
とはいえ、この言葉がよく使われるIT業界では高所から落下したり火災に巻き込まれるなんてことはほとんどありませんのであまり気にする必要はありません。ほとんど気にする必要がない業界だからこそ、偽装請負なんてものが横行しており、それが問題になっているのですけどね。
偽装請負は法律違反なのか
偽装請負というものがどれだけ危険なものなのかはある程度理解していただけたと思います。
この偽装請負なのですが、もちろん法律違反にあたります。どの法律に引っかかるのかというと、「労働者派遣法」と「職業安定法44条の労働者供給事業の禁止」にあたります。
44条では会社側は労働者をよその会社に売り渡してはいけない、またよその会社からきた労働者に対して命令してはいけない、という風な取り決めがあります。ただし、厚生労働省から許可を受けたものにはこれは適応されませんので、普通の派遣会社であればこれにひっかからないということになります。
厚生労働省の定めるガイドラインとは
派遣法の見直しなどがあり、偽装請負に関しての問題が表面化したこともあり、厚生労働省から「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」というものが配布されています。こちらのガイドラインを読むことによって、自分の立場であったり労働法に関して具体的な理解を得ることができます。また、QAも用意されていますので指導者側も派遣される側のどちらも読むことをお勧めします。
偽装請負の事例と対策
偽装請負の問題点、違法性についての説明をしていきましたが、ここでは数多く報告のあった事例と対策について紹介していきます。
偽装請負の代表的なパターン4つ
・代表型
請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤の管理を行っているパターンであり、こちらは多くみられるケースです。
・形式だけ責任者型
現場に的確な責任者を置いてはいるものの、その責任者は発注者の指示を個々の労働者に伝えているだけで、実質発注者の指示で動かしているというパターンです。こちらは単純作業を行う場合に多くみられます。
・使用者不明型
業者Aが業者Bに仕事を発注して、Bは別の業者CにAから受けた仕事をそのまま横流しします。Cに雇用されている労働者がAの元に行き、AやBの指示によって仕事をするという、誰に雇われているのかよくわからないパターンです。
・一人請負型
業者AからBの元で働くように労働者を斡旋します。ですが、Bはその労働者と雇用契約は結ばずに個人事業主として請負契約を結んで業務の指示や命令を出して働かせるパターンになります。
これら4つに思い当たる方はほぼ確実に偽装請負に巻き込まれていると言えます。
偽装請負の対策とは
上記4パターンに当てはまる方は偽装請負の可能性がある、と説明をしましたが実は偽装請負の被害者は労働者だけではなく、雇用側でもあります。
派遣法の見直しや法改正によって、今まで普通に行っていたことが偽装請負の疑惑にかけられてしまうパターンがあり、罰則の対象になってしまうことがあります。
もしも疑惑を駆けられて刑事罰の対象になってしまうと、罰則を受けなかった場合でも民事上重大な効果をもたらす可能性があります。
では、雇用側はどのような対策をしたらよいのかといえば厚労省マニュアルに従って契約書上の文言も、業務の実態も請負となるようにすることです。要は作業指示や依頼は責任者を通じてのみ行うということです。
しかし、これでは現場が回らなくなってしまうという事例もありますので、こういう場合には請負という契約にこだわらず、派遣に切り替えるという方法も選択肢に入れる必要があります。ともかく、厚労省のマニュアルをまずは読むということが大切です。
また、労働者側で偽装請負の可能性があるのか不安になった場合は適切な法律事務所などに相談することが大切です。
偽装請負の罰則とは?
偽装請負は違法な行為です。これに気づかずに疑惑をかけられて訴えられてしまうと以下の罰則がつきます。
・改善命令
・事業停止命令
・許可の取り消し
・職業安定法・第44条違反による1年以下の懲役、または100万円以下の罰金
またほかにもいくつかの罰則が立場によってつきますので、注意が必要となります。
自分の労働環境を見直そう
偽装請負についてまとめましたが、とんでもない違法行為であることがわかりました。
現在派遣会社を運営している方や、労働者として派遣されている方は自分の労働環境を一度見直すと良いでしょう。もしかしたら、「偽装請負になっている、偽装請負されているかもしれない」と思ったらすぐに相談にいきましょう。