運用・保守の違い
運用と保守の定義
運用と保守の違いについて、実際に業務に就いている人も、あまり明確に回答できる人は少ないかもしれません。なぜなら、保守と運用は一括りに、保守・運用と使われているからです。なので、これは知らない人が多いというより、普段明確に分ける必要性があまりないことに由来しているのかもしれません。
しかし、あえて定義するとすれば、以下のようになります。まず、運用はシステムが稼動中に発生する作業のことを指すことが多いです。保守は運用のうち、特にシステムの不具合対応など、非定常的な作業を指すイメージです。
具体的な仕事内容で運用と保守を分けるとすると・・・
したがって、保守は運用の一部ともいえますが、あまり明確に分けておらず、まとめて運用保守というくくりにしている現場もありますし、あえて運用と保守と分けて使用する場合もあります。
ここまで書いたことでは、実際に仕事に従事していない方からすれば、イメージしにくいかもしれません。そこで、具体的な仕事内容を「運用」と「保守」で分けて、以下にまとめてみました。
具体的な仕事内容例
「運用」
マシンの電源ON、OFF
OSの起動、停止
アプリケーションソフトの起動、停止
ジョブの実行、停止、稼働監視
データの投入、取得
データのバックアップと、その管理
システムの稼働状態の監視
外部からのサイバー攻撃や情報流出などの監視
システム障害復旧後の再起動
「保守」
プログラム、システムのアップデート
バグや不具合の対処、修正作業、原因究明
新規のプログラム、システムの導入
ネットワークなどのインフラのメンテナンス
実際には、保守としている仕事についても、現場によっては運用といっているところもあります。これは運用の一部としての保守という捉え方をしているからであり、決して間違いではないので、注意してください。ですので、運用と保守は現場での定義付けが重要になってきます。
運用・保守の要求スキルレベル
しかし、分業が進んだ現場では、仕事内容で要求されるスキルレベルで分けることがあり、「運用」は企画的低スキルレベルであり、「保守」は比較的高スキルレベルというように分けられています。
なぜ、このように分けるかというとちゃんとした理由があります。運用業務には、要求スキルレベルを低くすれば、予備知識がない人でも雇えるので、人件費を抑えられるというコスト面と、オペレーションミスを起こりにくくするという品質面がメリットとしてあるからです。運用業務に従事している人たちは、より要求スキルレベルを低くする方向に向かうよう、日々改善を続けているのです。
コストセンターとしての運用保守
では、なぜこのような改善を続けようとしているのかというと、運用保守は開発と異なり、どちらかというと経営層からの観点にはなりますが、何かを作り出すものではなく、サービスを継続させるために必要なコストと見られているからです。いわゆるコストセンターといわれる部門の一つとなります。
オペレーションミスは避けられない
そして、人の手作業があればオペレーションミスは決してゼロにできない、ということは特に注意したいところです。運用を設計をする人、運用作業を実施する人、ともに常にこのことを肝に銘じておかなければいけません。そして、運用開始後の改善といえば、多くは手作業から自動化へ移行させるということが多くなります。
システムの自動化により高品質で低コストの業務を実現
自動化の具体例としては、年月日といった条件をパラメータとして入力して実行するというところまで手作業ですると、後は、必要な処理や、処理を進めてよいか停止させるべきかといった判断や、もし不具合となるような状況であれば回復処理の方に進める、といったことが自動で行われます。
さらに自動化が進むと、ある日時や、何かが発生したということを自動的に検知し、そこから必要なパラメータを生成し、あとはそのパラメータをもとに、さらに自動的に処理を進める、ということも行われます。
こうすれば、ほとんどの仕事はシステムがやってくれて、人間の方は、その自動化システムが稼働していることと、正常に終了したことを見届ければよいことになります。自動化システムの状態が誰でもわかるように見えれば、このような仕事は、たとえ内部処理の技術は高度であったとしても、普段は高スキルのエンジニアが見ている必要はないということになります。こうして、高品質で低コストの運用業務が実現するのです。
ITILに即した考えへ
ITILというのをご存知でしょうか?少なくとも、運用保守に興味があれば、その言葉だけでも見聞きしたことがあるかもしれません。「ITIL」とは「Information Technology Infrastructure Library」の略です。
近年は、運用・保守という分類の仕方よりも、次に述べる「ITIL」に即した考え方で運用保守の業務を捉えることが多くなってきています。「ITIL」とは、ITでサービスを提供する企業がそのサービスを提供していくために作ってきた様々な仕組みを収集して、その中からベストプラクティス(成功事例)をまとめた書籍群のことを言います。
もともとはイギリス政府のCCTAによって公表されたもので、現在はitSMFという団体が各国にあり、ITIL書籍の翻訳や、ITILのリリース、促進などの活動を行っています。次に、ITILを運用保守業務に導入することにより、運用保守がどのように発展しえるのかを考えていきたいと思います。
運用・保守の地味なイメージを払拭しよう
運用保守の業務は地味?
システム運用保守のイメージは地味、縁の下の力持ち、というように見られがちですが、本当にそうでしょうか。また、日々直面している仕事に追われ、結局こんなことになってしまうとか、やりたいのはヤマヤマだが結局やりたいことはできない、不完全だ、という思いに苛まれているエンジニアは多いのではないでしょうか。
ビジネスの手段としてのITという考え方
ITは何のためにあるのか、運用・保守は結局何のためにやっているのか、改めて考えてみるとそれは、対象となるビジネスをITで実現するためと言えます。つまりITはビジネスの手段ということです。そして、運用・保守はその手段の一部となります。
ITILはITをビジネスを実現するための手段と捉え、それを実現するため、設計→移行→運用と移行していく各ステージの業務、そして継続的なサービス改善を行っていく、という考え方をベースにしています。ただ概念を示しているのではなく、様々な成功事例を集め、それをベースに一つの考え方までまとめ上げたものになるので、説得力があります。
現状を打破して運用保守SEから新しい未来を開く
運用・保守の技術的なところも大事ですが、ITILで示している手法と、今直面している業務内容を比較しながら、ビジネス全体を俯瞰して、運用保守エンジニアに今何が求められているか、という見方をしてみると、やろうとしている仕事をなぜやらないといけないのか、または無駄な作業なので廃止・改善すべきでは、といった考え方もできるようになっていくのではないでしょうか。
だだ運用保守SEとして仕事をこなすのではなく、上のような考え方で仕事を見直し、現状を打破していけば、ただの地味な運用保守SEで終わるのではなく、新しい未来が開けるようになるかもしれません。
また、将来運用保守SEを目指そうと考えている方は、決して地味で変化のない仕事ではなく、考え方次第で高度な方向に変えられる仕事である、というイメージを持ってもらいたいものです。
最後に、この記事を読んで、運用と保守の違いと業務について少しでもイメージがはっきりすれば幸いです。さらに、運用保守SEを目指そうとする方、新しい観点で業務改善を進めていこうという運用SEの方がもっと増えることを期待します。